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十人目 ハーフエルフさん

「はぁ。私は何処にでもいる凡庸なハーフエルフ族ですけど、何か?」

「は? ふざけんな。お前みたいなのが何処にでもいてたまるか。そしておっさん。コイツを攫おうとか考えているなら辞めた方が良いぞ。おっかない親が出てくるから」


 ここは人間の国の中でも、異種族が比較的多いのどかな田舎町だ。そこを幼馴染と歩いていると、唐突に声をかけられた。知らない人についていってはいけませんと両親にきつく言われているけれど、実を言えば結構な確率で知らない人に声をかけられる。

 この人は綺麗だねとナンパ風に声をかけてきたがたぶんこれはあいさつ代わりの社交辞令だ。ぶっちゃけ私はそこまで綺麗ではないと思う。

 というのも、うちの父親が規格外の美貌を誇ったエルフなので、母親から譲り受けた黒髪、黒目などやっぱりエルフからすると見劣りするなと思ってしまう。ちなみに隣にいる幼馴染もハーフエルフだけど、コイツは更に四分の一セイレーンの血も混じっているからか、混血のいいとこどりしたような顔をしている。

 もっとも、私は母が嫌いじゃない。母の外見は、ちんまりとしていて可愛いと思うし、若作りなのか年齢は年々不詳になっている。年を取っていないからなのか、こういう顔立ちなのか、色々謎だ。


「ち、違う。わしは怪しい者じゃない! ちょっと道を聞こうと思ったんだ。そうしたら凄く綺麗なお嬢さんだから、つい」

「はいはい。分かったから、何処に行きたいんだ?」

「最強の人間の魔石職人の店に魔石の注文をしたいんだ」

 最強の人間……。

 その言葉を聞いた瞬間、私のお仕事だと理解した。この言葉を使われる人間とは、私が一番近しい存在だ。

「それ、私の母ですね。案内します」

 

 私の母は最強の人間と言われている。

 母は自分の事をいたって凡庸でどこにでもいるちっぽけな人間だと評価しているが、それこそ先ほど幼馴染が叫んだ、お前みたいなのが何処にでもいてたまるかというタイプだ。それはおかしいと何度周りに言われようとも、偶々無属性の魔力を持って生まれただけで、運よく竜族やエルフ族などから魔法を学べたに過ぎないと言っている。

 偶々学べただけで様々な魔法を使いこなし、最終的に学校に通わずに魔術師になるような人は凡庸ではないと思う。しかし母はいつも必要に駆られて勉強しただけだと話す。


「どちらの種族の方か伺ってもよろしいですか?」

「人狼だ。普段の姿は人間とさほど変わらんが、夜は半狼半人になる。今の違いはこれぐらいだな」

 そう言って男はかぶっていた帽子を取った。そこには可愛らしい狼の耳が生えている。しかしそれを少し見せると、男は再び帽子をかぶった。

「この辺りは人外の方が多いので、耳を出していても問題ないと思いますよ」

「わしは見世物になる気はないから、これでいい。それでお前さんが、最強の人間の子供なんか?」

「はい。といっても、私は母の魔力ではなく父の魔力を受け継ぎましたから、無属性ではないんですけどね。でも魔石作りは得意で母に教わって作っています」

 私は残念な事に父の水属性を受け継いで生まれた。下の弟は無属性を継いだが、どうやら細かい作業が苦手なようで、最近は父に色々武芸を教わっている。

 ちなみに父も最恐のエルフと呼ばれ、鉄壁のガーディアンや、万能セコムやら呼んではいけないボディーガードやら、変わった二つ名を持っていた。ちなみにどれもこれも守る的な名前なのは、父の仕事が護衛だからだ。母との出会いもこの護衛を通してだったらしいが、正直最強の人間を何から守る気なんだと言いたい。

 母は、昔はそれほど強くなくて、色々連れ攫われて父に助けてもらったんだと話す。しかし周りからは、母に父から助けてもらったという話を聞くので混乱する。誰が言っている事が正しいのだろう。過去を覗ける魔道具があったら是非とも使ってみたい。


「こちらです」

 私が歩きだすと幼馴染も人狼の男もついてくる。

「なあ、ちょっとした好奇心なんだけど、最強の人間と最恐のエルフってどっちがつよいんだ? やっぱり魔力の強いエルフなのか?」

「うーん。どうなんでしょう。夫婦喧嘩は大抵母が強いですし、そもそも父の方が勝手に嫉妬して母を怒らせて自滅して一生懸命詫びる姿ばかり見ているので……」

 父は強いと思う。

 武術の腕も魔力の腕も確かだし、何より周りが母より父を恐れている。しかし父は母に弱いし、そもそも喧嘩をめったにしない。


「まあ、何処の夫婦もそういうものだよなぁ。うちも母ちゃん怖いし」

 どうやらこの人狼は妻帯者らしい。でも良かった。結婚適齢期で相手のいない男は、父に凄く警戒されるのだ。それは母が人外にモテるのが起因するのだけど、母は自分はモテた試しがなくて、父は痘痕もえくぼ状態なのだと話す。無属性の魔力を持っているがゆえに、昔、沢山見合いをする羽目になったからモテてると勘違いされているというが……本当にそうなのだろうか。

 そりゃ属性に惹かれてという話は多いけど、でも子供の目からみても、絶対こいつ母に気があるんじゃね? と思う客に会ったりする。ちなみにその場合、母は全力スルーで、父は全力警戒だ。


 そもそもうちの両親の認識は色々ずれがある。例えば母は父に好きになってもらいたくて魔術師になる為に頑張ったというし、父は母に好きになってもらいたくて、五十年計画を立ててあの手この手でアプローチしたという。どちらも自分が先に好きになったと言い張っているが、どうなのだろう。

 母はあの美貌のエルフが、貧相ななんの取り柄もない娘を好きになるはずがないから、絶対父の方が後だと言い張っているが……うーん。説得力はあるけれど、母の鈍さを思うと何とも言えない。

 ちなみに時折遊びにくる、竜族のグノーおじさんは、付き合ってない時から一生やってろバカップルだったというので、ただの鈍い者同士だったのかもしれない。どっちにしろ、結婚してくれたおかげで、私も弟も生まれてこれたのだから良しとしようと思う。


「魔石は奥様に贈られるのですか?」

「そうそう。魔石食べて力をつけてもらわないと。なんたって、もうすぐ出産だからな」

「それはおめでとうございます」

 母の魔石を求めてくる客は、こういった出産に備えてという事が多い。この出産する前に食べた方がいいという噂は、天使族から広まったらしい。時折女王の使いの人が買いにやってくる。

 その時天使族と結婚しませんか? と誘われるが、正直まだお見合いをする気はないので、断っていた。ちなみに、父の前でお見合い話は話してはいけない。あの人は妻が一番だけど、子煩悩も患っているので、場合によっては物理的に排除されかねない。やりすぎになった時は、母を呼ぶのが一番だ。母は転移魔法が苦手なので、私が魔法を使って呼んでいる。

 母は転移魔法がほぼ使えないので、どこかに出張する時は必ず父が一緒で、ニコイチ状態だ。

 グノーさんは、わざと転移魔法を教えてないんじゃないかと父を疑っていたが、これは偶々らしい。父が好都合ととらえたかどうかは別だが、母はもっと幼い頃から転移魔法は学ばないと空間把握的な問題で身に付きにくいのだろうと言っていた。

 普段は箒で飛んでいるので特に問題もない。だから母が良いならそれでいいのだろう。


「お母さーん! お客様だよ!!」

「はーい。今行く」

 お店について声をかけると、奥に引っ込んでいた母が出てきた。私と同じ黒髪黒目で、背丈は低い。平たい顔に大きな目をしているので、どことなく幼く感じる。

「小雪、ありがとう。いらっしゃいませ、ご注文は――」

「コハルはアキについてて上げて。注文だけなら、私が承りますから」

 出た。

 母の最恐のセコム。


「でも、新規のお客様だし……」

 母は言い淀んだが、タイミングよく、最近生まれた末の弟が泣き出した。仕方ないと母は奥に引っ込むが、アキはわざと空気を読んでないか? と思う泣き方をする事があるので微妙な気持ちだ。とりあえず、このおじさんが殺されないようにだけはしてあげよう。

「魔石のご依頼でよろしかったですか? 当店は見合いなどの勧誘は一切お断りしておりますので、あらかじめご了承ください。ご了承いただけず無理な勧誘をされた場合は、物理的に排除する事になりますので――」

「お父さん。この人の奥さん、もうすぐ赤ちゃんが産まれるんだって。だから欲しい属性と個数を聞いて、早めにお家に返してあげて」

 

 私の家族は最強の人間の母と最恐のエルフ族の父、それから弟二人。

 私はまだ、母たちのような特別な何かではないけれど、今日も楽しく生きています。

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