鍬と魔法のスペースオペラ 第10章 その7
今回はやや短めです。
7・第1回ギヒノム星系探索?
第1回魔法実験は、スキル化成功により半分成功、結局マナや魔力を検知できなかったので半分失敗、という結果に終わった。
第1回、というのは、もちろん失敗したまま終わるつもりはないから。
というか、それも僕らの間じゃよくある話なので、親方達にもまったくしょげた様子は見られなかった。
でもリベンジ精神は良いけれど、まったく取っ掛かりもないというのも結構くるものがあるね。
今回の調査が、その取っ掛かりになれば良いのだけれど。
「というわけで、ギヒノム星系へれっつらごー」
「「「おー」」」
魔法実験から1週間後。オゥンドール高家男爵家宇宙艦隊旗艦となった[レパルス]のブリッジに、僕はいた。
艦隊編成は受験艦隊の頃と同じ。
旗艦[レパルス]に駆逐艦[アクロポリス][アガメムノン][アイム]の4隻編成。
乗員で前回出立時から増えたのは、ティナとマイとメイ、それに――
「我が師とこうして再び旅に出られるとは、なかなか感慨深いものがありますなぁ」
何故か上半身を捻りながら両腕を後頭部に回した変なポーズ。
宇大学長その人であった。
まぁそのおかげか、宇大のサポート態勢は完璧で、準備にたったの4日、出航してから3日でこうして第3ゲートまで来られた。
それに学長が煙たいのか、マイやメイ以外の教授連で同乗を希望する人はいなかった。
正確には、ゴドフリートさんは希望したけれど、僕が慣性誘導エンジンのデータサンプルを提供したら、[ニューブリテン]の研究室に籠もっちゃったんだ。
あと、マルコ達102号教室組は今回は留守番。
何しろ合格発表までついに1ヶ月を切った。
僕らはもう合格が決まっているけれど、部屋(拠点)や航宙船の確保など、発表後は恐ろしく競争率が高くなる道理なので、それまでにやっておきたい事は案外多いようだ。
僕としては、別に[ニューブリテン]をみんなでシェアしてくれても良かったのだけれど、航宙船確保に協力するだけで充分なんだって。
彼らは貴族ではないから、別に新型航宙船を購入する必要はないけれど、[ニューブリテン]で小型艦を設計、建造する分には、費用は材料費くらいなものだ。
というのも、元々[ニューブリテン]の造船エリアのテストのために、大型艦を数タイプ造る予定だったのだけれど、小型艦を数隻増やす分には誤差みたいなものだ。
入試の時に大活躍したドミンゴも、さすがに航宙船開発に関わった事はなく、良い経験になると泣いて喜んでいた。
まぁ、基本設計は僕がやり、ドミンゴが設計に加わったのはさほど重要ではない部分だったりする。当人が青くなってそうしてくれと頼み込んできたから仕方が無い。
ちなみに電装系のチェックに、天翼コンビも加わってくれるらしいし、他のメンバーも何らかの形で造船に関わる事になっている。
もちろんタルシュカット領軍だけで進める方が簡単だけれど、こうした経験の積み重ねは将来役に立つだろうし、こちらとしても外部からの風は良い刺激になるからね。
そうして増やした小型艦は3隻。基本構想としては、敢えてあまり尖った性能にはせず、推進方式も反動推進と慣性誘導のハイブリッド。全てに余裕を持たせているので、慣れてきたら色々カスタマイズするのも面白そうだ。
ちなみに艦名は[オードリー][イングリッド][グレース]というらしい。まぁ、まだ就航していないけれどね。
そんな事を思い出している間にも作戦は順調に進んでいる。
「第3オフセットゲートより通信。予定地点にワームホール出口を構築できたそうです」
「こちらでも確認した」
「機関正常。システムオールグリーン」
「各艦載機も異常なし」
「念のため各機パイロットはブリーフィングルームにて待機」
「了解。待機させます」
「艦隊各艦より通信。問題なし」
「了解。全艦に通信。『これより作戦を開始する。サーの興廃は本作戦にありと言って過言ではない。各員一層奮励努力せよ』以上」
「「「イエス・マムッ!」」」
なんだかブリッジが盛り上がっているけれど、例によって僕はオーナー席に座っているだけだ。
というか、艦長、絶対この旅の意味が分かっていないと思う。
だって、これってただの物探しだから!
というか、半ばダメ元だし?
捜し物は、マナを生み出す銀河樹の欠片。
でもマナにせよ魔力にせよ、僕らが使うセンサーでは感知できない。
つまり、[レパルス]の各センサーやレーダーをフル活用したところで、望み薄だ。
そこで考えました。
機械が頼りにならないなら、ヒトを頼れば良いじゃない、と。
魔法スキルとやらがある人間は、マナや魔力を感じ取る事ができる。
僕が把握している有資格者は3人。
先生とティナ、そして学長だ。
魔力は物質が少ない宇宙空間では、かなり遠くまで減衰しないらしいから、先生達なら何か感じ取れるかもしれない。
問題は、やはり宇宙の広さだろう。
【解析】さんが教えてくれた星間座標は一辺1pc、つまり3.26光年の立方体になるけれど、座標指定としてはあまりにもざっくりし過ぎている。
普通星間座標は、もっと細かい単位なのだけれど、まぁ、56億7千万年も前に吹き飛んだ星系の話だからね。
ちなみに学長が破片を入手した、現宇大星系からは1400光年ほど離れている。
という事は56億7千万年かけて、半径1400光年の範囲で破片が散らばったと考えられるわけで、今更爆心地に何か残っているとは普通思えないだろう。
なのにわざわざそんな所に向かう理由は、件の爆発が『超新星爆発に似た現象』で、超新星爆発そのものじゃないからだ。
さすがの【解析】さんでも、銀河樹の破片からそれ以上の情報を引き出す事はできなかったようだ。
というか、あっさり言われた。
これ以上の情報を解析するには【解析】のレベルが足りません
僕が未熟なせいでした。
でもまぁ、その爆発とやらの原因を探る方が、半径1400光年の範囲を探索するよりはまだマシだろう、というわけさ。
うーん。我ながら何という見込み薄な計画だと思う。
それに元々銀河樹の破片の出処や年代測定すらできなかったのが、一気に判明し、長年の研究が進んだ勢いというのが大きいだろう。
コアな研究者というものは、暴走しがちという先入観は、恐らく正しい。
そして宇大におけるマナ研究の第一人者は、他でもない学長その人だ。
ていうか、マナ研究なんて他の人はやっていないと思う。
そして、彼のマナ研究への情熱は半端ない。
研究のためには、ティナの脳内設定に話を合わせる事など、何の躊躇もないくらい。
だから、学長本人の希望に沿う形で、力一杯働いてもらおうと思う。
そう、母なる地球の言い回しでいうところの、馬車馬というヤツだ。
「あの……我が師よ。頼りにして頂けるのは光栄ですが、少しは手心を加えて頂けるとありがたいのですが……」
学長が別の変なポーズを取りながらも、ぶるっと震えている。
うん、これが武者震いというヤツだね。
「がんばれ探知機」
「は?」
「だってうちの計器では、マナを感知できないんだから。えっと、魔法スキルがあれば、マナを感じ取れるんでしょ?
つまりウチでは、先生とティナ、そして学長しかいないんだから、探知頑張って」
「一辺1pcの立方体でしたよね、範囲」
「うん」
「しかも爆発は56億7千万年も前の事。当然ながら何か残っているという保証は何も無し。むしろ何もない可能性の方が高い」
「うん」
「それを私一人で探知せよ、と?」
「そうなるね。先生とティナは別件で忙しいから」
そう。先生はまだマナや魔力を科学的に探知できる方法を研究している。
破片は宇大星系に置いてきたから、現在魔法スキル持ちの3人とも魔法を発現させる事はできないけれど、体内マナが刺激されたからか、研究そのものはできるようになったそうだ。
ティナはその助手という建前だ。
本音?
ティナは研究者じゃないからね。
当てもなくマナを探知しつづけるなんて作業に酷使させるわけにはいかないよね。
仮にも星間王国のお姫様なわけだし、僕はそこの貴族だし。
「……私は学長で、我が師はうちの学生なのですが、そこは躊躇はしないのですね」
「まだ学生じゃないし、学長はまさしく研究者の鑑だから、研究に身を捧げるのは本望でしょ?」
「ううう……何だか我が師の扱いがどんどん雑になっていくような気がします」
「まぁ、障害物が少なければ少ないほど魔力が遠くまで届くって事は、マナもかなり遠距離でも感知できるに違いない……と思う。だからきっと、恐らく大丈夫じゃないかな?」
「そこはちょっとは保証して欲しかったですね」
「研究結果に保証なんかできるか」
分からないから研究するんじゃないか。
「それに、一応期限があるから。入学式まで2ヶ月切ったでしょ?少なくとも学長はそれまでには宇大に帰してあげるからさ」
新入生たる僕は入学式をサボる事は可能だけれど、さすがに学長がサボるわけにはいかんでしょう。
と思ったら、学長は瞬いた。
「何を言っているのです?
学年首席たる我が師には、新入生挨拶があるではないですか」
「は?そんなの初耳だけれど」
といっても、試験後も教授連相手に講義していたから、今更大勢の前で喋るのはどうって事はないかな?
まぁ、全ては帰ってからの話だ。今はマナ探しに集中しないと。
といっても、僕がやれる事は全然ないわけで。
何しろ僕に魔法系スキルがない事は、【解析】さんのお墨付きだ。
「ゲート、通過します」
「全艦、目標エリアに入りました」
「現在レーダーに反応なし」
「重力子も異常ありません。オープンスペースです」
「近隣に星系反応ありません」
次々と報告が入るけれど、手がかりになりそうなものはないな。
確かにメインモニターの画像でも、何も確認できない。
超新星爆発があったのなら、超新星残骸――例えばかに星雲のような――でもありそうなものだけれど、それもない。
まぁ、『超新星爆発のような現象』とやらが56億7千万年も前の事なので、とうに痕跡がなくなってしまっただけ、という可能性はある。
「サー、どうします?」
プーニィからの問いに、僕は学長を見やる。
「学長?」
だが人間(?)マナ感知器は空しく首を振る。
「ここからではなんとも……申し訳ありません我が師よ」
「……じゃあ、取りあえず星間座標の中心部に行ってみようか」
「イエッ・サー」
ああ、早速何の当てもない旅になってしまったか。
まぁ、公式の合格発表まで1週間。それから入学式がその1ヶ月後だから、帰りの時間を考えて、実質探索期間は2週間といったところだろうな。
そして、この広大なエリアを調べ尽くすには、圧倒的に時間も人手も足りないわけだ。
取りあえず、今回は単に様子見の第1回探索といったところで……
なんて悠長な事を考えていられたのは、その時までだった。
何故なら、いきなり周囲が真っ白になったからだ。




