鍬と魔法のスペースオペラ 第七章 その3 王様との出会い
3・王様との出会い
午後の講義を終えてオーナールームに入った僕を待っていたのは、明日の朝に、王様に謁見する手筈が整った、という知らせだった。
うん。訳が分からない。
いや、ティナを助けた手柄だ、というなら、話は分かるよ?王女殿下な訳だし。
でもティナはお忍び旅だったわけで、それは今でもそれで通っている。
つまり僕らは単に、宇宙艦隊の独立艦隊を大規模宙賊から守り、宙賊を討伐しただけ、という事になっているわけ。
宙賊退治なら、どこの領軍だってやってる事だよね。別に王様から褒められる程のことじゃないと思う。
これが王としてじゃなく、父親として非公式にお礼を言いたい、という話なら謹んで受けるところなんだけどね。
謁見だよ謁見!つまり大勢の法衣貴族やら、超空間通信の立体映像で集まった星持ち、星系持ちの領主貴族の前で、王様に挨拶しなきゃならない。
それって、何の罰ゲーム?
僕はまだ10歳の子供で、しかも3次試験直前の大事な時なのに。
「王様相手に面接の練習をしておけば、宇大の面接如きは、どうという事はない」
「それにお父様だけでなく、貴族達にもウィリアム様を早い段階で知ってもらう事は、将来への布石になりますわ」
先生だけでなく、ティナもノリノリだ。
ちなみにティナはしばらく王都星に帰るつもりはないそうだ。気が済むまで、ここ[レパルス]に滞在し、先生の助手のような事をするんだって。建前上は。
本音は……うん、吊り橋のせいだろうから、どちらにせよ落ち着くまで、少し時間を置いた方が良いのかも。
ティナは王族だから、王国貴族籍のある僕の[レパルス]に滞在する分には、僕の許可を必要としない。さすがにプライベートエリアに無断侵入する事や、[レパルス]そのものを勝手に接収する事は慣習法上、良くないとはされているけどね。
あと、蛇足だけど、我らがフェアリーゼ星間王国には、慣習法はあるけれど憲法はない。
意思決定を迅速に行うことや責任の明確化のために、民主主義ではなく、敢えて貴族制君主国家にしている以上、改正手続きが面倒な憲法は、変化と多様性に満ちた星間王国にはそぐわないと考えたのだろう。
ちなみに星間国家でも、比較的小規模なところでは、議会制民主主義の国もあるにはあるけど、少数派だ。
それはそれとして、だ。
「どうしていきなり謁見なのさ」
「それはもちろん!わたくしがウィリアム様をお父様に紹介したいからですわ!」
ティナが胸を張る。うん、9歳なのに先生に勝ってるかもしれない。
「それは冗談として、ウィルがしでかした事が理由」
「むぅ」
ティナが可愛らしく口を尖らせるが、僕も先生も華麗にスルーだ。
「しでかした?」
宙賊退治以外で、何かあったっけ?
「ウィル式推進法を、帝国に教えた。正確には宇大の帝国閥の教授達にだけど、ウィルが[レパルス]に乗っている以上、いずれは帝国にも知られる」
先生の目が据わっている。
「教えるもなにも、もう5年も前に公表した事でしょ?」
5年といえば、僕の年齢の半分だ。うん、はるか遠い昔の話。
「ウィルにとっては昔の話でも、大人にとっての5年は短い。今回の戦果で、ウィル式推進が注目されている。王様も興味を持ったみたいで、会いたいと言っていた」
「ちょっと待って。王様と話したの?」
「うん。さっき。ウィルが午後の講義している間に。ティナが父親に無事な顔を見せるのを止められるわけがない」
「そりゃそうだ。心配しているだろうからね」
暗に、ティナに帰った方がいいんじゃない?と目配せしたけど、視線を合わせてくれないよ。
「とにかく、王様がウィルに会いたいと言ったんだから、貴族籍があるウィルは覚悟を決めるべき。礼服は持ってきた?」
「確かローレンスが用意してたと思う……うん、あった」
パーソナルモニターを操作すると、出るわ出るわ。礼服だけで二桁あるよ。これぞ貴族の見栄という奴だね。
「ん。ウィルの家の執事は優秀」
確かにローレンスのお陰で助かった。宇大に行くのに必要とは思えなかったけれど、結局必要になったからね。
今から仕立てるのも不可能じゃないけれど、着こなすのが難しいんだよ。身体データを元にしているから、ぴったり身体に合う筈なのに、どこか着せられている感が出ちゃうんだよな。
そしてそういう感覚に鋭いのが貴族という生き物だ。
王様に生まれて初めて謁見するというのに、礼服を用意していなかった田舎貴族として、ネチネチ言われるんだ。最低数十年。
こっちが受験の旅の途中なんて事情は、まったく考慮されない。まぁ、父様が中央に太いパイプでも持っていたら話は違うんだろうけど、生憎我が家の王国における知名度は最低値だ。
ともあれ、準備しなきゃ。明日になってからバタバタするのは拙い。
なにしろ[レパルス]は軍艦だ。当然、執事やメイドは乗っていない。従卒役の士官候補生すら、今回の旅では配属されなかった。
「それならば、わたくしがお手伝い致しますわ。これでも王家の一員ですから、いかなる礼服も熟知しております」
「いや。ここは私が適任。ウィルが5歳の頃から、メイド達が世話しているのを見てきた」
二人の鼻息が荒い。
「自分で着られるからいいよ。夕食の時間までには何とかするから、それまで先生はティナに艦内を案内してあげて」
「むぅ」
「……仕方ない。実は私もやる事があった。ティナにはそれを手伝わせる」
やる事?人工ワームホールの解析かな?
「[ミカン]はどうだった?」
「一応計測した。ウィルが宇大からどんなデータを提供されるかは分からないが、ソレとの矛盾点が出ればいいと思っている」
先生が引っかかる物言いをする。まぁ、僕も引っかかってるんだよね。
「消費電力が少なすぎるよね」
「あれだけの巨大施設。その維持管理だけでかなり電力を食う筈。1時間に30テラワット如きでは、ワームホールを構築できるとは思えない。
だから宇大がどう誤魔化してくるのか、今から楽しみ」
先生が無表情で言い切る。これは結構楽しんで……あれ?
「先生……何か気になる事でもあるの?」
いつもの先生とはどこか違う。これは純粋に研究を楽しんでいる顔じゃない。
まぁ、いつも無表情で口調も平淡だから、その違いは果てしなく分かりにくいけれど。
「気になる事ばかり。ウィルの明日の格好とか。だからウィルは準備を急ぐといい。
ティナ、行くよ。ここにいたらウィルが着替えられない。というか、手伝う約束」
「はいはい、分かりましたわ」
「はいは一度」
二人が賑やかに部屋を出て行く。
さて。どんな礼服が良いのか、パーソナルモニターと要相談だね。
翌朝。
僕は[レパルス]の第二特別通信室にいた。ティナと先生は第一特別通信室にいるけれど、通信に先生は参加せずに、機器の操作に専念するらしい。
実は先生はこっちの部屋で僕のサポートをしてくれる気だったんだけど、事情があるらしく、僕一人がこっちにいるわけだ。
この特別通信室。
超空間通信対応なのはもちろん、部屋全体を、指定したデータに基づいた立体映像で包む事ができる。
それもただの立体映像じゃない。
重力子と高分子を応用して、映像を擬似的に実体化させる事ができる。
もちろん、そんな荒技は相当システム的に無理をしているわけで、一度に実体化できるのは約3秒。ただし2秒毎に実体化フィールドを形成し、実体化映像を更新するので、この部屋にいる限り、理論上はずっと実体化させる事ができる。
匂いや味は再現できないけど、それ以外の再現率は高い。
現在艦内時間は午前4時。王都星の王城との時差は約2時間で、あちらは午前6時頃になる筈だ。
謁見は公式行事だから、普通はこんな早朝には行わない。
なんでも王様たっての希望で、謁見前に、私的に一度会いたい、との事だ。
昨夜遅くに通達があった。僕としてはああやっぱり、といった感じだ。
というか、公式謁見なんかやめて、こっちの私的会合で充分だと思う。
服装も正装ではなく、ラフで動きやすい物でよいそうだけど、さすがに全身タイツのようなトレーニングウェアという訳にはいかない。
というわけで、タルシュカット領軍の第一種オーナー服をチョイス。
オーナーは制度上は軍人ではないけれど、オーナー服は立派な軍服で、軍服である以上動きやすくできている……はず。
外見上は、ダブルのフロックコートが一番近いかな?両肩には金モール付きオーナー章、襟や袖口、ポケットカバーやボタンホールには金糸で刺繍が施され、それがブルーの生地によく合っている。
コートの下は白いベストと白いシャツ、それにキュロットのように裾が締まったライトカーキの半ズボンとまるでタイツみたいにぴったりとした白いロングソックス。
靴は軽くて柔らかいけれど、外部からの衝撃には滅法強い、黒い短靴。
外見上は、18世紀辺りの英国海軍正規艦長の格好が一番近いかな?というか、それを模してるから、それも当然か。実にオゥンドール家らしいというか、何というか。
さすがに三角帽はないけれどね。
ちなみにこれらは全て、グレード1の防刃、防弾、防光学兵器、耐熱、耐寒、耐衝撃、耐シャワー防水、防風の処理が施されている。
そして剣帯に吊り下げられた、金色の鍔のついた細身のショートソード。鞘と柄にはオゥンドール家の紋章が彫り込まれている。刃は一応付いてるけど、儀礼用だ。グレード2以下の装備にしか対応できないけれど、充分だろう。
それにしても、なんでパワーアシストオミットなんていう要望があったんだろう?
仮に僕が乱心して王様に殴りかかったところで、所詮は超長距離を隔てた立体映像に過ぎないから、王様に危害を加える事は不可能なのに。
そんな事を考えているうちに、指定された時間になったので、僕はスイッチを入れる。
たちまち殺風景な部屋から、豪華な……あれ?高級ではあるけれど、もっと殺風景で、だだっ広い部屋に出たぞ。
一辺が20メートルくらいの正方形の部屋で、一面が巨大な窓で構成され、窓からは早朝の日差しが柔らかめに調整されて差し込んでいる。壁は白一色、床はグレーで、滑りにく、かつ適度な柔らかさを持った、樹脂のような材質でコーティングされている。
器具はこれといって見当たらないが、スポーツジムのような部屋だ。
『よく来たな、ウィリアム卿』
そして、その広い部屋のほぼ中央で、立ったままふんぞり返っている、マッチョなおじさんが一人。他に人はいない。
おじさんは白いネックシャツに細身のトラウザースといったいでたち。腰には派手なブロードソードを下げている。
僕は慌てて片膝をつき、頭を垂れた。
「麗しきご尊顔を拝し奉り、このウィリアム・C・オゥンドール、恐悦至極にございます陛下」
そう。
目の前のマッチョおじさんこそ、フェアリーゼ星間王国の国王、チャールズ4世陛下その人だ。まさか一人で出てくるとは思わなかったけど。
年齢は45歳。
20年前のガイスト帝国との戦争において、敵味方の一兵も死なせずして戦争を終わらせた、人類二大英雄の一人として、将来の宇宙史の教科書に、太字で書かれる事が確定している人(もう一人の英雄は、当然ガイスト帝国の皇帝陛下)。
あの戦争は、始まったと同時に手詰まりとなって、結局講和するしかなかった、というのが戦史研究家の結論なんだけど、普通はそんな理屈で終わらないのが戦争という代物だ。
技術的、戦略的に手詰まりの筈が、ずるずる長引いたり、偶発的戦闘で戦火が広がったり、無人機が誤作動(?)して民間施設を破壊、多くの死傷者を出したりする。
結果、平和を希求すると称する政治指導者が、戦争大好きの独裁者より、多くの民間人を殺させた、なんて事すらあるんだ。
だから一人も死なせなかった陛下達の手腕は、並大抵の事じゃない。
しかも戦争当時、まだ25歳。王位を継いで、まだ数年しか経っていなかった筈だ。
まだ10歳の僕だけど、25歳になった時、それだけの手腕を持てるだろうか?
正直、自信はないね。
それにしても、大きい。身長2メートルを超えているだろう。そして全身筋肉の鎧で覆われ、いかにも高級そうなシャツを内側から押し上げている。
髪は暗い金髪を短く刈って、ツンツン立っていて、深い翠の眼光は鋭く僕を睨みつけている……いや、ただ見ているだけなのかもしれないけど、厳めしい顔付きと相まって、睨んでいるようにしか見えない。いや、本当に睨まれてるのかな?僕。
頬から顎にかけて、髭で覆われている。
まぁとにかく、迫力がもの凄いおじさんだね。夜道で出会ったら、引きつけを起こす人も出るかもしれない。
もっとも、このおじさんが夜道を一人で出歩くなんて事は、絶対にあり得ないんだけど。
『もう、それくらいにしてくれウィリアム卿。そこまでストレートに称えられると、恥ずかしくてかなわん』
ちらりと見上げると、王様は顔を真っ赤にしている。
うわ。またやっちゃった?
『娘から聞いている。そなた、緊張しすぎた時や、逆にリラックスしすぎた時、思った事を口に出す癖があるそうだな。
それが良い方に転べば良いが、王都星の海千山千の貴族共を相手にする時には、必ず足下をすくわれるぞ。気を付けよ』
なんと王様から助言されちゃったよ。
「はっ」
『返事が固いな。これは非公式の会合であるから、もっと砕けた物言いで構わぬぞ』
「はぁ」
もっと砕けた、ね。こういった漠然としたオーダーが、実は一番難しい。世の中には完全に自由な無礼講など存在しないのだから。忖度しようにも、僕はあまりに国王陛下を知らな過ぎるから、程度が分からないんだ。
『ではまず、卿は宇大受験直前の身というのに、こちらの我が儘でかような早朝に呼び出して、迷惑をかけたな』
「滅相もないです。僕はこれでも辺境とはいえ、伯爵家の三男です。陛下こそ僕一人のために時間を割いていただいて、申し訳ありません」
偉い人が『迷惑をかけた』という場合、大抵は本当に迷惑をかけたなんて、更々思っていない。王様もこれに当てはまるみたい。重々しく頷いている。
『まず言わねばならん事がある。ティナちゃんを助けてくれて、感謝するぞ』
そう言って、王様は僕に深々と頭を下げた。
「そ、そんな!王様、頭を上げてください!いかなる理由があろうと、王者たる者、簡単に頭を下げてはいけません!」
とは言えないんだよね。なにしろ王様に命令する事になるんだから。
だからこうするしかない。
「王様、僕こそ感謝しております」
再び頭を深く下げる。
王様は大きいから、子供の僕の方が頭が低くなる。これでいい。
『感謝だと?卿はティナちゃんを助けるという、偉大な武勲を上げたのだ。王として、父親として余が感謝する方が先だ』
いかん、王様がさらに頭を下げてきた。身体、柔らかいな。
でも10歳の身体の柔らかさには敵うまい。
「いえいえ、王家のため、王国のために奮戦する事は当然の事であり、それを栄誉として、こうして陛下に拝謁する事まで叶いました事、ただただ感謝するのみでございます」
僕の頭は床に接するギリギリだ。床に接してしまったら、それは感謝じゃなく謝罪になってしまうから、貴族としてそれはできない。王様なら尚更だ。
『くっ、ズルいぞ!ええい、こんな床如き、我が頭で突き破ってみせようぞ。卿より、深い感謝の念を表す事ができようもの』
いやいや。それは拙いって。
僕は慌てて頭を上げる。
「王様、僕の負けです」
『ほう。魔王軍四天王に勝利した勇者に勝ったか。意地は張るものだのう』
王様は立ち上がってニヤリと笑った。
「王様だったら本当にやりかねないですからね。そうしたらお妃様や宰相の皆様に恨まれるのは僕です。宰相さん達はともかく、お妃様は怒らせたくないです」
『うむ。分かっておるではないか。だが安心せい。床を壊して一番怒られるのは、当然余となろう。あと、ベスはそなたの事をティナちゃんから聞いて、相当気に入っているようでの。床を壊させた程度では怒ったりはせぬよ』
王様はカラカラと笑う。
うん、眼は笑ってないね。
王様は僕の考えに気付いているのだろう、ふと表情を改めた。
『でだ、勇者殿』
「僕は勇者ではありません。部下達は英雄ですが」
反乱貴族の魔王軍設定は、いわゆる乱心者設定だから、真実はともかくとして、公式にはそれで通っている。でも僕自身にまで、その設定が適用される必要はないと思う。
『昨晩、ティナちゃんから聞いたぞ。そなた、本当にアルスの生まれ変わりなのであろう?先ほどの、思った事を口に出す癖は、当時からのものだそうだな』
ガチでした。吊り橋による思い込みって凄いな。
「それは僕の癖に合わせた、いわゆる後付設定でしょう?王様は今回の事件の前に、そのアルスサマの癖について、お聞きになった事はございますか?」
『ある。昔から散々聞いた。アルス――そなたの前世の生涯については、当事者を除いて、おそらく王国で一番詳しいのが余であろう』
え?アルスって僕と同じ癖があるの?いや、いやいやいや。それもまた偶然でしょう。
というか、そんな与太話に、昔から付き合わされてるのね。
「それはまた、なんというか……ご愁傷様としかいいようがありませんが。ちなみに、癖については偶然の一致と思われます」
『ほう。戦闘時や発明などは柔軟な物の考えをするくせに、妙に意固地な所もある。まさしくティナちゃんがいっていたアルスそのものではないか』
「いやいや、人の性格が複雑で、単純に割り切れないなど、当たり前じゃないですか」
ここは一歩も引いてはいけない。
でも、どうしてこの人は僕をアルスにしたがるんだろうか?
アルス捜しのため、あんな艦隊まで仕立てるほどだ。財政的理由とは思えない。
「あの、失礼ですが、何かあったのですか?」
王様の反応は激しかった。
『そうだよ!聞いてくれよ!ティナちゃんが、ウィリアム様はアルス様に間違いないのですから、王国の全力でお守りしなければなりません!と昨晩言い出してな?』
おっと。そりゃ確かに大変だ。それに王様、いきなりはっちゃけたな!
『まぁ、それはいい。王家はそなたに大きな借りがあるからな』
いいんかい!
『だが、その後がいかん。
そなたがアルスだと自分で認めない限り、王都星に戻れないなんて言うんだ!』
な、なんだってー?
というか、ティナは何を考えてる?うん、口には出してない。気をつけよう。
少なくとも、昨日夕食の時には、ティナはそんな事は言っていなかった。その後、再び先生と何かやっていたようだけど……って事は、黒幕は先生?
朝食の時、二人とも妙にスッキリした顔付きだったけど。
うん。後で問い詰めよう。絶対だ。
『だから余は考えた。卿が自身の前世を認めるにはどうすればよいのかと。もちろん余がそう命ずるという手はあるが、それは悪手でしかない。それに卿が前世を認めたら認めたで、本当にティナちゃんが戻ってくる保証もない』
そりゃ、そうかも。
なにしろティナは長年アルスサマを追い求めてきたんだ。僕が一度認めてしまったら、二度と離れません!とか言い出しかねない。
『それに、余も本心では、卿が本当にアルスかどうか、確かめたいというのもある』
うん。それもまたもっともな話だね。
というか、それが当たり前の発想だろう。
だいたい、前世なんて代物が本当にあるんだろうか?
僕も王様も宗教家じゃない。
『そこでだ。シンプルに確かめる事にした』
「は?そんな方法があるのですか?」
『ある。こうやってな』
王様は重々しく頷くと、腰から剣を抜いた。
『抜け。答えは剣の中にある!』
うわぁ、脳筋だよ!
「王様いけません!王様に向ける剣は持っていません!」
王様は獰猛な笑みを浮かべる。
『ふふっ。なぁに気にする事はない。どうせお互い、相手は立体映像なのだ。遠慮は要らぬ。かかってくるが良い』
「いやでも、こちらのシステムが」
王様、こっちでは実体化しちゃってるんですけど!もちろん剣も!
『言い訳無用!答えは剣の中にあると言った!』
王様は思いっきり剣を振り下ろす。僕も思いっきり後ろに飛び退いた。剣を抜く?いや、意味ないし。こっちの剣は、向こうで実体化される事はないんだから。
つまり、切り結ぶ事はできないんだ。
『ふははは、どうした!遠慮は要らぬと言っておるではないか!』
王様は調子に乗って、剣を振り回している。殿様剣術の割に剣筋が良すぎる。実際戦う事なんかないだろうに、相当鍛錬してる感じだ。
宇宙艦隊戦も起きないと思っていたら、やっちゃった。今度は剣術?いったい、今は何時代?
まぁでも、パワーアシストオミットの意味が、ようやく分かったよ。
というか、さっさと実体化システムを切らなきゃ、僕が斬られちゃうよ!
でも王様の剣がなまじ鋭すぎて、システムカットの暇がない。って事は、今の僕、相当ピンチ?
『どうしたどうした!どうせこれは遊びに等しい立体映像の疑似決闘!だが相手の剣筋を見れば、人柄は分かるというもの!いいから抜け!でないと終わらぬぞ!』
うん。人柄は分かった気がするよ!
って、拙い!この部屋、避け続けるのには少し狭すぎる!
『もらった!』
もらったじゃない!やっぱりこの人、できれば僕を殺してやりたいと思ってるな!でもそれができないから立体映像を斬って憂さ晴らししたいといったところだろう。
王様の剣が僕の胸をかすめて、フロックコートを切り裂く。
『おおっ!そんな凝ったエフェクトが?』
おおっ、じゃない!そんな嬉しそうな顔をするな!
「エフェクトじゃありません!陛下の剣は、本当に僕を斬れるんです!何千、何万光年離れていても!」
『なんと!』
王様は剣を取り落とし、派手な音を立てた。