四話 夢の後先
――――ん、なんだろう呼ばれてる気がする。
『おぉ、やっと気づいてくれたか』
どこからか掛けられる声に目を開くと、灰色っぽい何も無い空間に居た。
「え。俺祠で寝てたはずだよね……?」
『うむ。お前は私の祠で寝ておるぞ。これは夢だ』
夢ですか。――ん? 私の、祠? ってことは玄武様!?
『左様。私が玄武だ。間違っても怪獣では無いぞ』
あ、聞かれてた。いやーはははは……。まさか聞かれてるなんて思わなかったからつい、白々しい笑いで誤魔化した。
『まったく、失礼なやつだ。まぁそんなことより、お前本当に瑞獣が欲しいのか?』
「え!? それはもちろん欲しいですよ!」
なるほど、試練って問答だったのか! 此処で熱意を見せなくては!
『本当にかぁ? 瑞獣は大変だぞ?』
「大変でも頑張って育ててみせます! だから随獣ください!」
『うーむ。意思は硬そうだな。仕方が無いから授けてやる。(約束だしな。ボソリ)』
ん? 最後聞き取れなかったな。なんだろう? と思っていると爆弾発言が投下された。
『この瑞獣はお前が道を間違えば、その角でお前を突き殺すことだろう。心して育てるように。』
「えぇ!? そんな凶暴なの!? ぅ、つ、突き殺されないよう頑張ります……」
『うむ。では、お前の行く先が長く明るいことを願う』
何か納得した様子で玄武様は遠のいていった。
そして灰色の空間は閉ざされ静寂の帳が降りた。
うん、突き殺されるとかどんな凶暴な子なの……。
俺としても今度こそ、長くあって欲しいんだけど……。
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翌朝。
「ふぁ~、よく寝た。なんか夢見た気がするけど、夢って起きたらすぐ忘れちゃうよなぁ」
目が覚めて体を起こし、伸びをしながら欠伸をひとつ。祠の中は薄暗く時間感覚が曖昧だ。
夕べ寝た時とあまり変わらない。壁だか苔だかがうっすら発光しているらしい。
のんびりと伸びをしていて、はっと思い出した。そうだ俺の卵は!?
俺は勢いよく鳥の巣が入った社に振り向いた。そしてそこあったものは――――
「えぇぇぇえええ。これが俺の卵!?」
半透明でぷるぷるした虹色の膜に覆われた卵が鎮座していた。
なんか、イクラっぽい。大きさはダチョウの卵サイズだけど。
なんて考えてしまったが、卵を授けてもらえない人の方が多いんだから文句は言っちゃダメだ。
出ただけマシなはず! と考え直して恐る恐る卵を持ってみた。
「うん。ぷるぷるで気持ちいいかも。小学生の時に作ったスライムよりは固し、なんだろう。
あ、あれだ水風船の感触。……これ落としたら水風船みたいに弾けそうだな」
てっきり鳥の卵の様な、硬い殻に覆われた卵が出る物だと思っていた。事実、兄たちのはそうだった。
あ、うちの家では今のところ卵が出ていない兄弟はいない。おそらく母の家系の影響だろう。
どこぞのお嬢様だったらしい。良い家系には卵が出やすいんだって。
例えば王族とかはほぼ出るらしい。血筋でこんな所にまで差が出るとか、なんだかなぁ。
そんなことより、そもそも陸地に魚卵だか両生類の卵だか判らない卵が出るっていいの?
魚とか産まれても陸地だし、どうするんだろう。まさかポ〇モンみたいに空中浮遊するのか!?
……流石にそれは無いか。でも床でピチピチされても……死ぬよね。
うーんと悩んでみても、解決もしなければ卵の正体も分からない。
仕方ないので、悩むのをやめて持って帰ることを考える。
兄弟たちの卵は硬い殻に覆われていたから、自分に授けられたとしてもそうだろうと思っていた。
だから抱えて帰ればいいかと、運ぶための物を持ってきてない。
なんせ少々落とした程度じゃ傷にすらならなかったから。
……でもこれは ぷるぷる、すべすべで落としそうで怖い。落として弾けたりしたら、もう号泣だよ。
目も当てられない。どうやって運ぼう。
それにこれ、持って帰ったら兄たちに笑われそうだなぁ……。
と考えているとお腹が盛大に鳴った。
「一旦巣に戻して、ご飯を食べながら考えるか」
それから祠をでて、昨日の釜戸にもう一度火を入れた。
鍋を火に掛け【ウォーター】を唱えて水を溜めた。
そうやって沸かしたお湯でお茶を淹れ、パンを食べつつ飲む。
その間どうやって運ぶか考えたが、いい案は浮かばなかった。
マジックバックに入れるわけにもいかないしね。
マジックバックの中にサブバックくらい入れておけばよかった。まぁ、いっぱい入るからこそ、そんな物入ってないわけだけど。
結局、卵を手でそっと、且つしっかりと持って落とさないようにビクビクしながら帰った。
結果行きは2時間ほどだったのが2時間半かかってしまった。疲れたよ……。