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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【後半】
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負の小波に攫われた小鳥の行方は





 駆け付けた医師は原因を見つけ、対応不可と診断。城で預かっても治療どころか応急処置さえできる者は居ないと言われたサマラフはアクイットに馬車を手配させ、エリカを自身の屋敷内にある医務室へ運んだ。




「隠術でござるか?」


「あぁ。首の後ろに紋が見つかった」


 スレイダーは光輝陰隠を検知できない。そこを何者かに突かれてしまった。



「なぜ、こんなことに……」


 身の安全を考えてともに逃げてきたジョアンは医務室のソファーに座り、次は自分が狙われるかもしれない恐怖心から体を震わせ、祈るように手を組んでいる。

 サマラフはベッドの上で仰向けになってる昏睡状態のエリカの顔を見、悔しさが滲む苦い表情を浮かべた。半年の命だと宣告されていたら旅に出、闇属性のブラックエルフ、または光属性のイエローエルフを見つけ出して隠術を解いて貰うことはできる。だが、翌朝までが限界なら何もできない。


(このまま、無為な時間を過ごす羽目になってしまうのか)


 室内に、暗い雰囲気が立ち込める。



「入るぞ」


 屋敷の玄関先で警護に就いていたアクイットが医務室のドアを開けて入ってきた。部下からの報告をサマラフたちに話す。


「ジョアン様に仕えている使用人と思しき者が、絶命した状態で発見された」


 サマラフは怪訝に思い、

「自害か?」と訊ねた。

 アクイットは険しい表情をする。


「さぁ、どうだろうな。拘束された状態で、術の生け贄にされた可能性が高いことはわかってるんだが。

 詳しくは、……伏せさせて貰うぞ。ジョアン様の不安を煽ってしまう」


 発動し終えた紋の痕跡の上に、身に付けていた物と拘束に使われたであろう物は残っていたが、肉塊も欠片も無い。まるで、血液のみ入った袋が破裂したような血の池がある禍々しい現場だったとの報告が上がっている。


「それともう一体。詠唱した人物の痕跡が、同じ部屋に残っていた。

 肉体が蝕みに遭って滅ぶ前に、誰が実行したのか教えたくて切ったような髪の毛の束が、ご丁寧にテーブル上へ置いてあった」


「誰の物だ?」


「部下に名簿を確認させたところ、退場していないのに姿が見当たらない出席者が一人。シシリア殿だ」


「シシリア嬢は、ダーバ共和国から来ている()()()()()()()()()()だったな」


「あぁ。しかし、彼女が陰隠に興味を持ってる話は聞いたことが無い。パーティーに出席している伯爵本人に訊こうにも娘の悲報を受けて、話どころではなくてな。聴取は明日以降になる」


「……。俺はエリカが助かる方法は無いか考える。おまえはジョアン様をご自宅まで送ってくれ」


「わかった」


 ほかに首謀者が居るか判明しないうちに解放される。ジョアンは組んでいる手に、さらに力を込めた。


「私が帰宅中に襲われる心配は無いのかっ?」


「断言できません。警護も付けさせましょう」


 アクイットは進言する。


「主に狙われているのがサマラフのほうだった場合、近くに居ないほうが安全です」


「…………。わかった……。頼む。それから、」


 ジョアンは生死を彷徨っているとは思えないほど静かな眠りに落ちているエリカの蒼白い顔を見て、心から申し訳ない気持ちになる。


「彼女に迷惑をかけてしまい、すまなかった」



 アクイットは気落ちしているジョアンと退室する際、ドアを閉める前に一度立ち止まり、サマラフのほうへ振り返る。


「気を付けろよ」


「おまえもな」


 ドアが閉じたあと、メイベはある人物について思い出し、おどおどした様子でサマラフに話しかける。


「ご主人様。数日前に人から聴いた噂ですので、違っていたら無駄な時間を割くことになりますが……」


「何だ?」


「飛花層に、旅のお医者様がお越しになってるそうです。腕利きゆえ、ひょっとしたら、アルバネヒトの王族に仕えていた専属医ではないかと言われてまして。……言われてる程度、……ですが……」


 自信の無いメイベは、しゅんと落ち込む。

 セティナは腕組みをして、サマラフに教えた。


「そやつの聴いた医師と、儂がイ国に仕えていた頃、耳にしたことがある者が同じであれば、エリカは助かるやもしれん」


「本当か?」


「あぁ。奴はエルフでもないのに光輝を使える特異体質の有能な医師でな。術を物質化して薬に変えることもできるそうじゃ」


「会える可能性が低くてもいい。俺は賭ける。エリカが身を挺してこの命を助けてくれた、その恩を返すために」


 間に合わなかったとき、再びアルデバランの娘が表出するか、今度こそ完全に息絶えてしまう可能性がある。サマラフはどちらの結果も望まない。



「カニヴ、おまえは俺に付き合ってくれ。

 セティナは此処に残って見張りを頼む。もしものことは考えたくないが、そのときは来国してる十二糸の誰かに救援を求めてくれ」


「うむ」


 サマラフが急いで外出の準備をしに行くとき、メイべは不安げな表情を浮かべ、エリカの顔に物憂げな視線を送り、心のなかで呟く。



(本当は、……助かってほしく……ないんだけどな……)




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