-2-「雨天決行の果てに。」
人は脳のほとんどを使わずに過ごしているなんて、よく言われることだ。
それらがフル活用された時、もしかしたら超能力が目覚めるんじゃないかって話。夢はあるが、夢でしかない。
と、自称霊能力者が出演し、除霊やらなんやらするテレビ番組をぼーっと眺めながら考える今日この頃だ。
欄人
「はーあ。俺にも超能力目覚めねぇーかなー。」
知太
「なに唐突に。
お兄ちゃんじゃダメだね。ろくな使い方しないで終わるよ、間違いない。」
欄人
「あん?じゃあお前ならまともな使い方できるってのかよ。」
知太
「ふふん!当然!
僕ならね、まずは病院に行ってみんな治してあげちゃう!」
欄人
「どこがまともだ。」
知太
「えっ、これほどまともな使い方……。」
欄人
「病があるから医者って職が成り立ってんだ。もしそんなことしたら、お前は医者たちを食いっぱぐれさせてしまうんだぞ。」
知太
「え、そしたらみんな整形外科のお医者さんになればいいじゃない?
治す医者じゃなくて、繕う医者!」
中坊のくせになかなかしたたかな考えをしおる。世渡り上手なんだろうな。かたや俺はコレ、ムカつくぜ。
知太
「お兄ちゃん、そんなことより!今日は外に出るんだよ!」
欄人
「雨降ってるだろ。雷まで鳴ってるし。」
知太
「だからなに。
この前の同人即売会も僕、まぁた変な格好させられて散々だったんだけど?」
欄人
「その時、外出たじゃん。」
知太
「違う!オタク趣味のためにじゃなくて、社会復帰のための外出だよ!
まずは公園にでも出かけて散歩しようよ、外の空気おいしいってことにまず気づこ?」
欄人
「ここ以上に落ち着く空気もないだろう。」
知太
「こんな埃くさい空気が落ち着くかっての!喘息持ちの人なんか入って来れないよここ!
ねぇ、外出ようよー!今日はそこの公園までで妥協してあげるんだから!」
欄人
「ったる。
なんなん?俺にそんなに構って。中坊の貴重な時間を俺に割くなよ、友達と遊んでこいよ。」
知太はため息をつく。伏目がちに、しかし俺の目を熱っぽく見つめていた。
知太
「ん……でも、僕がいなくなったら、お兄ちゃんかわいそうだし。」
欄人
「哀れむなよ。哀れむな。」
知太
「とにかく、ボランティアで30歳引きこもりのお世話してあげてるんだから文句言うなーっ!
いいから行く!ほら、雨も楽しも!ねっ、お兄ちゃん!」
心底嫌だ。
だが、長期戦になると面倒だ。特に、他の親族が介入してきたら超面倒だ。100%みんな知太につくわけだから集団リンチ食らうハメになる。
公園……歩いて2分くらいか。仕方ない。
透明のビニール傘を装備し、玄関を開ける。
滝のような雨が地面を叩きつけていた。いやこれ、出てったら死ぬんじゃあないの。
欄人
「こんな中で出てくヤツいないだろ……。」
知太
「雨の日に出かけちゃいけないなんてことはないんだから、いーのいーの。むしろ新鮮!風雅!って思おう。」
知太は俺を滝の下へと引っ張る。しかも傘を持たず。
いよいよと思い、傘をさす。傘には絶え間なく大粒の雨が突き刺さり、当たる衝撃というよりかは傘の重力が増したように感じてしまう。
俺を引っ張っていた知太は、今度は俺の左腕に引っ付いて傘下に入ってきた。
知太
「やー……すごい雨。わくわくするね!」
欄人
「どこがじゃい。」
もはや俺たちは会話もままならない。雨の音でなんも聞こえない。
足元はぐっちゃぐちゃ。靴はもちろんのこと、ジャージがもう太ももまでひたひたになっちまっていた。
早く行って帰ろう、こりゃあ風邪引くわ。
徒歩2分で到着、千葉県北西部某所の公園。小さな公園だが、近所のガキどもは嬉々としてここに集う。ここのどこがいいんだよ。家でゲームしてる方が楽しいだろ。
公園の敷地内は肥沃な土、水たまりはもはや沼と化していた。無論、こんな中で遊んでるアホはいない。
知太
「せっかく来たし遊んでくー!?」
欄人
「アホか!早く引き返すぞ、もーいてられん!」
その時。俺は手にちくりとした痛みを感じた。
欄人
「いった。
……あぁ、草で指切っちまった。クソ、雨のせいだ!」
知太
「雨のせいではなくない?
もー、ほら見せて。消毒液持ってるから。」
欄人
「つくづく衛生兵だなお前。消毒液常備ってなんだよ。
いーよこんなん。こーやって指を振るってだな、血を乾燥させちまえば勝手に塞がるってんだ!」
知太
「ああーちょっと!血が飛び散ってるから!横着しないのっ!」
俺の血飛沫が何滴か沼のような水たまりに降り注いだ。
その瞬間。
視界が真っ白に染まった、同時に俺らは全身にその衝撃を食らった。
俺と知太は吹き飛ばされ、大雨の中に背中から落ちた。
耳が、痛ぇ。ギンギンと鼓膜が痛み、激しい金切音が響いている。視界はずっとチカチカしていて前がよく見えねぇ。意識も、途切れ途切れだ。
欄人
「お……おい、知太。大丈夫、か?」
知太
「だ……大丈夫、かな。な、なにがあったの?」
欄人
「分かん、ね。」
なんとか目を凝らして周囲を見ようとする。
次第に暗雲と豪雨の世界に目が慣れてきて……状況を把握した。
公園の木が焼けている。
こいつは……雷が落ちたのか。ま、マジかよ。
欄人
「か、帰るぞ。生きてるだけめっけもんだぜこりゃあ。」
知太
「お……お兄ちゃん。あれ……なに?」
知太が指差した。
その先には……。
な、なんだ。体が真っ白に輝く人間が……水たまりの中心に現れやがった。
そいつは俺の方に向かってゆっくりと歩いてくる。身体からバチバチと放電しながら。なんだマジで、ヤベェって、ヤベェ!
知太
「ば、化け物……!?
お、お兄ちゃんに手を出すなぁ!」
欄人
「ば、バカ!!!」
俺の前に立った知太、その首根っこを掴んで後ろにぶん投げた。
……その頃には、もう、バケモンは。
『Srrrr……。』
手が伸ばされる。
もう、避けられねぇ。
し、死ぬのか。死ぬんだろうな、俺。
こんなわけわかんねぇバケモンに、殺されるんだ。
間近に迫ったバケモン。
白の眩さの中に、素顔がようやく見えた。
そいつの面は。
『Parsley. Sage. Rosemary. Thyme.
Paranorm. Paranorm.』
俺だった。