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 国と宗教の重鎮に人外の大物まで交えたお茶会の話題は、ほぼほぼ勇者一行珍道中で終始した。


 冒険者(ハンター)を始めるならまず受けるのが教会で受けられる職業判定で、これはどの宗派でも同じように行われるわけだが、そこで当代の勇者であると見出されたのが勇者エイスの長い旅の始まりだ。

 魔王城デーンドーンへ向かう道中に我が国アキトシス王国があり、当時は勇者と従兄弟のアイムスの二人旅だったのだが、危ういエイスの性格に危機感を抱いた我が国の国教である創造神神殿の神殿長がお目付け役として派遣したのが俺、という経緯だ。人類の敵と目される魔王の討伐を目指すなら最古の宗派である創造神神殿としてもサポート役を付けよう、というのが表向きだった。

 この王都を旅立ったのは約1年前。今日までの1年間に隣国までしか進んでいないという足の遅さだが、そもそも魔王に対峙する実力が足りていないので修行の日々を送っていたためだ。ようやくA(ランク)に至って見栄えも良くなったので、やっと魔王城を目指す道程に入ったところ、というのが現状だった。

 俺が派遣された当時はエイスの冒険者格(ハンターランク)はDだったので、まぁそんなものだろう、と全員が頷いている。

 ちなみに、通常の冒険者格(ハンターランク)の格上げスピードは、DからCで3年、CからBで5年、BからAで10年かかるそうだ。合わせて18年かかるということで、比較すれば破格のスピードなのだが。


「トアくんのサポートがあって格上げに手間取る方がおかしいわよ? 勇者の称号を神殿が認めたならなおさらね」


 女王陛下のツッコミが入った。


 そんな格上げの日々と、聖女を迎えて俺を放逐した経緯、ドラングーンとの出会いに帰国の道中を語るが、聞き手側は呆れ顔で終始してしまった。

 エイスのダメ勇者ぶりは俺視点なのでかなり辛口であるせいだが、エイスと別れてからの方が呆れ具合が酷かったようだが気の所為だろうか。


 それにしても、短い腕を伸ばして両手でボウルを支えて紅茶を啜るドラングーンが、ゴツい見た目のくせに可愛いんだが、どうしてくれよう。


「国軍内務については軍に任せるべきかと思いますが、自浄が利かないのであれば私が口を挟むべきでしょうか」

「あら、いきなり宰相が出て行っては縄張り争いの火種になるわ。まずは軍将に話を通さなくちゃ。ちょっと呼びつけるから待っててね、トアくん」


 話の流れから、国境の街で友人を通じて関所警備隊から調査を頼まれた件も話題に挙がったための、宰相閣下と女王陛下の反応だった。

 元々俺が友人から受けた気軽な頼まれ事だというのに、話した相手が悪かったのか予想以上に大掛かりになっている。


「後で城門に寄って調べていこうと思っていたのですが」

「トアくんは友人が困っているという程度の認識かも知れないけど、内容を聞くに明らかに王国軍内部の不正事件だわ。大事にならないうちに再発防止まで徹底しておくべき事案なのよ」

「陛下の仰る通りでございます。国政を預かるものとして、赤面の至りですな。理由がなんであれ、公文書紛失は重大事件に発展する懸念があります。定期報告書で済んでいるうちに対策を講じるべきなのです」


 今回発覚したのが平時の定期報告だからまだ良いが、関所から来る文書であるからには不審な事物の情報から密輸入や密偵の入出国が見つかる可能性もあるわけで、報告が届いていて見逃すこととそもそも報告が届かないことでは問題のレベルが雲泥の差だ。それが国軍内部の犯行なら、国家反逆罪に問われても不思議はないらしい。

 国家運営って厳しいな。気楽な平民で良かった。


 やがてやって来た王国軍最高位職である軍将のデガン総大将は、宰相から知らされた内容に大層憤慨し、顔を真っ赤にして国王陛下に向き直って深々と頭を下げた。


「此度は身内の恥により女王陛下のお手を煩わせる事態を招き面目次第もございませぬ。大至急犯人の検挙並びに再発防止策を講じ、善後策を早急に奏上申し上げる次第でございます!」

「ええ、期待しているわね、デガン総大将。犯人の検挙には魔法師ゼフォン殿との協力を求めます。被害を受けた関所警備隊から直接依頼を受けた上で私達に事態を教えてくれた功労者です。蚊帳の外にすることは許しません」

「はっ! 深淵の魔法師殿に協力いただけるのでしたら願ってもないこと。よろしくお願い致します!」


 何とも堅っ苦しく俺にまで深々と頭を下げたデガン総大将は、間違いなく体育会系気質かつ政略にまで思考の働かない脳筋さんと見える。女王の勅命としても、一般人である俺の参加に疑問のひとつも呈しないって、それは駄目なんじゃないか。確かに二つ名付きの有名人だが、身分はただの胡散臭い冒険者(ハンター)だからな。

 俺には都合が良いから良いけどよ。


「さて、ひと仕事して帰るとするか」

「ごめんなさいね。お願いするわ。……そうそう、トアくん。大事なことを忘れていたわ。今回の依頼(クエスト)の報酬。何か欲しいものを言ってちょうだい」


 別れ際になって陛下がパチンと手を叩いた。すっかり忘れていた話を思い出したようだ。そのまま忘れていて良かったのだが。

 そもそも、勇者一行に同行することになった指名依頼の報酬は、協会(ギルド)経由で支払われる予定になっている。それなのに何故陛下が報酬の希望を尋ねるのかというと、この依頼が協会(ギルド)を通したものではなく直接依頼されたものであり、依頼を受けた時に「何でも好きなものを用意するから」と口約束があったからだ。

 ただし、協会(ギルド)を通さないと協会(ギルド)貢献度にポイント加算されないため、後付で協会(ギルド)に申請して通貨報酬はそちらから受け取ることになっている。その結果、「何でも好きなもの」を陛下から受け取ってしまっては貰いすぎなわけだ。

 忘れられているならそのままで良かったのだが。


「報酬は協会(ギルド)から受け取ることになっていますので、これ以上は辞退させてください」

「そういうわけにはいかないわ。政治的事情で請けてもらった依頼だもの。それによって被った精神的苦痛に対して依頼者として報いる必要がありますし、その用意があります。遠慮なく言ってちょうだい」

協会(ギルド)から支払われる報酬はワシら神殿側から支払う分として陛下と話がついておりますでな。陛下にも正当な権利として支払いを要求なさいませ」


 ずっとニコニコ笑って傍観者を気取っていた神殿長猊下まで口添えしてきて、退路を塞がれた。まったく、このタヌキ(じじい)はいい所を持っていく爺さんだ。

 すでに退出する体勢だったデガン総大将も、戸口に立ったまま待っている状態だ。それは、急かされているように見えて落ち着かない位置で。

 いや、まさしく急かされているのか。


「では、ドラングーンに乗るための鞍を」

「なるほど、それは必要そうね。ドラングーン殿。計測させていただけますか?」

『我の大きな身体では主に付き従うわけにもいかぬ故な。良かろう。ここに残れば良いのであろう』

「じゃあ、迎えに来るからここにお邪魔させてもらっててよ」

『承知した。女王陛下、世話になる』

「歓迎致しますわ」


 話もついたので、こちらもやるべきことをさっさと片付けてくるとしよう。





 事は郵便物の問題なので、まず訪ねたのは公務伝令部王都集配所だ。

 これは王都の南外門に附設されており、王都内各所から地方へ向かう伝令を一度取りまとめる部署になっている。逆に、地方から王都内各所に届けられる伝令を取りまとめて分配する役目も負っていた。

 つまり、関所警備隊から届いた定期報告書はこの集配所から城門へ届き、そこから警備隊本部へ分配され、警備隊本部からは城門を通らずに集配所に直接持ち込まれていた、という流れだ。城門に配達してくれる郵便屋は城門から郵便物を持っていってくれないらしい。


 公務伝令部も軍部の管轄なのだそうで、デガン総大将の顔パスであっさり所長室に通された。最高幹部の顔の威力だな。S(ランク)とはいえ冒険者(ハンター)の肩書では無理なので助かる。

 事情を聞いた所長が出してきたのは、城門集配担当者本人だった。目的は彼が持ち歩いている月別の集配記録用紙だそうで。


「我々の部署は公文書を扱っておりますので、集配の度に日別でどこからどこへ配達するべき荷物をどこに持っていったかを全て記録しています。いつでも照会できるように持ち歩いていますので用紙の耐久性の問題から保管は1年間です」

「このそれぞれに付いてるチェックは何だ?」

「受け取りの確認を受け取り側担当者と対面でしているので、その時付けているものですね」

「配達って対面なのか」

「重要性が低いとはいえ公文書ですから。収集箱にポイってわけにはいかないですよ」

「ちなみに、その時一緒に引き受けとかはしないのか?」

「一通ごとに確認して受領証をお渡ししているので、ご面倒でも依頼主の担当者さんに直接持ち込みをお願いしています。王城内からの伝令も多いので城門に支部があっても良いと思うんですけどね。城下の公館からも請け負いますので、全て外門で一括請負になってます」


 復路で城門を通らない理由が判明だ。

 デガン総大将も面倒臭いと思ったようで、要改善だな、と呟いている。まぁ、今回はその面倒臭さに救われて問題が早期発覚したともいえるので、今後の課題にしてもらおう。


 ともかく、せっかく出してくれた証拠品なので、それを改めさせてもらう。

 関所警備隊からは毎月初日に規則正しく提出しているらしく、毎月上旬の伝令の数が多い日に外門を通過して城門に届けられている。探すまでもなく毎月同じような場所にその記録が記載されていた。

 つまり、毎月城門までは届いているということになる。


「城門で受け取られたらどう処理されているかは知っているか?」

「受け取ってくれる警備兵殿が直接その場で分配していますよ。届け先も分配室に直接なので」

「その時に何か変な動きを目撃していたりは……しないだろうな」

「ないですね。……あ、いや、一度だけ不思議に思ったことがあります。どなただったかな、何通か分配しないで手元に残していたので、それはどうするのか、って聞いてみたら、この後行く予定のある分配先だから直接届けるのだと言っていました。城門警備って他の部署にはあまり用事がないはずなのですが、昼前だったので友人でも誘って食堂に行くのかなって」


 公文書を持参で他部署に直接迎えに行く、か。あり得なくはないだろうが、食堂が目的地なら食堂前で待ち合わせじゃないかな、普通。兵舎の食堂はどこの執務室から見ても城門の方が近い。

 ともかく、その怪しい人物を調べてみよう。

 それが何月何日だったかを聞けば、当人も別の個人的イベントがあって、っていうか結婚記念日で早く帰りたかったそうだが、それで詳細な日付が分かったのは助かった。

 しかし、そうか。まだ下っ端の配達員だけに年も若いが、既婚者か。

 リア充爆発しろ、とか思った俺は悪くない。独身で悪かったな。


 そういうわけで次に向かったのは城門警備隊の詰め所だ。行き先が同じなのでこれから配達があるというその既婚配達員も同行している。

 引き渡しに普段使っている分配室にスムーズに入れたので、同行してくれたのはありがたい。城門警備隊では、いつもの郵便屋が最高幹部と有名人な冒険者(ハンター)を引き連れていることにビックリしていたが。


 慌ててやって来た城門警備隊の隊長はデガン総大将に相手を任せ、俺は部屋の隅へ移動。出入り口や外向きに開いた窓口が見渡せる位置に立って、時空魔法のお世話になる。


過去視(プレイバック)


 差し出した両手の上に横長のスクリーンを表示し、指定日時を表示する。時刻までは正確に分からないため、朝から始めて早送りだ。

 そのうちに、既婚配達員くんが現れる。城門警備隊の制服を着た兵士と一緒である。これが容疑者ということか。

 少し早送りのスピードを緩めて、登場人物のやり取りを観察する。普段と変わらないようで、現在進行形でスクリーンの外側で見られるのと同じ場面が続いていく。

 と、確かに何通かの伝令書を手元に残しているのが確認できた。既婚配達員くんが問い質したと言っていた通り、それを指差して何やら会話をしているのも見える。

 それから、引き渡しを済ませた既婚配達員くんが場面から退出し。


「おー、大胆な犯行」

「む? 何か分かったか?」


 隊長あしらいも済んだようで寄って来たデガン総大将が横に立って聞いてきたので、問題の場面に巻き戻して再生してみせた。

 ひとり残った警備兵が、手元に残した伝令書簡の束から1通だけ選んで抜き出し懐にしまい込む一部始終が、はっきり映し出される。


 実はこの時空魔法。最近までどうにもイメージが掴めず苦手だったのだが、動画再生の知識を得た今はボタンひとつな感覚で使えている。魔法はイメージ力に左右されるという魔法師の常識を改めて再認識だ。


 再生して見せたものに、デガン総大将は目を見開いて驚愕の様子だったが、そのまま表情は憤怒に変わった。

 どうしたのかと聞きに警備隊長殿もやって来たので、3(たび)目の再生をして。


「な、なんということだ!」


 叫んで分配室を飛び出していった隊長殿の誰かを呼びつける大声が窓口から聞こえてくる。

 うん。映像証拠の威力はスゴいな。


「深淵殿。この魔法の効果を聞いても良いか?」

「ご想像の通りですよ。発動しているこの場所のこの方向で過去に起こった出来事をそっくりそのまま画面上に表示しています。動かすと、こんな感じに視点も移動しますね」

「この映像を別の場所で確認することは可能か?」

「録画魔法で魔石に焼き込めばできるかな。ちょっとやってみましょうか」


 そもそも録画魔法なんて無いが。必要な魔力と属性、実現イメージから新しい魔法を作る。これが出来るのも深淵の魔法師の強味だ。

 色々極めれば応用が出来るのはどんな技術でも同じ。刀剣を作る鍛冶師は教えられなくても包丁を作るくらい簡単だし、和食の板前さんに中華料理をお願いしても材料さえ揃えばそう難しくはない。多分。

 そんな感覚で、一応当代一位の魔法師を自負する俺も、既知の技術イメージを魔法で再現するのは実はあまり難しくないのだ。


 そんなわけで。

 収納箱(ストレージ)から取り出しましたるは俺の余分な魔力を結晶化させた自作魔石。何しろタダなので実験に最適だ。

 そこに、4度目の再生をしているスクリーンを対面で写し込む。


録画(レコーディング)


 流石にぶっつけ本番では必要な魔力量の最適化も出来ておらず、何だか膨大に魔力が吸い取られていくが、必要な場面さえ撮れれば問題はない。

 容疑者がスクリーンから姿を消すまでの様子を等倍再生で写し撮った魔石は、録画魔法を込めた魔力を解放したらそこで取り込みを止めた。


「さて、うまく映ってるかな」


 確認は俺ではなく、魔法師ではないデガン総大将にお願いしよう。証拠の再生に俺が毎回付き添うのでは俺が面倒臭い。


「室内を暗くして、魔石のこの透明な面を壁に向けて魔力を少し与え、発動語(キーワード)を唱えるだけです」

発動語(キーワード)?」

「はい。再生(リプレイ)と」


 デガン総大将が魔力を流すところまでは既にやっていたようで、俺の発動語(キーワード)で魔石が反応した。部屋は明るいため、なんとなくぼんやりした感じに壁に投影される映像は、ちゃんと録画したそれだ。どうやら一発で成功した模様。

 イメージは勿論プロジェクターだ。時空魔法で指定時間分の目の前の状態を画像として閉じ込め、光霊魔法で壁に投影する。

 魔道具でも作れば誰でも使えるビデオカメラになるだろうが、光霊魔法はなかなか難しいし、時空魔法なんて深淵の魔法師限定なので、俺にしか作れない超レアアイテムになるだろう。

 作らないけどな。記録した魔石が欲しきゃ、俺に依頼したら良い。隠居暮らしの貴重な収入源になってくれ。


「おお、これは素晴らしい! このまま譲ってもらえるかね?」

「良いですよ。毎回最初から再生になりますし、最後まで止まりませんが」

「証拠の部分さえ確認できればそれで構わぬ。過去をそのまま見られるこの事だけで画期的だ。その前後もあれば状況も分かる。充分、いや、それ以上だ」


 あとは、ボケている時は近づけたり離したりして調整するだとか、再生中に魔力を再度籠めると早送りできるとか、そのくらいの説明をする。

 説明しているうちに、件の登場人物が縄を打たれて室内に連行されてきた。怒って飛び出していった隊長殿が捕まえてきたようだ。


「城門警備隊第三班班長リーデン・ハースを容疑者として連行致しました。取調べは通例通り軍務審問部でしょうか」

「うむ。審問部への引き渡しは私も同行しよう。深淵殿はいかがなさるか?」

「犯人確保もできましたし、引き上げますよ。後はお願いします」

「承知した。被害にあった関所警備隊にも良く取り計らっておこう」

「ええ、お願いします」


 これで王都でのおつかいも達成だ。

 ドラングーンを迎えに行って、自宅に引き上げますかね。


誤字修正しました。すみません。

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