二話 第一の試練? 一
「ーーーーお父さん、お母さん行ってきます!」
「おう。行ってこい。頑張れよ!」
「行ってらっしゃい。頑張るのよ!」
片田舎の村の端にある、一軒の家の前で元気に挨拶をした俺は一人歩き出した。
俺の名前はルカ。今日で八歳になった。種族はいわゆるハーフエルフってやつで、自分で言うのもなんだけど、癒し系のイケメンだと思う。まぁまだ八歳だからどっちかというと可愛いになるのかな?
そんなことより! 今日でやっと八歳だ! ようやく随獣の卵をもらえる試練を受けることができる。
随獣っていうのは魔物なんだけど、主といつも一緒に居て助けてくれる。ポ〇モンみたいだよね。八歳くらいになると四聖獣の祠へ行って試練を受けるんだって。
この世界では三分の一くらいの人が卵を授けてもらって随獣を連れている。
卵を得られなくても魔物が出る森でテイムするっていう方法もあるらしいけど、才能頼りでテイムできる人はあまりいないらしい。職種によっては随獣の種類なんかが決められてたりして、連れていることがある種のステータスになるってわけ。
それで、試練っといっても村から少し離れたところにある、湖のほとりにある祠へ行って一泊するだけ。天気もいいし、道も整備されてるし、道中人目もある。ちょっとしたピクニックかキャンプみたいなものだったりする。お弁当を持ってルンルンですよ。
父母の激励あれど、ぶっちゃけ頑張れって言われてもねぇ。他に情報ないしさ。
一人で行く理由は保護者がいると絶対に卵が出現しないらしい。でも村全体で見守るのはOK。
うん、よくわからん。
あれこれ考えてるうちに、二時間ほどで目的地が見えてきた。
半分が林に囲まれた美しい湖で、太陽を反射してきらめいている。
何度か父と来たことがあり、釣りを楽しんだりした。湧き水だから冷たすぎて泳ぐのは無理だったけど。
まだ太陽も真上に来てないし、取り敢えず今日の寝床のチェックからかな。
祠の中を覗く。そこは洞窟になっており中は薄暗く、少しひんやりしている。
それなのに清涼な空気が漂っているのは、神聖な場所だからかな?
取り敢えず奥まで行こうと足を進めた。
三分ほど歩いたところでたどり着いた最奥には、正面に小さな社があり、黒に近い緑色の何かが祀られている。その左斜め前には鳥の巣のような物の入った社があった。
「この鳥の巣に俺の卵が出るのかな? あっちの暗緑色のは何だろう?」
正面の社に近づいて祀られている物を見てみる。
「これ、鱗かな? って事は玄武様の物なのかな?」
中にはA4サイズくらいの鱗が安置されていた。
そう、この世界には四神が存在していて東西南北を守護している。
中央に空白地帯があるらしいけど、応龍様は確認されてない。
そして俺の産まれた地は東の端にある大陸だ。
このアギオロス大陸の殆どは東の青龍様に属しているが、俺の産まれた地は、かなり北に位置しているため玄武様の支配域だったりする。
「でっかい鱗だな。本体ってどれくらいなんだろ。ピラルクが三m強で鱗が十cm位だっけ?うーん単純計算だと十mくらい? はは、そこまでなるともう怪獣だなぁ」自分の想像にちょっと乾いた笑いがでた。まぁ、魚類と単純計算しちゃダメだろうけど。
それから入念に虫が居ないかチェックして軽く掃除をした。
虫いやだ。こんな中世ヨーロッパみたいな世界に転生しちゃったけど虫無理。
なんせ現代日本の二十九歳未婚女子だったからね!
そう女だったんだよ私! 三年前の五歳になる直前ぐらいのある日、急に思い出した。
まさか転生するとは。しかも男の子。子供の頃に男の子だったら良かったのにと思ったことはあったけど! まさか今更、本当に男の子になるとは。でも、癒し系男子だと我ながら思うこの顔は良かった。後はホントごっつくなくてよかった、元女子としては。
大人になってから大丈夫か心配だけど、五年間男の子として育ってるから前世は知識みたいな感覚になっている。ま、癒し系イケメンで鏡見るのも楽しいし、やる気も出る。ま、考えても仕方ないし
俺は生活魔法の【クリーン】を使って掃除を済ませ外に出た。
外に出ると太陽は昇りきっていた。時間も良さそうなので昼食にする。
俺には両親合作のアイテムポーチがある。我が家では五歳になると一つ作ってもらえる。
ウエストポーチ型のこれはかなりのお気に入りだ。ヌメ革でできていて手触りもいいし頑丈。
アイテムポーチ部分以外にも外ポケットを付けてもらっていて超便利。デザインは自分で考えて父に作ってもらった。
五歳の誕生日前に前世の記憶が覚醒して良かった。
父の残念センスの結果、兄達のはただの巾着袋なのです、革なのに……。
アイテムポーチって言うのは異世界のお約束、見た目以上に入るってやつ。この世界では時空間魔法を魔術付与して作成可能だ。もちろん難しいけど。
これは母が魔術付与してくれている。さすがハイエルフ。難しい魔法もお手の物らしい。
作ってすぐは見た目通りしか入らないんだけど、そこに魔力を与えていくと、どんどん育って、少しずつ能力アップしていく。入る量だけでなく時間の進み方とか。後は与えた魔力が鍵となり使用者が制限される。解除することもできるけど、異世界は治安が悪いから俺はわざわざやらない。
町に行くと魔術付与だけして育ててないのとか、ある程度育てて使用制限を解除したものとかが売ってるらしい。後者は誰でも使えて、育ててある分高額になるそうだ。
それはさておき。今日まで三年間、毎晩欠かさず魔力を注ぎ込んできたこのポーチは、かなりでっかく育っている。多分大型トラック一台分くらい? 魔力が空になるまでつぎ込んでるから魔力量も育った。一石二鳥だね! 今では父も抜いて家内では母に次いぐ多さだ。
ちなみに父がヒューマンだから俺はハーフエルフ。その父もヒューマンの中では魔力量がかなり多い人だから、俺たち兄弟はみんな それなりに魔力量が多い。産まれた時点でヒューマンの上級の魔法専門職の人と同じくらいかな? でも兄たちは真面目にアイテムポーチも育ててないし、魔力鍛錬もしてない。勿体ないなぁ。アイテムポーチとか一財産だよ本来なら。
この世界では十五歳で成人で、長兄とか十四歳なのにどうするんだろ。まぁあんまり仲いいわけでもないから、どうでもいいんだけどさ。
そんなことを考えながらアイテムポーチから出したお弁当のバーガーを囓る。
ん~~。硬いけど香ばしい黒パンに塩が効いた鹿の魔物肉、酸味のある野菜にチーズがおいしい。父の作った似非ベーコンうまー。うちではアイテムポーチが当たり前だから黒パンをカッチカチには焼かない。うん、おいしい。外側のガリガリしてる所とか結構好きなんだよね。もちろん柔らかくてふわふわなのも好きだったけど、あれは高い。この辺じゃ小麦育ちにくいから。
それにしても、異世界転生ものの主人公が醤油とか作っちゃう気持ち、今なら痛いほど分かるわぁ~。かく言う俺も切実に欲しいと思ってるし! 醤油! 味噌! やっぱり日本人には無くてはならないらしいよ。探すか作るかしよう……。
食事を終えて、湖の周辺を散策してみる。辺りには様々な植物が生えていた。
「おっ。これ母さんに教えて貰った薬草だ」
そんな風にして、両親から教わった薬草や野草、木の実なんかを採取しながら過ごした。