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八人目 牛鬼さん3

「次の競売ではお前らも連れていくことになった」


 それは三つ目の宝石が無事売れた後のことだった。一つ目は世にも珍しい銀色に光るダイヤモンド。二つ目は青紫色の輝きを放つサファイヤ。三つ目はパチパチはじけるような光を放つイエローダイヤ。

 どれもこれも、今までにない魔力を持った宝石だ。

「どういうことですか?」

「あまりに神秘的な魔石を立て続けに競売で売ったからな。これは天然ものなのかという声が出てな、人工ものだと発表したんだ。そうしたら瞬く間に噂が広がったみたいでな。次の競売では落札者が好きな属性を決めることになったんだ」

その言葉を聞いた瞬間、私はきたと思った。しかしその事はおくびにも出さず、首を傾げる。

「もしかして、競売所で作れという事ですか? 場所はどこでもできますが、宝石を魔石に変える場合は、それなりの時間がかかりますよ?」

「それでもいいんだと。何なら、お前が作っている映像を大きな画面に映し出して、宝石が出来上がるまでを客に見せたいそうだ」

「そんなの見て楽しいですか? それって私が商品にされる前座というわけじゃないですよね」

 

 無属性としてではなく、世にも美しい宝石を作り出せる女として競売にかけられたら泣けてくる。どっちにしろ闇ルート行きだ。

「そんな勿体ない事をするわけないだろ。金の卵を産むって分かっている鳥だぞ? 俺も含めて、数人の護衛をつける。宝石を作るのは隣室で、その映像を魔法で客席から見えるようにするんだ。本当は宝石の移り変わりだけでなく、お前自身も写した方が熱狂するとは思うが、それはあまりに危険だからな。見せるのは手元だけだ」

「私を見せた所で、何も楽しくないと思うんですけど。人間すら売るような場所なんですから、どうせ人間の客なんていないでしょう? そもそも人間の中でも、私は美人とはほど遠い地味な外見ですよ?」

 人間はとりわけエルフ族が美しいと感じる美意識を持っているが、その逆の種族はあまりない。美女が作るなら盛り上がるが、そうでないなら宝石だけを見てもらった方が良いと思う。美しくもない作り手がしゃしゃり出てきたら折角の美しい宝石にケチが付くのではないだろうか。

「お前、気が付いてないのか?」

「何がです?」

「魔力を流している時、その流す魔力の色に髪や目が光っているぞ?」

「は?」

 何だ、そのビックリ人間。

 普段魔石を作る時にそんな指摘を受けたことは一度もないし、周りの魔石職人だってそんな事になっている人など見たことがない。


「そうですね。片手間で作れる魔石を作るときではなく、集中して二種類の魔力を宝石に込めている時の小春さんは頭髪や目が光ってますよ。これは別にあり得ない現象ではありません。集中して大きな魔法を使う時、大きな魔力を持つ種族は髪や目が光るそうです。それは体内を巡る魔力管の放出場所で一番外部に透けやすい場所だからです。セイレーンの涙という魔宝石が目からこぼれ落ちるのもその一つの発現ですね」

 隣で東さんが魔法学的に解説してくれた。

 人間の国ではポンポン魔法を使う人もいないし、アクアさんが転移魔法を使う時も別段光ったりしていなかったので、知らなかった。

 でも髪や目にそういう現象が起こるのは、何となく理解はできる。人間は魔力が低いためなのか髪色で鮮やかな青や赤なんて色を持っている人はいないが、エルフ族などはかなりカラフルだ。そしてその髪色がその人の持っている魔力を表している事が多い。


「へぇ。でも光り輝いているって……言われてみると結構不気味ですね」

「何でだよ。普通、そこは神秘的とかそういう感想だろ?!」

「いや。暗い部屋で、光がぼわんと浮かんでいるのを見たら、火の玉とか幽霊を連想しますよ? 私なら悲鳴を上げると思います」

 髪や目だけが光っているという事はそういう事だろう。うん。不気味だ。小さい子なら、きっとトイレに行けなくなる程度のトラウマになりそうだ。

「……これだから人間は」

「いえ。私は同じにしないで下さい。私ならその映像をどうにかして残して、魔力の動きの研究に使えないか考えますから」

「お前もお前だよっ! 畜生」

 東さんのずれた発言に、ラールさんは牛の足で地団太を踏んだ。それにしても、東さんも慣れたものだ。特に危害を加えられないと思えば、人間とは違う外見にも見慣れてくる。

 相手も私達と大きくは変わらないのだ。


「それで私は競売所に行って、言われるままに魔石を作ればいいんですね?」

「……そういう事だ。ったく。金持ちどもは我儘な奴らばかりだ」

 そう愚痴りならが、ラールさんは外へ出て行った。

「東さん、正念場ですね」

「ん? 別に小春さんが作る所は、目の肥えた方ならほれぼれすると思いますよ?」

 そういう意味じゃないと言いたいが、何処で誰に聞かれているか分からないので、曖昧に笑っておく。


 私の宝石は多分かなり噂になっているはずだ。特に金持ちに売っているならば、マニアが所有しない限りはあえて見せびらかされているに違いない。そうでなくても落札できなかったものが次こそはと話していてもおかしくない。そしてその宝石は、私からの狼煙だ。

 アクアさんにだけ、私は魔力を混ぜて魔石を作って遊ぶことがあると伝えた事がある。そして今回話題になった魔石は、本来あり得ない二種類の魔力を混ぜたものばかりだ。きっとアクアさんなら気が付いてくれる。

 そうでなくても、私の事を知っている誰かの耳に入れば、気が付いてくれるかもしれない。

 私は絶対助かってみせると、気合を入れた。



◇◆◇◆◇◆



 競売所に連れられたのは、それから二日後のことだった。

 結構急な要望だったらしい。それでも聞かざるを得ないのは、それなりの金を出されたか、言い出したのが上客なのだろう。

「ここで魔石を作ってもらう」

 案内された部屋は物置のような部屋だった。周りに商品が詰まれていたが、一応物置ではないというように、入口近くにテーブルと椅子などの魔石を作る場所がつくられている。

「ここは何処なんです?」

「宝物庫みたいな場所で商品を保管している部屋だ。競売所には客が商談する部屋もあるにはあるが、ここが一番安全なんだよ。何しろお前ら自身が商品みたいのものだからな」

「……本当に売りませんよね? 私たちの事」

「えっ?! 僕までですか?!」

「売らないと言ってるだろ。ここには客は絶対入ってこないし、泥棒に入れないようにする為の防犯もしっかりしている。そもそもここは、攻撃魔法が使えない空間になっているんだ」

「魔法が使えない? 魔石を作るには問題ないんですか?」

 魔法ではないが、魔石づくりは魔法を使う前段階の作業だとアクアさんが前に言っていた。

「魔法じゃなく、攻撃魔法だ。どういう仕組みかは俺には分からんが、そういう構造になっているらしい。一応魔石が問題なく作れるか、普通の石で試してみろ」

「そうですね」

 東さんに魔法陣を用意してもらい、私は魔法透過率の高い石に魔力を通す。やってみたが、特に魔石を作るには問題がないらしい。でも攻撃魔法が使えないとなると、アクアさんが私を迎えに来れるか不安だ。ようやく監禁場所から出られたチャンスなのだから、何とかうまくやりたい。

「できただろ。とにかくお前らは、余計な事を考えるなよ。常に俺らはお前らを守っているが、逆に言えば監視しているという事なんだからな。素直に従っている場合は大切にしてやるが、そうでないなら、それなりの御仕置をしないといけない」

「御仕置ですか?」

「飼い犬をちゃんと躾けるのが主人の役目だ」

 飼い犬扱いにげっそりするが、まあ立場的にそんなものだろう。どんな躾けられ方をするのか分からないが、できれば野良犬の心を失いたくない。でもここは我慢だ。

「はいはい。分かりましたよ。わんわん!」

「……やっぱり飼い牛にしないか?」

「ラール様の性癖に付き合う趣味はないです」

 どちらかというと、犬よりは畜産的な乳牛の立場に近いだろうけど、相手が牛神族の血を引いていると知っているので、なんか嫌だ。ラールさんはあれからも時々私に嫁にならないかと言ってくるが、何度言われようとそれはない。ありがたいのは、ラールさんの発言はまったくドキリとせず、むしろ今のようにげっそりするものが多い事だ。私がスト……なんとかという症状が出るまえに、全てがかたづいて欲しい。


 そうこうしているうちに、競売が始まったようだ。ここは遠く離れた場所というわけではないようで、荷物を取りにドアが開けられる度に熱狂する声が聞こえる。しかし人間語ではないようで、まったく何を言っているかが分からない。ここに商品を取りに来る人もそうだ。二人行動をするのが原則なのか、必ず二人づつ入ってくるが、彼らの交わす言葉は分からない。話しかけられる事もあるが、何を言われたか分からないので首を傾げるしかない。そうこうしていると、ラールさんが話しかけた相手ににらみを利かせ、慌てて立ち去るという場面が何度かあった。

「おい。宝石の落札者が出たぞ。酔狂な事に、ダイヤモンドに無属性の魔力をつけろという話だ。無属性なら天然ものにもありそうなのにな」

「そうですね」

 ダイヤモンドに無属性の魔力。

 それはグノーさんに納品した事のある宝石だ。そしてアクアさんは様々な魔力の魔石の中で、特に無属性の魔石を美しいと言ってくれていた。


 隣で早速東さんが魔法陣を作成する。

 その出来上がった魔法陣の中心にダイヤモンドを置き、私はゆっくりと石を壊さないように魔力を流し始めた。外から盛り上がっている声が聞こえるが、集中力の方が上がり、やがて周りの音が遮断される。

 しかしさすがに部屋の前で破壊音が聞こえた時、私の集中力は途切れた。

「カラ ガラツ ハイ!!」

 どれぐらいの時間が経ったのか集中していた私は分からないが、気が付いた時は人間語ではない言葉で、ラールさんがドアを開けたまま廊下で怒鳴っていた。何か緊急事態が起こったらしい。


「コハルッ!!」

 そして聞こえてきた声に私は顔を上げる。

 この声を聞き間違えるはずがない。

「アクアさん!! 私はここです!!」

 魔石を作る手を止め、私は立ち上がった。しかしそれに気が付いたラールさんが部屋の中へ入ってくる。

「くそっ。国際警察がなだれ込んできた。逃げるぞ!!」

 私の手を掴もうとするラールさんから、私は慌てて離れる。転移魔法を使われたらおしまいだ。

「私は逃げません。だって、被害者ですから。商品はここに置いていって下さい」

 あくまで私は被害者の立場を崩していない。だから私は彼らの仲間ではないのだ。

「そんな事許されると――」

「許されるに決まっているだろうがっ!!」

 そう声を荒げて鮮やかな飛び蹴りをしてきたアクアさんは、別れた時と変わらぬ美貌を誇っており、武神のような迫力だった。

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