十六人目 家族と1
この話はリクエストの10.弟君視点(姉、母の鈍さと、人外にモテるせつなさと――)です。
あまり人外モテは出せませんでしたが、多分モテてるんだろうなと思って下さい。彼は基本アホの子です。
俺の名前はクラルス。無属性の魔力持ちという、ちょっと変わり種なハーフエルフだ。俺は俺のことをよくわかっているから、自分のことを【何処にでもいる】とか、【平凡】とか、【凡庸】とか言わない。ただし、俺は選ばれた人間だとか、そんな中二病を患っているわけでもないからな。
俺の両親は芸能人でも王族でも貴族でもないのに有名だし、姉の小雪も王族からのとんでも依頼を簡単にこなす、はちゃめちゃ魔石職人だ。一番下の秋雨は、俺と同じ無属性でかつ、赤ん坊のくせに妙に敏いところがある。たぶん俺が話している事とか、理解してる気がする。こんな家族が居るのに、俺が世間一般の凡庸とかあり得ねぇというわけだ。うん。俺は、ちゃんと分かっている。まあ、家族に比べれば凡庸だけど、そこは比べちゃいけない人達だろ。
「いや、お前もきっちりコハルさんの血を引いてるからな?」
「ん? 何を当たり前な事を。見た目は父さんそっくりだけど、魔力は母さんから受け継いでるんだから、そりゃ血を引いてるだろ」
血筋的にはハーフエルフとなるけれど、俺の見た目は、まんま父親のミニチュアだ。髪の色が無属性の銀色ってだけで、その他はそっくり。それもあって、俺はエルフ寄りの名前を貰ったのだ。
「そこじゃない。お前の図太さと鈍感さとタラシ属性は、絶対コハルさんから受けついでいる」
「そんなに俺、図太くないぞ?」
「竜王候補の俺の背中で観光しているエルフの言う言葉じゃないよな」
俺の友人のブロンテ―が何か言っているが、そもそも背中に乗れって言ったのそっちじゃんと言いたい。
今日は家族みんなで竜族の国に旅行に来ていた。母さんが旅行好きなのもあって、年一回皆で旅行に行くのが恒例だ。竜族の国は俺も何度か行った事があったけれど、秋雨が生まれたばかりの頃は旅行を控えていたのもあって、今回が秋雨の旅行デビューだった。その為行きなれているかつ、知り合いがいるここになったのだ。
「だって、俺の周り皆凄い奴ばっかだろ? 候補ならいいかなって思うわけよ。それとも、今更敬語とか使って欲しい? ブロンテ―がそれがいいなら、そうするけどさ」
一応は偉い奴って事は分かっているんだけど、コイツは友達枠なんだよな。竜だとグノーじいさんとかシルフィさんとか、その辺りに比べるとまだまだな感じだし。
「敬語は止めろ。お前の父を思い出して薄ら寒くなる。……ただ、珍しいと思ったんだ。いつもなら、お前は姉貴に引っ付いてるだろ。今回もそうかなと思えば違ったし。だから一緒に色々見て回ろうと思って誘ったわけだけどさ」
「いつもって三年も前の事だろ? 竜族って本当に時間感覚アバウトだな。今日はさ、幼馴染のハーフエルフが一緒だから、譲ってやろうと思ってさ。姉に言い寄る害虫退治に二人もハーフエルフが付いたら、無敵過ぎて相手が可哀想じゃん?」
姉の幼馴染は、姉より年下で俺より年上だ。だから俺の幼馴染でもあるけれど、小さい頃から姉の取り合いをしていた記憶しかない。そんな幼馴染が今回はついて来ているので、姉も安心だ。
姉は俺や父さんほどの美貌はないから、自分は残念な顔立ちだと思っている節があるが、そんなわけがない。美貌度はエルフ族の平均だし、人間からしたら上等だ。しかも母の小動物感を受け継いでるので、ほっとけない可愛らしいタイプである。魔力が無属性ではないから大丈夫とか言っているけれど、姉の作る魔石は母のと比べても遜色ない素晴らしい出来栄えで、それだけでも人攫いが出る稀有な能力だと思う。俺も魔石作りに挑戦したけど、全然だった。
できなくはないけれど、力技みたいになってしまって出来栄えは最悪だ。俺にはああいう細かい作業は向いていない。むしろ魔力が高いほどそういった細かい作業には向かないんじゃないだろうか。だから母と姉が特別なのだと思う。
というわけで、姉はきっちり誰かに守られるべきだ。本当に、その辺り自覚して欲しい。
「いや。お前、あの幼馴染、女だよな?」
「そうだけど?」
「……いや、うーん。そりゃ世の中、同性同士で好き合うこともあるのは知ってるけどさ、多分色々お前の認識ずれてるぞ。あまり言うと色々こじれそうだからアレだけどさ、幼馴染は姉貴だけじゃなくて、お前の事も守ろうとか思ってるんじゃないのか?」
「はあ? 俺の方が強いし、ないない。あっ、今、自信過剰とか思っただろ。そりゃ上には上がいるのは分かってるけど、最恐エルフの弟子の俺が、弱いわけないじゃん」
あまり偉そうなことを言うと、父にボコられて自分を見つめなおせと言われてしまうから、大きなことは言えない。でもそれなりには強いと思う。素手だけじゃ流石に父さんみたいに竜族を倒せないけど、魔法と組み合わせればブロンテ―にだって勝つ自信がある。
「知ってるよ。そうじゃなくてさ。ほら。無属性だから、竜の娘とかに言い寄られたりしないか心配なんだろ?」
「ああ。なるほどね。でもさ、この外見見れば分かるけど、俺はどう見ても人間よりもエルフの血が濃く出てるんだよね。という事は俺との子をもうけても、竜の外見で生まれるとは限らないだろ? いくら無属性にあこがれても、エルフと人間の混ざったような竜の子が欲しいなんて思わないって」
俺的には竜と混ざった我が子ができても、これはこれでありだと思うけど、それは俺の感性であって、世間一般的ではないくらいは分かる。
そして俺と外見の近い人間やエルフ族は、父さんの時と同様に、俺の事を観賞用だと認識しているみたいだ。つまりはモテているようで、全然モテてない。
でも気長に生きてりゃ、父親みたいにいつかはいい子も見つかるかなと思っているし、見つからなくても世界中を流浪の旅とかしてれば楽しいかなとも思っている。
「それに俺より秋雨がヤバいと思うな。今は赤ん坊だけど、外見は人間だし、魔力は無属性。頭も絶対いいし、将来女泣かせにならないように気を付けないと」
「まあ、あの赤ん坊がヤバいのは俺も分かるけど、うん。お前、絶対中身はコハルさん似だわ」
「は? 今の話の何処にそんな場面あった?」
「それが分からない所だよ。で、姉は最近どうなの? いい人いるの?」
俺がそれなりに人間やエルフ族の観賞用になっているから、ブロンテ―はモテてると勘違いしているようだ。まあ、別にいいけどさ。俺だって自分からモテませんなんて宣言したくないし。
「幼馴染には悪いけど、もう確実に母さんの先輩一択だと思う。年齢差はエルフ的には問題ない範囲だし、というかソレでいくと俺の父親犯罪だし」
エルフ族からしたら、父さんはペドフィリア扱い案件だ。ただ母さんは人間なので、辛うじてセーフの範囲だということにしておこう。じゃないと、俺ら生まれてこれないし。
でだ。
先輩一択というのは、姉の先輩への懐きっぷりからの推測だ。先輩にこの間こっそり教えて貰ったけど、彼は人間と精霊族のハーフで、この先どう老いるかさっぱり分からないらしい。魔力量は人間とさほど変わらないけれど、どうも年老いている気がしないそうだ。
そして姉の外見は徐々に先輩に追い付いてきている。小さい頃はおじいちゃん大好きという感じだったのに、いつしかお兄ちゃん大好きという感じに変化していた。そしてこの先はどう考えてもお兄ちゃんという感じではない。
母さんと一緒で、自分の信念を貫く頑固な姉の事だ。たぶんぶれない気がする。先輩が折れる未来しか見えない。
「あの、怖い先輩か……」
「怖い? すっげー優しいと思うけど?」
「それはお前らに対してだけだよ。まあ、いいや。それでクラルスはどうなんだよ。好きな子はいないのか?」
「いない、いない。だから将来的に旅にでも出るかと思ってるし」
あの村でじっとしてても絶対相手は見つかる気がしない。まだ流石に母さんが心配するから、姉が結婚するぐらいまでは実家にお世話になるつもりだけど、男なんだしいつかは独り立ちしようと思ってる。
「は? 旅?」
「うん。旅。父さんもしてたし、俺も自分探しの旅とか面白くない? 色々美味しいものを探したり、絶景見て回ったり楽しそうだし」
外見こそエルフ族だけれど、食事面は人間に近い。俺は美味しいものが好きだ。魔石も食べるし、魔素も取り込むけど、きっちり三食食事も食べる。
だから色んな国に行って、美味しいものを探すというのは憧れる。
「いや。お前、俺の側近するって言ってたよな?」
「そうだっけ? 小さい頃の事だろ?」
竜族の最近と人間の最近を同じにしたら駄目だ。小さい頃の約束なんて俺が覚えているはずがない。
「事だろじゃない。事だろじゃないから。なあ、お前があの最恐の下で訓練して俺の側近目指してくれてると思って、頑張っちゃったんだけど」
「良い事じゃない? 頑張るって、大事だと思うけど?」
「ちげぇぇぇぇぇ。糞がっ!!」
「王族が糞とか言っちゃ駄目だと思うけど?」
せっかくシルフィさんが、最近は竜王候補の自覚も出てきて、対外的には取り繕った言葉遣いもできて良かったと喜んでいたのに。糞なんて言ってたら、また顎で殴られると思う。
「なあ。お前はちゃんと俺の側近しろって。頼むよ。休みの日は旅行に行っていいし、お前の幼馴染も一緒に採用して離れないようにしてやるから」
「は? 何で? もしかして、アイツの事好きなの? 別に俺をダシにしなくても――」
「ちげぇぇぇぇ。本当に、お前、そういうとこ駄目だと思うぞ。うわああぁぁぁぁん!!」
「ええ?! 泣くなよ」
竜族の成長は遅いから俺よりずっと年上だけど、精神年齢は俺と同じぐらいだと思うんだけどな。でも泣かしたままというのは、何とも居心地が悪い。
「分かった分かった。側近するって」
「本当か?」
「本当、本当。姉が結婚してからだけど」
どうせ、最初だけ側近してればそのうち納得するだろ。
ブロンテ―が納得してからグルメ旅に出ればいい。あれ? 自分探しの旅だっけ? まあ、いいか。どっちも旅には違いないし。
俺は未来のご馳走を夢見つつ、とりあえず今日の夕食を楽しみにしていた。




