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十三人目 魔術師と1

この話はリクエストの5.コハルとアクアさんのプロポーズ話と8.最強、最恐ネタです。

時期は本編の五年後。魔術師の試験を受けるあたりの時間軸となります。

 私が魔術師の試験を受け、筆記試験を突破すると、妙に噂されるようになった。噂されるというより、色々なメディアが私の事を取り上げようとするのだ。

「……そんなに魔石職人から魔術師になるのは珍しいかな?」

 取材された記憶もない週刊誌に、『親に捨てられた魔石職人の成り上がり』と題して、Kさんの話が書かれている。語るも涙な過去を持つ魔石職人のK少女が、竜族やエルフ族などの人外の力を借りて魔法を学び、月明りの下で魔術書片手に魔道具の勉強を独学で学び、ついに魔術師試験の筆記を突破したとある。さらに大学にも通えぬ憐れで健気な少女に同情した鷹藤家の当主が、時折大学講師の甥に教鞭をとらせたとも書かれていた。

 ……私の経歴に似通っているけれど、私の事ではないような気がしてくる内容だ。そもそも私は捨てられたのではなく、親が事故死しているだけだ。そんな虐待された記憶はない。

 勝手に話を盛らないで欲しい。それとも私が自意識過剰なだけで、ここに書かれたK少女は私ではないのだろうか。


「こっちは、エルフ族との熱愛。竜族との三角関係……シルフィさんに怒られて下さい。というか、アクアさんもすみません。本当に、何でこんなことになってしまったのか」

 そもそも、芸能人でも著名人でもないのに、私の名前が全国放送されてしまったのは、私が闇オークションで売られかけ、国際警察に保護されたのが始まりだった。私自身は特に面白みのない人間だが、闇オークションが都市伝説ではなく実際に存在し、しかも本当に売られそうになっている人がいるというのは、人間の国ではショッキングな出来事だったのだ。

 最初は私の事よりも、その時の商品にされていた女性の方が話題になっていた。まあ、実際の生き証人なのだから野次馬根性で気になるのも分かるけれど、被害者の方を取材しようとする姿勢はどうなのだろうと思わなくもない。

 それは私以外もそう思ったようで、新聞などの読者コラムに今の取材の在り方についての疑問などが投稿され、色々話題になっていたそうだ。ちなみにその頃の私は、新聞を買っていなければ、最近流行りの週刊誌に映像が流れる『カセット放送誌』を買う事もなく、黙々と魔術師になる為の勉強と仕事に励んていた。だからこんなに話題になっているなんて、露程も知らなかった。


 そして世間の流れが、人間売買の被害者の傷を抉るのは良くないという流れになった事で、記者達は新しい話題として私に目を付けた。同じ闇オークションの被害者だが、私が売っていたのは魔石だ。そしてとんでもない金額で私の魔石が取引されたことを面白可笑しく書き始めたのだ。

 最初はただの魔石職人が他種族にはウケるというネタからスタートした。実際魔石に対しての考え方が人間と他種族では大きな隔たりがあるのは事実だ。

 続いて、私が作った魔石化した宝石が今までの常識を覆すものだったと貴重性を書き始め、こんなものは魔術師にも作れないのではないかと、魔石職人が魔術師を超えたなどという、魔術師協会を煽るような書き方をし始めた。……ちなみに私は一切取材を受けていないので、これは勝手な記者たちの脳内で出来上がった話だ。私は魔術師はちゃんと知識のある資格で、魔石職人が超えたなんて思うはずもない。そもそも、私は超えたと書かれた魔術師を目指しているのだ。


 そんなわけで、私は魔術師協会に対して何の発言もしてないのに、勝手に魔術師VSな状況になってしまった。その上でプライドを傷つけられた魔術師達は、私がそんな事ができるのは、無属性という少々風変わりな魔力を持っているからにすぎず、魔石職人はあくまで魔石職人だと発表。……本当に勘弁して欲しい。

 無属性の所為でそもそも人身売買されかけたのに、無属性であることを思いっきり暴露してしまったのだ。顔写真付きでその発表がされた新聞は、人間だけではなく世界中で爆発的に売れた。あまりに世界が注目した事で、ようやく頭に血がのぼっていた魔術師達も『あ、コレ、暴露したら駄目だったやつじゃ』と気が付いてくれた。でも、もう遅い。実名も、顔も、住んでいる大体の場所も全て公表され、その上で魔力が無属性である、出産適齢期の女性だとモロバレした。


 この時世界中から一斉に見合い話や求婚が殺到した事で、新聞を読んでいなかった私も、ようやくとんでもない事態になっている事に気が付いた。アクアさんが攫われないように護衛してくれているが、お外怖いレベルの状況に陥ったところで、今度は先輩が世界中に私の交友関係を暴露した。その時の放送を見ていなかったので詳しくは分からないが、とりあえず知り合いにロイヤル的な人が何人かいたらしい。……誰だろう?

 そんな感じで私に手を出したら怖い事になるよーという、何だか虎の威を借りた狐のような状態ではあったが、その暴露話によりとりあえず人目がある場所でも無理やりさらおうとする方はいなくなった。ほっとしたのもつかの間、今度は人間の方が私の交友関係に食いつき、世間をにぎわせる話題が特にない時は、色々といじられるようになってしまったのだ。


 勿論私は一般人だ。だから書きたてられても、名前は必ずKさんで、顔写真はNGとなっている。でも既にそのKさんの実名も顔も色々ばれている。……もう、本当にやめて欲しい。

 そんな中、相変わらずネタがなかったらしい記者が、私が魔術師試験を受けようとしている事を記事にしたのだ。しかも異例の、義務教育以降学校に通わない状態での受験に、世間は大きな騒ぎになった。取材を申し込まれたが、もちろんNO一択だ。無理にぐいぐいくると、アクアさんと人工精霊のグノーさんが前に出て威嚇してくれているが、その結果が熱愛報道。こんな話題しかないなんて、本当に人間の国は平和だなとちょっと思った。


「コハルの所為ではありませんから。気にする必要はありませんよ」

「本当に平和ボケしている種族ですみません。アクアさんの想い人がこんな眉唾記事で勘違いされないと良いけど……」

「私としては勘違いしてくれていいんですけどね」

「……へ?」

「いっそ、この記事を本当にしませんか?」

「本当にシルフィさんに怒られるから、そういう冗談は止めましょう」

 三角関係とか、奥方であるシルフィさんを侮辱するにもほどがある。幸いシルフィさんはこのあり得ない記事にお腹を抱えて笑って下さっているけれど、でも酷い話だと思う。妻ならこの泥棒猫と怒ってもいい。


「三角関係の方ではないんですけどね……」

「じゃあこっちの記事の事? でも出生は変えられないよ? 捨てられたんじゃなくて、普通に交通事故遺児だし」

「そっちでもないんですけど……、まあ気にする必要はありませんよ。私やコハルの周りの人はこの記事がガセだと分かっていますし。それよりも魔術師試験頑張りましょう」

「そうですね!」

 妙に注目されてしまっているが、やることは変わらないのだ。もしかしたら出題する試験官が嫌がらせで難しい魔法を要求してくるかもしれない。でもそれぐらいこなせなければ魔術師としてやっていけないと思えば、俄然やる気もでる。

 魔術師になる為の勉強を始めて五年。

 私は新たなる一歩を踏み出す為に、受験に燃えていた。



◇◆◇◆◇◆



 受験会場には、百人程度の人が集まっていた。この人達は皆、一次の試験の筆記を突破した人である。

 筆記試験では、魔法陣の記入から魔道具の理論問題など、魔術師として最低限知っていなければいけない内容が出題されていた。

 そして二次試験は、実技試験だ。まずは一定レベルの魔力があるかどうかを見られ、次に魔法陣で魔道具作成をさせられ、最後に受験者同士で模擬戦を行う。最後の模擬戦は、魔術師資格があれば軍所属ができるのでその確認のためらしい。絶対相手を倒さなければならないわけではないらしいが、その時に使った魔法を見られる。

 個人的には軍に所属する気は全くないので、模擬戦は辞退したいが、そんな我儘は通らないので周りに合わせるしかない。

 ちなみに、この模擬戦は一般公開される。というのも、軍人が新人確保するために見にくるからだ。他にも魔術師と関わりのつよい企業なども新人魔術師に声をかけたいという事もあり、そういう仕組みになっていた。……最近妙に目立ってしまっているので、いやな予感しかしないけれど、アクアさんも模擬戦は応援席で見てくれるので頑張ろうと思う。

 それに私はこの試験を無事に突破したら、アクアさんに告白しようと思うのだ。

 私が魔術師の資格を取れば自分の身は自分で守れるという事で、グノーさんもアクアさんの護衛は不要だと判断するだろう。お金の出どころはグノーさんだから、私が離れたくないという理由だけでは契約が続けられない。

 じゃあさようならと別れてしまう前に、私は自分の恋にちゃんとピリオードをつけようと思っている。きっと優しいアクアさんなら、傷つかないように私をフッてくれるはずだ。そして親友としてけじめをつけて、お互い別の道を歩き出せたらいいと思う。

 だからこの試験は私の人生でも大きな転換期なのだ。


「では、最初の試験だ。私の魔法を良く見なさい」

 魔術師の資格保有者のみが着ることを許されるローブを纏った試験官は受験生の前に立つと、目の前に炎の柱を立てた。

「火属性の者はこのような炎の柱を、水属性、土属性の者も自身の魔力用いた柱を作り一時間維持しなさい」

「風属性、光属性、闇属性の者はこちらを注目して下さい」

 もう一人の女性試験官は目の前に光の玉を作り出した。たぶん光属性だろう。

「一定レベルの魔力が注がれた球を作り出し、一時間維持しなさい」

「その他の属性の者は手を上げなさい。私がそれぞれに出題をします」

 更にもう一人の眼鏡をかけた初老の魔術師が喋った。私の無属性はその他に含まれるので手を上げる。私以外にもちらほらと手が上がったが、全部で十人もいないぐらいだろう。


 私の前にきた男は、私を見て目を見開き、『君か』と呟いた。……すみません、受験前から目立ってしまっていて。

「属性は何かね」

「無属性です」

「魔力転換して魔法を使う事は可能かね」

「大丈夫です」

「なら、折角だ。光属性、闇属性、風属性の三種類の魔法を同時に発動させなさい。時間は三十分でいい」

 私の周りの受験生が、えっ?!とどよめいた。

 だよね。私も、こんな最初から嫌がらせされるとは思わなかった。

「数種類の魔石を同時に作る事ができるのだろう? 魔力転換する分、魔力消費が激しい。だから時間は半分とする。その代り、三種類同時に魔法を発動しなさい。まあ、できないなら、一種類でいいが二時間やりなさい」

 ……何で、他の受験生より時間が延びてるんだ。今、魔力転換は消費が激しいと言ったじゃないと言いたいが、どうせ言っても無駄だ。いろいろ理屈をこねられるだけだ。

 そもそも三種同時なんて出来ないと思っているに違いない。普通、人間は違う魔法を同時には発動できない。だから魔道具が発達しているのだ。でも私だって伊達にエルフ族や竜族を師匠にしているわけではないのだ。

 それに他の受験生より長時間魔法を使って見世物になる気はさらさらない。一時間も一人だけ魔法を使い続けている所を見られるなんて、昔給食が食べられなくて休み時間や掃除の時間中もさらし者のように食べさせられていた同級生を思い出す。あれは可哀想だから止めた方が良い。

 というわけで、自分だけではなく周りも居たたまれなくなる試験は断固拒否だ。

「分かりました。三種類発動させるので、三十分で終わりにして下さい」


 私が納得すると、再びまわりがどよめいだ。ついでに何故か試験官まで『えっ?!』と言いかけたような顔をした。

 あっ。やっぱりできないと思って、さらし者にする気だったのか。本当に給食はトラウマになるのだから、もしも魔法を使い続ける事がトラウマになったら困るのでそういう嫌がらせは止めて欲しい。


「な、なら。それで……」

 そう言って、男は他の受験生の元へ行ってしまった。

 まあ、やるべきことは変わりないし、三種類で済ませてもらえて良かったと思う。個数が増えれば増えるほど、頭が爆発するんじゃないかと思うぐらい集中力が必要になるのだ。ようは、走りながらご飯を食べ、更に本を読んで居る感じだ。違う動作をしながらというのは、意外に辛い。しかし慣れればなんとかならなくもないのだ。一応全種類同時発動ができるように練習はしてきた。


「では、始めっ!」

 試験官がスタートを切ったので、私は一斉に魔法を展開していく。

 最初に風、次に光、最後に闇。それぞれの玉を目の前に作り出す。混ぜてしまってもいいのだろうかとふと思ったが、それをすると空間が歪むのでやっぱりやめておく。

 しばらくやっていて気が付いたが、三十分って、私は何で測ればいいのだろう。試験官が教えてくれるのだろうか?

 分からないなぁと思って過ごすうちに、結局私は全体に止めるよう号令がかかるまで維持する羽目になった。つまりは一時間。

 ……私の告白がかかっているので、できればあまり嫌がらせはなしの方向でお願いしたいが、この扱いを見る限り前途多難な気がしてきた。


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