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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第八章 その2【魔法】と【スキル】と【解析】と

   2・【魔法】と【スキル】と【解析】と


 とはいえ、実は今日は試験日じゃない。うん、確認した。

 第3次試験は三日後。余裕を持って出発したつもりが、結構ギリギリだったね。

 ティナを助けるために寄り道したとか、色々あったけど、第一原因は教授達だ。


「絶対に試験に間に合わせてみせる」


 なんて格好付けてたけど、何の事はない。試験日三日前に到着するよう、コース設定を調整したんだね。もちろん、なるべく長く僕に講義させるために。

 僕にも利益のある話だから、教授達に文句を言うつもりはないけれど、やっぱりこの目で確認しないと、安心できないからね。

 というのも、教授達は言ってしまえば専門馬鹿で、日常生活でどこか抜けてたりする。

 揃って日付を勘違いしている可能性は捨てきれない。

 もちろん[レパルス]でも確認はしてきたよ。

 でも、宇大も銀河連邦標準時を使っているとはいえ、誤差が出ていないとも限らないし、惑星やコロニーに住んでいる人にとっては、銀河連邦標準時なんて、実は不便極まりない代物だからね。

 大抵の惑星国家は、三つ以上の標準時を使っているものだし。

 当たり前の話だけど、公転周期が母なる地球と同じ惑星なんて、そうそうない。

 それどころか、同一星系内でだって、居住惑星によって一年の長さは異なるものだ。

 公転軌道が違うんだから、当たり前だね。

 公転周期が違うということは、一年の長さが違う。

 自転速度も違うから、一日の長さも違う。

 だから各惑星の暦と、星系の標準暦は違う。まぁ、大抵は本星の惑星暦を、星系暦とし、植民惑星は惑星暦と星系暦を上手に使い分ける必要が出てくるわけだね。

 そして惑星間国家となると、更にややこしい事になる。

 つまりフェアリーゼ星間王国の標準暦として、王国首都星の暦が使われ、国の公式行事などはそれに従う必要が出てくるわけだ。

 タルシュカットもフェアリーゼ星間王国の一員として、フェアリーゼ標準暦も併用している。

 さて、そこで問題となるのは、ガイスト帝国を初めとした、外国の存在。

 彼らは彼らで標準暦を持っている。もちろんそれはフェアリーゼ星間王国のそれとは異なっている。

 暦は自国の面子がかかっているから、相手に合わせるわけにはいかない。かといって、統一の暦がないと、不便な点も出てくる。

 例えば条約の発行日や失効日、協議日程決め、その他諸々。

 フェアリーゼ星間王国もガイスト帝国も、母なる地球から旅立った者達が多い事から、地球の暦を標準にしては、という話もあったみたいだけど、地球出身者以外からは猛反発され、その話は流れてしまった。うん、その気持ちは分かる。

 とまぁ、紆余曲折どころか、しょっちゅう座礁しながら各国は粘り強く交渉し、最後には『何処の国も使っていない暦』をわざわざでっち上げて、それを国際標準時としてしまった。それが『銀河連邦標準時』だ。

 銀河連邦などという国はない。架空の国まで作ってしまった。

 そんなわけで、星間国家間では当たり前に利用されている『銀河連邦標準時』だけど、これほど信用できない暦はないわけで。

 まぁ、別にどこかの惑星の公転周期に合わせる必要もない事から、閏日も閏月もないんだけどね。

 とにかくここで重要な事は、僕は間に合った。そしてこのコロニーの標準時では、今は昼時だという事。

 試験日まで宿泊する部屋は宇大から指定されているので、特にチェックインする必要はない。ただ食事は学食が推奨されていた。

 ここの時間に慣れるためにも、少しお腹に入れておいた方がいいかもね。

 で、さっさと部屋に籠もろう。そして情報を整理しよう。


 リニアリフトを使わず、学食へは徒歩で向かう事にした。土地勘を少しでも得るためと、もしかしたらさっきの張り紙みたいなのが、他にもあるかもしれないと思ったからだ。

 リニアリフトじゃ、何の発見もないだろうからね。

 もっとも、メイン通路には張り紙のはの字もなさそうだった。

 その代わりに多くの人で溢れている。まぁ、つい最近までの[レパルス]の艦内廊下に比べたら、ずっとマシだけどね。あれは酷かったから。

 やはり最高学府を謳うだけあって、受験生も多い。種族も様々だ。

 人類タイプが一番多い。やはり繁殖力と環境適応力が高いからかな?

 もっとも一見して人類だけど、そうじゃないヒト達もいる。【解析】を使うまでもない。

 普通人は三面六臂じゃないから、とかそういう類。背中に鳥の羽根のような触腕を生やしたヒトもいる。低重力下なら充分飛べそうだ。

 彼らは廊下で談笑している。というか、談笑くらいしかやる事がないんだろう。試験直前とはいえ、勉強道具の類を持ち込めなかったんだから。

 もう3次試験と面接を残すのみだし、今更足掻いても……といった感じかもしれない。

 奇妙な事に、それだけ奇抜なヒト達が多くいるというのに、やけに僕をちら見するヒトが多いように感じる。

 フェアリーゼ星間王国の貴族服を着ているからか?いや、別に礼服でもなし、どちらかといえば地味目だろう。帝国の貴族服は黒地に銀糸(本物の銀じゃないけど)で刺繍され、結構派手なのが一般的なんだよね。

 すると、やはり、僕が子供だからか?僕が相手の視線に合わせると、相手は視線を逸らしてしまう。

 やや慌てた感じで。

 うん、これは思った通りという奴だね。子供が受験するのは変なのかな?

「そりゃ変に思うだろうさ。

 自分達が遊んでいた年頃の奴と、同じステージで争うんだぜ?

 まぁ、キミが人類じゃないか、年齢詐称のため、力一杯アンチエイジング処理してるか、どちらなのか計りかねているといったところじゃないかな?

 これがキミが注目される、表向きの理由だね」

 学食で偶々相席になった青年――アイザック・G・ブラーエ氏は笑う。

 ブラーエ氏も受験生だそうで、25歳。明るい茶髪と濃いグレーの瞳の爽やか系イケメンだ。年齢は特に言ってなかったけど、【解析】で分かっている。見た目は十代で通じるかもしれないな。

 なんでも一ヶ月も前からこの校舎コロニーに滞在しているそうだ。

「2次試験突破の知らせと共に、高速便に飛び乗ったからね。僕の故郷はゼクト星系――って知らないか」

「かなりここから近い独立星系ですよね。HD内時間で3時間、通常空間で2分ってところですか」

 ブラーエ氏は苦笑して頭を振る。

「さすがに3時間じゃ無理さ。でも急いだ甲斐はあってね。今やすっかり『78番校舎の主』気取りさ。だから今日来た新入りのキミのことは、ずっと見ていたよ」

「ヤダ怖い」

 これが[レパルス]だったら、赤シャツがすっ飛んでくる事案だぞ?

「……というのは冗談で、キミが201号エアロックから出てきたから、僕を含めてみんな吃驚しているのさ。これが裏向きの理由」

「え?普通に案内されたんですけど。他のエアロックが塞がっていたのかな?」

 ブラーエ氏はやれやれと肩をすくめる。

「そんな理由じゃない筈さ。惑星育ちの貴族様はご存じないかもしれないが、コロニーの201号エアロックといえば、『開かずの扉』と相場が決まっているのさ」

「え……」

 開かずの……って、怪談ですか!

 僕の様子を見て、ブラーエ氏はケラケラ笑う。軽いなこの人。

「ナイスリアクションありがとう。でも別に怪談じゃないさ。要人がお忍びで利用するためのエアロックだから、普段使われてないだけ。つまり順番待ちをする必要がないのさ。

 でも、裏を返せば、そうそう使われる事がないわけで、つまり『開かずの扉』になる」

 まったくもって散文的な理由でした。

「でも変だな。キミが仮にどこかの王家や皇族に連なる身だとしても、そういう理由で特別扱いはしないのが宇大の伝統だ。

 つまり大学はキミ個人に特別な興味を抱いている事は明白。

 でも、それが本当なら、試験免除の特待生枠という手があるから、どうにも分からない」

「特待生枠?そんなものがあるんですか?」

 募集要項には、そんな説明はなかったぞ?

 ブラーエ氏はにわかに真面目な顔付きになる。うん、全然似合わないが。

「ある。いわゆる公然の秘密って奴だ。特殊かつ有用な研究をしている学者を、教員や研究者ではなく、学生身分で迎え入れたい時とかに、例外的に利用される制度らしいね。

 ……キミ、何したの?」

「何って別に……僕は特待生じゃないですし」

 ここに来るまで教授達に講義してたとかあるけど、無関係のブラーエ氏に語るような話じゃないし、特待生じゃないのは事実だから。

 ブラーエ氏は肩をすくめた。

「そんなに怖い顔をしなくていいよ。まぁ、宇大の学長は優秀だけどちょっと変わり者だという噂だから、気まぐれかもね」

 あ……学長……それでか。

「思い当たる事が?」

「いえ……変わり者って、どこにでもいるのに、なんで変わり者っていうのかなって」

「うん。道理だね。多様性こそ大学に求められるものだった。キミは正しい」

 咄嗟に誤魔化してしまったが、上手くできた自信はない。ブラーエ氏は探るような目を暫くしていたけど、どうやら諦めてくれたらしい。

 僕は確信していた。

 例の張り紙を貼ったのは、多分学長だ。

 理由は、講義の報酬。

 つまり、オフセット式人工ワームホールには、魔法が関係している。

 僕がそのヒントに気付けば良し。気付かなかったら次善の策を用意しているんだろう。

 思えば、試験前に学長に接触する事はできない。それこそ不正の疑いが出るから。

 かといって、受験は水物だから、落ちてしまう可能性はある。

 不合格になったら、それこそ宇大に居座る理由はないから、さっさと帰国するわけで、やはり学長と面会するわけにはいかない。

 その時は後日、何らかの方法で、タルシュカットにいる僕に接触があるんだろうな。

 まぁ、ヒントを見逃すようなマヌケに、まともな解説があるとは思えないけど。

『お前が理解できないオーバーテクノロジーだよ、きゃはは』

 が関の山という奴だろうな。


 軽食を終えて、ブラーエ氏と別れると、さっさと指定された自室に入った。

 移動にはリニアリフトを使わせてもらった。これ以上謎の注目を浴びたくないからね。

 部屋は少々狭いけど、一人部屋なのがありがたい。

 ベッドと机、別室にシャワールームとクリーニングルームがある程度だ。

 クリーニングルームは、シャワーを浴びている間に、私服を洗濯し、乾燥、のり付けまでしてくれる設備だ。ちなみに寝間着は宇大が用意してくれている。例によって、使い捨てで完全分解される類の奴だ。

 それはともかくとして、だ。

 ベッドに腰掛けて、楽な姿勢になる。

 さっき、【解析】さんが、【ライト】を【スキル】として会得したとか言ってたな。

 まぁ、口に出して言ってたわけじゃないけどね。

 でだ。

「どうやったらその【スキル】とやらを使えるんだ?」

 っていうか、そもそも【スキル】って何?【魔法】とどこが違うの?

 説明不足だよ【解析】さん。チュートリアルプリーズ!


 【魔法】

 周辺のマナを魔力に変換し、起こす奇跡的現象

 エネルギーとして放出したり、物質として実体化させたり、その他様々な効果があるが、使用できるのは特別な資質と修行が必要とされる

 現状、サー・ウィリアム・C・オゥンドールには魔法の才能は確認できない


 ああ。使えないのね、魔法。

 でも、解説ありがとう【解析】さん。続けてくださるとありがたいです。


 【スキル】

 自分自身のマナを調整、変換する事で、擬似的に【魔法】に準ずる効果を生み出す技術

 主に種族スキル、職業スキルが挙げられ、単に【魔法】を模倣するだけでなく、自分で新規に開発、改造する事が可能

 ただし一般に、個人が有しているマナの限界量は小さいため、スキルを発現させても、効果は微量に留まる事が多い

 備考その1・保有マナの限界量は、練度により増やす事が可能

 備考その2・使用スキルにおけるマナの使用量は、スキルの熟練度により異なる

 備考その3・農家スキル【解析】の熟練度は5。使用マナ量は0


 え?

 【解析】さんもスキルだったの?それも農家スキルだって?

 そっか。僕って農家だったんだ……って、農作業なんかした事ないんだけど?

 でも、昔からフードコアじゃなく、本物の食材に興味があったのは、僕の本質が農家だからなんかもしれないな。

 それに【ライト】をスキルにしたのは、勇者スキルとか言ってた。

 勇者と聞くと、ゲルボジーグ氏を思い出す。

 大地の勇者だったっけ?確か僕をそう呼んでいた。

 どうせアルスの事なんだろうから、こじつけだろうけどさ。

 でも、【解析】さんが意識しただけで発動するんだから、【ライト】も同様なのかもしれない。

 では早速、【ライト】を発動!

 ……

 …………

 ………………あれ?

 発動しない。【解析】さん、プリーズ!


 勇者スキルレベル、【ライト】スキルレベルが低いため、無詠唱での発動はできません

 

 えー?

 じゃあ何で【解析】さんはレベルが上がったの?

 口に出して「解析!」なんて言った事ないよ?


 スキル開発者特効です


 はぁ。スキルなんて大それた代物、開発した記憶はない。

 でも妙な思いつきで色々やらかした記憶はある。

 何かの拍子で【解析】さんも開発しちゃってたのかもしれない。

 それにしても、【解析】さんがどんどん流暢になっている気がする。


 【解析】のレベルが6に上がりました

 スキルを認識した事と、農家スキル【成長促進】により、必要経験値が減少している結果です


 おおっ。タイムリーにレベルが上がった?

 何かこういうのって、燃えてくるよね!

 では、調子に乗って、

「【ライト】!」

 何となくノリで右手を前に出したら、右手の指先がぽぅと光った。

 やった!


 農家スキル【品種改良】により、勇者スキル【ライト】の改良が可能です

 改良しますか? はい/いいえ


「ええっ?何か知らないけど、農家スキルって凄すぎない?」

 もちろん、回答は『はい』一択だよね!

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