五、六人目 ケンタウルスさんと馬頭さん2
「というわけで、セイレーンも避ける、馬系の見合い相手を探してきてやったぞ!」
……うーん。やはりグノーさんは馬に蹴られるという意味を知らずに、そのまま直訳してしまったようだ。意気揚々と話す姿に、私は苦笑いをするしかない。
「馬系ですか?」
「ああ。馬系の者達は、水陸どちらにも居てな。彼らは独自の同盟を結んでいる。確かにセイレーンと違い、コハルが何処に居ても目が届きやすくて安全だ」
「そうなんですね。えっと、あまり馬系の方に詳しくはないのですが、馬頭さんみたいな方がお相手なのでしょうか?」
実を言えば、馬系の人外と言われてもあまりピンとこない。住んでいる国が近い、馬頭は一応目にした事もあるが、それだけだ。ちなみに馬頭はその名の通り、頭が馬、体が人間の一族だ。生活習慣自体は人間に近く、時折街中で会う事もある。
「そうだ。馬系は数多く居るが、発言権が強いのは、馬頭族、ケンタウルス族、ケルピー族、ユニコーン族、ペガサス族だ。俗にいう馬ファイブだな」
「馬ファイブ?」
それぞれの名前は聞いたことがあるが、私はそんな俗を知らない。
「馬ファイブとは、最近若者に人気の、五人のアイドルユニットの事だぞ?」
「人間の国ではあまり有名ではないもので……私が芸能関係に疎いだけかもしれませんが」
そもそも人間の国で、そのアイドルは需要が少ない気がするのは私だけだろうか。
馬頭族が頭が馬なら、ケンタウルスは下半身が馬で上半身が人間だ。ここまでだったら人間も混じっているが、ケルピー族は上半身が馬で下半身が魚、ユニコーン族は頭に一本の角がある馬で、ペガサス族は背中に羽がある馬だ。
……後半三人と相いれる部分が見つからない。
「まさか、全員とお見合いさせるわけではないでしょうね?」
「……それはしないぞ。うん。そもそもペガサス族は、天使族に似て厄介だから声もかけとらん。後は個人的にユニコーン族の処女厨具合が好きになれんから、あやつらにも声はかけていない」
「処女厨?」
「はっきり言ってアイツらの処女好きと、それ以外のものへの対応は気に入らん。女性側にだって様々が事情があるだろうに。そもそもアイツらの嗜好は幼女趣味で私とは違う」
そうなんだ。
ユニコーンは人間の国でも少しだけ有名で、聖なる乙女と結婚したという話も聞いた事がある。……聖なる乙女ってまさか処女の事だったりして。もしもそうなら、聖じゃなく性なる乙女の話じゃないか。あまり知りたくない一面だ。
「って、ちょっと待って下さい。私はケルピー族も無理ですから!!」
「何だ? 住む場所の問題か?」
呑気な返事に、私はグノーさんをガシッと掴んだ。グノーさんの人工精霊は硬いうろこ状の皮膚に覆われていたが体温があった為、生き物感が強い触り心地だ。なのであまり強く握りつぶす事はできなかったが、顔の真正面に連れてきて、真っ直ぐ目を見た。
「ケルピー族って人間を食べる種族ですよね? 流石にそれぐらいは知ってますから。私、内臓を残して食べられるのは御免です」
ケルピー族は沼や池などの淡水に住む一族だ。
昔は人間を水の中に連れ込み食べていたと聞く。今は一応国際条例上やらないそうだが、本能で人間を襲う可能性がある為、人間は無暗に彼らの住処の近くに行ってはいけないと小学校で習う。
「まあ確かにアイツらは人食の文化もあったが、ちょっと違うぞ? 気に入れば人間をその背にのせ走ったりもするし、人間ばかりを襲ったわけでもない。それに恋には一途だからな。もしも番になったら、自分の身を挺してでも相手を守るからコハルを食べるようなことは絶対ない――」
「それでも、駄目です。そもそも住む場所が違うという理由でセイレーンさんとの見合いも破談になったんですから。あとは身を挺してまで守られる気もありません。私を守るなら自分の身も守る方でないと困ります」
それに私を食べなかったとしても、旦那が隣でバリボリ人間を食べていたら発狂する。どう考えても、即刻離婚案件だ。そもそも食生活から、見た目、住む場所まで相いれる箇所がない。
「そこまで言うなら仕方がない。でもはっきりと意見してくれるようになって、私は嬉しいぞ」
グノーさんに言われて、私は慌てて人工精霊の体から手を離した。
あまりの内容に咄嗟に酷い暴挙に出てしまったが、よくよく考えれば竜族相手に凄く失礼な行動だ。
「ご、ごめんなさい。突然鷲掴みしてしまって。痛くないですか?」
「人工精霊と痛覚は共有していないから痛みとかはないぞ。そもそもコハルはそんなに強く握っていないだろう。これぐらい大丈夫だ」
そう言ってもらえて、私はほっと息を吐いた。今は小さい姿だけれど、本来のグノーさんはとても強い竜だ。怒らせていい相手ではない。
「グノーもいいと言っているのですし、気にする必要はありませんよ。それにコハルが思った事をちゃんと口にできるようになったという事は、私やグノーに心を開いてくれているという事ですよね? とても嬉しいですよ。私達も無暗に恐れられたり、崇められたりしたいわけではないので」
アクアさんの言う通り私は、二人は安全だと信頼している。私も謝ってはいるが絶対許してくれると分かって謝っていた。最初にあった怯える気持ちは、今はほぼない。
「お二人が気にされないなら……。私はお二人が好きなので、できたら友達になりたいです。だから失礼な事を言ってしまった時は言って下さい。私は他種族の常識に疎いところもあるので」
「なんだ。まだ友達止まりなのか?」
「へ?」
友達発言でも図々しいかと思ったのに、グノーさんは意外な事を言われたかのような発言をされた。しかもこの言い方ではまるで友達以上だと言っているようだ。
「グノー、聞きました? コハルは私が好きなんですって」
「お前だけではなく私もだ。しかしいまだに友達の枠組みにすら入っていなかったようだけどな。私はとっくに友人だと思っていたぞ」
「あ、ありがとうございます」
出会った時は二人の事がただただ恐ろしかったはずなのに、付き合っていくうちに私だけでなく彼らからも好意を向けてもらえる事がとても嬉しい。
「私は友達以上でも構いませんよ?」
「そんな親友なんて……うわぁ」
人間同士ですら、こんな風に好意を直接向けられたことはなかったので、私は恥ずかしくなって顔を押さえた。大学の件で少しだけへこんでいたけれど、今はとても幸せだ。
「親友……」
「アクアさん、ありがとうございます。親友として、アクアさんの顔に泥を塗らない、立派な人間になりますね! 魔法の勉強については色々頼ることもありますが、よろしくお願いします!」
うん。まずは魔術師目指して頑張ろう!!
大学の事務の人を見返す必要はないけれど、私自身がアクアさんの隣にいても恥ずかしくない人間になりたい。
「何だ。コハルは魔法の勉強をするのか?」
「魔法の勉強と言いますか、私は将来魔術師になりたいんです。先ほどいた場所はその勉強をする学び舎だったんですけど、ちょっと門前払いされてしまいまして。でもまだあきらめていませんし、アクアさんも魔法を教えてくれるって言って下さったんです」
「エルフ族の魔法は優れているからな。なんなら、竜の魔法も教えてやるぞ」
「えっ。いいんですか?」
「勿論だ。そうだな。私は手始めに防御魔法系列を教えてやろう。そうすれば、大抵のものから体を守れるから、安全になる。アクアは、何を教えるつもりだったんだ?」
魔法の申し子であるエルフ族や、世界最強と言われる竜から直接魔法を教えて貰えるなんてすごい事ではないだろうか。私は期待でドキドキする。
「私は……そうですね。まずは寿命を延ばす魔法を教えますね」
「寿命ですか?」
「不老というわけではありませんが、老化を遅らせることはできます。老化すれば魔力は減り、使える魔法も限られます。勿論そうなった時はそうなった時で使い方もあるのですが、やはりまずは肉体が若いうちに様々な魔法を習得した方がいいと思うんです。ほら、エルフ族は子供の頃に転移魔法を遊びで覚えると話しましたよね。このように肉体が若い方が覚えやすいんですよ」
なるほど。
でも確かに、魔法の申し子であるエルフ族は、肉体が若いままの時間が特に長い種族だ。そう言われると、若い方が魔法が使いやすいというのは合っている気がする。
最初は簡単な基礎属性の魔法の習得からかと思っていたけれど、アクアさんが言うならそれがいいに違いない。
「お前……」
「嘘は何もついていませんよ。若い方が魔法が使いやすく、習得しやすいというのは本当のことです。ええ。大丈夫。私も五十年計画でいきますから」
「えっ。魔法の取得ってそんなにかかるんですか? ……えっと、全てを覚えるのは難しいと思うので、お手柔らかにお願いします」
五十年って、すべてを覚えきるころには、私はおばあちゃんだ。たぶん棺桶に片足をつっこんでいる。
なるほど。魔法を習得するのにそれだけ時間がかかるとなれば、人間とエルフ族の使える魔法が全然違うのも良く分かる。アクアさんは完璧主義だけど、少し手加減してもらえるとありがたい。
「あっ、そういえば。結局私は誰とお見合いをするんですか?」
話がそれてしまったが、そもそもはそういう話だったはずだ。ふと思い出し、グノーさんにたずねる。
「ケンタウルス族と馬頭族だ」
「へ? 二人? 別々の日ですか?」
「いや。同じ日、同じ時間に同席する事になった」
同じ日、同じ時間?
二人同時なんて、それは果たしてお見合いなのだろうか。
「タイミングが悪く、二人がライバル関係だった為にこんなことになってしまったんだ。……まあ、いつも通りで構わないぞ。ケルピーの方には断りを入れておくな」
ライバル関係の二人?
ケルピーとのお見合いは会う前に破談になったが、果たして二人同時のお見合いは一体どんな感じになるんだろうと、私は少しだけ不安になった。




