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鍬と魔法のスペースオペラ  作者: 岡本 章
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鍬と魔法のスペースオペラ 第七章 その5 叙爵式

   5・叙爵式


 それから2時間後、真新しい正装を纏った僕は、再び第二特別通信室に入った。

 いよいよ叙爵式だ。

 といっても、僕が受けるのは正規騎士。その程度の爵位なら、月に数千人は叙爵される。

 だから叙爵式には大勢集められて、僕もその他大勢の一人という事になるんだろう。

 さっきは王様や王妃様と親しく(?)話せる距離感だったけど、公式行事ともなればそうはいかないんだろうな。

 ちなみに多くの騎士予定者は直接王都星に赴くのが王家への礼儀だけど、僕は事情が事情なので、立体映像での参加が認められている。

 それにしても、これで僕も貴族家の当主となるわけか。こうなると、色々将来設計が変わってくるな。

 伯爵家はホレイショ兄様が継ぐから、僕は家に残って役人になるか、家を出て軍人になるか商売をするか、冒険者という手もあったけど、要は貴族位を返上する予定だったんだ。

 でも僕自身が貴族家の当主となると、話は変わってくる。

 騎士爵でも法衣だと思うから、領地を持つわけじゃないけど、タルシュカットの役人でも領軍でも、貴族位を持つ事は、仕事上、色々便利になる。

 まぁ、タルシュカット領内なら、貴族位を返上しても、良くはしてくれるんだろうけど、事対外折衝においては、かなりアドバンテージを持つな。

 だから政治においては外交、軍だったら大型艦艇の購入とかで有利だ。

 今のタルシュカットには、駆逐艦以上の艦艇を建造できる施設はない。というか、許されていない。

 これは王国創立以来の伝統だ。なんでも地方領主の反乱を防ぐ目的らしい。

 というのは建前で、実は大企業の利権を守るためだという、割と身も蓋も無い理由だったりする。ま、大型艦艇の開発や建造にはかなりノウハウが要るから、一から作るとなると、たとえ惑星持ちの大貴族でもかなり負担になるからね。

 でも僕が爵位持ちとなれば、その大企業とコラボして、新型艦共同開発、なんて事も可能になるだろう。うん、夢が広がりまくりングだね。

 そんな事を考えていたら、いよいよ時間になったみたいだ。王都星からアクセスがあった。ほいほい、会場データ取り込みっと。

 出現ポイントデータ入力。ではシステム起動。


『タルシュカット伯三男、ウィリアム・C・オゥンドール殿御入来!』

 アナウンスと同時に僕の周囲に現れたのは、王城の謁見の間。

 巨大なホールには大勢の人、人、人。

 うん。これは予想通り……とはいえない、か。

 僕は幅20メートルほどのレッドカーペットの上にいる。

 そして大半の人は、レッドカーペットの左右に分かれ、ぼくよりずっと後ろの方にいる。

 その数、数百人。いや、千人以上いるかも。多すぎてよく分からない。

 で、僕の前方、10メートルほど前に、数段上がって玉座があり、マッチョなおじさん、つまり王様が座り、その隣の席に、王妃様がいた。

 王様は威厳を示し、どちらかというと無表情。王妃様は僕をみつめてニコニコしている。

 そしてお二人の左右に、少し離れた位置に数名の男女。

 アーサー王太子殿下や、ティナの姿が見える。ティナは第一特別通信室からの参加だ。

 降嫁して王家を離れた方や国外留学中の方を除けば、王家そろい踏みだ。

 たかが騎士の叙爵程度に参加されるのは異例だろう。

 僕はすぐに片膝をついて頭を下げた。

 それにしても、レッドカーペットにいるのが僕一人、というのが解せない。

 というか、入場アナウンスがあった事自体が変だ。

 え?今回、騎士爵を受けるのって、ひょっとして僕だけ?

『ウィリアムよ、よくぞ参った』

 王様が威厳たっぷりに言い放つ。うん。さっきの正座の記憶は封印しよう。

「はっ。両陛下の麗しきご尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございます」

 型通りの挨拶。だが、この後は思いっきり型破りの進行となった。

 王様が玉座より立ち上がる。王妃様も立った。

 あれ?王様達がこっちに近づいてくるよ。王妃様は両手に宝剣を抱えている。

 確かに騎士爵は、王様自ら叙爵する建前だけど、一度に大勢を叙爵するなんて面倒だから、実際は王様の代理を務める、典礼官の人達が剣を叙爵者の肩に当てる儀式をするようになった。

 その代理制度は慣例化したため、今回叙爵者が僕一人だったとしても、それは踏襲されるべき。伝統とはそういうものなのだから。

 王様は僕のすぐ目の前で立ち止まると、王妃様から宝剣を受け取り、抜いた。そして頭を下げたままの僕の右肩に剣を当てる。次は左肩。

 えええ?本当に、王様手ずから叙爵してくれるの?どういう事?

『サー・ウィリアム・C・オゥンドール。これからは高家男爵として、その力、フェアリーゼ星間王国のために、王家のために、そしてなによりアルスティナのために尽くせ』

 王様の言っている意味が頭に入ってこない。

 こうけだんしゃく?

 でも儀式に遅滞は許されない。

「はっ。卑小なる我が身ながら、王国の民のため、王家のため、アルスティナ殿下のために全力を尽くすと誓います」

 だって、貴族だもん。王様の勅命には逆らえないよ。

 この瞬間、僕は考えていた将来設計が音を立てて崩れていく音を聞いた気がした。

『よし。言質はとったぞティナちゃん』

 王様は相好を崩し、後ろを見やると、ティナが顔を真っ赤にして両手を頬に当てて、身体をくねらせている。

『ありがとうございますお父様!』

『あらあら、アルスティナったら……というわけで、よろしくねウィル』

 王妃様はずっと上機嫌だな。っていうか、なにこのアットホームな空間。

 星間王国の公式行事じゃなかったの?後ろにいる大半の人って、国のお偉いさんでしょ?うちどれだけの人がリアルかどうか知らないけどさ。

『うむ。余もウィルと呼ばせてもらおう。例の[ウィル式推進法]だったか?オゥンドール家でもそう呼ばれておるのだろう?』

 王様の口の端が上がる。でも分かるよ。目が笑ってない。というか、正直怖いんですけど。今までで、一番。

 それほど嫌なら、高家などに任じなければ良いのに。

「はい陛下。家族は皆そう呼んでおります」

『高家とあらば王家並の格式。すなわち我らは家族同然とも言える。ならば構わぬよな』

 なにその超理論。でも謁見の間における王様の発言は全て公式のものと見做されるんだよね。

「はい。構いません」

 そう答えるしかないでしょ。

『だがウィルよ。ティナちゃんは渡せぬからな。高家としたのは、あくまでもそちへの礼代わりというわけだ――痛い!』

 そりゃ、女性の力とはいえ、王妃様から宝剣の鞘で思いっきり後頭部を叩かれたら痛いよね。

『あなた。往生際が悪いですよ?まごまごしていたら、ウィルを他家に攫われて、アルスティナから一生恨まれる事になりますよ?』

『そ、それは承知してはおるが……』

 え?攫われる?

 会場内も妙にざわつきだした。まぁ、目の前で王様が殴られれば動揺もするか。

『高家貴族ならば、様々なウィル向きの特権もあるのだ。ヤツらに対して、充分牽制になろう?ヤツらがこれ以上の条件が出せるとは思えぬ』

 涙目で訴える王様に対し、王妃様はわざとらしいため息をついた。

『ふぅ……まぁ、今はそれで良いでしょうね。あちらも一夫多妻ですから、最悪どうとでもなるでしょうから』

 いやだから、何の話をしてるの?この人達。僕を狙ってるって、誰が?しかも一夫多妻って、そういう意味で狙われてるの?

『帝国ですよ。モテモテね、ウィル』

 王妃様が僕を見据えて真顔になる。帝国?

『今朝、ガイスト帝国から通達――いえ、発表があったの。

 航宙艦推進法発展に多大なる功績をあげたフェアリーゼ星間王国タルシュカット伯三男、ウィリアム・C・オゥンドール殿へ、帝国名誉男爵位を贈る。

 なお、オゥンドール殿が帝国に来訪された折には、この[名誉]の部分を外す用意がある事を、帝国皇帝の名をもって宣言する――とね』

 会場のざわつきが大きくなる。

『帝国が男爵の椅子を用意してみせたのだ。それなのにこちらが騎士爵というわけにはいくまい?貴様にティナちゃんを取られるのは癪だが、貴様を帝国に取られるのは、もっと癪だ。こうなれば意地でも渡さぬ。そこで高家を思い出した。ヤツらもさすがにこれは用意できまいからな』

 後頭部をさすりながら、王様がニヤリと笑う。何その子供の喧嘩。

 それにしても高家か。

 広義では、名家という意味だけど、今では王家並の格式を有する家という意味になっている。

 そういう意味では、王家の分家たる公爵や大公爵辺りも高家に相当するんだけど、彼らは高家とは呼ばれない。血縁関係にあるのが当たり前だからね。

 つまり高家は、王族ではないが、王家並の格式を持つ、王家が最も信頼した貴族という事になる。家というけれど、この位は継承せず、命じられた貴族個人に限られる。

 というのも、大抵高家は王家と縁戚になるものだからだ。結婚する前に死亡した場合を除き、例外はこれまでなかった。

 つまり事実上、ティナとの婚約……とはならないか。王様明言しちゃってるし。

 王様だからね。前例があろうがなかろうが、関係ないよね。

 それにこの王様の往生際の悪さは僕にとっても悪くない。

 そりゃティナは可愛いし、電波な点を除けば性格も悪くない。悪くないんだけど……

『高家は我ら王家が最も信頼している貴族。ゆえに特権を持つ。

 ウィルよ。そなたはこれより、高家として、駆逐艦以上の大型艦、つまり一等戦艦を含めたあらゆる艦種の航宙艦、宇宙要塞、そして惑星の開発を自由に行える権利を持つとする。王家や国家の許可は今後、一切要らぬから自由にやってよい。もっとも、開発に成功した暁には王家へ報告する義務があるし、こちらが詳細な説明を求めたらそれに応じねばならないが――どうした、ウィル?』

 ……

 …………

 ………………あ。いかん、意識が飛んでた。

「あ、ありがたき幸せにございます!」

 そっかぁ。大型艦も宇宙要塞も、惑星も開発できるようになったんだぁ。

『あらあら、ウィルったらそんなに興奮して。よほど嬉しいのね』

「いやだって王妃様。何でも作れるって事ですよね?文字通り、何でも!」

『え、ええ。ウィルがそんなに喜んでくれて、お義母さんも嬉しいわ』

 あれ?王妃様の笑顔がちょっと引きつってるぞ?ま、どうでもいっか。

 でもこうなると、ますます宇大に落ちる訳にはいかなくなったぞ。

 あそこで学びたい事が増えた。

 そっかぁ。惑星開発か。資源はいくらあっても足りないぞ。

 人員確保も管理も今までとは比べものにならない。そうした事も学ばねば。

 それに大型艦。うひひ。

 帝国閥の教授達には唾付けといたし、試験が終わったらもちろん王国閥も巻き込んで、色々できそうだ。

 開発した惑星を拠点に、新型艦で構成した艦隊で広域調査という名の大冒険。先生も研究できるし、ティナも人助けができて楽しいだろう。うん。夢が広がりまくりだ。

 タルシュカットも当然巻き込んで――

『……おーい。帰ってこーい』

『本当に、考えている事が口に出るのねぇ』

 やばっ。また悪い癖がでたか。

『まぁ、こちらとしても、企みが事前に分かるのは助かるがな』

 王様と王妃様が苦笑している。それにしても、企みとは人聞きが悪い。

『いや、まんま企みだろう。何いきなり全部開発しようとしてるんだよ。実家の力を借りるにせよ、予算だって無限ではないのだぞ?聞けば植民惑星の開拓中というではないか。それが終わっておらぬのに、新規に惑星開発などしてどうするのだ?』

「僕の惑星ですから。それに実家に迷惑は、できる限りかけない積もりです」

 そう。僕の惑星。うーん。ロマンだねぇ。

『そ、そうか……ティナちゃん――いや、王女アルスティナよ』

『は、はいお父――いえ。陛下』

 ティナが跪いた。

『勅命である。今後もウィリアムと行動を共にし、必要とあれば王女の権限をもって、この者の手綱とせよ。見ていると、どうにも危なっかしい。特権を与えたからには、与えた責任を持たねばならぬが、適任者はそなたしかおるまい』

『はい。謹んで勅命承りましてございます』

 ティナは作法こそ完璧でお淑やかな態度だが、なんだかヤバそうなオーラが出ているように感じる。立体映像にそこまでの再現力はない筈だけど。

『そして高家男爵ウィリアムよ』

「はっ」

『本来ならここで励めよ、とでも言うところだが、そちにその言葉はまさしく余計。だから敢えて言おう。身体を愛い、無茶をするなよ?』

「はっ。お言葉、胸に刻み、いっそう励みにいたしたく思います」

『おいコラ。人の話を聞いておったのか?』

「はい。ですがこれが貴族として定番の返答にございますれば」

『う、うむ。そうであったの。しかしそなたは家族同様の高家。高家として本音を聞きたい』

「はい。では――

 家族に心配かけない程度に、力いっぱい楽しみたく思います!」

『よくぞ申した!やはりその方は面白い奴じゃ!』

 王様は爆笑し、それがこの前例無視の叙爵式の終了を告げるものとなった。

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