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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第11章 その6

 6・とあるチーフエンジニアの日常と、その頃の僕


「成る程。確かにその【付与魔法】で強化を図れば[ニューブリテン]の構造的欠陥問題の大半はクリアできそうだな。当然この手は[レパルス]など、他の艦にも使えるって寸法だ」

「ですです親方」

「しかもその魔法を【魔道具化】したら、マナを供給している限り永続的に使用可能、と」

「はいです親方」


 俺は腕を組んだ。確かに筋は通っていやがる。それは理解した。魔法の内容も俺好みではある。だが、完全に納得できたわけじゃねぇ。


 それは……


「どうして俺が魂レベルで求めた相手ってのが、サーじゃなくて、よりにもよって、お前なんだよミラーナ!」

「えへへです(はあと)」


 そうなのだ。

 ドリアッド師曰く、俺が無意識で選んだ『魂レベルで求めたパートナー』とやらが、いつも俺と一緒にいる助手のミラーナ・ターナー少尉だったのだ。


 しかも!ミラーナの方も選んだのは俺。

 俺の目の前にいるミラーナは、複製じゃなくてホンモノだ。


 つまり俺達は無意識に相手を求め合っているという、紛れもない証拠になっちまっている。更に追い打ちをかけているのが、複製とは違って互いにホンモノゆえ、現実に戻ってもこの事をきっちり把握するという確定未来。


 この恐ろしい『現実』の前には、サー拉致疑惑などという、嫉妬に発した言いがかりなんて、些末な問題でしかないぜ。


 しかもこの【付与魔法】と【魔道具化】という2つの魔法。魔法として成立した時代も国も全然違うくせに、恐ろしく相性が良い上に、別の人物がそれぞれかけた方が何故か効率が良いという、別名『カップル魔法』ときたもんだ。

 つまり俺が付与した場合は、ミラーナが魔道具化し、その逆もアリという訳だ。


 一応サー向けにスキル化も可能らしいが、その場合はかなり効果が低くなるそうだ。やはり全部1人で、というには無理があるみたいだ。

 何故そうなるかは、ドリアッド師自身も分からないという。というか、理由なんか考えた事もないんだと。

 それは元々ドリアッド師が情報魔法であり、魔法を収集、蓄積するコレクターに過ぎないからなのか、魔法があくまで結果重視で、原因とかを考察するのに向かなかったからなのかは不明だ。


 それはそれとして。


「おめでとうございます。お二人は貴艦で成立した数少ないベストカップルになりました。これで修行も大いに捗ることでしょう」


 脳天気に拍手したドリアッド師。まぁ、【夢で逢えたら】などという魂魔法は、別名逢い引き魔法とまで言われていたらしい。もっとも別の時代には、浮気発見魔法とされていた事もあったそうだが。いずれにせよ、とても恐ろしい魔法だという事は分かった。


 浮気者にはたまらないだろうな。


 そして魔法伝授というドリアッド師の目的に一番効率が良いのもまたこの魔法というわけだ。

 師の話によると、魔法とは魂に刻みつけるものだかららしい。詳しい理由は俺には専門外でよく分からなかったが、とにかくそういうモノだと説明された。


 本来情報魔法でしかないドリアッド師もまた、魔法実践のため、魂を実装されている。

 つか、魂って実装できるものなのか。

 まぁ、そのおかげで俺達は教えてもらえる訳だが。


 つまり今回師の膨大な魔法コレクションの中で【夢で逢えたら】が選ばれた理由として、カップリング自体はドリアッド師にとっては最重要なファクターではなかった訳だ。俺とミラーナが教わった魔法は例外的に最適だっただけで。


 別の魂魔法は、攻撃魔法や補助魔法が中心で、単独で修行する場合はともかくとして、それほどめぼしいものはなかったらしい。


 そしてベストカップルに魔法を伝授するのが、一番効率が良いとされてきた。まぁ、実際に【夢で逢えたら】内で直接伝授するケースは希で、普通何かさせるのは、現実社会に戻ってかららしいが、今回その普通の手は使えないから仕方ないんだと。


 最初は当艦における技術士官の実質ナンバーワンとナンバーツーゆえ、魔法習得のためにカップルにされたのではと疑ったが、魔法構造上、ドリアッド師側で相手を選択する事はできない。

 サーの【品種改良】で、その原則を破る事は可能だそうだが、サーの性格上、恣意的にパートナーをでっち上げるなんて非道、する訳がないから、その可能性はないと断言できる。


 となれば、覚悟を決めるしかないか。


「なぁミラーナ」

「何です?親方」


「……現実に戻ったら、ちとばかし大事な話がある。時間作ってくれ」

「!了解ですです親方!……でも、今からでも構わないですよ?」

「馬鹿野郎。今は大事な修行の時間だ。この一分一秒がサーのチカラになる事を忘れるんじゃねぇ」

「了解ですです親方!」


 身体を妙にくねらせていたミラーナが一瞬直立不動になり、すぐにしゃがみ込んで作業を再開する。


「それはそうと、親方」

「……なんだ?」

「ここって、直接強化するよりも、魔道具化する効果を付与した工具を作る方が、魔道具の量産に向くと思うのですよ」

「成る程な!そいつは試す価値がありそうだ!」

「ですです」


 それから暫く作業に没頭する。やはり工具の魔道具化には限界があるみたいだ。マニピュレーターのような精密機械にはあまり向いていない。勝手に魔道具を量産するラインを作れたら良かったんだが……いや、俺達の魔法レベルが上がれば、ワンチャンあるか?


「それで、親方ぁ」

「今度はなんだ?」

「サーのベストパートナーは、やっぱり魔女でしょうか?それとも姫様でしょうか?」

「知るか。作業に戻れ」

「……はいです」


 ……現実に戻ったらそこは修羅場でした、じゃ洒落にもならん。

 っていうか、サーはまだ10歳。HD入れても11歳なんだぞ?

 できれば今は無難に、大人の野郎かなんかがいーんじゃねぇか?恋愛とか抜きで。

 何しろサーには立派な父親と、2人の兄貴がいるんだ。或いはもっと無難に母君とか。

 国を離れてそこそこ経つんだ。そろそろ親が恋しくなっても普通じゃねぇか。


   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇


 剥き出しの土は鍬を入れるととても柔らかくなる。農家スキルのおかげで、すぐに豊かな土壌になるのはありがたい。

 ここには何を植えようか。

 まずは無難にジャガイモか?それとも貧しい土地でもよく育つ蕎麦の類か?


 まぁ、何でもいいか。どうせここは現実じゃない。何を植えようが育つだろうし、どうせ収穫しても現実世界に持ち込む事もできやしないのだから。


「主上には、ご迷惑をかけたにも関わらず、とてもお世話になりました。御礼申し上げます」


 情報魔法が神妙に頭を下げる。


「そういうのいいから。でも良かったよ。複製達は上手く誘導できたみたいだね」

「はい。でも宜しかったのですか?」


 頭を上げたドリアッドだが、その表情は晴れない。


「しかし、私のメッセージを主上の錯覚としてしまった事により、主上が未熟だと配下の者達に誤解させてしまいます」

「僕が未熟なのも事実だし、だからこそみんな魔法の習得により熱が入るってものでしょ?結果良ければ全て良し。それこそ魔法の世界の常識でしょうに」


 そうなのだ。


 前にドリアッドが仕掛けた【映像の銀河史】の解釈を、僕はかなり弄る事にした。まぁ、色々無理がある事は承知している。


 僕の【品種改良】によって単なる情報列記がVR化したというのは本当。でもそのマナ消費量は単体ならごく僅かでしかない。

 僕が疲労状態になったのは、調子に乗って様々なスキルを発動させたから。

 なにしろ僕の精神は兎も角、身体の時間は止まっている。

 膨大なスキルを一度に使ったと身体は判断し、疲労という形でストッパーをかけたんだ。


 だから正確には、僕はマナ欠乏症にはなっていない。ゆえに皆に言ったのは、あくまで仮説という訳さ。


 それより大きな問題がある。【映像の銀河史】ラストのメッセージ部分だ。


 あれ、実は銀河樹の意志なんかじゃ、まったくない。

 というか、そもそも銀河樹に意志なんかない。


 だって、木だよ?


 脳なんかないし、それに代わるような疑似器官すらなかったとドリアッドが証言している。


 そう。


 ドリアッドから見ても、銀河樹は膨大なマナを製造する装置の1つに過ぎないんだ。

 彼女を創ったのだって、大昔の魔法文明だし。

 では、あのメッセージは誰のものなのか?

 容疑者なんて1人しかいない。


 そう、ドリアッドだ。【映像の銀河史】を編集した際、自らメッセージを吹き込んだわけだね?

 動機は、魔法情報の受け入れをスムーズにするため。やれ後継者だの受け継ぎし者だのと持ち上げて、その気にさせるつもりだったそうだ。


 もっともそのメッセージは先生達を激怒させちゃったけれど。


 うん、僕が寝ている間の幹部会議の様子は、ドリアッドに教えてもらった。


 さすがは情報魔法だけあって、覗き見は得意らしい。

 そして自分の失敗を悟った。


 彼女は艦隊の全乗員に対し、魂魔法【夢で逢えたら】を決行。そして僕に対策を相談してきて、今に至るという訳さ。


 まぁ、僕にも思う所はある。

 彼女のやり方全てを肯定する気はない。


 でも、魔法を教えてもらえるというなら、教わった方が良いに決まっている。

 なにしろ、そのために僕らは来たのだから。


 それなのに……僕の艦隊は、阿呆の集団なわけ?

 僕の事を心配したというより、体感で6時間も僕を独り占めしたのが許せないって、ただの嫉妬だよね!

 その嫉妬のせいで、魔法なんか要らない?銀河樹の生き残りがいたら殲滅?


 何考えてんの!


 だいたい、僕が鍬を振れば何とかなる、だって?


 どうにもならないに決まっているでしょ!


 例え僕が本当にアルス・オースティンの生まれ変わりだとしても、だ。彼は地上世界の勇者でしかないんだぞ?


 広い宇宙で、鍬が何の役にたつ?

 だいたい、鍬は農具だ。土を耕す道具だ。


 宇宙戦艦をどうこうする類のものでは、断じてない!


 ましてや今想定しているように、敵が魔法と科学を併用して運用してきた場合、まったく対処できる気がしないのだが?


 それに。

 それに、だ。


往生際が悪いと笑われそうだけれど、僕にはまだ、自分がアルスの生まれ変わりだという確証がない。

 状況証拠の積み重ねなら、ある。沢山ある。それは認めよう。

 でも状況証拠は所詮、状況証拠でしかないのも事実だ。

 つまり、決定的な証拠にはならない。

 ティナを初め、多くの人が僕をアルスの生まれ変わりだと思ってくれている。

 生まれ変わり、つまり転生自体は存在する事は、もう認めるしかない。

 

 ティナは別に電波などではなく、本当の事を語っていた。

 いわゆる異世界(?)は存在し、勇者アルスは実在した英雄だ。

 でも、だからこそ、新たな恐怖が僕を襲う。


 状況的に僕がアルスだと思われているけれど、同時にそれは『思われている』だけの話に過ぎないという事を。

 もし、それがある時覆されたら?

 もし、決定的な証拠を引っさげて、ホンモノの生まれ変わりが登場してしまったら?


 僕はどうなる?


 タルシュカットの皆はそれでも大丈夫。

 これは断言できる。


 そもそも彼らはアルスなんか知らないからね。最初から僕――ウィリアム・オゥンドールについて来てくれているのだから。


 家族ももちろん大丈夫。それはタルシュカットの皆と同じ理由からだ。


 先生は微妙……だけど、大丈夫だと信じたい。


 先生は、最初はティナに話を合わせているのだと思っていたけれど、どうもそうじゃないらしい。

 やはり彼女もアルスの妻の生まれ変わりで、同じようにアルスを探していたようだ。


 だいたい、排他的で知られるイルヴの民が、ほいほい辺境の開拓惑星なんかに来るというのがおかしいんだ。

 でも、この5年間、HDを入れたら6年か。

 それで培った絆は、信じたい。

 僕の人生の半分、もしくはそれ以上であっても、寿命の概念がない彼女にとって、5、6年なんかゴミみたいなものだろうけれど。

 うん、時間の長さじゃなく、中身が大事。


 うーん、自分で言っていて苦しくなってきたぞ。

 

 さて。

 問題は、もちろんティナだ。 

 ティナに捨てられる?いや、彼女は優しいから、命の恩人として扱ってはくれるかもしれない。

 でも、それだけだ。

 当然婚約の話はご破算。いわゆる破談というヤツだね。

 高家男爵の話も当然なくなる。もっとも宙賊討伐の件とかあるから、もしかしたら形ばかりの爵位として残るかもしれない。

 まぁ、爵位とかはどうでもいい。元は伯爵家三男として、兄様が伯爵位を継承したら平民になるつもりだった訳だし、タルシュカットならば、僕の居場所はいくらでもある。それに命の恩人である事を盾に、ティナにどうこうしてもらうなんて、紳士としてあるまじき事……うん、自分を誤魔化すのはやめよう。


 やっぱり、ティナに捨てられるのは悲しい。知り合ってまだ間もないのにね。

 うん、時間の長さじゃなく、中身が大事というのは真実だったようだ。


 どういう事なんだろう。

 噂で聞いていた時には、むしろ敬遠していたのに。

 直接会ったとたん、惹きつけられてしまった。

 可愛いから?うん、それもあるだろう。

 でも、仮にも僕は大貴族の三男だ。

 可愛い娘、綺麗な娘というだけなら、いくらでも会った事はある。

 領軍の女性陣は美形揃いだ。

 先生?うん、超絶美形だけれど、どちらかというと、相棒?共犯?みたいな関係な訳で、性別を超越した仲だからなぁ。もちろん綺麗である事を嫌がる理由はないけれどね。


 だからティナに惹かれるのは、美醜が理由ではないと思う。

 これが僕がアルスの生まれ変わりで、魂が惹き合った、とかいうなら実に好都合だけれど、生憎この科学万能の時代に、そんなご都合主義が通る筈もなく。

 それを立証づけるなら、まずは魂が実在する証明を……って。


「ここ、魂魔法だった!」


 魂魔法が存在するなら、当然魂が実在する事が前提となる。

 おお。もう証明ができた。


 もっとも、僕が考えている『魂』と、魂魔法の対象である『魂』が、同一のものであると明らかにしなければ、何にもならない訳で。


「……単純に、一目惚れした、では済まないのですか?」


 あ。ドリアッドが引いている。


「これだから魔法生命体は。これは僕がアルスかどうかの決定的な証拠に繋がるかもしれない、手がかりになり得るかもしれない、重要な検証なんだよ?」

「長らく情報魔法やってきましたが、一目惚れにここまでめんどくさそうな検証とか言っているヒト、初めて見ました……って、そもそも魔法生命体って何ですか?」


 情報魔法は首を傾げる。


「だから君の事」

 

「私はただの魔法ですよ?この身体だって魔法で造られているだけです。つまりマナがなくなれば消えてなくなる存在なのですよ?」

「それが?宇宙は広いんだ。魔法でできた生物がいても、そういう特徴を持つというだけの話で、別におかしくないよ。例えば民間の星間情報ネットワーク内には、情報生命体の『インフォメーア』が住んでいたりするけれど、彼らは物質的な肉体は持たないけれど、知的種族には違いないし」


 病的なまでの悪戯好きという、厄介な種族特徴を持つけれどね!

 まぁ?宇宙時代になってから、生物の定義も随分と変わり、母なる地球にへばりついていた時代の、『自己複製』『エネルギー代謝』『外界との境界』の3項目に該当しない生命体との接触も珍しい事ではなくなった。


 魔法生命体というのも恐らく人類初遭遇だろうけれど、魔法そのものが滅茶苦茶珍しいからねってあれ?ドリアッドが泣いているよ。


「あの、私、『生命体』になれたのですか?単なる魔法ではなく」

「なれたというより、元々生命体でしょ?それも知的生命体ってヤツだ。僕と先生は自慢じゃないけれど、この5年間で12の新しい種族とのファーストコンタクトを経験している。君は13番目になるってだけだ」


 生命体の定義として必ずしも必要ではないけれども、ドリアッドには理性も感情もある。

 つまり、比較的僕らに近い種族という事になるね。

 『魔法情報の蓄積』という本来の存在理由には特に必要なかった筈の要素だけれど、長い時間を経て、そういう存在に進化したって事か。


 近いという事は、好悪の対象なり得るという事でもあるから、より慎重に接触すべきだろうね。取りあえずドリアッド個人とは仲良くやっていきたいものだ。


 それはそれとして、だ。

 ドリアッドは僕が言葉を重ねれば重ねるほど涙の量が増え、今や号泣状態になっている。

 どうしよう。

 悲しい涙ではなさそうだから、今は放っておくか。


 ええっと、話を戻すか。

 どうせドリアッドには魂状態である僕の考える事など、全部読めるそうだから、特に口に出す必要もないし。


 で、魂魔法だけれど、それって僕が考えているような魂と同一で良いって事かな?


「……はい。主上の複製の方々には既にご説明しましたが、同一のモノと考えて結構です」

「……そう」


 科学的には結局存在の立証ができなかった魂だけれど、魔法はあっさり魂も転生もあると示した。何か悔しいな。


 何が悔しいって、存在を明らかにしているくせに、その立証過程もなければ、理論武装すらない。ただ『ある』という結果があるのみ。

 魔法の結果主義のせいで、科学が発達しなかった、というのはこういう事だ。


 なにしろ火を出す魔法はあるくせに、どうして火が燃えるのかすら、誰1人考えないのが魔法世界だ。当然宇宙に進出した魔法文明でも、酸素1つ知らなかったりする。

 ただ空気がなければ苦しいから、宇宙にも空気を持っていけ、程度。

 宇宙に空気がない事は、最初の犠牲者が教えてくれたが、何故宇宙に空気がないのかどころか、何故息ができないと苦しいかすら考えたヤツがいないって、どうよ?

 船内の空気が汚れたら、というか、酸素が消費されたら、息が苦しいから、新しい空気を願う、そしたら魔法で実現しちゃう。ただそれだけ。

 お腹が空いたら食べ物を魔法で作る。喉が渇いたら水を作る。ただそれだけ。

 ここまでくると、なんかもう、凄いとしか言いようがない。


 ……ともあれ、魔法のおかげで、魂はあると分かった。で、死んでも魂の一部は転生する事も分かった。

 ティナの言い分を信じた段階で、それを疑う気はもうないけれど。


 肝心なのは、アルスの魂を僕が持っているかの検証方法。

 ティナや学長は魂魔法が使えない。ゆえに僕がアルスに違いないというのは、多分に願望が入った憶測に過ぎない。それとも魂を鑑定する魔法とかあるのだろうか?


「――なーんてとりとめの無い話を続けているのも、僕の相方とやらがいつまで経っても来ないからなんだけど」

「重ね重ね申し訳ございません」


 そうなのだ。


 魂魔法【夢で逢えたら】。


 それは自らの意志にもない、魂レベルで逢いたい相手との魂での出会いを司る魔法。

 要は非公開の逢い引き魔法である。まぁ、色恋沙汰とは限らないけれども。

 魔術的には『無意識下の意識』なる矛盾そのものの思考が関わっており、よって実際逢う相手を恣意的に選ぶ事はできない。それこそ、魔法をかけたドリアッドでさえも。


 だから僕の魂が誰を選んだのかは、僕にも当然分からないのだけれど、正直今はティナや先生に会うのは気が引けてしまう。ただでさえ僕は隠し事が苦手だというのに、魂がさらけ出されている今は、特に本音ばかりが出てきちゃうからね。


 アルスに嫉妬している僕。

 僕とアルスが別存在じゃないかと怯えている僕。


 そんな、僕自身が目を背けたい僕を2人に見せるわけにはいかない。


 まだ誰も来ない事を良いことに、ドリアッドにそんな醜い僕を晒しておこうという訳さ。

 何しろドリアッドは目一杯無関係な上に、魂魔法の実行者として守秘義務がある。取りあえず彼女と二人きりの時は、何でも語る事ができる。


「でも、どうして相方が来ないの?」

「分かりません」

「それは、魔法は結果を求めるだけで、原因や過程を考えるのが苦手だから?それとも、僕の魂が浮気性で、誰と逢いたいか決められずにいるとか?」

「確かに理由を考えるのは苦手ですね。主上のお相手は最初から決まっておりますよ?ただ、複製に少々問題がありまして」

「おや?ソイツも人気者なんだね。オリジナルじゃなくて複製って事は」

「いえ、そういう意味ではありません。『かの御方』に逢いたいと願う魂は、主上お独りのみ」

「1人?なのにオリジナルじゃない訳?」


 よく分からない展開だね。


「そうのですが……ええ、仕方ありません。このままでは埒が開きませんし、主上ならば解決できるかもしれませんので、取りあえず呼び出させていただきたく存じます。宜しいですか?」


 ますます分からない事を言うドリアッドだけれども、このままブツブツ言いながら農作業するのも何だから、快く了承する。


「よく分からないけれど、いいよっって早っ」


 別に地面に魔法陣とか出てもいいシチュエーションだけれども、特にそういった演出もなく、『彼』は僕の目の前に現れた。


 ああ、そうだ。確かに僕は逢いたかったんだ。

 逢うのが怖かったというのも本音だけれど。

 でも、実際逢ってみると、全部杞憂だと分かる。容赦なく分からせられる。

 不安はもちろん、嫉妬心すら綺麗に拭い去られ、希望と勇気が容赦なく湧いてくる。


 そういう存在。だからこそ『勇者』。


 彼の正体は分かった。後は確かめるだけ。

 何をって?


 頼みます!【解析】さん!


 ……

 …………

 ………………ああ、両目が熱い。心の汗って、本当に熱いんだな。


 ――ウィリアム・C・オゥンドールの前世――


 そう。これこそ『動かぬ証拠』。心の底から欲しかった証拠ってヤツだ。

 ありがとうドリアッド。君は最高だ。僕の憂いを晴らしてくれた。

 魔法って、最高だな。


 さて、心のドキドキはちっとも収まらないが、挨拶は大事だ。

 僕は涙を拭って彼に右手を差し出す。


「お会いできて光栄です。僕はウィリアム。ウィリアム・C・オゥンドール。フェアリーゼ星間王国タルシュカット伯爵家の3男で、高家男爵で」

「俺は、誰だ?」


 僕の挨拶をぶった切り、大地の勇者こと、アルス・オースティンは力の限り叫んだ。

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