十三人目 魔術師と2
今の魔力耐久力試験で、受験者の数はそれなりに減った気がする。そんな中で今度は室内に入り、第二試験が始まった。
この試験は嫌がらせのしようがないもので、お題の魔道具を作るだけだ。魔道具というのは結局のところ、魔方陣を介して魔法をスムーズに使うものであり、魔石を作る為の紙だって魔道具だし、魔石で動く空飛ぶ絨毯も、水を出す水道も火を出す火道も魔道具となる。
「良かった。お題はただの魔法の箒か」
お題の箒は、どんな属性でも自身の魔力で動かせて、さらに雨除けと温度調節機能、後はスピードの調節を可能にすることと書いてある。
良かった。箒なら直接サドル部分に魔法陣を書く事ができる。これが絨毯だと、インクが上手く使えないので、針と糸で刺繍しなければいけないのだ。そうなればかなりの時間がかかって、とても試験時間で終わるとは思えない。そういう嫌がらせだったらどうしようかと思ったが、これなら大丈夫だ。
東さんの授業はある意味スパルタで、ひたすら魔道具は実戦で作らされた。そして作る前も後もひたすら魔法理論の説明が入る。徹底的に入る。そして話し出したら止まらない。……ああいう人をきっとオタクというのだろう。でも何度もやるうちに、ちょっとだけその楽しさというのも分かって来た。
最初に魔法陣という存在を考えたのは神に違いないと東さんは言っていたけれど、私もそうだと思う。魔法陣は魔力の動きを決めるもので、決められた動きをする事で魔力は形を変え、火をおこしたり、水を吹き出したり、風を起こすのだ。普通に魔法でもできるけれど、魔法陣は寸分狂わず同じ動きをするので、魔法陣に亀裂などが入らない限り、魔道具は同じ動きが必ずできる。
今の大学の研究はもっぱら新しい魔法陣の創設と既存の魔法陣の組み合わせで新しい動きを起こすというものだそうだ。道具としての新しいものは、企業が中心となって開発しているらしい。
私がやってみたい、魔石の中に魔力を二種類混ぜて入れ、その魔石を使う魔法陣を開発するというのは大学向けの研究となるそうだ。そもそも今は感覚で二種類混ぜているのを、感覚ではなく必ず魔力が一定の混ざり方をする魔法陣を開発をしてからじゃないとその先に進めないらしい。私一人が使うためのを――なんて呟いた日には、東さんに長々と説教されたのはいい思い出だ。
魔道具は万人が使えるようにしてこそ魔道具らしい。魔法と魔道具の違いはそこにあり、自分一人が使えるものをなどという身勝手な発想は止めて、大人しく自分の研究を手伝えと言ってきた。……ん? すごく良い話をしてもらえた気になっていたけれど、よく考えるとモルモット継続よろしくーと言われたのでは?
アクアさんは以前婚約関係になった事もあり、東さんを警戒しているが、あの人はただのオタクだ。色々魔術師になる為に手伝ってもらったのだし、魔術師になった後も多少彼の研究に力を貸すのは問題ないと言えば、問題ないけれど……。
そんなことを考えながら魔法陣を書いていたが、制限時間前に無事に書き終わった。見直したが、特に問題なさそうだ。試験官に渡すと、反応が微妙だったのが若干不安ではあるけれど……間違ってないよね?
分からないけれど、終わったら退出して、次の試験まではお昼休憩なのでさっさと部屋を出ていく。お昼は外で食べても良い事になっていたので、アクアさんと待ち合わせしていた。しかも今日は奮発して、トンカツ屋に入る約束だ。何があろうと、とにかく私は勝つためのメニューだ。
そして試験に受かって、アクアさんに告白する!
もうここまで来たからには引き下がれない。
……なんだか店の選択が、おしゃれ感から一気に離れているけれど、アクアさんはわたしのことを十分理解しているので、良しとしよう。どうせフラれるのだ。下手に背伸びしたって仕方がない。とにかくこれが最後のランチデート(付き合っているわけではないけれど)になるのかもしれないのだから、楽しく食事をしたい。
そんなわけでウキウキしながら、誰よりも早く試験会場を出てしまった私は、その後私の事を受験生たちが噂しているなんて知らなかった。
「ねえ。あのK少女、魔法使う時何だか光っていたんだけど……」
「見た見た。あれって、魔力が相当高くないと出ないんだよな? しかも俺隣にいたから目を疑ったんだけど、なんか三種類の魔法同時発動してたぞ」
「そうそう。出題した試験官が目を見開いていたわ。でも一種類の魔法を二時間魔法を使う方を選択してくれたら、魔法を使うところをじっくり眺められたのに。残念だわ」
「試験官だけずるいよね。三十分とか言ったのに、結局見惚れて一時間やらせてガン見しているし」
「あの女試験官、動画撮影していたぞ。あれ、俺らにも見せてくれないかな」
「そういえば、K少女は?」
「さっきの二次試験、一番に終わらせて外に休憩に行ったらしいぞ」
「マジで?! 俺制限時間一杯使ったのに、それでも心配なんだけど」
こんなに噂されるなんて思ってもみなかった私は、休み時間が終了して戻ってきた時に妙に注目されてビクリとなるのだった。……週刊誌の影響怖いと思いながら。
◇◆◇◆◇◆
予定より早めに外へ出られた私は、商店街をふらりと歩きながら待ち合わせのトンカツ屋に向かっていた。
「あっ。そうだ。告白するなら、何かプレゼントを用意した方が良いのかな」
ずっと昔、夏鈴とそんな話をしていた。でもまさか、こんな風に本当に人に告白をしたいと思う日が来るとは思っていなかったので、記憶の彼方だ。
そもそも私はあまり告白というものが好きではない。というのも、施設に居る時に、ゲームに負けた男子が『付き合って下さい』と嘘の告白をしてきたのが原因だ。それが嘘だというのは夏鈴がその男子たちをボコった事ですぐに分かったが、子供ながらに私は罰ゲームにされるぐらい圏外な女子なのだと理解した。元々コられた男子が好きだったのが美人な夏鈴なのを知っていたから、告白された時点でおかしいなぁとは思ったけれど、された時はもしかしてと少しだけ本気にしかけた。
それが凄く恥ずかしくて、私はそれ以来、絶対勘違いしないと心に決めて生きている。私は凡庸などこにでもいる人間で、誰かの特別にはなれない女子なのだ。
でも特別にはなれないけれど、それでも告白したいと思う日が来るとは思わなかった。
そんなわけで、私は最初から外見を磨くのは捨てた。そもそも好きになってしまった相手が、越えられない壁並みの美貌と色気を持っている。それに男子達から圏外扱いされたのは、私の内面の問題ではなく外見の問題だ。夏鈴は私の事を可愛いと言ってくれるけれど、同性の可愛いは当てにならない。いや、夏鈴が悪いわけではなく、男と女では捉え方が違う。それに私を罰ゲームの相手に選んだ男子達とは、卒園まで友人としてはそれなりに上手い距離が取れていたので、性格がどうのこうのという話ではないだろう。となれば顔だ。
だから私は能力を磨いた。
とにかく告白して、周りから笑われても堂々としてられる程度の強さが欲しかった。そして魔石作り以外に、魔術師としての資格があれば、叶わない夢を見たと笑われても、もう一度立ち上がれると思う。
「あっ。そうだ。告白の時に必要なのは、指輪とか薔薇の花束とかだっけ? いや。それは告白というよりも、結婚を申し込む時のような……」
でも、いっそ結婚を申し込むというのはアリかもしれない。どうせ当たって砕けるのだ。
付き合うだけなら、アクアさんも私を憐れに思って断りにくいかもしれないけれど、結婚となれば確実に断ってくるだろう。うん。下手な情けはいらない。
思い立ったら吉日で、私は寄り道をして先輩の店で指輪を買った。もちろんお金はたいして持っていないので安物だけれど、これで恰好はつく。
合否は今日出てしまうので、試験が終わったらとにかく告白だ。
受からない可能性もあるけれど、もう、告白の為に絶対受かる。もう一年、うだうだと悩むのは勘弁だ。
寄り道した所為で時間がかかってしまい、小走りでトンカツ屋に向かうと、店の前にアクアさんが立っていた。五年経ってもさすがエルフ族で彼の美貌は変わらない。町ゆく人が皆、アクアさんを見ている。
「コハル」
そう言って、笑いかけてくれるアクアさんの色気に、私以外の女性が腰砕けになっていたが、いつもの事だ。きっとなんでこの女がこんなに親しげなの? と思われていそうだけど、今は親友なのだから堂々とできる。友情に関しては周りがとやかくいう話ではない。
「遅くなってごめん」
「いえ。私も今来た所なんです。少し時間が押してしまって」
何かアクアさんも用事を片付けてきたらしい。少しだけ服がよごれている。
「何か仕事してたの?」
「色々最近うるさかったので、少々ごみ掃除をしてきたんです。後は、肉体言語も使いつつ、話し合いですね」
「えっ。もしかして、大家さんに掃除しろとか言われたの? ごめんなさい!」
私が借りている長屋の大家は、時折家の周りの掃除をして欲しいと苦情を言ってくることがある。一応家主は私だけれど、一緒に住んでいるので、アクアさんに嫌味を言ったのだろう。
「そうですねぇ。大家さんには大切なものは大事にしなさいとは言われました。とりあえず使える者と使えない者に分類して掃除をしたので大丈夫ですよ」
「一人でやらせてしまって本当にごめんなさい」
ううう。アクアさんは護衛なのに、掃除までやらせる事になるなんて。本当に申し訳なさすぎる。アクアさんが良い人だからこうやってにこやかに対応してくれるけれど、普通なら怒って解約されても仕方がない案件だ。
……告白の成功率は低いと思っていたけれど、こんな状況では0%まで低下している気がする。まあ、仕方がない。
「それよりも早くご飯にしましょう? 沢山頑張ったからお腹も空きましたよね」
「はい」
私はトンカツ屋の中に入ると券売機でかつ丼と、アクアさん用のジュースを選ぶ。そして席についてから、忘れる前にと切り出した。
「そうだ。アクアさん、試験が終わったら護衛の契約の事で話があるんだけど」
「えっ?」
「それほど時間はとらないからよろしく」
何だかアクアさんの笑顔が凍り付いている気がしたが、私は口に出した言葉を戻す方法はないので、これで良かったのだと思う。
この関係は期間限定だと最初から決まっていたのだ。




