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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第九章 その8

   8・講義再開?


 フーシェが振り返ると、小柄だがガッシリとした体格の青年(少年にしか見えないが)が立っていた。その後ろには彼の友人達と思われる、数名の男女。

「君は?見ない顔だが」

 フーシェがいぶかしんだ声を上げたせいだろう。

 青年は見るからにアタフタしだした。

「お、おいらはドミンゴ・エルラッハというっす、です。こ、今年の入試で入学予定の、し、新入生っす、です。一応、工学部志望っす、です」

「ほう……君、君らが例の……」

 俄に鋭くなったフーシェの視線が、ドミンゴとその仲間達を刺し貫く。

 だが、すぐに視線は柔らかくなった。

「この場では儂ら正教授も、君らと変わらぬ、サーの生徒に過ぎんわい。というか、君らの方が親しく付き合っている分、アドバンテージがあるのぅ。

 ここはサーから共に学ぶ者として、自由に意見を戦わせたい」

 ドミンゴ達の正体を知るのは簡単だ。

 なにしろ102号教室組以外の受験生は、まだ合否が明らかになっていないのだから。

 それにウィリアムにパイプがあるドミンゴ達と知古になれる事は、フーシェにとって願ってもない事。早速102号教室組全員と自己紹介をする。

 工学部から政経学部に志望を変更したデウス・アッシモの存在に、フーシェは僅かに眉をひそめ、理学部志望が二人いると知ったエレオノーラに笑われてしまった。

「いやフーシェ先生よ。俺なんかが抜けた事を悔やむより、ドミンゴ一人が入った事を喜ぶべきだと思うぜ。

 なにしろドミンゴは、閣下の所の工房主からスカウトされたくれぇの逸材だからな」

 アッシモは豪快に笑ってドミンゴの背中をバンバンと叩く、が。

「――それよりドミンゴよ。思いっきり基本的な事、訊いていいか?」

「なんすか?」

「いや、その、話の腰を鯖折りするみてぇで気が引けるんだけどよ……その、亜空間フィールドジェネレーター、って何だ?」


 沈黙はたっぷり5秒ほど。


「に、にゃははは。やっぱりアッシモは工学部に行かなくて正解にゃ。というか、亜空間フィールドジェネレーターすら知らなくて、よく宇大を受ける気になったのにゃ」

「じゃあ、ミャウは知ってんのかよ」

 アッシモがジト目をケットシアンに向けると、ミャウはワタワタと両手を振る。

「も、もちろんアチシは知ってるに決まってるにゃ。亜空間フィールドジェネレーターと言えば、有名な使い道は、ずばり『亜空間倉庫』にゃ!」

 最後にズビシとサムズアップするが、アッシモは怪訝な顔のまま。

「亜空間倉庫ぉ?何だそりゃ?」

 アッシモの発言に、ミャウは肩を落とす。

「あのにゃ。アッシモは、小説とか読んだ事、ないのかにゃ?」

「小説ぅ?俺の状況で、そんなモン、読む暇と金があると思うか?」

「あ……悪かった、にゃ」

「では、野戦指揮所を図書館代わりにしていた、不肖この私が、かいつまんで説明しましょうか」

 マルコ・キアスがにこやかに割り込むが、

「「「アンタはなんちゅう所を図書館代わりにしてたんだ!」」」

 かえって場を混乱させただけだった。

 もっともアッシモに過去に由来する、重い空気を吹き飛ばす事がマルコの意図だったとしたら、完璧に成功したといえよう。

「…………ふふふ、冗談ですよ、冗談」

 取って付けたような言い訳が、これまた強烈な印象を産むわけで。

 深い事情を知らないフーシェ達も、この若いフェンリー人に、底知れぬ何かを感じたようだった。


 それはそれとして、マルコは亜空間フィールドジェネレーターについて概要を解説しだした。敢えて空気を読まなかったとみえる。


 亜空間フィールドジェネレーター。


 結局実用化しなかったと伝えられる装置である。

 機能は、任意の亜空間の一定の空間を指定し、現空間と連結する事。

 つまり、ミャウが言う通りの、いわゆる『亜空間倉庫』を機械工学的に実現させるための装置だ。

 この装置の開発には、多くの企業と文化人が参加していた事も、有名な話だ。

 なにしろ開発が開始されたのは、亜空間の存在が確認された直後だったというのだから、当時の人々が、どれだけ亜空間倉庫を欲しがったのか窺える。

 理由は、亜空間倉庫が、小説などのフィクションに、多く登場していたから。

 だから投資者は、理系より文系が多かったという。


 フィクションに登場する亜空間倉庫には、多くの作品で共通する特徴がある。


 個人が気軽に亜空間に多くの荷物を収納できる。

 亜空間の中では時間が進まないため、食料などが傷む心配はない。

 もっとも、生物を入れる事はできない。食料の中には生死の判別が困難な場合も多いはずだが、その辺りをツッコンではいけない。


 この3箇条だ。もっとも、その掟を破る作品も多く存在はする。


 まさに、物流そのものを一変してしまう装置だろう。まぁ、出資者のどれだけが、亜空間倉庫を実際に必要とするほど収納場所に困っていたかは、正直疑問ではある。


 ここまで説明を受けて、アッシモは首を捻った。


「でもよ、結局上手く行かなかったんだろ?」

「はい。理由は主に、二つありました。

 一つは、どうしても装置が大型化してしまうため、個人が所有できるような規模ではなくなってしまう事。これは亜空間物理学の構造上の問題のため、技術力が上がれば小型化できる、という類のものではありませんでした。

 つまり、理論上のブレイクスルーが必要なわけで、当時はそれだけの人材も機材もなかったわけです。

 そしてもう一つは、もっと根本的な問題でした。

 それは、今では誰でも知っている事です」

 

「なんだよ旦那。勿体付けるなよ」

「いえいえ。アッシモ氏もよく知っている事ですよ。亜空間とは、すなわちHD空間の事です。あまりに過酷な環境のため、そこに無防備に物を収納なんて、できません」

「あ」


 そうなのだ。

 亜空間は、あくまで『亜』空間であり、通常空間と同じようにはいかない。

 完全な空間になりきれないため、物質化できないエネルギーの奔流が絶えず吹き荒れており、流れと勢いが一定で、『HD空間』として利用できる亜空間は、全体からすれば、僅かなものだろう。

 もっとも、位相理論上、無限にある亜空間では、割合を考えることはナンセンスの極みではある。『HD空間』もまた、無限にあるのだから。


 それはそうと、亜空間に物を仕舞うとなると、そのままでは不可能だ。

 だいたい、亜空間には空気もない。仮に亜空間倉庫を作ったところで、そんな場所に無防備に素手をつっこんだら、普通に生死に関わるだろう。

 よって、指定したフィールドには、こちらの空間と同様の環境を作らねばならず、従って頑丈な外殻は必須となった。

 また、相手はエネルギーなので、電磁シールド、ディフレクター・シールドといった、非物質的障壁も必要となる。

 そしてそれらシールドを維持できるための、動力源も当然必要。


 ここまで考えた時、研究者達は気付いてしまった。


 あれ?これって、航宙船作るのと、変わらないんじゃね?と。


 多くの研究者は落胆のあまり脱落したが、悪い事ばかりではなかった。

 亜空間の研究が進んだおかげで、人類はHD空間を確認、亜空間フィールドジェネレーターは、目的を航宙船をHD空間に導き、同空間における航宙船の制御を行う事に変更した。

 かくして人類は第二の、より優れた超光速航法を手に入れる事となったのである。


「亜空間フィールドジェネレーターの研究は、そのままHDジェネレーター開発に引き継がれたため、世間では忘れ去られたも同然です。

 もっとも、研究者達にとっては、忘れられぬ黒歴史となったようですが」

 マルコがそう締めくくると、視線をさっと逸らす教授が何人もいた。

 その中にはエレオノーラやパターソンの姿もある。

 共通しているのは、何かしら亜空間について研究している事。どうやら亜空間は、世代を超えて、ある種の気質を抱いた研究者の心の琴線に触れるらしい。


「そしてサーは、こちらの物質を亜空間に保存する『亜空間倉庫』とは反対に、亜空間からエネルギーや重力子をゲットする、言ってしまえば『亜空間コンデンサー』の役割を、亜空間フィールドジェネレーターに求めたんじゃないかって思ったっス」

「どうしてそう思ったのかにゃ?」

 ミャウに尋ねられたドミンゴはニパッと笑った。

「だってサーなら言うっスよね?『亜空間にエネルギーが満ちあふれてても、放っておくだけなんて、勿体ないじゃないですか』って」

「にゃははっ、確かに言いそうだにゃ」

 102号教室組は暢気に笑ったが、フーシェ達はそれどころじゃなかった。

「亜空間のエネルギー利用は、国家プロジェクトが何度も組まれたし、手を付けようとした企業も多かったわよね」

「エレオノーラも加わった事があったじゃろ?」

「ええ……でも一度も成功した事はなかった……」

 それはそうだ。亜空間にはエネルギーの奔流がある。となれば、発生する重力子も相当な量だ。それらを人類が利用しようとするのは当然の流れだろう。

 だが、これまではそれができなかった。

 エレオノーラはぶるっと震える。

「サー……恐ろしい子ね。私達の長年の研究を、あの歳であっさりと飛び越えていく」

 フーシェも震えたが、着眼点は違った。

「いや、サーも恐ろしい事は恐ろしいが、それ以上に儂は、タルシュカットの連中の方が、ずっと恐ろしいわい」

 理学部長は目を軽く細めて工学部長を見た。

「タルシュカットの連中?」

「サーの夢を実現してきた連中よ。確かにサーは天才だが、それを形にするだけの技術力、蓄積された基礎研究のレベルはまさに驚異的。

 実際、連中が形にしてこなければ、サーの発想は妄想として片付けられた事じゃろうて」


 そうなのだ。


 ウィリアムが評価されるのは、その夢を形にしてきた、タルシュカットの『被害者たち』がいてこそである事を、フーシェは看破していた。

「散々サーに鍛えられたタルシュカットの地力は、まさに驚異的。どこの国も……それこそ星間国家全体でも、追いつけるかどうか……」

「そんなことより、この、亜空間コンデンサー?

 これはとんでもない装置ですよ!まさに航宙船におけるエネルギー革命だ!」

 畏れ多くも学部長の発言を遮って、パターソンが叫ぶ。それも頭をワシャワシャとヒステリックに掻きむしりながら。

 自分の毛髪に自信が無いフーシェは眉をひそめたが、パターソンは気付かない。

「これまで、様々なエネルギー源を我々は船に用いてきました!

 先史時代にはオールや櫂、すなわち人力。

 それから程なくして風を利用する事を思いつきましたが、帆の操作は結局人力に頼らざるを得ず、それもかなりの重労働ゆえ、自然利用と言いつつ、実質は人力と呼ばざるをえませんでした。

 次に石炭や石油といった化石燃料を用いる事で、ようやく人力からは解放されましたが、今度は危険な燃料と背中合わせ。しかも航続距離は正しく燃料庫の容量次第。

 その制約は、原子力だろうと反物質だろうと結局は変わりません」

 興奮状態のパターソンは、それでも順を追って説明する。

 その有様はさながら講義のようで、やはり職業柄というヤツかもしれない。

 もっとも相手は102号教室組を除けば、格上ばかりなのではあるが。

「しかし、サーはこの常識をあっさり塗り替えてしまった!

 動力源は亜空間にあるので、主動力用の燃料庫は必要とせず、精々予備電源があるくらい。つまり危険な燃料を隔離する必要もなく、かつ航続距離は理論上無限!

 この艦は、宇宙のどこまでも征ける!まさに自由!まさに理想!

 この発明は、まさしく神の御業と言っても過言ではありません!」

 

『いえ、過言です。それほど大袈裟な代物ではありませんから』

 

「「「「「サー?」」」」」

 パターソンの叫びに呼応するように、会場にウィリアムの声が響き、講堂の中央に彼の立体映像が浮かびあがる。

 縮尺が調整されており、映像のウィリアムの身長は約10メートル。5メートルほど宙に浮かんでおり、その足下の操作パネルには、いつの間にか講堂に戻っていたマイとメイの姿があった。

 

『すみません皆さん。今僕は[レパルス]の通信室にいます。ああ、どうやらほとんどの方は残っていただいているようですね。

 もし宜しかったら、講義を再開したいと思いますが、いかがでしょうか?』

 

 ウィリアムの提案に歓声があがった。

「サー、いったい何が起こったのにゃ?防衛隊がまた何かやらかしたのかにゃ?」

 ミャウが問うと、ウィリアムはちょっと困ったような顔をした。


『いえ、やらかしたのは父様……いえ、フェアリーゼ星間王国タルシュカット伯ヘンリー卿です。防衛隊や、ゲートのゴドフリートさんの話では、僕を実家に連れ戻すために、艦隊率いて攻めてきたそうです。ははは』


 あはは、と枯れた笑いを浮かべるウィリアムだが、講堂はざわついた。

 マルコの目が鋭くなる。

「サー、タルシュカット伯の戦力はいかほどでしょう?」


『領軍旗艦をはじめとした大型戦闘艦艇が100以上、工作艦や補給艦が計100以上、機動資源衛星300以上、といった所だそうです。

 ウチは工作艦や補給艦も武装しているので、実質戦闘艦艇は200以上、といったところです。近距離格闘戦となれば、改装したばかりの[イラストリアス]――アークロイヤル級航宙母艦を連れてきているようなので、小型戦闘艇も相当数加える事ができます。他艦の艦載機を加えると、総勢1000といったところでしょうか?』


 淡々と数字を上げるウィリアムと対照的に、講堂内は静まりかえっていく。

 その空気感に気付いたのか、ウィリアムは突然ワチャワチャと両手を振った。


『ああ、皆さんまで深刻にならないでくださいよ。

 これは父の冗談ですよ。

 いわゆる[辺境ジョーク]というヤツでして』


「「「「「これのどこがジョーク(にゃ)?」」」」」

 講堂内は半ばパニック状態に陥ったが、映像のウィリアムは首をわずかに傾げただけだ。


『ジョークに決まっていますよ。

 宇大に攻めてくるにしては、あまりに戦力が少なすぎます。

 そもそもの話、宇宙艦隊による惑星攻略戦など、ありえません』


 やれやれ、と肩をわざとらしくすくめてみせるウィリアムだが、ミャウは口をわずかに尖らせた。

「サーの『ありえない』はイマイチ信用できないにゃ。ついこの間、サーは、ありえない筈の宇宙艦隊戦に遭遇し、見事に勝利したと聞いたにゃ」

 ミャウのツッコミに、ウィリアムはそれを言われると辛い、と頭を掻いたものだが、自信満々といった様子で胸を張る。


『こんどこそ、絶対にありえないと断言できます。

 なにしろ、宇宙艦隊如きと惑星じゃ、利用できるエネルギー量に差がありすぎます。

 さすがに数万倍のエネルギー量に挑むバカはいないでしょう?

 それこそ、よほど科学力や技術力に差がないと、ありえない選択肢です。

 そして研究機関として最高峰の宇大に対し、技術力でそこまでアドバンテージがある国なんてある訳がないですから、この星系は絶対に安全だといえます』


(((((サー、フラグ乱立させすぎ!)))))

 講堂内の誰もがそう思っただろう。

 パターソンがおずおずといった感じで手を上げた。

「あ、あの、エネルギー量に差があると仰いましたが、亜空間コンデンサーを用いれば、まさに無限のエネルギーが使えるので、そこまで差が出ないのではないでしょうか?」


『亜空間コンデンサーの出力限界のため、最大出力はさほど驚くほどではありません。そして亜空間コンデンサーの出力を大きくするためには、当面大型化しか方法がなく、結局搭載する艦のサイズにより制限されます。

 ですから、多少大型の艦艇を用意したところで、惑星レベルの防衛ラインを突破する事は不可能です』


 マルコは自分のパーソナルモニターを操作し、ウィリアムから受け取った艦種データから、気になる艦を映し出す。

「サー、お父君の侵攻がジョークというなら、なぜ機動資源衛星を大量に持ち込む必要があるのです?これは質量ミサイルにしか見えないのですが」


『そこです』


 画像のウィリアムが人差し指を立てた。


『宇大防衛隊の司令官やゴドフリートさんも同じ事を仰いました。でもたかが100個や200個の機動資源衛星の突入など、惑星レベルのディフレクター・シールドの前にば無意味です。その100倍の数でも余裕で耐えられるに決まってますよ。

 それに父が持ってきたのは中規模資源衛星までです。それ以上のサイズの衛星――小惑星ではゲートを抜けられませんからね。大きすぎて。

 まぁ、父もある意味やらかした口なので、妙な誤解をうけても自業自得ですが』


「自業自得、ですか?」

 さすがに意味が分からないマルコが瞬くと、ウィリアムは心底済まなそうな顔になる。


『父は僕の、宇大星系における拠点を作るために艦隊を引き連れて来たのだと思います。

 大量の中規模機動資源衛星、同じく大量の工作艦。

 父は僕に拠点を借りるのを待てと指示してきましたから、相応のドックや実験棟を有した拠点をプレゼントしてくれるのでしょうね。これだけの騒ぎになってしまいましたから、今更サプライズは不可能でしょうけれど。

 もちろん拠点は卒業後の事も踏まえ、移動できるようにする筈です』


「それって、要は機動宇宙要塞っすよね?」

 ドミンゴの声が少し震えた。

「貴族サマって、勝手に宇宙要塞作れるもんなんすね。凄いっす」


 ウィリアムは肩をすくめた。

『いえ、王国貴族は駆逐艦以上のサイズの大型艦の自主開発、製造は普通許されません。

 これは帝国も同様で、貴族の反乱を防ぐのが目的です。

 まぁ、普通に大型艦開発は予算食いで、開発失敗のリスクもありますので、専門のメーカーから購入して中央に登録した方が、はるかにお手軽で確実です。

 でも、僕は先日、縁あって高家男爵を賜りましたので、大型艦から惑星まで開発する権利を得ました。

 それを周囲に自慢するために、わざわざ宇大の星域内で、自主開発をするつもりなのでしょうね。

 つまり、単なる見栄です』


 ここでウィリアムは一度言葉を切って、ため息をつく。


『でも、調子に乗りすぎて、田舎くさいジョークを言ったせいで、多くの人に迷惑をかける結果になってしまいました。

 僕の説明を聞いて、ゴドフリートさんは納得してくれましたが、防衛隊の方々は信じてくれませんでした。

 というわけで、いざという時には、僕が父を説得するよう要請されてしまいまして、しばらく[レパルス]から離れる事ができなくなりました。あと、ついでに父の艦隊各艦の全データの提示を求められたので、応じました』


「「「「「ええ〜?」」」」」

 ウィリアムの最後の一言が起爆して、講堂内を吹き荒れた。

 教授達にとっては、もう、他のことなどどうでも良いとばかりに。

「か、艦のデータを防衛隊に渡しちゃったの、ですか?」

 助教の一人が震える声で質問する。

 フーシェ達重鎮は固まっていたから、仕方ない。

 ウィリアムはにっこり笑う。


『構いませんよ。どうせ戦闘なんかにはなりませんから』


「い、いえ、それ以前に、領軍の軍事機密に抵触するのでは?」


『領軍の技術的機密事項の開示に関しては、僕に裁量権が与えられていますから、問題ありません。いつでも、誰とでも改装案を練られるように、との父達の心尽くし……というより、もう諦めの境地でしょうね。

 第一、裁量権がなければ、こんな講義なんて、できるわけないじゃないですか』


 なるほどごもっとも、と研究者達は頷く。

「し、しかし、共同開発者どころか、まったくの部外者である防衛隊に、全部教えてしまうなんて、サーは太っ腹じゃな」

 いち早く復活したフーシェだったが、


『そうでもありませんよ』


 ウィリアムは苦笑するばかり。


『防衛隊にお渡ししたデータを戦力分析する事により、父が本気で攻めてきたのではないと安心していただく方が、重要と考えました。

 でも、それはあくまで、現時点でのデータに過ぎません。

 うちの艦艇は、ちょっとユニークですので、研究者の皆さんにもこうして興味を持っていただいていますが――』


 ここでウィリアムはにっこりと笑った。


『――やはり、これから造る艦艇の話の方が、ワクワクしてきませんか?』


 フーシェの頬は、ウィリアムとは逆に、引きつった。

「まさか、サーは」


『折角父様が設備を用意してくださるのですし、父様も僕のやることを見越して、今外遊できる艦艇を全部持ってきたのでしょう。

 つまり、弄り放題、というわけです』


 おおっ、と場内が沸くのをウィリアムは眺め、ある程度静まるのを待って、続けた。


『ここで、多種多様な研究者たる皆様に、ちょっとした提案があります。

 今度の開発プロジェクトに参加してみませんか?

 知的所有権、研究開発費の配分など、交渉窓口はそこにいるマイさんとメイさんが担当します』


「「お任せください、サー」」

 マイとメイがウィリアムの映像に深くお辞儀をする。

 会場の教授連の中には、なぜ二人が当然のようにウィリアムに付き従っているのか、疑問に思う者もいたが、多くの者は、サー信者が増えただけだと流した。

「「工学部のホムペに受付コーナーを開設しましたので、ご利用ください。尚、サーのデータ取得のみを目的としたアクセスは不正行為とみなし、相応の対応をいたしますのでご注意ください――」」

 二人の注意事項は続いているが、早速工学部のホームページにアクセスが殺到していた。


 102号教室組では、セェレとヴァルウの天翼理学部コンビと工学部のドミンゴの三人が応募している。

 もっともウィリアムの拠点には全員が興味を持っていたから、遊びに行く気は満々である。

「あ、ところで、サーの父上様が造る要塞って、やっぱりサーの設計っすか?」

 応募要項を見ながら、ふとドミンゴが顔を上げた。

 ウィリアムはちょっとはにかんだ。


『たぶん、そうかと。

 実は高家叙爵の晩に、色々開発が許されたってテンション上がっちゃいまして、いくつか設計図や草案を父様に送っちゃったんですよね。

 なかには機動要塞、というか、多目的巨大宇宙船なんて代物もありまして』


「「「「ええ――」」」」

 

『いやぁ、徹夜のテンションって、ちょっとヤバいですね。送ってしばらくして、アレはさすがにないわぁ、って正直思いました。

 まぁ、常識的な機動要塞も故郷にいた時、いくつか設計しましたから、多分大丈夫だとは思いますけど』


「あ、あの、参考までに、というか、没案上等で、その多目的なんたらの設計、見せてもらえないっすか?」


 超ドン引き状態で、恐る恐るドミンゴが申し出ると、ウィリアムは『いいですよ』とあっさり快諾。

 講堂内全員の要望もあって、空中に3D設計図が投影された。

「「「「「ぬぉわぁああああ!」」」」」

「「「「「ひぇええええっ!」」」」」

 講堂に響いたのは、いつものような歓声ではなく、悲鳴だった。

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