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十四人目 参列者と4

 突如響いた音楽と共に空から舞い降りたのは三頭の竜族だった。グノーとシルフィ、それと黒い鱗の竜だ。

 そして彼らが吠えた瞬間、参列者達が目の色を変えた。

『あれ、伝説のバンド、竜プリのグノー様じゃない?』

『三百年前に、電撃解散したあの?!』

 ……流石、人外。三百年前をつい最近のように語っている。そして、俺の両親もファンだったらしく、精神的つながりから、『見せろ』という感情というか圧がくる。勝手に俺の目を通してアイドルを見るぐらいはいいけれど、肉体を明け渡す気はないので無視しておく。というか、芸能人目当てに乗っ取ろうとか、ふざけるなだ。たぶん終われば勝手に出て行くだろうけれど、うちわ持ってキャーキャーやる気はない。……うちわ持ってキャーキャーしてたのか、俺の親。止めろ。そんな物騒な情報、俺の中に入れてくるな。俺の押しは小春一択で十分だ。


『うそ。暗黒竜のルシファー様までいるの?!』

『えっ。黒歴史のルシファー様?!』

 暗黒竜と黒歴史は同じ黒だけど、意味合いがだいぶんと違うと思うけどね。闇竜のようなので、そこからついた二つ名だろうけど、何で黒歴史。

 そう思っていると、エルフにボコられて負けた黒歴史の所為でしばらく引きこもっていたという、いらない情報が精霊族の本体ともいえる部分から送られてきた。というか、本体もファンなのかよ。

 ファンではなく沼だとか、わざわざ送ってくるなそんな情報。俺自身が変質しないように、精神的にできるだけ切り離すが、多少壁ができる程度でこのパイプは切っても切れないので、ため息しかでない。

 というか、エルフって、あのエルフ君なのね。……素手でボコったとか、本当に伝説級だな。流石最恐のエルフと呼ばれている男だ。


『今日はコハルの為に歌うわよ』

「「「「「「きゃああああああ」」」」」」

 ……人間は大概平和ボケしていると思ったけれど、人外だって同じだな。俺の親もなんか全裸待機とか言ってうちわ持っているみたいだし。というか、全裸とか言っても、精霊族なんだから、そもそも裸になる肉体がないだろ。

「「「「「ちょっと待ったっ!!」」」」」

 生暖かい目で、とりあえず中継しておいてやると、更に馬が飛びこんできた。……うん。馬だ。まごうことなく馬だ。

 ただし、頭が馬の馬頭族、体が馬のケンタウルス族、翼の生えたペガサス族に、角が生えたユニコーン族、後ろ足が魚のケルピー族と、一応ただの馬ではなさそうだ。でも俺からしたら馬だ。

 しかしその五人というか五頭が出て来た瞬間、更に会場で黄色い悲鳴が上がった。

『嘘?! 馬ファイブ?!』

『竜プリをリスペクトしている彼らが共演だというの?!』

 馬ファイブ? なんだそりゃ。

 馬ファイブ。伝説級のアイドルユニット。馬系部族だけではなく、世界的に愛されている。ちなみに、精霊王はケンタウルス派――って、知らんがな。えっ? 親は馬頭派? ……あ、そう。同担OKって言われても、俺はファンにはならないから。

 

 キャーキャーという、精霊族のパイプからの声も五月蠅ければ、周りの熱狂具合も五月蠅い。俺は人間なんだよ。そして人間は、肉体美より、顔派なんだよ。さらに言えば、男は女のアイドルの方が好きなんだよ。そういう宿命なんだよ。変なもの押し付けてくるな。

 全てを遮断したくても、流石にそれは無理なので、俺は少しだけ人混みから離れた。色々キツイ。ああいう熱狂するライブとか、人混みには極力行かないから、慣れていないせいもあって余計につかれる。

「……マジか、夏鈴はケルピー族押しなのか」

 チラリと見えた夏鈴が、熱心にケルピーの魚の尾を見ているのを見て、そういえば蒼汰も尾フェチだったもんなと思う。隣のエルフ族が気が気でない様子で夏鈴を見ているが、安心しろ。アイドルと旦那は別腹だ。


 どこかに馬アイドルとか竜バンドに興味がない普通の人間はいないだろうか。……そもそも人間率低いもんな、ここ。

 無理かぁとぐったりしながら椅子に座っていると、人が歩いて来た。

「先輩。こんにちは」

 そう声をかけてきたのは今日の主役だった。いつもとは違い顔はしっかりメイクされ、普段の彼女なら絶対着ないAラインの純白のドレスを身に纏っている。

「……ここに、清涼飲料水がいた」

「は?」

「良かった。小春が、小春のままで」

 美しく整えられた彼女の手を握りしめた瞬間、彼女のものよりも大きな手が俺の手を握りしめた。


「先輩? 貴方が兄的立場だとは分かっていますが、あまり私の妻に触らないで――」

「うんうん。エルフ君がエルフ君のままで良かった」

 思わず俺はエルフ君を抱きしめた。ピシリと固まったが気にしない。今は彼の嫉妬心の方が心地いい。馬やら竜の熱に侵された、沼な人達からの精神攻撃よりずっと優しい。

 小春も人外アイドルには全く興味がないようなので、この二人の傍が今は一番の安全地帯だ。

「先輩、どうしたんです? 確かにアクアさんは抱きしめたくなるぐらい綺麗ですけど」

「うーん。そうだね。エルフ君だけでなく、君たち二人共綺麗だよ。ただ小春を抱きしめるわけにはいかないからね。怖ーい旦那に睨まれてしまうし」

「ありがとうございます。夏鈴がメイクとかやってくれたんです。三割増しぐらい美人になりましたかね?」

「大丈夫だよ。今の小春は誰よりも綺麗だ。それにね。メイクなんてなくても、俺にとっては可愛い妹だよ」

「えへへ」

 照れている姿もまた良し。


「いい加減に放して下さい。……そうですよ。コハルは可愛いんです。だからいつだって私は心配なんですよ」

「アクアさんのは、痘痕も靨だって何度も言っているじゃないですか。普段の私を可愛いなんて言うのは、先輩みたいな身内だけですよ」

 さりげなく身内扱いされてニヤッと笑うと、エルフ君が口をへの字にした。これから小春を独占し続ける癖に、心の狭い奴だな。でも、よし。浮気なんてするような男だったら、全力で破滅させてやる所だ。

「それにしても凄い出し物だね。主役そっちのけで皆が余興を見ているよ」

「シルフィさんから言ってもらえたんです。本当は立食パーティーみたいな形で、何かやる予定はなかったんですけど」

「馬ファイブも、それなら俺らもと自分たちから言って来て、今一緒に歌っているみたいですね」

「あまり人外の芸能人に詳しくないから、申し訳ないんだけどね」

 きっとプレミアムな価値なんだろうなと小春が思っているのは多分正しいだろう。でも俺は小春が沼側の人間でなくて良かったと心の底から思っている。それに人間の好みの顔からはほど遠いので、夏鈴達が特殊なだけで、人間ははまらなくて普通だ。


「そうだ。さっき、夏鈴に聞いたんですけど、先輩が式の様子を色々撮影して下さっているとか。ありがとうございます。でも無理せず、楽しんで行って下さい。いっぱいご飯も魔石も用意したので」

 テーブルの上にはご飯だけでなく、色とりどりな魔石が置かれていた。俺ら人間からすると、ご飯と同列で石が皿の上に置いてあるのは何の冗談だろうという感じだけれど、人外が多いこの結婚式なら大層喜ばれるに違いない。

「ありがとう。でも撮影は俺の趣味でもあるから。俺もね、小春の幸せな姿を残しておきたいんだよ」

 五歳の頃から彼女の成長を見守ってきたのだ。だから俺の手を離れるこの瞬間も、ちゃんと残しておきたい。

「分かりました」

「そうだ。後で、天使族を紹介してくれないかな? 接点がないから声をかけにくくて」

「いいですよ。でも私もそこまで接点があるわけではないので、あれなんですけど」

 いや、小春に接点がなければ、誰もないから。

 天使族はエルフ族の排他的な感じとはまた違うタイプの付き合いにくい種族だ。昔は人間ともかかわりがあったと言われるけれど、今では全然である。

 女王と小春の間に遠すぎない血のつながりがあるのは分かるけれど、結婚式にまで招待するほどの仲で居られるのは、ひとえに彼女の人柄が関係していると思う。


「そうだ。小春。改めて、結婚おめでとう。結婚したら一人前だから、何でも二人で頑張らなければいけないと思っていそうだけど、ここに居る人はね、皆君の味方だよ。何かあったら、必ず頼るように」

「……はい。ありがとうございます」

「アクアもね、頼っていいんだよ」

「……ありがとうございます」

 俺の言葉に、二人は最高の笑みを見せてくれた。うん、この幸せな顔を見られたなら、出席したかいがあったというものだ。

 俺達が話していると、花火が上がった。花火というよりは、魔法だな。たぶん、この会場の誰かが興奮して打ち上げたのだろう。人外ならではだ。


「一応民家からは離れているけれど、近隣住民から苦情が出そうだから、そろそろやめさせようか」

「やっぱそうですよね……。グノーさーん!!」

 小春が声を張り上げ、アイドルグループ達の方へ走っていく。それを見送りながら、俺はアクアを見た。

「小春は強いけれど優しい分、脆いところもあるよ。だから、あまり泣かせないでね、色男君」

「泣かせません」

「……ちょっとぐらいは泣かせてもいいよ? 泣いた小春は可愛いから」

「泣かせません」

 アクアが俺を睨む。うんうん。守る気満々だね。だから俺も安心できる。彼は口だけじゃなく、ちゃんとそれをする力もある。

「うん。よろしい。だからね、君がそう思っている間は俺を頼っていいよ。でも俺は小春押しだからね。もしも手を離しちゃったら、遠慮なく貰っていくから」

 可愛い可愛い妹分なのだ。

 ちょっとぐらい泣いた顔とかも可愛いけど、泣かし続けたいわけでもない。だから、一応忠告しておく。

 きっとこの忠告はあまり意味はないだろうけど。真名を呼ばれたら俺が変質するだろうなと思うぐらい、小春は俺にとって大切な子なんだ。それを分かってくれれば、それでいい。


「分かりました。ずっと頼らせていただきます」

 そういって手を差し出す新しい弟を、俺は受け入れた。

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