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九人目 天使さん3

「天使族ですか?」

「そうだ。今は私とシルフィがコハルの保護者だからな。こっちに面会を求めてきた」

 前回の事件で国際警察が出てきた為に、私の名前などの個人情報が世界中に広まってしまったらしい。グノーさん達曰く、魔力が無属性である事などは報道規制が引かれたが、調べようと思えば簡単に調べられてしまう状態だそうだ。その為犯罪防止の為グノーさんとシルフィさんは、私の保護者を名乗り出てくれていた。最強の種族とも言われる竜族が保護者として名乗りを上げれば、おいそれと手出しはできないだろうという事らしい。

 といっても、既にグノーさんに鱗を渡されていたにもかかわらず攫われたわけなので、自分自身でも気を付ける必要がある。


「あの。お見合いなら、今はする気がないと断ってもらえませんか?」

 グノーさんの人工精霊は私が昼休憩に入った時に現れた。昨日、シルフィさんはそんな話をしていなかったので、今来たばかりの話なのかもしれない。

「見合いをという申し入れではないようでな。相手は、コハルが天使族の血を引く娘ではないかと言ってきている。そしてもしも天使族の血を引くのならば、私とシルフィではなく、こちらが保護者となると言ってきたんだ」

「まさかグノーは、はい分かりましたと言ったのではないでしょうね?」

「勿論そんなことはしない。例え血の繋がりがそちらにあろうとも、決めるのはコハルだと払いのけた。しかし奴らは、だったら面会をと言ってきたのだ。直接コハルに会いに行かず、こちらに連絡したのは誠意だと」

 グノーさんの表情は良く分からないが、声からはほとほと困った様子がうかがえる。そういえば、天使族は厄介だみたいなことを、以前ポロリとこぼしていた気がする。


「すみません。グノーさん達に迷惑をかけるなら面会をするのは別にいいんですけれど、そもそも天使族ってどんな種族なんでしょうか? 天使族の血を引いているのは確実に否定する事ができないんですけど、私の両親は人間の姿をしていましたし、そんな知り合いもいませんので」

 人間にとって天使族は近くて遠い存在だ。

 背に翼を持つ彼らを、昔の人間は神の使いだと思っていた。だから今でも宗教画には天使の絵が描かれている。一部の地域だが、天使は人間の上位的存在だと思われ、彼らの要望に全て答えていた時代もあった。しかし世界大戦が起こり人間が一つの国として独立した時に、その考え方は全て間違ったものであるとされ、それ以来人間と天使族の交流は途絶えている。

 だから今生きている人間は天使族に会った事がない。その為考え方は二分している。一つは大戦後に出た考えで、天使族は人間を洗脳し奴隷としていたというもの。もう一つは、天使族は人間の良い隣人だったが、他の種族が人間を囲い込もうとする彼らの行動を悪としたために間違った情報が流れているのだというものだ。

 ちなみに天使族善説を唱える人は、宗教関係者に多い。


「天使族を例えると、蜂の生態に近い種族だと言われています」

「蜂?」

「はい。勿論、蜂に近いというだけで、全く同じではありませんが。彼らは女王制を用いておりまして、全ての国民は女王の為にあるという考え方なんですよ。人間も王制をとっていますが、彼らはその何倍も熱狂的に女王を尊びます。大戦前の人間は働き蜂の立場の者を天使と呼び、女王蜂の事を天子……つまりは神様や神の子供と呼んでいました。それが人間と天使族が歪んだ関係を築いていた時代に宗教となり、今も残っているとエルフ族は考えています」

 なるほど。神の使いという考え方は、彼らの女王を神と例えてできたものだったのか。

「蜂って確か、女王しか子供を産まないときいてるけど、流石に天使族がそういう生態ってわけじゃないよね?」

 孤児院で契約していた蜂蜜農家の人が以前教えてくれた事がある。蜜蜂は女王が一匹と、彼女が産んだ働かない雄と働きモノの大勢の雌たちの家族で、一つのコロニーをつくっているのだと。


「流石にそこまで極端ではありませんが、女王は働き蜂の天使より沢山の子を産みます。女王のみ一妻多夫制です。子種を求められたら、天使族の男は妻がいても女王の夫となります。その後再び妻の元に返されますが、妻も女王に選ばれるという事は名誉だと考え、特にそれを悲しむことはありません。そういうシステムになっています」

「……それはかなり、人間とはかけ離れた考えだね」

「だから人間は彼らを神の使いだと思ったのかもしれませんね。考え方が、世界でもマレな種族なんですよ。そして女王から産まれた子は、別に王子や王女といった特別扱いはされません。彼らも等しく働かない蜂と働き蜂です。育てるのも女王ではなく働き蜂なので、女王が親という認識は薄いのでしょうね。次の女王を選ぶのは女王であり、それは生まれた瞬間から決まっているそうです」

「あの。そのやり方だともしも女王が子を成さずにご逝去されたら、大変な事になってしまうんじゃ?」

 生まれた瞬間から決まっているなら、もしもその子が大人まで成長できなかったり、怪我などで女王が次の女王を産めずに亡くなったらとんでもない事になりそうだ。


「不思議な事に、後継者が決まっていないまま女王がご逝去されると、働き蜂の一人が天啓を受け女王となるそうです。そして女王を名乗った天使を他の天使は疑わないと聞きます。なんでも魔力値や能力がほかとかけ離れており、一目で女王だと分かるそうです」

「……なんか、凄くその種族に近づきたくないんですけど。グノーさん的には会った方が良いんですよね」

 働き蜂を強要されても嫌だけど、元々私は変わった魔力属性を持っている。君が次の女王だなんて馬鹿げた事は言われないと思うけれど……正直聞けば聞くほど、厄介事な気がしてならない。グノーさん達の為と思えば会うけれど、その時は誰かについて来てもらい、絶対連れ帰ってもらわないと洒落にならない事態に発展しそうだ。

「正直、私もあの種族が苦手なんだ。個として関わるには別に問題のない穏やかな性格の者達なのだが、集団になるとあの女王崇拝は正直引く。私もコハルを会わせたくないが、正規の手続きをしている上に、下手に集団でコハルを攫いに来られて国の中に籠られると、乗り込むのも一苦労だ。国際警察も、あの種族が女王の為なのだと言い始めれば中々介入できない」

「会ったその場で、私の意見を無視して掻っ攫われるという事はないですよね?」

「その場合は私がコハルを攫おうとする相手を殺しますよ? 拒否している人間を攫うというのは国際法で禁止されています。コハルは人間の戸籍を持っていますから、拒否を認めたら武力行使できるんです。国の中に持ち帰りなどさせません」

 アクアさんの言葉は力強い。うん。アクアさんがそういうなら大丈夫そうだ。むしろ正当防衛をはるかに超えた過剰防衛にならないよう気を付けた方がいい。殺すという言葉は揶揄ではなく、アクアさんの場合は本気だ。

「正直私は血の繋がりなどどうでも良いですが、グノーさんが困るなら会うだけ会います。でも人間の国を離れる気はないので、護衛の方をよろしくお願いします」




◇◆◇◆◇◆




 天使族の方と会うのは次の休みの日となった。

 場所は馬頭族の国の喫茶店だ。グノーさんは人間の国の喫茶店を要望したが、相手は人間の国では天使族の立場が微妙である事から天使族の国の店を要望してきた。お互い譲ることができなかったため、第三の国を利用する形となったのだ。

 馬頭族は人間とも天使族とも交流がある種族なので、特に問題が起こることがない上に、人間の国と隣接している為選ばれた。移動はアクアさんが転移魔法を使ってくれるが、万が一何かあった時、私が自分の足で人間の国の領土まで逃げられるように考えての判断だ。

「いいですか、コハル。危険だと思えば迷わず魔法を仕掛けて逃げなさい。路銀はちゃんと持ってますね? 服にも縫い付けておきましたが、すられないように気を付けるんですよ? それから、知らない人が何か言って来ても近寄ってはいけません」

「分かってるよ、アクアさん。まずは自分の安全確保を優先させるし、ここは馬頭族の国だから、最悪の事態がおきても、元命さん達に連絡を取って対処するから」

 

 人間の国を出てからずっと、アクアさんはピリピリしている。人間は国外へ出る事が少ないため、私の外見は馬頭族の中では特に目立つ。

 人間の国というのは意外に治安がいい場所なのだ。だから外国に行った場合の危険をこれでもかというほど、アクアさんは念押ししてきた。アクアさんは世界中を自分探しの旅に出た事があるので色々知っているのだろうけど、本当に過保護だ。私だって知らない人がお菓子をくれると言ったからってほいほいついていったりしない。

「コハルはタカトウ家の家令が来た時にフラフラついていったじゃないですか。警戒心が薄いから心配なんです」

「人間の国では鷹藤家という名の貴族は凄く力が強いんだよ。だからあの家名を名乗って悪事を働く馬鹿はいないの。その上で夏鈴の名前を出されたからついていったわけ。外国ではそんな事しないから。何なら、ずっと手を繋ぐ?」

「勿論繋ぎます。一生放しません」

「……爆発しろ」

 あまりに過保護なので冗談で言ったが、アクアさんからも冗談が返ってきた。一生手を繋いでたら邪魔だと思うんだけどなぁ。

 そんな私たちの様子を見ていた、人工精霊のグノーさんは、ボソリと何かを呟いた。なんだか微妙に呆れたような顔をしている。


「グノーさんもアクアさんが過保護すぎると思いますよね」

「ノーコメントだ。色々言いたいが、もう、面倒臭い。勝手にやってろ。ただし、私達からは絶対離れるなよ」

 どうやらあまりの過保護っぷりに、グノーさんは呆れていたらしい。とはいえ、確かに私は人間の国を出たことがないので、世間知らずだ。二人の言葉に従っておいた方が良いだろう。

「わかりました。それにしても馬頭族の国は、馬頭族の方だけでなく、馬系の人が色々みえるんですね」

 馬頭族だけが住んでいるのかと思えば、そうではなく様々な馬系の種族が住んでいる雰囲気だ。ケンタウルス族やユニコーン族などともよくすれ違う。

「ここは同盟国同士は、入国審査がないんですよ。コハルはここに来るための旅券が必要だったでしょう?」

 転移魔法だから簡単に行けるかと思えば、そうでもなかった。外国では一度国に入る前に入国審査が必要なのだ。人間の国であらかじめ必要書類に記入して旅券を発行してもらい、それを入国場所で見せる必要がある。その後旅券には現在地を知らせる魔法がかけられ、馬頭族の国でその情報が管理されていた。この魔法は国を出ると自動で消滅する仕組みになっている。

 旅券は宿泊なしの入国という事で、すぐに発券してもらえるので特にそこは手間取らなかったが、これが就労の為の長期になると発券に時間がかかるそうだ。


「そうなんだ。旅券を貰いに行ったのも初めてだったから、いまいちシステムを理解していなくて……」

「これから覚えればいいんですよ」

 この先人間の国を出ることなんてあるかな? とも思ったが、知っておいて損はないだろう。

「約束の場所はここだな」

 グノーさんが止まった場所は、木と瓦で出来たお店だった。横開きの扉を開けると、中から甘い匂いがする。

 馬頭族の言葉は良く分からないので、アクアさん達に任せて私はキョロキョロと中を見渡した。時間帯の問題か、人の数は少ない。そして奥の一ヵ所に、馬系ではないだろう背に翼を持つ人が座っていてドキリとする。

 きっとあれが天使族で、私と血のつながりがあるかもしれない人だ……。ごくりと唾を飲むと、アクアさんが私の手を握る力を少しだけ強めた。

「大丈夫ですよ。行きましょう」

「はい」

 アクアさんの声に、少しだけ力を抜き、奥に向かって歩きだした。

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