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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第九章 その3・運命の学部選択

感謝!ついに10万PV突破しました!

これも皆様のおかげです!

あと、誤字報告ありがとうございます。

   3・運命の学部選択


 結局立ち直りそうにないおじさんを放置して、ホワイトさんはパンと手を叩いた。

「それでは、今年度の宇宙大学第3次試験の順位に基づいて、希望学部を決めて頂きます。

 本来、合格発表は試験実施から1週間後であり、その時、首席合格者から順に希望学部を決めていただくのですが、今回はみなさんが不可能問題を解いてしまったため、みなさんについては集計の必要がありません。

 よって、いわゆる102号教室組のみなさんは現時点で、希望する学部を選択する事ができます。

 ついでに申し上げますと、この78校舎の、他の受験生も全員合格になります。これはこの校舎では試験を最後まで実施できなかった事への、大学側のペナルティーです。

 順位は教室がパージされるまでの、各受験生の行動を評価する形で決定しますが、他試験場の結果より優先され、希望学部選択開始は、今から約12時間後になる予定です」

「質問ニャ。試験開始直後に、速攻で降伏してしまっても、合格になるのかニャ?」

「遺憾ながら、その通りです」

「他の校舎の連中が聞いたら、速攻ぶち切れそうだニャ」

「そうですね」

 ホワイトさんは、涼やかに答える。

「不公平じゃないのかニャ?」

「世の中は、いつだって不公平で、不条理なものですよ?この校舎で受けた受験生は、運が良かった。閣下と同じ校舎で受験できたのだから。そういう事です」

「まぁ、運が良かったといえば、オイラ達が一番運が良かったっス。他人をどうこう言えないっスよ?」

「ゲッゲッゲ。運も実力のうち、というではないカ」

「いや、我らがサーと巡り会ったのは、我らの天運の導きによるもの。けっして偶然などではありません」

「お兄様、今日は絶好調ですね。まるでその口は真実しか語らぬよう進化したみたいです」

「ふふふ。サーの前では、我は嘘は吐きませんよ。そうサーに誓いました」

 なにそれ、聞いてないよヴァラクさん。

 マルコ氏が腕を組んだ。

「なるほど。どれだけ実力があろうと、試験が試験である限り、運の要素は捨てられない、というのは分かります。

 そしてその恩恵を今回一番受けたのが、偶々なのか運命なのかは分かりませんが、我々だった、という事ですね。サーと同室だったおかげで首席グループになれた。

 改めてサーには感謝申し上げます」

 マルコ氏は組んだ腕を解くと、左胸に右手を当てて、僕に一礼する。

「お、オイラも感謝してるっス」

「右に同じニャ」

「むしろサーと同じ時代に翼を広げられる事に感謝を」

「大いなる翼に出会えた事に感謝を」

「肉体は嘘をつかヌ。ミの筋肉はサーに無限の借りを造っタ。この借りは絶対返ス」

「……みんなして閣下におんぶに抱っこってわけかよ」

「……アッシモ。不服ですか?」

「サーに不満など、合格証書を墓場まで持っていきたいようですね」

「そう怖い顔するなよ天翼の。恩人に不満なんかあるわけがねぇだろ。閣下がいなきゃ、俺なんか一生合格できる訳がねぇからな。

 つーか、これで俺らも、晴れてあの連中の仲間入りって思ってよ」

「あの連中、ですか?」

 アッシモ氏は、親指を立てた右手を持ち上げて、親指の先が後ろを向くようにする。


 うちの領軍の連中が飲んでる方向だ。


「この6時間の間で色々聞いたぜ。史上初の、本格的宇宙艦隊戦の勝利者だってよ。

 今やタルシュカット宇宙艦隊といやぁ、宇宙最強だって評判よ」

 

 誰だそんな噂を流したのは?

 

「ま、それも閣下におんぶに抱っこだからできた事だわな。

 こうして俺が大声で話しても、怒る奴すらいねぇ。むしろ和やかに笑ってやがる」

「ちょ、ちょっと待ってよ。宙賊に勝てたのも、合格したのも、僕だけの力じゃないよ!」

「……いえ。それがサーのお力なのですよ。

 私は、サーならば、102号教室にいたのが、我々以外だったとしても、その者達を使って、見事合格したであろうと確信していますから」

 えー。

 マルコ氏の言葉に、みんな頷いちゃってるよ。


「では、話を戻して、第一志望学部の選択をお願いします。みなさんの場合は、第二志望以下を選択する必要はありません。

 ただし、首席の閣下は、最後に表明してください。

 本来首席から希望学部を決めていくのですが、このままではみな閣下が選んだ学部を選んでしまうかもしれませんから。」

 ホワイトさんの言葉に、みんな視線を逸らす。中には小さく舌打ちした人までいた。

 だから、自分の夢を追いかけてね。

 というか、やっぱり僕が首席合格者という事になっちゃうんだ。

 でも、どうしよう。

 試験前は、合格しても、定数に達してない学部から選べばいいや、と思っていたけど、いざ全学部選び放題となると、迷う。

 学びたい事が多すぎる。

 そうこうしているうちに、みんな与えられたパーソナルモニターを使って、希望学部を送信したみたい。みんなの視線が僕に集中する。

「はい、結構です。それでは閣下もお願いします」

「あの、それについて、ホワイト先生に相談したいのですが」

「もちろん、よろこんで。人文学部長の、このホワイトが、いかなる相談にも乗りましょう!『それについて』という事は、もちろん進路相談ですよね?

 ひょっとしたら、閣下はあまりに何でもできるので、どの学部を選んだら良いか、お悩みになられているのでは?

 そうなると、やはりお奨めは、ずばり人文学部でしょう!

 人文学部は、人間の根源である、思想、哲学、歴史、情報、そしてそれに伴う表現である、文学、芸術、各種エンターテイメントまで、あらゆる分野を網羅していると自負しております。

 人を知る。己を知る。

 人文学部こそ、宇宙大学で閣下が学ぶにふさわしいと、人文学部長として自信をもってお奨めできます!」

 あ、圧が凄い!

「うム。さすがは学部長であル。良い事をいうのであル」

「ちょっと待つニャ!そんなの、ちっとも公平、公正じゃないニャ!

 サーを自分の教え子にしたいだけニャ!欲望丸出しニャ!

 第一、サーはこれからやりたい事がいっぱいあるに決まってるニャ!

 すると何をするにせよ、先立つモノが必要ニャ!

 だからアチシと商学部に行って、商売を学ぶのが正解ニャ!」

「フン。手前ェこそ、自分の欲丸出しじゃねぇか」

「商人は自分の欲に忠実ニャ。でも長く商売するには、相手も儲けさせて、ウィンウィンの関係になるのが一番ニャ。相手を騙すのは二流、三流のやる事ニャ。

 だからアチシがサーに商学部を薦めるのは、本心からそれがサーのためになると確信しているからニャ」

 アッシモ氏のツッコミにも、ミャウさんは平然と答える。

「マルコの旦那。あんな事言ってるぜ」

 アッシモ氏!ついにマルコ氏の舎弟に成り下がった!いつかそうなるんじゃないかと思ってたけど、早い、早いよ!

 そしてマルコ氏は動じない。

 この二人を見てると、何だかマフィアの幹部と平組員みたいだな。

「たしかに、ミャウさんの言う事には一理あります。サーが何をするにせよ、大金が必要になるでしょう。そしてサーが生み出したモノは、金のなる木になる可能性が高い」

「さすがはマルコニャ。分かってるニャ」

「旦那!」

「しかし、商売はサーが信頼している、タルシュカットの御用商人がすれば宜しい。或いは学友のよしみで、ミャウさんも参入するのも、良いでしょう。

 それより忘れてはならないのは、サーは貴族当主。それもただの当主ではありません。

 王国では高家男爵。

 帝国でも名誉男爵。

 サーの年齢で、二大国からこれだけの爵位を得た人物は、これまでいないでしょう。

 もちろん、位階はこれから上がっていくでしょう。サーですから。

 今やサーは、宇宙で一番注目される貴族の一人となりました。

 そうなると、敵も増えるでしょう。嫉妬心もあるでしょうし、己の利権を侵されると思う人物も出てくる筈です。

 また、味方を表明する人物も油断なりません。サーを利用しようとする人物は、きっと明確に敵視する人物よりずっと多くなる筈です」

「ですから、閣下の目を養うためにも、ここは人文」

「いえ、サーには、ただしい政治経済のありようを学んで頂くのが肝要です。

 たとえサーに優秀な補佐役がついたとしても、その補佐役に任せきりというわけにはいきません。サーにとっても、補佐役にとっても、国や領地、領民にとってもです。

 それに政治学科には、貴族科もあります。

 そこで社交界の常識や作法も学べます。

 失礼ながら、サーのご実家では、社交界を学ぶ環境としては、いささか相応しくありませんし、王国と帝国では作法が異なります。

 両方の貴族となったからには、どちらもマスターして頂かねばなりません」

 凄い。

 ホワイトさんが口を挟んでも、まったく気にせず、持論を押し通したよ。

 しかも説得力が半端ない!

「ふふふ。さすがのマルコさんも、己の欲が絡むと、目が曇るようですね」

「はいお兄様の仰る通りです。

 貴族の作法など、専門の家庭教師を雇えば済む話。

 政治の理などは、卒業後、王国の宰相や、帝国の大臣から学べば良いのです。

 所詮、実務を伴わぬまつりごとなど、机上の空論、理想論に過ぎないのですから」

 うわぁ、ツッコミ役だけに、セェレさん、容赦ない!

 政経学部自体の存在意義を否定しちゃったよ!

 さすがのマルコ氏も、この暴論にはカチンときたみたい。

「セルヴァンさん。それは言い過ぎでしょう。

 たしかに大学では実践的とは言い難いでしょうが、実務に追われて忘れがちな基本というものを学ぶのが、大学なのですよ?

 政治とは、理想と現実、双方のバランスが重要なのです。

 理想論ばかりでは、国が傾きますし、現実論ばかり追っていては、人の生活は良くなっていきませんから」

「そう!キアスさんの言う通りです!

 実務などは、現場に出るようになれば、嫌でも身につきます!

 それより、哲学や文学、歴史に触れる事で、より深い人間性を身につける!

 これこそ閣下に必要な」

「いえいえ。無限のご器量と、人間性を持つサーですから、今更でしょう。

 そんな事より、この大宇宙の理を追い求め、深淵を解き明かす事、つまり理学部こそ、サーに相応しい事は、誰の目にも明らかではないでしょうか」

「いや、ちっとも明らかじゃないニャ。大宇宙の謎を解いても、お腹はふくれないニャ」

「飢える人をなくすのは、政治の役割です」

「その政治を動かす金を生み出すのは、商売の役割ニャ」

「だから、人の話を聞きなさい!人が幸せを感じるのはですね」

「低次元の喜びなど、宇宙の謎の解明に比べれば」


 あー、なんだか滅茶苦茶になっちゃった。

「えっと。もし良かったら、誰も考えてなかったような、凄い機械、一緒に作ってみないっスか?」

 ドミンゴ君の誘いに、そのまま乗ってしまうというのも手だね。


「……ん。まだ終わらないの?どうせ合格したんでしょ?

 さっさと手続き終わらせて、パーティーしよう。ティナも待ってる」

 先生が講堂に入るや、僕らの席にやってきた。

 さすがは空気読まないチャンピオンだ。このカオスな状況も全無視だ。

「合格したんだけどさ。学部の選択で迷っちゃって」

「指揮官は迷っちゃ駄目」

「別に僕はこの場の指揮官じゃないんだけど?」

「ウィルはいつ、どこでも指揮官の器。私がそう育てた」

 先生はいつものように、ない胸を張る。

「あの、貴女は?」

 ホワイトさんがやっと先生に気付いた。

「私はリルルカ・エル・イルヴ。見ての通り、イルヴの民で、宇宙大学2462期生。

 つまり、貴女方の大先輩。

 先輩を敬い、従うのだー。

 というわけで、ウィルは貰っていく」

「なにそれ聞いてない。先生って宇大OGだったの?」

「別に聞かれなかったから。それに随分と昔の話。先生方も、同族以外で当時から現役な人は、ちょっとしか残ってないと思う。

 それよりパーティーの方が大事。試験お疲れ様でした。いえーい」

 いや、無表情+棒読みで言われても困る。

「というわけで、先輩権限でウィルは連れて行く。二度も言わせるとは生意気。

 後輩道がなってない。後で体育館裏に来るように。以上」

「何が『というわけで』ですか!いくら大先輩でも、困ります!

 閣下は首席合格者です!

 閣下に行く学部を決めて頂かないと、多くの学生が困るんです!」

 先生がコテンと首を傾げた。

「ウィル。首席合格者?」

「うん。そうみたい」

 先生の口の端が僅かに、本当に僅かに上がった。

「さすがはウィル。偉い偉い。私と一緒。はい拍手」

 パチパチパチ、とおざなり丸出しの拍手が響く。

 それでも満足したらしく、先生はうんうんと頷き、

「首席なら、別に迷う事は何もない。私と同じコースを選べば良い」

「同じコース?学部じゃなくて?」

「ウィル。私の専門は?」

「総合自由科学。でも、そんな学科、あったっけ?」


「あーっ!」

 

 いきなりホワイトさんが叫んだ。吃驚するからやめて。

「2462期のリルルカ先輩?悪夢の受験キラー?伝説の自称魔法使い?」

 なんか物騒な事言い出したよ。

 先生も、無表情ながら、ちょっと引きつっている。

「……いきなり叫んで、他人の黒歴史をえぐるとは、失礼な後輩。

 でも、思い出したのは重畳。だから特別に許す。

 首席特権である『総合自由科学コース』の、ウィルへの適用を要請する」

「……本気ですか?先輩」

「心配は要らない。ウィルは私より、ずっと優秀」

 ホワイトさんの声が震えているよ。

 そんなに物騒なコースなのかな?

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[気になる点] いやあの、OBだと男性になっちゃうんですがー…… 女性の卒業生はOGですな
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