六話 やっぱり様子がおかしいんですけど! 一
昨日帰ってから散々拗ねて困らせまくった結果、今朝母が卵を入れて持ち運べるようにしたものを作ってくれた。
木箱の内側に獣毛を敷き詰めて、幅広の肩紐が通されたそれはクーラーボックスそっくりだった。
「これなら、少々ぶつけたりしても大丈夫よ」
「うん、ありがとう。丈夫そうだね」
クーラーボックスを受け取って卵を入れてみる。少し余裕があるな。
ふと思いついて卵の周りに魔力を纏わせる。これであんまり動かないようにできるだろう、と思ったのだが纏わせた魔力は数瞬で消えてしまった。
「え、なんで? 霧散した?」
魔力固定はできていたはずなのに、と思いながら再度魔力を纏わせてみる。
そして観察。
「えっ!? 魔力……喰われた……!?」
よく観察すると、魔力は霧散したのではなく卵に吸収されるように掻き消えた。そして心なしかぷるぷる感がアップしている。ぷるんぷるん。
えぇぇぇ……お前を護るためにやってんのに。そもそも卵のくせに魔力喰っちまうとか。どうなってんのさ?
それをみていた母も唖然としている。
ちなみにこんなことあるのかと聞いたら、やっぱり聞いたことないってさ。
そもそも普通卵は殻が硬いからわざわざ魔力でコーティングする人がいないらしい。
うん、確かに。必要ないもんね!
あぁもう、さらに悩み事が増えてしまった。
「食べなくなるまで与えてみたら?」
「う~~~~ん。色艶よくなってるから魔力与えた方がいいのかな? 悪影響とかないのかな?」
「さぁ、分からないわぁ」
おかーーさーーーーん。テキトーすぎぃ。
流石に無責任すぎやしないか。卵が吐き戻すなんてことはないと思うけど。変なことになったらどうするのさ。 俺はうんうんと頭を悩ませて毎日少しずつ魔力を与えることにした。
そして魔力コーティングの方は無しの方向にして獣毛を増量してもらった。
「いってきまーっす」
俺は卵を入れたクーラーボックスを肩からななめ掛けにして、外に出た。
これから向かうのは四獣殿だ。
この世界の教会に近い施設で、四聖獣の祠もここが管理している。ちょっとした広間とか宿泊場所、あとは所によっては孤児院なんかも併設されている。
今日はそこの書庫を調べに行くことにした。
四獣殿には随獣に関する書物が集められている。これはどこの四獣殿でも一緒だ。ちなみに各々を管理している人が必死こいて模写してるらしい。
だからそこで、昨日得た卵について調べようと思う。
記憶が覚醒してから文字が読めないことに気づいて、必死に勉強したおかげで、なんとか読み書きはできるようになった。難しいのはまだ無理だけど、やっぱり読み書きは大事だね!
四獣殿は村の最北東に位置し、家から十分ほど離れた場所にある。
そこへ向けて、クーラーボックスを肩から掛けてテクテク歩く俺。
うん、村の人が何持ってんだって顔で見てくる。
近くの農家のおばちゃんから物々交換する物かい? と話しかけられたりしたよ。
曖昧にごまかして歩くこと十分、四獣殿に着いた。
扉を開いて中を覗くとそこには広間があり、静かでなんとなく厳かな空気が流れていた。
中に入り管理人である神官を探す。
奥に進むにつれ、中央に据えられた玄武の像がはっきりと見えてくる。
リクガメのような本体に蛇の尻尾だ。亀の頭は咆哮しているようであり、蛇の頭は威嚇しているように見える、なかなか迫力のある像だ。その像をじっくりと見ていると奥から一人の男性がやってきた。
「おや、可愛らしいお客さんだね。今日はどうしたんだい?」
この四獣殿の神官だった。
「こんにちは。書庫を見せて欲しくって来ました。大丈夫ですか?」
「おやおや。勉強熱心だね。書庫なら右の通路に出て左手2つ目の扉だよ。ゆっくり見て行くといい。そうそう、汚したりはしないようにね。」
「はい! ありがとうございます」
許可も得たので書庫へと向かった。