神が彼女に与えた啓示
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命に永遠はない。
教えてくれたのは、昔仲の良かった女の子だ。
彼女は僅か12歳にして、全てを悟ったような、大人びた女の子だった。
自殺したあとわかったのは、彼女は父親から性的虐待を受けていたということだった。
全ては啓示されているから、受け入れるしかないの。あらゆる物事は、すべてあるがままに受け入れなさい。
まるで彼女は神様のような人だった。
難しい言葉をよく話し、授業よりも図書館で借りてきた本を読むことに時間を費やしていたから、同級生の間でも浮いた存在だった。
「私の事が好きなの?」
彼女はある日、学校の帰り際に声をかけてきた。
僕がいつもジロジロ見ていた事に気がついたのだろう。
「一緒に、帰る?」
僕はもちろん舞い上がった。
でも思春期だったし、「まぁ、別にいいけど」素っ気ない返事をしてしまった。
これが、彼女と話せる最初で最後なら、もっとやれる事があったのに、と後で後悔した。
運動靴に履き替え、歩き出すと、「私はね、近いうちに死ぬの」
「どうして?病気でもあるの?」
「違うの。私は、自分で死を選ぶの」
「自殺ってこと?それは...よくないよ」
「私に、生き続ける事は許されないの。私は、死ななければならないの」
「もし、君が困っていることがあるなら、だから、僕がもしよかったら、」
「違うの、違うの。これは啓示なの。」
「また出た、啓示。それは神様かなにかってこと?」
「違うわ、受け入れなければならないもの、というのが近いのかな。」
曲がり角に差しかかった。
猫とすれ違う、にゃあと鳴く。
「可愛い」
「猫が好きなの?」
「嫌いではないかな。猫は自由気まま。」
「犬は嫌い?」
「別に。でも、誰にでも愛想を振りまけるのは、憧れる」
「ペットはいる?」
「いない。」
「欲しいとは思わない?」
「命に永遠はないの。犬も猫も、せいぜい20年しか生きない。なぜだと思う?」
「寿命...だからかな」
「その通り。私にも寿命がやってきたの。」
「そんな、まだ子供じゃないか」
「犬や猫は?」
「成長が早いんだ」
「一緒。私に寿命がやってきたの。それがわかるの。」
「君は、人間じゃないか」
「あなたには、わからないかもしれない」
「わからいよ、とりあえず、先生とか、カウンセラーとかに...」
「うるさい。でも、あなたには知っておいて欲しかったの。」
「なんでよ、わからないよ」
「いいの。覚えて。近いうちに、私は死ぬ」
「考え直してよ」
「私は死ぬの。命に永遠はないから。」
「だから、その、」
「じゃあ、またね」
僕は追いかける事は出来なかった。
その時は、彼女が何を言ってるのか理解できなかったし、あまりにも難しい事を言っていたからだ。
彼女はその2日後、日曜日の昼下がりに、図書館のトイレで首を吊り、遺体となって発見された。ポケットの中の紙に、性的虐待を受けていたことが書かれていたという。
担任の教師が、淡々と死を告げたのを覚えている。
新聞の地域欄に、性的虐待を受けた少女が自殺したと、軽く取り上げられた。
僕が最初に目にした、死だった。
あれから、何年もの月日が流れた。
「命に永遠はない」
彼女は言った。
寿命が訪れると、死が迎えにくる。
なんとなく、彼女の言っていたことがわかるような、そんな気がしている。




