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八人目 牛鬼さん1

 ラールさんに連れられた場所は、鷹藤家に続き、これまた異国風の豪邸だった。知識がなさ過ぎてどこの国とは言えないが、丸い屋根は私が住む地域では見たことがない建築だ。

 牛鬼さんも転移魔法が使えるらしく、私は一瞬で鷹藤家からこちらへ移動したので、今居る場所がどこの国かもわからない。

「ううっ。どうして、僕まで」

「一応表向きは番なので、この危機を脱出するまでは一緒に頑張りましょう」

 危機を脱出したら即刻離婚案件だけれど。いや、婚約者ということなら、破談か?


 私の隣には、半泣きの東さんがいる。人外になれていない様子なので可哀想だが、私がラールさんとの取引を成功させるには、魔術師が必要なのだ。というわけで手っ取り早く、東さんもご一緒してもらった。申し訳ないなと思わなくもないが、そもそも巻き込まれたのは私の方だし、鷹藤家の問題もついでに解決したいなぁと思ってなのだからあまりグダグダ言わないで欲しい。

「何をごちゃごちゃ話してるんだ」

「すみません。東さ――東は、人外に免疫がなくて、貴方の事が恐ろしいと感じてしまうんです。人間は弱い生き物なのですから、大目に見て下さい。彼の力がなければ、私達の計画は上手くいかないのですよ?」

「ちっ。お前は大丈夫なのかよ」

「お前ではなく、コハルです。貴方の事はラール様とお呼びすればよろしいでしょうか?」

 確か当主はそんな名前で呼んでいた。


 私が名前を名乗って、とにかく必死に笑みを作ると、ラールの方が目をそらす。

「ああ。それでいい。なあ、お前は俺の姿が怖くないのか?」

「そうですね。恐ろしくないと言われれば嘘ですが、異種族の方は人間とは見た目が違いますので初めてお会いした種族の方の場合、畏怖を感じるのは当たり前なので、こういうものかなと。ただラール様は、人間語でお話をして下さる理知的な方ですから、むやみやたらと怯えても仕方がないとも思いまして。折角取引にも応じてくれたのですし」

「コハルが本当に宝石を今までにない魔石に変えられるというならだからな」

 私が持ちかけた取引はこうだ。

 私は自分を売らない代わりに、今までにない魔石の宝石やものすごく美味しい魔石を作るので、それを競売にかけてくれと伝えた。ちなみに競売にかけるのは宝石で、美味しい魔石は通常販売をお勧めする。コハル印の魔石はアクアさんやグノーさんには、普通の魔石とは違うとかなり高評価を頂いているけれど、人間の国での取引額を知ったら怒られそうだ。この辺りは人外さん同士で文句の出ない丁度いい値にして欲しい。


「でも私から販売を持ちかけたとか言わないで下さいね。あくまでラール様のご要望でお売りしてるという事にして下さい。でないと、人間の国で豚箱行きになってしまうので」

 こっちとしては命の危険があったからと声を大にして言いたいが、法律に照らし合わせると微妙なラインだ。人間の国に帰ったはいいが、お縄なんてことになったら、魔術師の夢がドンドン遠ざかる。

「本当に返してもらえると思っているのか?」

「私の働き次第かと。後、ここに番予定の相手がいるんですから、もしも上手くいったなら、絶対性的アプローチはしないで下さいね。舌かみ切って死んでやりますから」

「おう。いいぜ。俺だって、お前みたいなちんちくりんは御免だ。それに使えるなら売ったりしないさ」

 そりゃそうだよね。

 体格差も違えば、見た目も違う。あちらはあちらの基準の美しさがあるだろうし、それが私に当てはまるとは思えない。私の魅力は魔力だけだ。

 でもそれは私からも言えるんだけどね!


「そういえば、失礼でないならどこの種族なのか教えていただけませんか? 私はラール様の種族との交流が今までなかったので」

「ああ。俺と同じ奴はいないぞ」

「いない?」

 絶滅でもした種族なのだろうか?

 この世界には多くの種族がいる。しかし前の対戦で多くの民を失い、また繁殖力の低い種族は静かにこの世界から消えていっていた。

「なんたって俺は、鬼族と牛神族の混血だからな。だから俺は自分の事を牛鬼ぎゅうきと呼んでる」

「へぇ」

 人間しか混血はしないと思っていたけれど、よく考えれば何故人間だけがするのだろうという話だ。ただ単に人間が安産型で、生まれる子が相手の血を強く出す場合が多いからという話なのだろう。異種族同士で混ざるとこうなるのかと納得する。


「何だ。反応が薄いな。この外見の所為で、俺は鼻つまみ者で親からも捨てられたんだ。それからはずっと裏社会で生きてる。この屋敷に居る奴らはそういうのばかりだ」

「そうなんですね。じゃあハーレム云々という話は?」

「牛神族の習性だ。というか、聞くところはそこなのか? もっとこう同情とかするんもんじゃないか?」

 と言われてもなぁ。


「ぶっちゃけ言いますと、私、貴方に連れ去られて売られるかどうかの瀬戸際ですよね。同情なんてしてられませんよ。それに自分の事を不幸だとも思ってない人が同情なんて上から目線なことできるはずないじゃないですか」

「不幸じゃない?」

「私は親からは疎まれてませんけど、親がそもそもいませんよ? しかも学歴もなくてお金もないんですよね。でも人には恵まれていると思うんです。出会ったすべての人がいい人ではないけど、最近は新しい親友までできましたし。こういう生き方でなければ出会うこともなかったかなと思えば、人生万事塞翁が馬です」

 何がラッキーで、何が不幸なのかは分からない。その人次第だ。


「お前、馬鹿だろ」

「たぶんそうだと思いますけど、親友は違うと言ってくれてます。だからそれでいいんですよ」

 呆れたように言われて、私は肩をすくめた。

「まあ、そういう底抜けの馬鹿は嫌いではないけどな。さあ、ここがお前らの仕事部屋だ。必要なものはなんだ」

 ラールさんに案内された部屋は、そこそこ広い部屋だった。机や家具などは全て備え付けられている。

「とりあえず私は魔石にして欲しい宝石ですかね? うーん。ダイアモンドとかいい感じになると予想してるんですけど。東さんは、魔法陣を作るのに何が必要です?」

「あっ。えっと……ペンと紙、定規とコンパスがあれば、一応は……」

「じゃあ、それを早急にお願いします。魔法陣がないと話しにならないので」

「人使いの荒い女だな。まあ、いい。待ってろ。すぐに用意する」

 ラールさんはそういうと、扉を閉めて出て行った。


 疲れたなぁと思った私は、近くにあった1人かけ用の椅子にどかりと座る。木で編まれた椅子は、異国情緒あふれているけれど座り心地は悪くない。

「東さんも疲れたんじゃないですか? 立ってないで座りましょう? どうせこの後頑張って仕事をしなければいけないんですし」

「小春さんは怖くないんですか?」

「怖いですけど、大丈夫です。私のSOSはきっと届くと信じてますし。それに私達が有益だと証明できる限り、危害を加えられることはないと思いますよ。あの人、人間の言葉を話していたじゃないですか? つまりそれだけ頭のいい方なんです。だったら絶対得をとります」

 ラールさんは完璧に人間の言葉を使いこなしていた。つまりはグノーさん達と同じく、頭のよい方なのだ。なら私達が従順なら、傷つけるような何かをしてくるとも思えない。


「その有益って件ですけど、本当に大丈夫なんですか?」

「宝石に魔力を込めるのは何度かやっているのでできますよ。で、今までないものという事なんですけど、二種類の魔力を込めたものを作ってみようかなと思うんです」

「は? 二種類」

「流石に宝石では初めてですけど、魔石なら何度か遊びでやってるんです。で、その混ぜられた魔力のものも天然にはあるかもしれないので、だったら相反する魔力を上手く調和させて入れてみようかなと」

 相反する魔法が使えないから、それができる無属性は重宝されると聞いている。という事はだ。自然界にも相反する魔力を持った魔石なんて存在しないと思ったのだ。まあ仮説なので、もしかしたらどこかにあるかもしれないけれど、でも絶対個数は少ないはずだ。


「手始めに光属性と闇属性を混ぜて銀色に光る宝石を作ってみようかなと思うんです。その後は火と水ですかね。この二つはバランスによって青みが強い紫や赤みが強い紫と色が変わるので面白いですよ」

「は? なんですか。それ。そんなの可能なんですか?」

「私は可能です。ただし魔力を入れる魔法陣と転換用の魔法陣が必要ですけど」

 食べると一体どうなんだろうなと思う。

 魔石として人外の人に売るなら、事前に誰かに試食してもらわないと、とんでもない味とかも出てきそうだ。アクアさんは大抵のものは美味しいと言ってくれていたけれど、実際の所私は食べられないので分からない。

「さあ、ここからが正念場ですよ? 世界中の目を集められるぐらいの素晴らしい魔石をこれから作って競売にかけてもらわなければ、私達の助かる道はないんですからね!」

 女は度胸。

 私は顔色の悪い東さんを励ましながら、これから作る魔石を頭に浮かべた。 

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