表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/15

-2-「雨天決行の果てに。」

人は脳のほとんどを使わずに過ごしているなんて、よく言われることだ。


それらがフル活用された時、もしかしたら超能力が目覚めるんじゃないかって話。夢はあるが、夢でしかない。



と、自称霊能力者が出演し、除霊やらなんやらするテレビ番組をぼーっと眺めながら考える今日この頃だ。



欄人

「はーあ。俺にも超能力目覚めねぇーかなー。」



知太

「なに唐突に。


お兄ちゃんじゃダメだね。ろくな使い方しないで終わるよ、間違いない。」



欄人

「あん?じゃあお前ならまともな使い方できるってのかよ。」



知太

「ふふん!当然!


僕ならね、まずは病院に行ってみんな治してあげちゃう!」



欄人

「どこがまともだ。」



知太

「えっ、これほどまともな使い方……。」



欄人

「病があるから医者って職が成り立ってんだ。もしそんなことしたら、お前は医者たちを食いっぱぐれさせてしまうんだぞ。」



知太

「え、そしたらみんな整形外科のお医者さんになればいいじゃない?


治す医者じゃなくて、繕う医者!」



中坊のくせになかなかしたたかな考えをしおる。世渡り上手なんだろうな。かたや俺はコレ、ムカつくぜ。



知太

「お兄ちゃん、そんなことより!今日は外に出るんだよ!」



欄人

「雨降ってるだろ。雷まで鳴ってるし。」



知太

「だからなに。


この前の同人即売会も僕、まぁた変な格好させられて散々だったんだけど?」



欄人

「その時、外出たじゃん。」



知太

「違う!オタク趣味のためにじゃなくて、社会復帰のための外出だよ!


まずは公園にでも出かけて散歩しようよ、外の空気おいしいってことにまず気づこ?」



欄人

「ここ以上に落ち着く空気もないだろう。」



知太

「こんな埃くさい空気が落ち着くかっての!喘息持ちの人なんか入って来れないよここ!


ねぇ、外出ようよー!今日はそこの公園までで妥協してあげるんだから!」



欄人

「ったる。


なんなん?俺にそんなに構って。中坊の貴重な時間を俺に割くなよ、友達と遊んでこいよ。」



知太はため息をつく。伏目がちに、しかし俺の目を熱っぽく見つめていた。



知太

「ん……でも、僕がいなくなったら、お兄ちゃんかわいそうだし。」



欄人

「哀れむなよ。哀れむな。」



知太

「とにかく、ボランティアで30歳引きこもりのお世話してあげてるんだから文句言うなーっ!


いいから行く!ほら、雨も楽しも!ねっ、お兄ちゃん!」



心底嫌だ。


だが、長期戦になると面倒だ。特に、他の親族が介入してきたら超面倒だ。100%みんな知太につくわけだから集団リンチ食らうハメになる。


公園……歩いて2分くらいか。仕方ない。



透明のビニール傘を装備し、玄関を開ける。


滝のような雨が地面を叩きつけていた。いやこれ、出てったら死ぬんじゃあないの。



欄人

「こんな中で出てくヤツいないだろ……。」



知太

「雨の日に出かけちゃいけないなんてことはないんだから、いーのいーの。むしろ新鮮!風雅!って思おう。」



知太は俺を滝の下へと引っ張る。しかも傘を持たず。


いよいよと思い、傘をさす。傘には絶え間なく大粒の雨が突き刺さり、当たる衝撃というよりかは傘の重力が増したように感じてしまう。


俺を引っ張っていた知太は、今度は俺の左腕に引っ付いて傘下に入ってきた。



知太

「やー……すごい雨。わくわくするね!」



欄人

「どこがじゃい。」



もはや俺たちは会話もままならない。雨の音でなんも聞こえない。


足元はぐっちゃぐちゃ。靴はもちろんのこと、ジャージがもう太ももまでひたひたになっちまっていた。


早く行って帰ろう、こりゃあ風邪引くわ。



徒歩2分で到着、千葉県北西部某所の公園。小さな公園だが、近所のガキどもは嬉々としてここに集う。ここのどこがいいんだよ。家でゲームしてる方が楽しいだろ。


公園の敷地内は肥沃な土、水たまりはもはや沼と化していた。無論、こんな中で遊んでるアホはいない。



知太

「せっかく来たし遊んでくー!?」



欄人

「アホか!早く引き返すぞ、もーいてられん!」



その時。俺は手にちくりとした痛みを感じた。



欄人

「いった。


……あぁ、草で指切っちまった。クソ、雨のせいだ!」



知太

「雨のせいではなくない?


もー、ほら見せて。消毒液持ってるから。」



欄人

「つくづく衛生兵だなお前。消毒液常備ってなんだよ。


いーよこんなん。こーやって指を振るってだな、血を乾燥させちまえば勝手に塞がるってんだ!」



知太

「ああーちょっと!血が飛び散ってるから!横着しないのっ!」



俺の血飛沫が何滴か沼のような水たまりに降り注いだ。



その瞬間。



視界が真っ白に染まった、同時に俺らは全身にその衝撃を食らった。


俺と知太は吹き飛ばされ、大雨の中に背中から落ちた。


耳が、痛ぇ。ギンギンと鼓膜が痛み、激しい金切音が響いている。視界はずっとチカチカしていて前がよく見えねぇ。意識も、途切れ途切れだ。



欄人

「お……おい、知太。大丈夫、か?」



知太

「だ……大丈夫、かな。な、なにがあったの?」



欄人

「分かん、ね。」



なんとか目を凝らして周囲を見ようとする。


次第に暗雲と豪雨の世界に目が慣れてきて……状況を把握した。



公園の木が焼けている。


こいつは……雷が落ちたのか。ま、マジかよ。



欄人

「か、帰るぞ。生きてるだけめっけもんだぜこりゃあ。」



知太

「お……お兄ちゃん。あれ……なに?」



知太が指差した。


その先には……。



な、なんだ。体が真っ白に輝く人間が……水たまりの中心に現れやがった。


そいつは俺の方に向かってゆっくりと歩いてくる。身体からバチバチと放電しながら。なんだマジで、ヤベェって、ヤベェ!



知太

「ば、化け物……!?


お、お兄ちゃんに手を出すなぁ!」



欄人

「ば、バカ!!!」



俺の前に立った知太、その首根っこを掴んで後ろにぶん投げた。



……その頃には、もう、バケモンは。



『Srrrr……。』



手が伸ばされる。


もう、避けられねぇ。



し、死ぬのか。死ぬんだろうな、俺。


こんなわけわかんねぇバケモンに、殺されるんだ。



間近に迫ったバケモン。


白の眩さの中に、素顔がようやく見えた。



そいつの面は。



『Parsley. Sage. Rosemary. Thyme.


Paranorm. Paranorm.』



俺だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ