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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【後半】
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長い宵闇の始まり



 ユマに仕えている高官のみ客人を招き入れることが許されてる個室に、サマラフはサラを呼び付けた。クリストュルの侍従、エンも一緒だ。

 通路に見張りが居る此処なら聞き耳を立てられずに密室で会話ができ、エリカを寄せ付けずに済む。



「ご無沙汰してます、サラ様」


 サマラフが形式上の挨拶をすると、入室したサラは横を通り過ぎてソファーの肘掛けに腰掛ける。


「オレとおまえの仲だろ?タメ口でいいぞ」


 エンは閉じたドアの隣りに立ち、大人しく控えている。体格と顔だけ見ればただの少年に映るが、母親が元暗殺者とあって身体能力は高め。武器が無くても素手で戦うことができる格闘の心得がある人物だ。


 サマラフは、殺気を消した状態で観察してくるエンに背中を見せる。隙だらけにし、此処で攻撃を仕掛ける意思が無いのを態度で示した。



「サラ。オリキスという名前の魔法騎士を知ってるか?」


「うちの騎士団は、ロアナの兵士より人数が多いんでな。名簿が無ければ確認できない。そいつがどうかしたのか?」


「……回りくどい尋ね方をして悪かった。率直に言うが、クリストュル殿は何を企んで、アルデバランの娘に接触した?」


(何だよ。目的バレてんじゃねーか)


 棘がある視線で見られたサラは、兄が機嫌良く見送ってくれたときの表情を思い出し、脳内でぼやいた。


(……ま、潜り抜けるのは容易いけどな)


 サラは脚を組み、わざと不機嫌を装って返す。


「兄貴とオリキスって奴が、何処で結び付くんだよ」


「とぼけるな」


「そっちこそ、憶測で話してるんじゃねぇの?」



 サマラフは眉間に皺を寄せ、警告する。



「あの子はおまえたちに、何の利益ももたらさない」



 サラは鼻で笑う。



「利益、な。ロアナの貴族らしい言葉だ。

 仮にシュノーブがアルデバランの娘とやらを手に入れたとして、どう扱おうが自由だろ?親父を死に追い遣ってオレたちの人生を滅茶苦茶にした翼竜の子どもなんだ。人の形をしてるようだが、化け物の子どもは化け物だろうが」


 嘲笑に怒りが込み上げたサマラフは、右手でサラの胸ぐらを掴んだ。


「彼女は人間だ」


「見た目に騙されてるだけだろ?」


 悪意のある挑発に、サマラフは右手を震わせた。

 サラはこの男に殴る度胸はあるのか試す目で様子を見ていたが、胸ぐらから手が離れたことで、その程度かと呆れる。



「オレには理解不能だぜ。親殺しをおこなった加害者の好意と、親を殺された被害者への罪悪感。天秤にかけなくても、優等生のおまえならどちらへ傾くか想像できるだろうに」


「俺はシュノーブのように贖罪の念を植え付けて騙すような、卑劣な真似はしない」


(頑固な奴)



 堅物な男の心を動かせるか、サラは試しに提案してみる。



「娘に知られるのが嫌なら、黙ってやってもいいぞ?」


「脅迫か」


「ロアナの貴族が言う、損得勘定さ」


「どんな見返りを要求する気だ?」


「べーつに?好きに旅して、それでシュノーブには遊び気分で来ればいい。歓迎する。ついでに親殺しの件、何なら兄貴を介してシコリが生まれないよう、上手いこと補足するのも任せてくれていいんだぜ?」


「気味が悪すぎる」


「端的に言うと、オレたちに矛先を向けない限り、おまえの味方だ」


「……」


 裏表があるのを微塵も隠す気が無い、彼らにとって有利になるのを見越した誘い。誘導に捉えることもできる。

 織人を片付けて一年経たないうちに翼竜が起こした惨劇は、エリカがアルデバランの娘に支配されやすくなる導火線。早めに解決しておいたほうがいい事案なことくらい、サマラフはわかっている。



「質問がある。世界のチカラを断った瞬間、おまえかリラが死んだらどうする?」


「どうって?」


「あの子を憎むのか?」


 サラは自分たちの身を心配してくれてるのかと思ったが、エリカに逆恨みするのを警戒してるとすぐにわかって、むすっと捻くれた表情をする。


「アルデバランの娘に責任を負わせるつもりは無い。失敗したところで自業自得だろ」



「…………俺も理解不能だ。クリストュル殿は、身内が亡くなる苦しみをわかってる側のはず。シュノーブの国民に災いが降りかかることも有り得るのに。一国の王として身勝手がすぎる」



 二人のあいだに険悪な空気がピリッと走る。


 エンは、普通の人間では聴き取れない足音を背中で聴き取り、サラのほうへ歩いて近付いた。

 コンコンと、通路側からドアをノックする軽い音が室内に響く。



「サマラフ卿、ご歓談中に失礼します」



 兵士の声。

 サマラフはドアに近付き、自分の肩幅くらい開ける。


「何だ?」


「ジョアン様がお呼びです。もう少しお時間かかるでしょうか?相当、酔いが回ってまして」


「わかった、すぐ行く」


 サマラフは退室前に、サラたちのほうへ振り返る。


「一糸である俺の願いは、あの子が戦いに巻き込まれずに暮らせる、安全な箱庭へ戻れるようにすることだ」


 部屋に放置されたサラはソファーの肘掛けから降りると、閉まったドアに向かって言う。


「十分、個人的な願望じゃねぇか」


 乱れた胸ぐらをエンが両手で直す。


「煽りすぎですよ」


「いいんだよ、さっきので。敵か味方か、はっきりしただろ?オレたちは機が熟すまで、お膳立てに協力する。許可なんか無くてもな」



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