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Aldebaran・Daughter  作者: 上の森シハ
Chapter.xx 奸計貴族の国ロアナ【前半】
102/143

魔術師の長(1)

※台詞が、やや多めです。

 .・




 サマラフとエリカはユマから手配された馬車に乗り、王城の西側にある門の前で下車。受付で金のネックレスを見せて、本物か目視での確認を受ける。

 次は識別魔術『スレイダー』の紋の上に立ち、不審物を隠し持っていないか調べを受け、追跡効果のある魔術の筆で、名前を記入。本名を偽った者は、此処で弾かれる仕組みだ。


 初めて参加するエリカに、案内役の男が歩きながら禁止事項を述べる。


「パーティーでは、魔法、魔術、呪文(ワーミー)の発動は厳禁となっております。ご使用になられますと、城の敷地内に張った検知技術により、何処で誰が使用したか瞬く間に判明しますので、逃げ場はございませんこと、ご留意くださいませ」


「もしも使ったら、どうなるんですか?」


「二、三日、投獄させていただくほか、多額の罰金を徴収し、国交につきましては制約が発生することがございます。ロアナに籍がある方におかれましては……。サマラフ卿からお話いただければと」


 案内役の男は、紳士を装った笑みを浮かべ、優雅な演奏が奥から聴こえてくる扉の手前で立ち止まり、


「では、ごゆるりとお楽しみくださいませ」


 二人に深々と頭を下げて、道をあける。



「ーーエリカ」


 サマラフに片腕を差し出された彼女は昨日教わった通り、腕を絡め返してエスコートして貰う。触れた瞬間に淡いときめきを心に感じたが、左右に立っている衛兵が扉を開けた瞬間、打ち消された。


 此方に向けられる、奇異な()を見る視線。

 十二糸への嫌悪感。

 見慣れない女を連れてる大使への興味。


 会場に居るすべての者がそうでないにしても、エリカは好意より悪意のほうが目立ってるように感じ取ってしまう。

 慣れてるサマラフは注がれる視線を無視して壁側に移動すると、奥のほうで大臣たちと歓談している親子を見た。


「エリカ。あちらにいらっしゃるのが東国アルバネヒトの王妃リシュア殿と、王女のアーシュクレイン殿だ」


 サマラフは顔を動かし、出席している面々から他国の代表者のみに絞って、顔と名前をエリカに教えておく。


「彼処で肉料理を召し上がりながら子どもっぽく不貞腐れている青少年が、ダーバ共和国のロキ皇子。

 その隣りで笑っていらっしゃる髭を生やした男性は、群島ヤマタヒロの太守、ショウエン殿だ。

 会場の中央でユマ様と品良く会話してらっしゃるご高齢の婦人が、多宗教国家クダラのネリッス女王。

 彼らと会話するとき、言葉にだけ注意していれば、特に問題にはならない」


「シュノーブの王子様は何処?」


「サラ王子は、……姿が見えないな」


 昨日、宿泊先に行ってみたが、護衛で来ているエンに面会を断られてしまって会えなかった。サラ曰く、疲れているから明日にしてくれ、とのことだった。



「彼奴より、警戒したほうがいいのは……」



 サマラフは右方向から歩いてくる人物の気配を感じ、ゆっくり全身の向きを変えて振り向く。

 美青年と美女を足して割ったような中性的な顔立ちに、胸の膨らみがあるのか着衣からは察しにくい、すらっとした体型。金髪は肩に毛先が触れそうな長さで、真っ青な瞳には冷たさが宿っている。


「やぁ。来るのが遅かったじゃないか」


 エリカは目を丸くした。発せられた声はやや低いが、サマラフより歳下の、大人の女とわかる。


「一年ぶりだね、サマラフ。元気そうで何よりだ」


 親しみを込めた小さな笑みを浮かべてる彼女とは反対に、彼の表情は依然かたい。


「風の噂でおまえの名前を時折り聞くせいか、どうも久しぶりの気分がしないな」


「光栄だね。そちらの姫君は?」


「イ国で知り合った名家のご令嬢だ。理由あって俺が護衛をしてる」


「どんな理由か、詳しく教えて欲しいものだな」


 女は、ふふっと笑ってから、エリカの目を見て自己紹介する。



「私の名はカロル。魔法軍事国家アイネスで王を補佐している、アンシュタット一族の長だ」


(この人が……)


 十二糸の一員であり、魔術師の最高峰に君臨する長。

 今日(こんにち)まで、エリカは怖い人物像を想像していたが、会ってみると恐ろしい雰囲気は滲み出ておらず、気品と知性を感じた。


 サマラフの腕からスッと離れ、両手でドレスを摘み上げて脚を交差させ、挨拶する。


「エリカです。初めまして」


 カロルはサマラフを見て、愉しげに目で笑う。


「怖い顔は良くないよ?」


「ご機嫌だな」


「外に出れたからね」


 姿勢を直したエリカは、目をぱちくりと瞬きさせた。


「自由が、利かないのですか?」


「何を指して自由と言っていいか悩むが……。私には三つの顔がある。一族の長、褒賞に過ぎない妃の立場、侯爵」


「お仕事が年中、山積みということですか」


「あぁ。一年に二回は何処かの誰かさんのように、羽を伸ばしたいよ」


「ご多忙ですね」


 気遣うエリカの隣りでサマラフは半眼になり、(俺のことか)と視線でツッコんだ。

 カロルは、ロアナの使用人が銀製の盆に乗せて配っているワイングラスを受け取り、話を続ける。


「一糸に選ばれる前から、自国の王に仕えることは決まっていた。サマラフ同様、国に忠誠を誓い、宿命を全うすることに躊躇いが無いのが幸いだ」


「おまえの場合、『余念が無い』の誤りだろ?」


「やれやれ。わざわざ自分の株を下げる発言ができるなんて、余裕の無さを公開してるも同然。同席してる可愛いらしい姫君に、恥を掻かせてしまうよ?」


 あいだに挟まれてるエリカは心配そうに彼の顔をちらりと見て、(確かに、サマラフが一方的にピリピリしてる)と思った。


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