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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第11章 その2

   2・実は欠席裁判でした


 銀河樹を裁く?

 この人達が?

 ナンデ?

 

「だからアンタは、全力で奴を弁護しなさい。

 アンタが弁護しきれなくなった時点で、有罪確定。

 何しろ今のところ、陪審は全員有罪なのだから。

 これが、アタシ達、タルシュカットの精一杯の妥協。

 タルシュカットは常に公正。

 サーが絡んだ時ですらね。


 ただし、サーが絡んだ時、少々厳しくなるだけの事だから」


 艦長の言に、陪審員達は全員うんうんと頷いている。

 いかん。これは駄目な奴だ。

 私をダシにして、公正さを保ったという既成事実だけを、彼らは欲している。


 というか、何だろうな。

 もうちょっと、冷静になろうか。


「銀河樹は56億7千万年も前に吹き飛んでいるんですよ?

 この裁判に意味などありますか?」


「意味はあるとも」

「銀河樹は、サーに何やら託した……もとい、押しつけた様子」

「という事は、どれだけ時間が経とうが関係ない」

「必ずや復活する――つもりではあるのは確実」


「今は銀河樹はありません。という事は、これは体の良い欠席裁判では?」


「被告不在でも、公正な裁判は可能」

「だいたい、56億7千万年も越えてサーを拉致する実力があるのだ」

「つまり現代に干渉できる、充分な実力あっての事」

「欠席する理由にはならない」


 いかん。

 この人達、充分理論武装している。

 冷静に怒っている。静かにぶち切れている。


 ――とても、タチが悪い。


「そもそも時間と距離が離れすぎています。文化圏も違うし、交流もありません。

 こちらの感覚で一方的に裁くのは、星間国家の流儀ではないのでは?」


「相手はこちらに干渉するチカラがある。だから保護惑星には該当しない」

「文化が違うといっても、拉致は正当化できない」

「だいたい、サーを実質6時間も独占するなんて、うらやま……けしからん事です」


 はい、本音頂きました。

 発言者――被害者の会最高幹部プーニィ氏をジト目で睨むと、彼は慌てた様子で付け加えた。


「弁護人、勘違いしないで欲しい。

 我々が銀河樹の奴に怒っているのは、奴が『タルシュカットのタブー』に触れたからなのです」

「『タルシュカットのタブー』?」


 私が首を傾げると、ディアナ奥様が首肯した。


「わたくしもリルから伺ったのですが、タルシュカットの方々はウィリアム様について、あるルールを定めているのです。

 そのルールの権威はタルシュカット領法以上ですから、事実上法と考えて宜しいかと。

 この[レパルス]はタルシュカット領軍所属なので、艦内では有効となります」


 フェアリーゼ星間王国には憲法はなく、王国法という経験法しかない。だが広大な星間国家を統治するために、貴族の領地においては、その領地独特の風土、民族に合わせた領法が作られるのが普通だ。

 その領法を越えるルールとは……


「サーの自由意志に一切干渉してはならない」

「いかなる形にせよ、サーに強要または脅迫して己の利とすべく誘導してはならない」

「そしてサーが決断した時には、タルシュカットの者は全力でサーを応援しよう――ああ、これはルールというより、気質ですな」

「努力目標とも言う。実際、我々の能力では応援までしかできない事が多い」

「その点、親方や魔女、そして会長副会長はいいよね。

 サーにしょっちゅう頼られる」

「妬ましい……ああ妬ましい、妬ましい」


 だんだん話が逸れてきた。

 これは好都合……と思ったら、リル奥様が机を叩いた。


「銀河樹は卑怯。魔法を盾にウィルを脅迫した。しかも自爆をネタにマウントを取ろうとしている。

 絶対に許せない」

「そうですわね。ウィリアム様を『選びし者』と言っても、自分を選ぶよう強要したのでは、それは『選びし者』とは申せませんわ」


 リル奥様に続いて、ディアナ奥様までお怒りの様子。


「しかし勇者とはクエストを出されるものでしょう?」

 

 勇者には自由があるようでいて、実際にはやらされている事の方が多い。

 そもそも世界を救う事だって、誰か――大抵は王様――に頼まれるものだし。

 我が師アルス殿もまた、ディアナ奥様の父君である国王からの依頼で、魔王ポリン陛下を討ったのだ。


 だが、ディアナ奥様は納得しない。


「今はまだ、ウィリアム様は勇者様ではありませんわ。タルシュカットの、フェアリーゼ星間王国の、そしてわたくしアルスティナの英雄様でいらっしゃいますが」


「あの、しかしですね。現状、マナの入手手段は銀河樹しかないわけで……ここは我が師の勇者スキルに免じてお許しになられては」

「許さない。この宇宙で銀河樹からしかマナが得られないのなら、マナなんて要らない」


 リル奥様がぼそっと呟いたが、その声は全員の耳に届いた。

 届いて、しまった。

 

「リル奥様?マナがなければ魔法が使えません」

「なら、魔法も要らない」


 ちょっとー!

 

「し、しかし、もし敵が魔法を手に入れたら対抗手段がないから、そもそもマナを求めてここまで来たのでは……」

「何とかする。現時点でもある程度のデータ化に成功している。【マジックシールド】の技術的再現には至っていないが、だからといって銀河樹に頭を下げるのは業腹」

「なるほどねぇ。確かにタルシュカットのモンとしちゃ、魔法を餌にサーを脅迫する野郎に頭を下げるのはゴメンだ。

 分かった。『工房』は魔女に全面協力してやらぁ」


 リル奥様の勢いに、ヨシミツ親方まで同意してしまっている。


「でだ。学長センセよ。これが俺達タルシュカット人の総意って奴になるんだが、銀河樹の野郎をこれ以上弁護できるかい?」


 親方の目はとても挑戦的だ。技術屋という人種は、怒りそのものを楽しむスキルを持つもののようだ。

 気難しいが、逆に言えば、リル奥様達よりとっつきやすいかもしれない。


 私は大きく息を吸って、数秒肺を固定し、ゆっくりと吐き出す。


「――皆さんのお怒りは、私もご尤もと思います」


 皆の目が、してやったりと輝く。


「――ですが、我が師が『たかが銀河樹如き』の脅迫に屈して判断を誤るなど、ありえません。

 ですから、我が師が今後どのような判断を為されようと、それはあくまで我が師ご自身の判断であり、銀河樹の干渉はないものと心得ますが、如何?」


「ほう……」


 プーニィの目が危険な色を帯びる。


「確かに、学長の言われる事はまさしく『正論』。サーが熟考された末に出された判断ならば、我らはただ従うのみですな。

 しかし、此度の蛮行に対する責任はどう為されるおつもりか?」


 ふむ。今度はそう来たか。


「……確かに、今回の銀河樹のやり方は、少々……いや、とても紳士的とは言えないでしょうな。我が師の意志を無視し、擬似的なのか魔法的なのかはともかくとして、我が師を拉致したのは事実。

 ですが、銀河樹は人間ではなく、我々とは違った価値観を持っているでしょうから、我々が一方的に糾弾するというのも、あまり紳士的とは言えないでしょう。

 この艦が軍艦であり、タルシュカットの法が適用される、というのも、我々人間のルールでしかないのです。


 銀河樹を伐り、欠片を加工した、銀河樹からすれば略奪者の星系を破壊した件についても、その映像を見せる意図が果たして脅迫なのか、それとも単なる歴史的事実――この星系が現在ほぼ何もなくなっている事の証明――に過ぎないのかもしれません」


「……だが、我々からすれば、サーを6時間も独占……もとい、拉致監禁し、脅迫めいた映像を見せられた、というのも事実だ。

 拉致監禁したつもりがなくとも、6時間も拉致監禁したら、それは明らかに拉致監禁である。我々の体感時間は関係ない。サーがそう受け取ったのだから。

 そして脅すつもりがなくとも、脅されたと感じれば、それは脅しである」

「……決まったな」

「うん。やっぱり有罪」

「銀河樹許すまじ」


 いかん。というか、やっぱり最初から結論出てるじゃないか!


「幸い、映像から銀河樹の特徴は分かった。後は生き残りの銀河樹を始末するだけ」

「戦術コンピューターに入力は完了しています。後は無人偵察機を大量にばらまき、探索しましょう」

「それよりも、サーに受け継がせるつもりで、奴から正確な星間座標を教えてくるかもしれないぞ?」

「なるほど、では対惑星戦を前提に作戦を練るとしようか」

「恐らく、強力なマジックシールドを展開していると思われますが、通常兵器で対応可能でしょうか?」

「いや。かつて略奪者の伐採を許した奴だ。絶対隙がある。

 ただし偵察と分析は慎重にやろう。

 また、報復の自爆については、所詮は星系破壊規模。HDで充分逃げられるとも」

「やはり戦争は人間に一日の長があるという事ですかな。奴は手の内を見せすぎた」

「いや諸君、侮るな。奴はサーを拉致できるほどの実力者だぞ。ここは慎重かつ冷静に、また確実に仕留めるのだ」


 おいおい。もう戦術論になっているぞ。というか、そもそもそのための会合としか思えなくなってきた。


「だから、我が師の結論を待つのが先でしょ?なんで破壊の話になってんの!」


「……ふっ。アゼルバートは変わらないですわね。ウィリアム様を我が師と呼びながら、結局は己の利益を最優先にしている。貴方は結局は魔法が欲しいだけなのですわ」

「ディアナ奥様!それは誤解です!いやむしろ貴女方の方が我が師の意向を無視しているとしか思えない!

 そもそも我々は、サーの意志で、魔法を得るためにここに来たのではないですか?

 魔法が欲しいのはむしろサーの方でしょう?」


「……それこそアゼルバートの誤解。ウィルが魔法を欲したのは、あくまで私とティナのために過ぎない」

「……リル奥様。どうしてそう言い切れるのですか?ゲルボジーグを退けたとはいえ、先王陛下やグライカーンめの復活も予想されるというのに」

「問題ない。ウィルの鍬なら、全ての敵を粉砕できるから」

「あ……」


 そうだった。

 我が師にとり、勇者スキルはむしろオマケでしかなかった。

 最も恐ろしいのは、鍬。

 まだ農家スキルを十全に活用しているとは思えないが、そもそも我が師が黒竜を始末したのも、まだ農家スキルを発現させたばかりの頃だったそうだし……


「……結論が出たようですな」

「まぁ、そもそもこの星系には、『何もなかった』わけですしね」

「うむ。この程度の些事。サーのお心を乱す必要もない事かと」

「ふふふ」


 いや、ちょっと待てい。

 やっぱりおかしいぞお前ら。

 だいたい、普通は魔族である私が銀河樹に手を出そうとして、お前らが世界の平和のためとかで守ろうとする立ち位置だろうが!

 どうして逆になってんの!


   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇


 僕が目覚めたのはメディカルルームではなく、オーナールームのベッドの中だった。

 どうやら誰かがここまで運んでくれたらしい。


 メディカルルームのベッドは本来、病人や怪我人に使われるべきだからね。こういう気配りは嬉しいものだ。


 時間は……艦内時間で午前6時か。

 うわ。日付が変わっちゃってるよ。


 ええっと、僕不在の間の作戦状況は、と。


 パーソナルモニターでチェックすると、HD付きの無人探査機を大量にばらまき、銀河樹がありそうな惑星を探すらしい。

 闇雲に探すわけじゃなく、シミュレーションを重ねてコースを選定しているのには好感が持てるな。

 それにしても、HD付きの探査機は高価で、さすがの[レパルス]にもそう多くは搭載していない筈なのだけれど……うわぁ。ヨシミツ親方が工房をフル操業して増産しているよ。珍しい事もあるものだね。


 また、技術的に困難な魔力感知ではなく、僕が見た銀河樹の姿をインプットし、類似の植物を探すよう、プログラムを変更した、と。

 しかもその分析には量子コンピューター3基全て使い、先生を筆頭に数名のチームが組まれたという徹底ぶり。


 ていうか、先生が僕以外の人間とチーム?何か変な物食べたのかなぁ?


 まぁ、該当する惑星が発見されたら、僕に知らせが来るそうだ。また、銀河樹からも追加のメッセージがあるかもしれず、そうなれば、銀河樹の座標が直接得られるだろうから、その時はすぐに教えてくれ、との事だった。


 うん、さすがは先生も魔法の事だけに、本気を出している、という事かな?

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[良い点] 超時空銀河樹カターン
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