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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【後半】
114/143

長夜の屍

※途中から戦闘場面を省略します。


 エリカの姿が消え、代わりに斑模様の大きな二枚貝が現れた。

 セティナが剛腕を活かして火の矢を放つと貝はバカッ!と開き、本体である中身が顔を出す。頭に角のような触覚を二本生やした魔物『孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)』。体は黒色で、つぶらな瞳は白色。特徴は人間のような出っ歯と、頭の天辺と胸元にある水色の紋様だ。


「ちょっぴり可愛いでござるな」


 少年はカニヴに、

「魅了されないようにね」と、注意した。

 魔物によっては、此方が見つめ続けるだけで魅了状態にさせてくる物が居る。孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)もその類いだ。特に、心に隙が多い者ほど、この手の眩惑(げんわく)にかかりやすい。



 カニヴは気を取り直し、憂鬱なクラゲ(グルミー・ジェリー)と同じに考えて、火遁で攻撃した。魅了による悪影響のせいで命中率と攻撃力が落ち、小ダメージしか与えることができない。

 サマラフは火属性以外ならどうかと水属性の魔法剣で様子見。だが、反対に吸収されてしまった。



 孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)は、人間の男のしゃがれたような低い声で詠唱。


「『ハズム、ハズム』」


「ッ!」


 自分を軸に、怪音による揺らぎの波を周囲に放って、サマラフたちに小ダメージを与えた。

 パーティのなかで一番早く体勢を戻したセティナは、力を溜めてから矢を一本放つ。しかし、孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)は無傷。もう一度試すも同じ結果になってしまった。


「先の魔法で、ダメージを無効にする状態異常をかけられたようじゃな。おんしらはどうじゃ?」


 カニヴが力を込めて手裏剣を一枚投げると、孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)は小ダメージを受けて震えた。


「ランダムでござるかのう?」


 三つの手裏剣を一枚ずつ連続で投げたところ、問題なくダメージを与えることができた。


 怒った孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)はその場で、ゴンゴン!と重い音を立てて二回跳ねる。


「『残酷ナ、二度焼キ』!」


 サマラフは頭上に、闇属性の雷を二発落とされかけたが、間一髪で回避。


「家族ノナカデ、一番笑ウ人、ダァレ?」


 孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)になぞなぞを出された少年の前に、数字が表示された。五、四……と、減っていく。少年は適当に「父」と答えた。


「『ブブー!』オマエ、マチガイ。タダシイ答エ、母」


 数字は消え、中央にバツ印が入った紋が現れて紫色に輝くと、少年は「ぷふっ」と笑い、地面に両手を着けて座り込んでしまった。


「何処にウケたでござるか?」


「否、そういう魔法のようじゃな」


 サマラフが孤立したナメクジ(ロンサム・スラッグ)に剣撃を仕掛けて大ダメージを与え、瀕死状態にさせる。最後はカニヴが手裏剣を使った得意技で攻撃。ようやく倒せた。


 少年は笑いと痺れから解放され、屋内は色を取り戻す。

 サマラフは剣を鞘に収めて窓に目を遣り、エリカの姿を見つけると、カニヴたちに「外へ行くぞ」と声をかけて屋外へ出た。彼女の真正面に回り込んでみたが、相変わらず此方の姿は見えていない。



 二十歳の姿をしたエリカが前身の向きを左に変え、胸の前で敬礼するように右腕を前に差し出すと、翼を広げた一羽の水鳥が姿を現し、降り立つ。


「何じゃ、あの鳥は」


 深淵から掬い上げた闇を思わせる、黒よりも黒い不気味な目の色。明らかに普通の水鳥ではない何かであるのをサマラフたちは感じ取った。



「ねぇヌシ様。私、お父さんとお母さんを知ってる人に会えて嬉しかった。アーディンさんは良く思わなかったけど」


 ヌシと呼ばれた水鳥が羽ばたいて宙で消えると、エリカの奥に、眼鏡をかけた男魔法騎士の姿が映し出される。

 少年以外はその男が誰なのか、ひと目でわかった。

 サマラフが名前を口にする。



「オリキス……」



 エリカはオリキスのほうへ振り返り、打ち解けてることが傍目にもわかる笑みで訪問を歓迎した。彼は口元に小さな笑みを浮かべているが、何を考えて接触しているのか読ませない。


 カニヴは腕を組み、納得顔でうんうんと頷く。


「この青年が、純真な乙女心を弄んでるのが証明されたも同然!で、ござるな」


 セティナの意見は少し違っている。


「心象風景であるなら、儂らの知るいまのエリカはオリキスを一方的に信頼してるだけではないか、揺らぎを抱えておるのではないか?」


 それが正解と言わんばかりに二人の姿が消える。代わりに、薄気味悪い笑みを浮かべた邪悪な火の妖精が現れた。


 サマラフたちが火の妖精を倒すと辺りの色は正常に戻ったが、周りの景色は歪み、場所はポルネイへと変わった。



 再び二人の姿が映し出される。

 オリキスは、此処に居るサマラフとは別方向に顔を向けて指差した。


「彼処に居る、彼を頼るといい。君のことは話しておいた」


 オリキスは消えて、エリカが一人残される。サマラフたちからは、此方に背中を向けてる彼女がどんな顔をしているのか見えない。



 辺りが、闇で塗り潰されていく。



「バルーガも、オリキスさんも、お父さんもお母さんも、私を置いて行った」


 感情の無い、孤独のなかを漂う声。

 サマラフは背中に向かって声をかける。


「理由があるんだ。皆、君を嫌ってるわけじゃない」


「私、一人ぼっちになったのに?」


 声が届いてるとわかったサマラフは、厳しくも真実である言葉をかけた。


「君が、君自身を助けるしかない」


「…………私が…………、私を助ける…………」



 エリカは彼らのほうへゆっくり振り返って、虚無に満ちた目を向ける。



「サマラフ。どうしてそんな冷たいこと言うの?」


「!!」


 空間は石造りの広間に変わり、床下から轟音が昇ってくる。エリカの後方から出現したのは、人間の顔が先端に付いている二体の巨大な魔物『屠殺場のミミズアバトタール・ロンブリス』。目玉が無く、口内も闇一色にべっとり塗り潰されているのは共通しているが、顔立ちはエリカの両親にそっくりだ。


 少年は自分の何倍ものある巨体を前にしても、依然、飄々としている。


「大元の毒は大きいね」


 それを聴いたカニヴは「悠長な!」と、ツッコミを入れた。

 ギーヴルの顔が付いてるほうは、黄金に輝く硬そうな輪を体に嵌めている。いまは蓋で閉じられてるが、何かが発射されそうな砲口が左半身に付いており、警戒が必要だ。

 もう一体……、テレースの顔が付いてるほうは体に輪が嵌まっていない。防御力は低そうに見える。注意すべき所があるとすれば、黄金に輝く、厳つい銛の形をした尾の先端。



 サマラフは、剣を抜いて構えた。


「趣味の悪い隠術だな。もう一度、俺に殺させる気か」


 セティナとカニヴも武器を構える。

 少年は後退し、パーティ全員に陰隠のダメージを軽減してくれる防御壁を張り、続いて、武器に聖属性を付与する光術を詠唱した。


 屠殺場のミミズアバトタール・ロンブリスが四人を見張るように、宙を泳ぎながら叫ぶ。


「『待ってなさいって言ったでしょう』」


「『お父さんは世のなかを良くする仕事をしてるんだよ』」


「『おまえは悪い子』」


「『悪い子だ』」


「『悪い子』」


 両親の責める声にエリカは酷く動揺し、両手で頭を抱え、「ぁぁあ、やだ、違う、嫌、やめて、怒らないで」と言って、姿を消した。


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