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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【前半】
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魔術師の長(2)



「……あの……。二人とも仲良く……」


 エリカは諫めようと、静かに声をかけた。

 三人は数秒間、沈黙。

 カロルは彼女の胸元に視線を向けてそのまま足元まで見下ろし、話題を変えようと口を開く。


 だが、声を発する前に。



「サマラフ様」



 着飾ったリュイの登場。

 後方から聴こえてきた明るい声にエリカはぎくっとし、気まずさを感じて硬直した。

 サマラフの横に立ってから会話の輪に誰が居るのか知ったリュイも狼狽しそうになったが、人前を意識し、上辺でにっこり笑って話しかける。


「エリカさんもパーティーにいらっしゃったのね。カロル殿も」


「私はついでですか」


「!いえ、そんなつもりではっ」


 意地悪な揶揄いを真に受けて焦るリュイを不憫に感じたサマラフは、呆れ顔で「虐めてやるな」と注意。

 カロルは彼の言葉を聴き流し、リュイが会話に加わる直前に言おうとしたことを口に出す。


「エリカ殿、素敵なドレスだね。サマラフからの贈り物かい?」


 わざと、リュイに不快感を与えたくて褒めた。

 エリカは説明しかけたが、サマラフが先に答える。



「あぁ。姉に贈る予定だった、仕立て屋ラディンドール伯の遺作だ」


「!?」



 リュイは青褪めた顔をし、正気か疑う、複雑そうな表情を。カロルも表情から笑みを消し、怪訝な目でサマラフを見た。


 ラディンドール伯が作ったドレス、それが何を意味するのか?偶然、近くを通りかかった貴族の子息や令嬢もギョッとした顔をして振り向いたが、エリカ一人だけが知らず、きょとんとしている。



「……サマラフ様」


 リュイは控えめな微笑みを浮かべ、自分のほうから腕を絡めて誘う。


「ユマ様がお待ちしてます。皆様の所へご挨拶に参りましょう」


 彼女から、早くこの場を離れたいのが伝わる。

 手袋を通しても隠せない、手の冷たさ。

 サマラフは「わかりました」と短く返事をして、エリカのほうへ顔を向けた。



「行ってくる」


「うん。行ってらっしゃい」


「一人で勝手に帰るなよ」


「心配しすぎ。ちゃんと待ってるよ」



 だから早く戻ってきてねとエリカは続け様に言えずにこっと笑い、胸の前で、右手を小さく振る。

 此方に背中を向け、会場の中央を目指して歩くリュイとサマラフ。二人の指には、同じ指輪が嵌められている。



 カロルは両腕を組み、口を開く。



「エリカ殿は、異性としてサマラフを好きかい?」


 振り返ったエリカは頬を赤らめ、胸の前で両手をぶんぶん左右に振り、必死に誤魔化そうとする。


「無い無い、無いです……!さっき見た通り、私、子ども扱いされてたじゃないですか。出会ったときからずっとあんな調子で接されてるんですよ?有り得ません」


 カロルは含みのある、薄い笑みを向けた。


「君は嘘が下手すぎるね。彼に騙されてないか心配になるよ」


「……再会した友達にも忠告されました。でも、サマラフの良心を、私は信じてます」


 恋心が報われず、意見がすれ違ってぶつかっても、変わらない何かがあるとエリカは思っている。周りが何を言ったところで、亡くなった両親の名を使って毎年手紙を送り、出会ってからずっと気にかけてくれたのも事実だ。



「ゼアから話を聴いていたけど、迂闊に、十二糸に気を許すのは関心しないな」



 アルデバランの娘だと知っているのをもう隠すつもりが無い、微かに挑発がかった冷ややかな空気。

 エリカは気を引き締める。



「私はカロルさんのことも信じたいです」



 信じるではなく、願望。



「……。行動次第では、君を信じてあげてもいいよ」


「何をすればいいんですか?」



「おぉ、此処にいらっしゃいましたか、カロル様。お時間いただいてもよろしいですかな?」


 アルバネヒトの大臣から、媚びへつらう顔で声をかけられた。

 カロルは立場上、どちらを優先すべきか知っている。


「残念だが、エリカ殿。また今度ゆっくり話そう」


「楽しみにしてます」



「ーードレス。サマラフの姉君より、君のほうが似合ってるよ」


 エリカは褒められたと思って気分を良くし、場所を移動するカロルの背中を見送って一人意気込む。



(よしっ。サラ様を捜そう)

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