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4.空を飛びました

 ドラングーンが棲みついた巣穴はその奥に縦穴が開いていてそこから出入りしていたそうだった。なんでも、丁度良く崩落していたので巣穴にしていたらしい。

 廃坑はドラングーンの体格には狭すぎるのでどこか別の出入り口があるのだろうとは思ったが、予想通りの結果である。


 ともかくこれで依頼(クエスト)は完了だ。後は冒険者協会(ハンターギルド)で完了報告をすれば、この街にも用はない。

 エイスが横取りだなんだと何やら喚いているが、そもそもこの依頼(クエスト)は早い者勝ちではなく、依頼を請けた全員に均等に報酬が与えられるものだ。でなければ、複数のパーティで協力することができなくなってしまう。なので、横取りしたからといってされた側に不都合はない。

 いや、素材が取れないのは不都合のうちか。完全に遊ばれていて、敵いそうになかったけどな。


「じゃ、目的のドラゴンはもらってくな」

「うむ、来てくれて助かった。感謝する」


 一番ドッシリ構えて動じていないドウに声をかければ、礼が返ってきた。ドラングーンとの交渉が成立した直後には既に武装解除済みだったのだから、状況判断力は相変わらずだ。右肘を痛めたようで、手で覆っているのが心配ではあるが。

 ついでだ、サービスしていくか。


「我慢しないで聖女様に治してもらえよ、ドウ。黙ってたら気付かれないからな。癒水(ヒールウォーター)


 ヒョイと投げた癒やしの水が患部に当たるのを見届ける。苦い表情は、面倒くさいとでも思っているのだろう。長い付き合いだから無口なドウでも俺は表情と仕草で判断がつくが、新入りにそれを求めるのは酷というものだよ。


「じゃあ、お先に。ドラングーン、乗せてくれ」

『易い用だ。背より肩が良いな。うむ、落ちるでないぞ』


 尻尾側からよじ登ってドラングーンの導きに従いほぼ肩車状態で落ち着く。

 と、ドラングーンがその大きな翼を広げて羽ばたいた。大きな翼とはいえ持ち上げる身体も巨体なので物理的に考えれば無理があるのだが、羽ばたくたびにグイッグイッと上空へ舞い上がる。

 そして、あっという間に縦穴の入り口が遥か足元に遠ざかっていった。


「よしよし、自然に早期脱出成功。もうアレの面倒を見なくていいと思うと、気持ちも清々するな」

『む? 別口と見えたが、仲間であったか?』

「昨日までは、な。可愛い聖女様とイチャイチャしたいそうで、ポイッと捨てられたんだ」

『それは何と勿体無いことを。(あるじ)ほどの稀代の実力者を手放し、見た目ばかりのメスを選ぶとは』


 稀代といわれるほどではないと思うがな。まぁ、それは良い。規格外の従魔を手に入れたのだから、主人も外面くらいはそれに見合った方が良いだろう。

 正直なところ、エイスに評価されなくても別に困らないし。


 それにしても、流石は空の王者と言うべき竜だ。上昇スピードも安定性も、俺の魔法とは桁違いである。

 が、ひとまず戻ってもらわなくては。


「ドラングーン。あの街に戻ってくれ。冒険者協会(ハンターギルド)に報告する義務を果たす」

『承知。我は街には入れなかろうが、どうする?』

「近くで適当に待っててくれ。従魔契約のおかげで念話が通じるはずだ」

『なれば、旨い肉でも狩っておこう。重首牛(カトブレパス)の群れが近い』

「カト……。邪眼で殺されないようにな」

『あの程度、我の力をもってすれば雑魚ぞ?』


 左様ですか。頼もしい限りだ。





 基本的に魔法師は金属の装備を持たない。武術の鍛錬をする時間があるなら魔力の増強に使うのが普通で、金属は重いのでそれだけで体力が奪われるため、倦厭されるのだ。

 俺も同じで、護身用にミスリル軽量合金のレイピアを腰に提げてはいるが、皮鎧すら重いともっぱら強化魔法を組み込んだ服とローブで防御している。

 そもそも、魔法師の元まで抜けられてしまうようなパーティは長生きできない。紙装甲でも攻撃が当たらなければ問題ないのだ。

 そんなわけなので、鍛冶屋のメッカである鉱山都市は俺には用がない。食べ物を調達するため屋台は覗いて歩くが、道程は冒険者協会(ハンターギルド)に一直線である。


 門番に廃坑のドラゴンを追い払ったことを軽く告げ、まっすぐ向かった冒険者協会(ハンターギルド)でも同様に報告すれば、俺の義務は完了である。

 詳しくは後から戻ってくる勇者一行に聞くように、と付け加えれば、それが効果的だったようであっさり引き止めを諦めてくれた。人身御供としては有能なヤツである。


 その後は市場の方へ少し寄り道して通り抜けがてら野菜類を買い込み、そのまま門を出た。入ってから大体2時間ほどだろうか。街へ入る手続きをしてくれた門番が交代だったのか出口側にいて、もう出るのか、と声をかけてくる。

 折角だ。置き土産ついでに少し驚かせてやろうか。


(ドラングーン。来れるか?)


 声をかけて1分もしないうちに、俺の頭上でバサリと幕状のものを風に張る音がした。

 街を出たら帰省するのだ、という話をして道中の危険ポイントを門番から聞いている最中だったため、全員が音の発生源を同時に見上げ。


「「「ど、どどど、ドラゴン!?」」」

「おう、早かったな」


 門番も入り口側の列を作る人々も、驚愕に硬直し、一部は腰を抜かし、何人かの女性が気絶している。ふむ、流石にやり過ぎたか。


(あるじ)、良かったのか?』

「うーん、ちょっと予想以上の反応だったな」


 その巨体に見合わず無音で地上に降りたドラングーンが猫のように丸まってから適確に突っ込んでくるので、俺も肩をすくめて返す。その足元に獲物らしい重首牛(カトブレパス)の死骸が3頭分置かれたので、ひとまず収納箱(ストレージ)に放り込んだ。

 それにしても、門番としてはそこで硬直していたら失格だろう。せめて格好だけでも臨戦態勢を取らねば、守るべき街が守れない。

 ドラゴン相手では無謀極まる話なのは分かるけどな。


「安心してくれ。このドラゴンは俺の従魔だ。人は襲わない」


 そうでなくても、ドラゴンほどの知能があれば不要な殺生はしないものだ。本能のまま暴れて被害を拡大させるのは理性のないモンスターだけである。

 恐る恐る槍の先を向けてきたのは流石の隊長殿で、それでも俺がポンポンとドラングーンの脇腹あたりを叩くのに合わせて小さい引き攣った悲鳴を上げていた。

 まぁ、長居して彼らに余計なストレス時間を押し付けるのも可哀想だしな。


「じゃあ、行こうか、ドラングーン」

『承知。行き先は何処(いずこ)か?』

「このまま麓まで下って、南東へ」


 起き上がって俺が登りやすいように伏せてくれたドラングーンによじ登って先程と同じく肩車の位置に陣取り、そのまま垂直移動で浮き上がるのに任せる。見上げる門番に手を振ると、ある程度浮上したドラングーンが速度を上げて飛行を始めた。


 廃坑から街までの間は慣らしだったのだと分かる。グングンと景色が後方に過ぎ去っていく、そのスピードは旅客機とは言わないが乗用車並みには速い。身体が剥き出しなので感覚としてはオートバイが近いだろうか。そのスピードが起こす風圧で森も草原もざわめいている。

 俺を乗せていることで気を遣ってくれているのか、ドラゴンにしては低い高度を飛んでくれていて、生身では影響が出るはずの気圧や気温の低下も耐えられる程度なのが助かる。もっと高く飛ばせてやりたいが、それなりに実力には自信のある俺でも急激な気温低下や気圧の急増減に耐えられる防御膜(バリア)には心当たりがない。


『このくらいで飛べば良いか?』

「もっと速いと飛ばされそうだな」

『流石の(あるじ)も身体は並みのヒトであるから仕方がない。鞍が入り用だな』

「良いね。落ち着いたら作ろうか」


 勇者一行に同行する仕事から解放されれば、俺は晴れて無職だ。冒険者格(ハンターランク)をSまで上げる間に溜め込んだ依頼(クエスト)報酬のおかげで、金銭的には慎ましく生きるだけなら一生分余裕で賄えるだけの蓄えもある。実力が知られているだけに、のんびりさせてもらえるとは端から期待していないし、基本は自適の隠居生活、時々は依頼(クエスト)消化でゆっくり余生を過ごさせて貰おう。

 そのためにも、まずは留守宅にして故郷に残してある塔に帰るのが良い。恐らくこのまま空を飛んで行けばあっという間だ。


(あるじ)ほどの実力者が落ち着く(いとま)を得るは難しかろうな』

「嫌な予言止めろよ。フラグが立つだろ」


 せめて、ドラングーンに載せる鞍を作る時間くらいは確保させてほしいものだ。

 不吉な予言に身震いしつつ、俺は新たに得た強力な従魔と共に里帰りの旅を始めたのだった。


誤字修正しました。すみません。

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