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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第10章 その6

   6・と、その前に……


「ちょっと待った」


 僕らが意気込んでいると、先生から待ったがかかった。


「未知の場所に行くのに、無対策は拙い。

 特にウィルはもっと魔法をスキル化させるべき」

「そうですわ!今のウィリアム様は、【ライト】【ライト改】【ヒール】【ファイア】の四つしか魔法系のスキルを使えないのですから。

 わたくし達三人が協力して、現状使える魔法をできるだけスキル化しておくべきですわ。

 それにわたくしとリルも、今どこまで魔法が使えるか、まだ分かっておりませんし」


 なるほどね。うん。説得力あるなぁ。


「だったら、今やるべき事を全部やっちゃおう」


 僕はパーソナルモニターの通信機能を使って必要なメンツに声をかけてまわると、みんな快諾してくれた。


「すぐ来てくれるって。集合場所は……」


   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇


 というわけで、やって参りました訓練場!


 訓練場は、学長室より3デッキ下にある。

 長辺100メートル、短辺60メートル、全高30メートルの広大な空間だ。

 壁や天井はレーヴァント合成樹脂を装甲材でコーティングしてあり、床は更に滑り止めの樹脂が吹き付けられていて、転んでも怪我しないように工夫されていた。


「いかがです?奥様方。我が宇大が誇る魔法訓練場の出来映えは」

「マナの濃度が薄すぎますわ。これでは初級魔法でも使えるものは限られます」

「特に土がないのが致命的。魔土すらない」

「お二人共、無茶言わないでください。土の入手が難しいのはご存じでしょうに」

「でもこれでは六属性揃わない。つまり【マジックシールド】が使えない」


 先生が不満そうだ。

 それにしても、今時土とは珍しい物を要求するね。

 まぁ、設定上致し方ないところではあるけれど。


「設定言うな」


 先生に怒られた。珍しくイライラしているようだ。


「ウィルは分かってない。【マジックシールド】は重要。これがないと敵の魔法を防ぐ事ができなくなる」

 

 だそうです。

 ではここで、先生のいう6属性とはなんぞや、という話になるわけだけれど、これには魔法の成り立ちが影響している。


 もちろん、これはティナの脳内設定の世界であり、僕のスキル取得に合わせておそらく学長や先生がアップデートした異世界『ウガリティア』での話だ。

 

 本来魔法には、属性なんていうものはなかった。

 というか、『魔法』という言葉もなかった。

 あったのは、魔族が使う奇妙な術。つまり、魔術だ。


 魔術を用いる事で、魔族と人類との戦争は常に魔族が有利だった。

 でも、どこの世界でもそうなのか、人類はしぶとかった。

 魔族が魔術を使う仕組みを研究し、自分達も使えるだけでなく、むしろ対魔族に特化した新しいものを開発した。


 それが、魔法だ。

 仕組みや理という意味が『法』には込められているんだってさ。


 魔族に対して殺傷力が高くなる聖なる攻撃系魔法と、戦争による怪我を治す治癒系魔法の二系統が開発され、先天的に魔法スキルを有していた一部の人達が聖職者となり、魔法を開発、行使する事となった。

 開発機関は『教会』と呼ばれた。


 そしてできあがった攻撃系魔法は【ホーリー】で、治癒系魔法が【ヒール】。

 

 魔族は膨大な魔力を持つが、それは体内のマナ変換器官が独自のものであり、【ホーリー】はその器官を変調させる事により、対象魔族の魔力暴走を引き起こさせ、自滅に追いやるという凶悪な代物であった。字面と内容が合ってなさ過ぎる。

 もちろん、【ホーリー】にしても【ヒール】にしても、ウガリティア語での単語は全然違うよ?これはこちらの言葉での意訳だから。


 ちなみに【ヒール】は細胞を活性化させ、修復する魔法だけど、痛覚遮断などの追加効果もある。まぁ、医学なにそれの世界ならではのいい加減さだけれど、まさに結果よければそれで良しを地で行っている。重傷者一気回復や、部位欠損修復には、より高度な魔法の開発が待たれた。


 ともあれ、この2つの魔法こそ当時圧倒的に劣勢だった人類の、巻き返しの鍵だった。

 それにしても、魔法の定義の一部に『奇跡』とあったのは、そもそも魔法を生み出したのが宗教関係者だったからだとは。

 うん、いかにもそれっぽい話だよね。


 もしかしたら順序が逆で、【ホーリー】や【ヒール】を開発したヒトを、教会が聖職者としてスカウトしたのかもしれない。或いはそのヒトの死後に聖職者認定したとか。

 そっちもありそう。


 ともあれ、魔術に対抗する形でうまれた魔法は、その後急速に増えていく。


 魔族が【ホーリー】に対抗するために魔術研究を進めたため、更に対抗するため、というのが主な理由、というのが表向き。


 真相はもっと生臭いものだった。

 

 聖職者として魔法使い達を囲い込んだ事で図に乗った教会が、戦争を指導する世俗勢力(王侯貴族)の上位になろうとした。

 一方、世俗勢力の側でも、自分達の都合で動かせる魔法戦力が欲しかった。

 対魔族というだけではなく、自分達の権力闘争に魔法を利用したかったのだ。

 しかし対魔族に特化した【ホーリー】では、人族同士の戦争では役に立たない。

 それなら教会とは関係ない、独自の魔法を作ろうではないか。


 そんな、今の僕たちの世界から見たら、いかにもしょーもない理由からではあったが、人類はやがて四系統の魔法を手に入れる。


 属性その1。火属性。


 文字通り物を燃やす魔法。


 攻撃の要として期待されたが、開発時、単体では遠距離攻撃ができなかっため、野営や夜戦における種火としての運用しかできなかった。


 属性その2。水属性。


 魔力を水に変換する魔法。


 敵の火属性魔法に対抗するために開発されたが、むしろ前線における水の補給に重宝され、継戦能力が大いに向上した。


 属性その3。風属性。


 魔力により空気を動かす魔法。


 単体よりむしろ火属性魔法や水属性魔法と複合運用する事を主眼に開発。これにより火属性魔法の攻撃的運用が可能となった。【ファイア・ボール】は軍事魔法では火属性だが、魔法学における分類では火と風の二属性複合魔法とされている。

 また、火攻めにおいては適度な風魔法で火の勢いを増させ、敵の被害拡大に貢献した。

 尚、真空を故意に作ることで、いわゆるカマイタチによる殺傷を試みた事もあるが、実際にはたったの1気圧差で物を切る事は不可能だと判明しただけで終わる。

 逆に空気を固めて刃にする事も現実的ではなかった。それなら水や砂を飛ばした方が効率的であった。

 また同時に真空状態を維持することで、敵を呼吸困難にする魔法も試みたものの、維持するには膨大な魔力が必要とされるため、開発は途中で断念された。

 このように、風魔法単体ではろくに攻撃力を持たせる事はできず、運用に知恵と工夫が必要であり、熟練の風魔法使いは特に尊敬された。


 属性その4。土属性。


 低レベル魔法では土を動かすに留まるが、高レベル魔法においては、魔力を土(魔土)に変換し、実体化させる。つまりレベルによって大きく内容を変える魔法。


 開発初期は土を盛り上げる【アースウォール】なる陣地作成魔法や、土を固めて石を作る【ストーンクリエイト】だけだったが、魔力を土に変換させる高レベル魔法が生み出されると状況は一変した。

 というのも、魔物を解体する事で得られる魔石と基本的には同一の物だったからだ。

 魔石から魔力を取り出す事で、魔道具を動かす事ができるわけだが、それを人工的に生み出す事ができるようになったからだ。

 もっとも、ドラゴンクラスの魔石を人工的に作るとなると、数百人もの熟練土魔法使いが必要となり、現実的とはいえず、いわゆる戦略級魔法兵器を運用するには、高レベルモンスターの討伐が必要となる事には変わりはなかった。

 また、魔力を臨界まで高めた魔石を作り出し、風魔法で飛ばす【マジックミサイル】による飽和攻撃は戦術級魔法と呼ばれ、戦場では最も恐れられた魔法攻撃の1つである。


 これら4属性魔法が生まれた事で、魔法は教会が独占するものではなくなり、教会の魔法系統は聖属性魔法と呼ばれるようになった。

 一方魔族も人類の魔法を研究、習得するに至り、自分達の魔術を闇属性魔法と呼称、ここに6属性魔法が揃う事となる。


 なお、【ライト】に代表される光属性は、聖属性から対魔族特効要素を削った結果生まれた魔法系統とされているが、魔族の一部には光に対する抵抗力が異常に低い種族がおり、彼らを討伐するために特に開発されたとされる説もあるが、定かではない。


 まぁ、光属性は聖属性の派生と捉える事はできる訳だから、基本的には属性は6つ、と言う事はできるだろう。

 そして先生のいう【マジックシールド】とは、ずばり6系統の魔力を遮断する結界の事だ。魔力を遮断するだけだから、例えば燃えさかる炎や叩きつけられる水や石を防ぐ事はできない。でも、結界を抜けた先で魔法現象を生じさせる事を防ぐ事はできる。


 例えばパワードスーツの内部で【ライト】をぶちかまし、一時的に視力を奪うなんて芸当は、【マジックシールド】が作動していれば完全に防ぐ事ができるわけだね。


 そして今置かれている状況では、土属性が得られないため、【マジックシールド】の展開が不可能だと先生は騒いでいるわけだ。

 もっとも彼女達の話によると、どちらにせよ、マナが希薄な状態では【マジックシールド】などという6系統複合魔術なんて、展開できるわけがないのだけれど。


 一方、スキルの開発も似たような経緯を持ち、そもそも魔法系スキルを生まれつき持っていない多くの人々でも、魔法に似た効果を得られないか、という兵団(つまり今でいう軍)からの要望により研究されたという経緯がある。


 魔法系スキル持ちは、人類では百人に一人とも、千人に一人ともいう。何しろ統計調査なんかない世界、というか時代だから、正確なデータなんかない。スキルの確認手段だって限られていただろうし。

 まぁ、人類の体内保有マナは基本的に少量に過ぎないので、魔法のようなスキルを持ったところで、高が知れている――とされていたらしい。

 農家スキルや勇者スキルが便利過ぎるから、とてもそうは思えないけれどね。


 そんな事を考えているうちにも、着々と準備は進められている。


 訓練場の各所には[ヘファイストス]から運ばれてきた複合センサーユニットが既に配置され、中央部には三種類のタルシュカット領軍パワードスーツが佇んでいた。

 パワードスーツの中身はダミードロイド。新型機のテストによく使われるヤツだ。魔法が人体にどのような影響が出るか、まだ分からないからね。

 パワードスーツは、ソフトスキンタイプ、クラス1の軽装甲タイプ、そして重装タイプだ。タルシュカットでは用途に応じてそれぞれ使い分けているからね。


 それらのセッティングを手慣れた様子で進めているのは、プーニィとアスタロット、そしてヨシミツ親方とその相方のミラーナだ。


「センサーテスト宜し。あーテステス」

「パワード・ワークスーツは本日も絶好調なりです」

「親方、3番機のデータトレースがコンマ2秒遅れているのだが」

「んあ?ああ、重力場に歪みがあんな。古いコロニーだからだろう。0.0002Gマイナス、3.02メートル四方。高さ床から1.28メートル」

「了解……同期した。問題ない」

「大気構成、気温、湿度を記録中……どうぞ」

「アスタロット。チェック項目に電磁波の流れを追加して」

「イエッ・サー。ですがここはコロニーですよ?電磁波なんかそこら中にありますが。どこかの誰かがスイッチ1つ入れるだけで変化しちまいます」

「そこを何とかするのが、エースパイロットの腕でしょ?」

「エースパイロット、あんま関係ない気がする……ええい、サーのオーダーだ。何とかしますよ何とか」


 僕らのやり取りに気圧されていた学長が眉を上げる。


「電磁波、ですか?」

「今まで聞いた話からすると、【魔法】や【スキル】は思考と関係あると思う。

 そして思考とはずばり電気だから、マナの正体を知る手がかりになるかもしれない」


 そう。

 これから僕たちは、現状実行可能な魔法を確かめ、スキル化すると同時に、マナの正体を解き明かそうとしているんだ。

 というか、正確にはそのためのデータ集めだね。


 学長は、魔法を科学で解き明かす事はできないと言っていた。

 でも、それは誤りだと思う。

 何故なら、学長や先生やティナがいう魔法は、魔法スキルにより、体内のマナを触媒として周囲のマナに干渉、魔力に変質させて、実行、もしくは実現化する奇跡とやらなんだけど、このように作動プロセスははっきりしているし、再現性もある。

 つまり、立派な科学の範疇なわけ。

 ただ単に、マナや魔力の正体が分からないってだけだ。

 マナの正体が分かれば、人工的にマナを精製する事だってできるかもしれない。


 うん、夢が広がりまくりだね。


 とはいえ、マナを本当に検出できるかどうかは分からない。

 なにしろ、学長達が数百年単位で研究しても不明のままなのだから。


「でも宇大には、サー謹製の複合センサーはなかったんですからねぇ」

「ですです」


 工房組は自信たっぷりだね。


「ま、今回検出できなくても、どうせサーの事だから、ほんのちっとでもとっかかりさえ見つけりゃ、どーにかするのでしょう?」

「そして新たな地獄の日々が始まるです」


 いや、自信ではなく、ある種の諦観かも。でも企画から外したら烈火の如くに怒るよねキミ達。


「それより、魔法を兵器として運用した、または逆にされた際の脅威度の指標になれば、と思いますね」

「【マジックシールド】とやらは再現不可能なんだろう?だったら防ぎようがないって事じゃん」

「そもそも魔法兵器って可能だと思うかアスタロット」

「可能か不可能か、って話はサーにかかれば可能だろうよ。どんな物になるのかは知らんがね。できればジャベリンに積めるサイズになりゃいいと思うが」

「いやいや、航宙艦搭載レベルになれば、さぞ強力なヤツになると思うぞ」

「いやいや」

「いやいや」


 パイロット組はマナの正体とかには興味ないらしい。むしろ魔法の戦術的運用や、兵器としての評価か。


 ちなみに、この四人にはまだ先生達の魔法は見せていないし、スキルについてもほとんど何も話していない。

 にも関わらず、僕が言ったからという訳の分からない理由で、彼らは信じてくれたんだ。


「あ、いや。魔法を信じた訳じゃないですよ。というか、むしろ訳が分からないです」

「あ、アスタロット……」

「でも、サーのやることですからね。だから訳が分からなくても上等です。むしろサーが言い出しっぺの企画で、最初から訳が分かった試しは皆無ですからねぇ」


 手も止めずに、そうやってトドメを刺してくるのがタルシュカット流。


「サー、全センサー問題ありません。行けます」

「じゃあ、そろそろ始めるよ〜記録開始」

「本番いきまーす。3、2、1、キュー」


 児童向け教養番組のような賑やかな音楽が流れ出し、イマイチ流れについて行けていない学長とティナが怪訝そうな顔付きになった。

 二人は初参加だからね。

 それより早速出番だ。


「それでは始まりました。今回の『実験と検証』のテーマは、『魔法』でーす。

 拍手〜』


 僕の掛け声に、パチパチパチとまばらな拍手が続く。

 このなんともやる気があるのかないのかが、何とも微妙。


「魔法とは、この世界に漂う『マナ』を魔力に変換して起こす奇跡だそうです。

 果たして『マナ』とは何なのか?

 物質なのか、或いはエネルギーなのか?

 そして魔法の威力は如何に?

 興味は尽きません。

 では先生、お願いします」

「どうれ」


 相変わらず、先生はノリが良いな。


 先生は例の杖を抱えたまま、訓練場の中央までスタスタ歩き、ソフトスキン、つまり装甲されていないパワードスーツに向かって立つと、杖を構えた。

 

「まずは【ファイア・ソード】」


 先生の杖の先に先程より一回り大きい火球が出現し、そのまま剣のように伸びていく。

 最終的に1メートル近く伸びて止まった。

 炎の剣の色は、【ファイア】と同じで、黄色がかった赤。


「これが火属性魔法【ファイア】の一段階上級の【ファイア・ソード】。剣の長さや温度は操作する魔力量によって異なる。

 今はマナの濃度が最低限のため、発動ぎりぎりの低出力。はっきり言って、しょぼい」


 自分の魔法なのに、先生は辛辣だな。

 

「剣の温度は、800度から1000度といったところですね」

「酸素量が減少、二酸化炭素量が増加中。燃焼という現象そのものは、自然のものと変わりありませんね」

「発火直前、杖の先端周辺の気温が上昇しました。燃焼の条件を満たすためと思われます」

「でも杖自体に仕掛けはなかったよな」

「はいです。機械的もしくは化学的な細工はありませんでしたです」


 検証班のみんなも騒然としている。そりゃそうだろう。彼らは魔法なんて初めて見たのだから。でもやるべき事はちゃんとやってくれている。凄い。

 そして僕は僕でやる事が……

 

 勇者スキルにより、属性魔法【ファイア・ソード】のスキル化に成功しました


 お。やったねっ。


 【ファイア・ソード】

 勇者スキル

 マナを変換し、炎の剣を創り出す

 剣の温度、長さは使用マナに依存

 スキルレベル1


 僕が小さくサムズアップすると、先生は小さく頷いた。


「ではそのまま戦闘実証にかかる。てやー」


 何とも気合いが抜ける掛け声と共に、先生は【ファイア・ソード】が発動させた杖を振りかぶり、そのままパワードスーツに向けて振り下ろした。


 炎の剣はそのままパワードスーツにぶつか……る事もなく、あっさりスーツが周囲に展開した電磁シールドに阻まれてしまった。

 まぁ、800度から1000度如きでは、シールドがなくてもスーツの特殊繊維を焼く事すら不可能だっただろうけれど。

 そして一番防御力が低いソフトスキンでさえこうなのだから、他のスーツを試す必要もない。

 取りあえず現状、普通に使う分には、まるで戦力にはならない事が分かった。

 プーニィやアスタロットに失望の表情が窺える。

 逆に親方やミラーナは興奮状態だ。

 魔法という謎現象そのものに興味が湧いたようだね。


「次行く。【ファイア・ウォール】」


 炎の剣を消した先生が杖を軽く振ると、地面から炎の壁が出現した。

 壁の高さは約1.5メートル。幅も同じくらい。厚さは数十センチといったところ。

 壁の色は剣の時と変わらない。

 という事は、温度もそう差はないだろう。

 つまり、防壁としての期待はできないわけで。


 勇者スキルにより、属性魔法【ファイア・ウォール】のスキル化に成功しました


 脳内アナウンスが空しく響いていた。


   ◇◆◇  ◇◆◇   ◇◆◇


 それからも魔法実験は続いた。


 先生が元々得意(そういう設定なんだと思う。さすがの先生も今日生まれて初めて魔法を使うわけだし)とした火属性は、【ファイア】【ファイア・ソード】【ファイア・ウォール】【プチ・エクスプロード】の4種までが現状使えたが、全部スキル化に成功した。


 爆発魔法といえる【プチ・エクスプロード】は、小さくポンと音がしただけの可愛すぎる爆発で、拍子抜けしちゃったけれどね。

 まぁ、ここまで来たら、発動前に、こんなものだろうとは思ったけれど。


 【ファイア】は、小さな炎を生み出す魔法で、火属性魔法の基本中の基本。先生が学長室でやらかして、苦情を食らったヤツだ。魔力消費量は生み出したい炎の規模で増減する。


 既にスキル化していたけれど、検証のためにもう一度出してもらった。

 うん、色々な事が分かったよ。

 まず、火属性というだけあって、ちゃんと燃焼していた。

 つまり、酸素を必要としていたんだ。部屋の酸素濃度を調べたから間違いない。

 もっとも燃焼とはつまるところ酸化の一種だから、酸素を使わなければ燃焼とは言わず、似たナニカという事になっちゃうけれど。


 ティナの脳内世界『ウガリティア』は科学文明はそう発達していたとは言えないそうだけれど、一応燃焼していたのは、魔法を使って自然現象を再現しようとしたかららしい。

 また、空気中のマナがそのまま燃える事はなく、一度火属性の魔力に変換しないといけないそうだ。


 ただここではっきりした事がひとつ。

 宇宙空間では、火属性魔法は使えない。だって空気がないから。

 でも逆にいえば、宇宙でも空気がある所では使えるわけで。

 え?そんな所がどこにあるかって?

 簡単。

 航宙艦や、宇宙服の中には空気がある。

 学長の話だと、魔力を宇宙空間に飛ばすのはむしろ地上より楽なわけで、つまりかなり遠距離にいる敵航宙艦に対しても、攻撃する事は可能という事になる。

 まぁ、スピードがスピードだから、当てる事は難しいだろうけれど。

 

 あと【ファイア・ソード】をスキル化した時、調子に乗って手から発動したら火傷してしまい、一時記録を中断する大騒ぎになってしまった。

 この件ではっきりしたのは、術の行使者も普通にダメージを受けるという事。先生が杖を使うのも納得だ。


 という事はフレンドリーファイアもある訳で、迂闊な魔法使用は避けた方が良さそうだ。


「いや。条件を満たせば同士討ちは避ける事ができるから安心して」


 先生の言う条件とは、ずばり魔法スキル全体のレベルを上げる事。今はまだ魔法やスキルに身体と心が振り回されている状態だから論外で、レベルが上がると同士討ちを避ける魔法を習得可能になるとの事だ。

 そうなれば自分や味方の炎の剣を、直に握る事すら可能になるらしい。なんか格好いいかもしれない。

 いずれにせよ、すぐにどうこうできる問題ではないし、そもそも設定の話なのか、先生が独自に理論構築した結果なのかが判明していない以上、過信はできない。


 その後、水属性や風属性、そして複合属性にも挑戦し、やはりスキル化に悉く成功したものの、その全てがあまりにささやかな効果しかなく、計測チームはともかく、パイロットチームは途中で枯れた笑いを浮かべていたっけ。


 そして残念なお知らせ。


 結局僕らのマルチセンサーで、マナや魔力を計測する事はできませんでした。

 マナの正体が物質なのか、エネルギーなのかすら分からない。


 ていうか、魔法系スキルとやらを持った人間は普通に感じ取れるのに、それ以外の人間や機械が計測できないマナって何なの?

 【解析】さんは僕の体内マナの回復量や、スキルによるマナの使用量を教えてくれるけれど、結局運用するに当たっては、感覚が物を言う世界だから極めていい加減なものだ。


「第一、単位すらないんだからね」

「そういえば、考えた事もなかった」


 先生がコテンと首を傾げる。


「昔は周囲のマナ濃度なんか考えてなかったし、敵を倒せればそれで良かったから。大抵爆裂でどどーんとやっちゃえば済んだし」

「どどーんと?」

「ん」


 うーん、肝心な所で感覚派なんだから。


「じゃあ、この世界では、マナの単位をWとするのはどう?」

「W?ワットと混同しない?」

「WはウィルのW。ここのマナ濃度を仮に1Wと定義して基準とする」

「却下」

「残念」

「えー?W、いいと思いますわ」

「だから、却下」


 協議、というより僕の独断で、マナの単位はMPになりましたとさ。

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[良い点] よっしゃ旅立つぜ!からのお預けでしたので辛かったです 更新ありがとうございます [気になる点] あたおか(と思われている)姫だけではなく、敬愛すべき先生とうちう最高学府創設者が こぞって魔…
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