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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【後半】
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心に生んだ一人ぼっちの流星は寂しく

※エリカは大広間にて、群島ヤマタヒロの太守ショウエンに声をかけられた。彼の得意技は、近々起こることを言い当てる占い。酔っ払ってても正確だと勧められたエリカは半信半疑で、サマラフに会うには何処へ行けばいいのか尋ねた。

「近道で行くなら嘘。遠回りなら信用。距離の差で、おまえさんの捧げる贄が変わる。どちらが良い?」

 謎かけに等しい選択肢を出された彼女は意味深に捉えて考える。

(嘘を捧げるってことは、真実が残るってこと?遠回りして信用を失うなら答えは……)

 エリカは「嘘」を選んだ。

 後戻りすれば、二つとも贄は消えて目的は果たされないと言われ、大広間を出る。



 エリカはたまに立ち止まりながら、早歩きで道を進む。脚は疲れているが、サラ王子への伝言を頼んだ話を一刻も早くサマラフに教えたかった。



「すみません」


 向こう側から歩いてきたドレス姿の一人の若い令嬢が、おどおどした様子で話しかけてきた。


「サマラフ大使とご一緒に来場なさってる方ですよね?」


 見た感じ、気弱そうな娘だ。エリカは「嘘を贄にする」とは嘘を吐くのが正解との意味か過ったが、自分に関係ある話だったら困ると考えた。


「そうです」


 相手の雰囲気や表情からは悪意を感じない。



「エリカさん」


「はい」


「ご本人様で良かったです。サマラフ大使がお捜しになっていたものですから」


(凄い。ショウエンさんの占いが当たった)



「私はジョアン大臣の一人娘シシリアです。父が大使を支援してまして」


「……ひょっとしてシシリアさんはサマラフの恋人ってオチか、片想い中ですか?」


「?いいえ」


「すみません。変なこと尋ねてしまって」


 エリカは心のなかで(ごめん、サマラフ。また新しい女の人かと思った)と謝罪。

 シシリアは後ろを見る。


「そこの階段を下りて、道なりに進んでください。大使は小広間のソファーに座って父と歓談していらっしゃいますよ」


「ご親切に有難うございます」


 エリカは、さっとお辞儀し、急いで向かった。




(小広間……小広間……)




 下りた先は地下通路だった。衛兵は居ない。右側はドアが間隔をあけて五つ存在し、最奥のほうには小広間へ続く扉が開かれていて、優雅な音色が手招きするように室外へ開放されていた。出席者たちの姿も見えることから、そこが目的の入口だとわかる。


(捜す手間が大きく省けた。あとでショウエンさんに会ったら、御礼、言っておこう。謝罪もしなきゃ)


 占って貰うときにショウエンの白目の部分が真っ赤な色に染まったのを目にした際は魔物に変化したように見えて咄嗟にビクッ!と肩を跳ねらせてしまったが、世のなかには特殊な能力を授かった人間や民族が居ると思ったら奇妙なことではない。



(……。サマラフが私に会いたい理由って何だろ?悪い話じゃなきゃいいけど)



 一歩、また一歩、近付いていく。

 慌てすぎないように。



「サマラフ卿がロアナで毒死する姿を見れる日が来るとはな」


「!?」


 ドアが僅かに開いてる部屋の前を通り過ぎた直後に聴こえてきた、中年男の物騒な言葉。エリカは耳を疑い、足音を立てないようそろっと引き返して息を殺し、盗み聞きをする。



「えぇ。たったひと口でも即効性のある強力な物にしました」


「よくやった。何も知らずに同席しているジョアン殿が罪を被るだろう。計画通りだ」


「今頃ワインを飲んで、のたうち回ってる頃でしょうね。ロアナのパーティーに相応しい見せ物になってくれますよ」



「愚かな十二糸に、死の棺を」



 背筋を凍らせたエリカはその場で彼らを追及せず、サマラフの安否を優先。小広間に向かって懸命に走る。


(お願い!!間に合って!!)



 室内で話していた二人組の男は、足音が遠去かるのを耳で確認。エリカの目に触れることなく壁に背凭れしている人物のほうに顔を向け、うち一人が尋ねた。



「猿芝居、これでよろしいですかな?」







 その頃、小広間の左奥にあるテーブル席では。



「いやぁ、君の婚儀の話が進んで私は嬉しいよ!義理の父親になった気分だ!」


「海を渡ってからも、変わらず懇意にしていただけましたら幸いです」


「勿論だよっ。わっはっはっ!」


 サマラフは一人掛け用のソファーに座って顔に柔和な笑みを貼り付け、酔いが回りに回って陽気になっているジョアンの話し相手を努めていた。


(そろそろエリカの様子を見ておきたい。不慣れな場所で参ってるだろう)


 不機嫌な表情をした彼女の顔を脳裏に浮かべる。だが、大使に任命されたときから支え続けてくれたジョアンを無碍に扱うのは得策ではない。


(逸そ泥酔してくれれば、給仕係りに頼んでこの場を離れることができるのに)


「君は婿養子に向いてる性格だ。難しく考えなくていいぞ。舞踏会のように、くるくる〜〜っと上手く立ち回ったらいいんだ」


 肩をぽんぽん叩かれたサマラフは、空笑いを漏らしたくなった。


「捨てられたときは帰国します」


「では、私が人生の先輩として、既婚者とは何たるか真髄を教えてあげようではないかっ」


(しまった。話が長くなる)


「おっと。君と酌み交わしたくて用意した、特別な祝いのワインが此処に」


 ジョアンはわざとらしく言い、テーブルの上に置いてあった四角い箱を開け、真新しい細長いワイングラスを二個取り出した。小瓶の栓を抜き、辛い香りがする赤紫色のワインを注ぐ。


「では、祝杯といこうか」


 サマラフはグラスを持ち、開かれる第二の宴に渋々付き合うことにした。



「すみません、通してください!」


 エリカは人と人とのあいだに割り込んで進み、「もう、何なのよ!」と文句を言われてもまともに振り返らず口だけの謝罪で済ませ、サマラフの姿を見つけると叫び声に等しい大声を出した。


「サマラフ!!お願い、待って!!」


 グラスに口を付ける寸前だったサマラフは、突然のことに驚いて目を見張る。

 間に合った彼女は息を切らした状態で、体を投げ出すようにテーブルの前まで歩いて行った。


「それ、飲んじゃ、駄目」


「エリカ。此方にいらっしゃる方は俺が世話になった大事な方で、」


「失礼はわかってる。でも、ワインに毒が仕込まれてるの。サマラフの命が狙われてるのに、無視できない」


「……毒?」


 不穏な話に周りがざわざわし始める。

 ジョアンは目を据わらせ、エリカに向かって険しい表情で言った。


「おい、聞き捨てならんな。私が用意した物に難癖を付けるのかね?サマラフくん、誰だ、この失礼な娘は!」


(不味いことになった)


 呼吸が落ち着いてきた彼女は、背筋を伸ばして尋ねる。


「あなたがジョアン様ですか?」


「そうだ」


「此処へ来る途中、二人の男性が言ってました。お酒に毒を仕込み、サマラフを陥れてあなたに罪を着せると」


 ジョアンは笑い飛ばし、空いてるほうの手で小瓶を掴む。


「有り得ん話だ。先ほども言った通り、これは私が用意した物。スレイダーに通した際、何も検知されなかった。我が家から連れてきた使用人以外、誰にも触らせていない」


 エリカは、その使用人が本当に心配ないのか口先から突いて出そうになった。持ち込めば最後、第三者が触れて秘密裏に持ち込んだ毒を入れるのも可能だ。


「さては新参者だな?ロアナでは吹聴も愉しみにされることは屡々ある。不届き者にまんまと騙されよって」


「エリカ。謝るんだ」


 ジョアンは酔っていて正常な判断ができない。加えてサマラフの言動から察するに、ジョアンの娘シシリアが捜していたとの話は嘘だったとわかる。



 此処に、エリカの味方は居ない。

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