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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
43/58

鍬と魔法のスペースオペラ 第10章 その3

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

あと、誤字報告ありがとうございました。

   3・聖鍬


 消えた?

 ティナと王様と父様が直接、間接的に関わった鍬が、あっさりと消滅してしまった。

 いや、収納というくらいだから、どこかに仕舞われたのだろうけれど、ではいったいどこへ?


 いやいやいや。

 こういう時は、やっぱり【解析】さんプリーズ!


 【農機具収納】

 農家スキルの一つ

 スキル所有者の農機具を専用の異空間に収納する

 収納状態の農機具の錆や汚れを分離、除去可能

 スキルレベルが上がると、収納可能数が増加し、破損箇所を補修する事も可能になる(素材は別途必要となる場合があります)

 収納した農機具は、任意に取り出す事が可能(詠唱等は必要ありません)

 現在のスキルレベル1 収納可能農機具数1 スキル行使必要マナ100

 現在収納している農機具 聖鍬レベル1


 よ、良かったぁ。別段、無くした訳じゃなかった。

 一応、出してみる。

 うん、光に包まれた鍬が手元に出現したよ。では再び収納、と。

 あれ?今度は別にスキル名を唱える必要はなかったみたい。

 勝手に消えたよ。便利便利。


 何か凄く便利なスキルっぽい。

 いや、まぁ、農家スキルは便利なヤツばっかりなんだけどさ。


 ではここで、僕が今のところ認識している農家スキルをば。

 ついでに魔法やスキルそのものについてもお復習いしておくか。

 

 【魔法】

 周辺のマナを魔力に変換し、起こす奇跡的現象

 エネルギーとして放出したり、物質として実体化させたり、その他様々な効果があるが、使用できるのは特別な資質と修行が必要とされる

 現状、サー・ウィリアム・C・オゥンドールには魔法の才能は確認できない


 【スキル】

 自分自身のマナを調整、変換する事で、擬似的に【魔法】に準ずる効果を生み出す技術

 主に種族スキル、職業スキルが挙げられ、単に【魔法】を模倣するだけでなく、自分で新規に開発、改造する事が可能

 ただし一般に、個人が有しているマナの限界量は小さいため、スキルを発現させても、効果は微量に留まる事が多い

 備考その1・保有マナの限界量は、練度により増やす事が可能

 備考その2・使用スキルにおけるマナの使用量は、スキルの熟練度により異なる


 次に、農家スキルの下位スキルの数々。


 【解析】

 種や籾の目利きや、作物の育成状況の分析のため、【鑑定】を改良したスキル

 【鑑定】より深く見抜き、知る事ができる

 現在スキルレベル6 スキル行使必要マナ0

 

 【成長促進】

 スキルレベルの上達速度、農作物の成長速度を上げる

 現在スキルレベル1 スキル行使必要マナ10


 【品種改良】

 スキルの性能をコーディネートして使い勝手を良くしたり、農作物の種や苗木を改良する事ができる

 現在はデフォルトの自動最適化改良モードに設定中

 対象を特定して、カスタムモードを実行可能(マナを消費します)

 現在スキルレベル1 基本スキル行使必要マナ0


 【状態異常無効】

 常に有効

 毒物無効・麻痺無効・精神攻撃無効が融合・進化したもの

 これにより、外部からの魔法的、薬物的、細菌や魔道具を含めた物理的刺激による、あらゆる状態異常を無効にする

 ただし、無効にするのは状態異常のみであり、ダメージを減少させるものではない

 現在スキルレベル2 常に有効なため、スキル行使必要マナはスキル【マナ自動回復】から差し引き、事実上0


 【超理解】

 常に有効

 農業は自然相手。大自然を理解するために必須のスキル

 僅かなヒントから適切な行動を選択できるよう、理解力が向上する

 向上度はスキルレベルに依存する

 現在スキルレベル3 スキル行使必要マナは【状態異常無効】と同様、事実上0


 【黄金の記憶領域】

 適切な農期や品種改良のための掛け合わせを忘れないように、大事な事と判断した事を脳の絶対記憶領域に保管するスキル

 この記憶領域に保管した事は死ぬまで忘れる事はないが、記憶容量はスキルレベルに依存する

 現在スキルレベル3 スキル行使必要マナ0


 【マナ自動回復】

 農作業を長時間続けられるように、体内のマナを自動で回復させる

 現在スキルレベル3(回復量は125/秒)


 そして今回明らかになった【農機具収納】が加わったわけだね。

 こうしてみると、【農機具収納】はかなり強力なスキルっぽい。

 他のスキルも強力だけど、コイツは別格かも。

 何しろ、消費マナが100と、これまでとは桁違いだ。

 もっとも、自動回復量がそれ以上なので、現状あまり気にしないでも良さそうだけど。


 それに、『異空間』とあっさり言われたけれど、異空間って何だろう?

 亜空間とは違うようだし……


 【異空間】

 時空魔法と創造魔法をスキル化した際、異世界連続体に新たに設定された空間

 時間の概念がなく、生物、非生物を問わず収納できる

 勇者スキルによって設定されたものだが、【農機具収納】は農家スキルに分類される


 うわぁ。

 知らないパワーワードだらけの解説どうも!

 これらのパワーワードを【解析】しても、更なる未知ワードまみれになりそうな気しかしないぞ。

 というか、勇者スキルって、時空魔法だの、創造魔法だのといった、名前からして物騒すぎる魔法までスキル化できるんだ。


 現在の勇者スキルレベルでは、レベルが足りません


 さいですか。

 あれ?だったら何で【農機具収納】が使えるんだ?

 時空魔法が絡んでいるだけに、未来の僕が過去にスキルを飛ばした、とか?

 まぁ、時空魔法自体、よく分からないからなぁ。字面だけで考えても意味がないか。


「農家スキル【状態異常無効】だと?リルルカ、それは本当か?」


 突然父様が先生の両肩を掴んで、ぶんぶん振りだした。

 あんなに興奮した父様は珍しい。


「ほ、本当……というか、止めて、吐く」

「お、おう、スマン」


 父様がやっと気付いたという体で両手を離す。


「父様、何事ですか?」


 僕が尋ねると、父様は笑顔でこちらを睨むという、器用な真似をしてみせた。


「決まっている!ウィルの特異体質がついに判明したというのだ!

 これが喜ばずにいられようか!」


 ボロボロと涙まで流しだした。うわぁ。

 そういえば、スキルの件は父様に話した事はなかったっけ。

 スキルや魔法について知ったのは試験直前で、試験後はバタバタして、父様には首席合格を伝えただけだった。

 こんなに喜んでくれたのなら、もっと早く教えてあげれば良かった。


「そうか!病気にかからないのは良いが、ワクチンの予防接種はおろか、医療用ナノマシンまで受け付けないというのは、その【状態異常無効】というスキルとやらのおかげなのだな!」

「そう。ただしスキルが原因である可能性が高いというのは、5年も前に報告した筈」

「しかし、それはあくまで『可能性が高い』程度であり、証明もできなかったではないか。

 それでは何も分かっていないに等しい」


 お。父様が少し冷静になった。

 先生が何故か誇らしげに頷く。


「うん。でも、ウィルがついにスキルを自覚したおかげで、【状態異常無効】もよりスキルレベルが上がるようになる。今はダメージ軽減能力はないが、レベルが上がれば各種抵抗力も上がる……らしい」

「らしい?」


 父様が、また胡乱なことを、という顔になった。


「スキル所有者、つまり検体が少なすぎる。だが【祭壇】を研究に使えば、より深く学ぶこともできるし、検体を増やす事も可能……かもしれない」

「かもしれない?」

「魔法は意図的だろうと、奇跡には違いない。魔法系スキルがなければ、そもそも発現させる事すらできない。

 でも、現状でもウィルの役には立つ。

 というか、そもそもそのためにここは建てられている――そうだ」


「父様、魔法とかスキルとか、信じるのですか?」


 父様はにこりと笑う。


「確かに私は魔法もスキルも、今まで聞いたこともない。

 『操縦スキル』等、『スキル』という言葉自体は使ってきたが、それとはまったく別物のようだしな。

 だが、宇宙は広いからな。

 今まで誰も知らないからといって、考えもなく否定はできんよ。

 その一つを、たった今、この目で見た訳だしな」


 そりゃそうだけれど、目の前で物が消えて、また現れた程度の事だと、普通は手品か何かだと思うのが自然だと思うけれど、父様は違うようだ。

 

「それにその、【状態異常無効】スキルだったか?ウィルをこれまで守ってきてくれた大事なスキルであり、それもまたウィルの一部なのは確かなのだろう?

 我々はウィルの無条件の味方であり、家族だ。

 愛しているし、信じている。

 ウィルを信じている以上、ウィルの一部だって信じられる道理だ」


 すごい理屈だ。

 でも、正直ありがたい。


「それでリルルカ。魔法はともかく、我々もスキルは使えるようになるのかな?

 もしそうなら、領軍が、いや宇宙が変わるぞ?」

「――分からない。

 でも、ウィルの敵も、いずれスキル持ちが出てくる可能性は高いと思う。

 常に最悪の状況を想定し、備えるのがウィルの味方の心得」

「敵?ウィルに敵がいるのか?」


 父様の表情が変わる。眼光が鋭すぎるんですけど!

 先生は何を今更、と呆れ顔だ。


「ウィルは優秀で、すでにいくつも偉業を達成している。

 嫉妬する馬鹿はいくらでも出るだろうし、馬鹿は馬鹿なりにウィルを研究しようと足掻くもの。

 馬鹿の部下にはそれなりにマシなヤツもいるだろうから、いずれスキルの存在に気付く可能性は高い」


 ここで先生は何故かティナをチラ見したようだ。

 

「ウィルのスキル取得条件は不明。

 だから心配しすぎかもしれないけど、宇宙は広い。

 なかには既にスキル持ちはいるかもしれない、というか、一人は絶対確実。

 スキル持ちどころか、魔法系スキルまで使いこなしている」

「誰だそいつは」


 父様の声が低くなる。


「ここの学長。ウィルがスキルを自覚したきっかけをもたらした。魔道具を製作する能力、つまり製作系スキルを持ち、魔法を再現させた。

 ゆえに魔法系スキルを持っている事も確実。

 でないと普通の道具製作補正はともかく、魔道具の製作はできないから」

「ほう……彼が」


 学長に魔法系スキルがある話はとっくに出ていた筈だけど、その時は父様の理解が追いついていなかったのだろう。

 でも今は違う。

 話を完全に理解した上で、学長の脅威度を分析している。

 オゥンドール家家長として、父親として、そしてタルシュカット領主として。

 そして宙賊を駆除してきた『殲滅伯』としての顔をしている。


 うん、ちょっと危ないな。

 ティナ達もそうだけど、このままだと父様まで学長を敵視しそうだ。

 でも、学長が敵かどうかは、まだ決まっていないし、そもそも僕はまだ会った事も話した事もない相手だというのもあるけれど、どうにも敵には思えないんだよね。

 胡散臭いけれど!とても胡散臭いけれど!


「父様は、学長先生と面識がおありなのですね」

「直接会った事はないぞ。超空間通信で何度かやりとりしたくらいだ。

 今回の騒動も、元々は彼の要請で、私は協力者であった訳だが、ウィルを探るためだったというなら、話は変わってくる」


 何とも凄みの笑みを浮かべた。

 学長!逃げてー!


「で、ですから、学長に魔法系スキルや魔道具を作れるのはほぼ確実――実は学長本人ではなく、側近にやらせているのかもしれませんが――彼が敵とはまだ決まっていませんよ?」

「だが、味方と決まってもいない。敵の可能性があるなら、当然警戒すべきだろう。はっきりした時、そのまま対処できるようにな」

「さすがはお義父さま!全宇宙で最優先なのは、ウィリアム様の安全に決まっているのは、天地開闢以来の真理!

 よく分かっていらっしゃいますわ!」

「おお、殿下もそう思われますか!臣は理解ある王族に仕える事ができて、幸せ者ですなぁ。いやぁ、はっはっは」


 うわぁ。変に意気投合しちゃってるよ。先生までウンウンと頷いているし。

 ほら。マイモンさんなんて二、三歩後ずさって、ドン引きじゃないか。


「あの……」

「わたしはなにもみていません。わたしはなにもきいていません。わたしはなにもみていません。わたしは」


「こ、壊れた」


「……今は、そういう事にして頂けませんか?」

「へ?」


 思わず、変な声をあげちゃったよ。

 そんな僕を見て、マイモンさんが悪人の笑みを浮かべる。


「人前であの武器を振り回さなければ、宇大構内で自由にされても問題はないでしょう。

 第一、確かめようもありませんから。それに」

「それに?」

「今回学長には、散々な目にあったのは、むしろ我々防衛隊です!

 あの野郎!何が対外交渉は任せろ、よ!

 交渉どころか黒幕じゃねぇか!

 それをなんだ?

 上から目線で、不可能問題仕掛けたからには、仕掛けられても当然?

 合格?評価?

 上等じゃねぇか。

 だったら今度は、我々が学長を試験してやんよ。

 大好きな不可能問題でなぁ!」

「わぁっ!本当に壊れてるぅ!」

「……こほん」


 マイモンさんがわざとらしい咳払いをする。

 今更取り繕っても無駄です。

 彼女は僕の肩をぽんと叩いた。


「という訳で、持ち込み許可は黙認という形で、記録は取りません。

 あの野郎に気付かれる可能性がありますので。

 では学長先生閣下に、どうか鉄槌……もとい、面会の申請を出しておきましょう。

 頼みましたよ?サー・不可能問題様」


 鉄槌って言っちゃってるし!

 変な二つ名つけられちゃったし!

 学長!やっぱり逃げてー!


   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇


 結論から言えば、学長への面会申請は、実にスムーズに通った。

 まぁ?

 元から報酬の件で会うつもりだったし?

 向こうだって当然そのつもりだっただろうし?

 今更会わないなんて言い出したら、多分黙っていない人達が、何しでかすか分からない空気だったし?


 という訳で、面会は3日後に決まった。

 え?

 僕の事だから、その日のうちにでも会いに行くと思ったって?

 うん。でもこっちにも都合があるんだ。

 理由は、僕のパーソナルモニターに大量に送りつけられた論文の山にある。


「ウィル。誰と話をしているの?」


 転送された論文を読んでいた先生が、ふと顔を上げてこちらを見た。


「……いや。ちょっと現実逃避を」

「わかる」

 

 オーナールームの窓からは、宇宙港の様子がよく見えるけれど、そこには空前の着港ラッシュが見て取れる。

 次々と到着しているのは、宇大の科学船。着港するや、次々に得体の知れない機材を降ろしている。

 呼びつけているのは、僕らの艦隊に乗り込んできていた教授達。

 助手や、ゼミ生まで酷使している様子だ。うーん、あんまり見たくない光景だな。

 助手さん達はともかく、休みの筈なのにこき使われるゼミ生達から恨まれそうだ。


 原因は、僕。

 正確には、僕が設計したこの偉大なる欠陥艦である[ニューブリテン]だ。


 HD空間内で建造した事による、歪み等の不具合は、早速親方のチームが取りかかっているけれど、問題はそれだけじゃない。


 構造上、重力子に頼りすぎているだけに、惑星に近づき過ぎると、それだけで惑星に重力子が奪われ、最悪崩壊してしまう。

 そうなったら、惑星の方だって大打撃だ。

 宙から大量の水と岩とレアメタルの山が降ってくる訳だから。

 大半は大気圏突入の時に消滅するだろうけれど、大きな被害は免れないだろうね。


 何重にも構築された安全システムにより、危険な距離には自動で近づかないようにはなっているし、相手が無人の星だったら、それこそ破壊してしまうという手もある。

 でも、それじゃあどこの破壊神だよ、って事になるよね?


 また宇宙嵐など、不安定な空間への対応能力に、僕としては不満がある。

 まぁそんな感じで、細かい不満を言い出すと、問題が出るわ出るわ。

 このサイズの艦は前例がないだけに、今僕が見落としている欠陥も幾らでもあるだろうね。

 という訳で、多くの人の意見を聞こうと思ったんだ。


   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇

 

『なるほど、ですな。まぁ、我々は今はどいつも基本暇している筈ゆえに、協力できる者も多いかと』


 相談したのは、自称僕の弟子となったゴドフリートさん。


『もちろん私は全力で取り組ませて頂きますが、師が見落とした欠陥の洗い出しにせよ、欠陥とはいえなくとも、改善の提案にせよ、ちとハードルが高いように感じます』

「そうなのですか?」

『はい。ぶっちゃけますと、[ニューブリテン]を欠陥艦扱いしているのは、師一人ゆえに。何らかの餌がないと、ヤツらも尻込みするでしょうな」

「餌?」

『左様。特に自分の専攻部門で他人に出し抜かれては大恥。私もそうですが、その手の恥をかく事は、とても許容できるものではなく、それなら初めから加わらぬ方がマシ、という輩も多く出る事でしょうな』

「では、そのプライドを買えるだけの報酬が必要、という訳ですか」

『さすがは我が師。話が早くて助かりますな。わっはっはは』


 そして提案された報酬は、奇妙なものだった。


『いや。ちっとも奇妙ではありませんぞ。師の家臣になれるは、これほどの誉れはないというもの』

「でも教授は帝国の、それも大貴族家の人でしょう?」

『当主でないから問題ありませぬ。師は帝国貴族でもあるので』


 そうでした。

 王国と帝国の、両方の貴族なんだよね。帝国の方は今は『名誉』がつくけどさ。

 著名な画家や、有名な楽団の指揮者など、両国から貴族位を贈られた人はいるけれど、そういう人達は、大抵墓の住人だから、僕みたいな例は異例も良いところらしい。


『それに家臣として、師の艦の改善に取り組むは自然。そのために実験したり、実験したり、実験するのも、家臣道というものですぞ』


 そっちが目的かー。


   ◇◆◇   ◇◆◇   ◇◆◇


 という訳で、その条件で募集したら、来るわ来るわ。

 土地なら幾らでもあるという事で、各大陸の表側にも裏側にも、研究室を建て始めるや、即座に利用希望者が続出し、ちょっとした建設ラッシュになりそうだ。

 いつの間にか、ゴドフリートさんが教授家臣団の長という事となり、取りあえずは家臣候補として研究室の使用が許された者、欠陥を指摘したり、改善案を出して採用されると、正規家臣として研究室の所有が許されるらしい。

 らしい、って?うん、僕はあまり把握していない。


 今はそれどころじゃなく、彼らが出してきた報告書という名の論文を読まされている。

 まったく、【超理解】と【黄金の記憶領域】、そして【解析】さん、そして論文読み込みに協力してくれる先生がいなかったら、どうなっていただろう。


 もちろん、論文は全力で読ませてもらっている。各人の思惑はともあれ、[ニューブリテン]の改善に繋がる可能性を秘めているんだ。

 一見荒唐無稽な案でも一向に構わない。

 複数の論文を組み合わせるだけで、実に有効な手を生み出す元となったりもする。


「そんな方法が採れるのは、ウィルだけ」


 先生は読んだ論文を分類してくれる。まぁ、先生は自分が興味を持ったものに限られるんだけど、それでも大いに助かっている。


「宇大にウィルの家臣が増えれば、学長への圧力にもなる。協力するのは当然」

「家臣ねぇ」


 実のところ、僕に家臣はいるようでいない状態だ。

 ホープ中佐やプーニィ、そして親方といった[レパルス]の乗員は、僕が[レパルス]のオーナーなので、タルシュカット領軍からオゥンドール高家男爵家に移籍した、と言い張っていて、それを父様まで認めちゃっているけれど、話はそう単純じゃない。

父様は領主ではあるけれど、独裁者じゃない。領軍の精鋭を、そう簡単に領軍が手放す訳がないだろう。最終的に移籍を認めるにせよ、様々なお役所仕事があり、猥雑な手続きが要るだろうね。


 第一、僕は無役の法衣貴族になるのか、領主貴族なのかすら、実ははっきりしていない状態だ。

 そのどちらかによって、雇う家臣の数も種類も変わってくる。

 法衣貴族は、軍備を持つ必要がないから、極論をいえば、身の回りを世話したり、屋敷を維持する人達がいれば済む。実際はそういう訳にはいかないのだろうけれど。体面的な事もあるし。

 領主貴族になると、領地を防衛する軍備は要るし、管理する相手がまるで変わってくる。土地だけでなく、領民もいる訳だし。


 高家として、惑星開発が許されているという事は、王家からは領主貴族と認識されている、という解釈で良いと思う。

 通常男爵位で惑星を持つ者などいない。

 惑星持ちは、最低でも伯爵に叙爵されるからだ。

 これは王国の伝統であり、その伝統を破る事など考えられないとされている。

 

 でないと、惑星を自力で開発しようなんて人はいなくなってしまうからね。

 それだけ惑星開発は、過酷なんだ。人生一代で済む話じゃなくて、何代もかかる。

 というか、普通は許可が出ても取りかかる者など少ないくらいだ。

 

 だから王国の本音としたら、

『功績から男爵はあげるけど、まだまだ上級貴族にする訳にはいかないから。あと取りあえず高家にしとくんで、帝国になびくなよ』

 といった所だろうか。

 本当に惑星、それも人工惑星を開発しちゃうなんて、誰も思わなかっただろう。

 僕自身も含めて。


 僕の先祖、初代タルシュカット伯にしたって、実はその前3代のオゥンドール家当主達による開発の苦労の結果だったりする。

 わずか一代。それも本当に短期間で惑星一個ゲットした、なんて例は過去にないんだ。


 今頃、[ニューブリテン]就航のニュースは、王都星の官僚さん達を悩ませているんだろうな。子爵をすっ飛ばして男爵から伯爵になった人の前例を探しているかもしれない。


「これでウィルも晴れて大貴族」

「婚約発表が楽しみですわね」


 鍬を僕に渡してしまってからは、特に[祭壇]で今やることはないとして施設を放置してしまい、それでいて論文読み込みにはついて来られず、ひたすら暇していたティナが夢見るような声で続く。


「僕が伯爵になるなんて、ないと思うよ?」

「伝統を覆す訳にはいかない筈」

「わたくし達の結婚に反対する貴族や官僚などは、絶対に許しませんわ」


 いや、結婚反対派の最大勢力は、王様自身だから!


「というか、人工惑星開発が、自然惑星開発と同列に扱う前例ができると、爵位のために人工惑星さえ作れば良いという風潮が生まれちゃうよ?

 今までは難しかったかもしれないけれど、[ニューブリテン]ができた以上、今後これを真似した惑星級超巨大艦が、きっと普通に建造されるようになるでしょ?」


 人類が飛行機を作るまで、数万年もかかったけれど、一度できてしまったら、そこから当たり前のように飛行機が世界中で飛ぶのに、100年もかからなかった。

 その後宇宙船が作られるようになって、宇宙船が航宙船に進化、発展するのにだいたい300年といったところか。

 今回はそれよりハードルは低いと思う。

 工夫したり、焼き直したりはしたけれど、建造に使った技術は、あくまで既存のものだ。

 ダイソン天蓋にしたのも、総質量を軽減させるのと、エネルギーの効率利用の二つを狙ったものだから、今後多くの技術者、メーカーが参考にするんじゃないかな?


 で、今は航宙艦に対する絶対的アドバンテージが揺らいだ惑星だけれど、結局人工惑星建造に関わった技術は、惑星防衛にも応用されるようになっていく訳で。

 暫くしたら、結局は惑星が再び優位になって落ち着くと思う。


「いや、そう簡単にウィルの真似はできないと断言する」

「そうですわね……ウィリアム様は、ご自分ができる事は、誰でもできるとお考えのようですが。もしそうなら、お父様と帝国の皇帝陛下がウィリアム様を取り合うなんて事、起きる訳がありませんから」


 うーん。どうにも二人の僕への過大評価がもの凄い事になっているんだけれど。

 

 僕は三つの論文を関連ファイルに放り込んで、それらを執筆した教授達に採用の連絡をしながら、そんな事を考えていた。

 三人とも学部が違うし、面識もなさそうだから、一度面通しの会議をセッティングしなきゃならないね。でも彼らの研究を融合させると、結構面白い事ができそうなんだ。


 ティナと先生はそんな僕を見ながら、何故かため息をついていた。

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[一言] 更新有難うございます。 魔法と技術の融合でとんでもない魔法科学が生まれるのでしょうか。ウイリアムのこの後が楽しみです。
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