強化魔法で後方支援してたら何もしてないと勘違いされてパーティを追い出された話
「お前は首だ」
まるで感情の籠っていない平坦な声で、リーダーは俺にそう告げた。
宿屋について、ようやく一息付けたと思っていたら、急に呼び出されてのこれだ。
深刻そうな声色から、あまりよい話題ではないなとは思っていたが、まさかの事態であった。
「そんな……」
俺はあまりの驚きに言葉が出なかった。
このパーティとは結成直後からの付き合いで、かなりの時間を共に過ごしてきていた。
自分で言うのもなんだが、かなり貢献してきたという自負だってある。
だっていうのに、この仕打ちはとてもじゃないが信じられなかった。
「どうしてなんだ。一体何が……」
「分からないのか?」
俺が疑問を口にすると、リーダーは静かに目を閉じ首を振る。
まるでそんな事も分からない俺に幻滅したかのような口ぶりであった。
「逆に尋ねよう。お前は今まで何をしていたんだ?」
今度は逆に質問されるが、言わんとしていることが分からない。
何をしていた? 俺は今まで、できうる限りの事をしてきたはずだ。
仲間の能力を大幅に上げる魔法を用いて後方支援に徹してきていた。
自分自身を強化できない。というデメリットがある代わりに、その効果は絶大だ。
前に出て戦わないから、地味に見えるが、かなり重要な役割だと誇りを持っている。
「お、俺は、自分でできる事を精一杯……」
俺の言葉にまたもリーダーは深いため息をついた。
な、なんだ? 一体何が問題なんだ。
困惑する俺に呆れた様に彼は口を開く。
「例えば、魔法使いの攻撃魔法は凄いだろ?」
「ん、まぁ。そう……かもな?」
正直言って、彼女の魔法は一般のレベルを抜けてるとは言い難い。
だけど、そこは共に戦ってきた仲間だ。
ここで無意味に酷い言葉を言う気にはならない。
それに、彼女は様々な種類の魔法が使えるのであらゆる魔物に対処できる。
そのままでは器用貧乏かもだが、俺の強化魔法と合わせる事で戦闘をかなり優位にできる筈だ。
「だろう。ただでさえ、強力な魔法をあれだけ数多く扱えるんだ。この国ではトップクラスだろう」
ん? 今なんて言った? この国ではトップクラス?
いくら何でもそれは言いすぎじゃないだろうか。
だが、そう口を挟むよりも先にリーダーは続け様に語っていく。
「武闘家は、素早い動きもさることながら、その一撃はドラゴンも屠る」
この語りは何かおかしい。
俺の問題を説明する上で、仲間の有能さを上げるのは分かる。
分かるけど。
「戦士はどんな硬い魔物だって一刀両断だ。加えて頑丈な体は剣だって弾いてしまう」
俺が魔法で強化した時の力を例として出すのは、やはり何かがおかしい。
最悪な予想が頭の中に思い浮かぶ。
しかしそれを必死に追い出す。
いやいや、だってそんなことはないだろ流石に。
「それなのにお前はどうだ? 戦闘ではいつも後ろで突っ立ってるだけじゃないか」
「嘘……だろ?」
最悪な予想が見事に的中し俺は思わず動揺を口に出してしまう。
「嘘ではない。これがパーティに置けるお前の現状だ」
深刻そうに告げるリーダーだが、未だに信じられない。
いやだって、え? 俺の強化魔法気付いてなかったの?
素で自分達があんな超人染みた力を持ってると思ってたわけ?
なんだよ、ドラゴンを素手で一撃って、剣も通さない肉体って。
そんなんもう、お前達がモンスターだろ。
というかパーティ組んだ時おかしいと思わなかったのか?
徐々に強くなっていくとかじゃなくて、突然、急激に強くなったじゃん。
そんな異常なパワーアップに何とも思わなかったのかよ。
俺が戦闘開始直後に「援護は任せろ!」って得意げに言ってた時も。
「毎回威勢は良いけど何もしねぇなコイツ」とか思ってた訳?
嘘だろ? 泣きそうなんだけど。
「何か言う事はあるか?」
「いや、その力、俺が今まで強化魔法で援護してたからなんだけど」
苦し紛れにそう言うがリーダーは、それを鼻で笑う。
「今更そんな言い訳が通じるとでも」
「本当! 本当だから! 次の戦闘で試してみれば分かるから本当」
縋り付く俺をリーダーは鬱陶しそうに力づくで引き剥がした。
いくら強化を掛けてないとはいえ、そこは後方支援と近接戦闘職の差だ。
俺を突き飛ばして、蔑んだ目で見下した。
「ここまで一緒に旅してやっただけありがたいと思うんだな」
そう吐き捨てて、リーダーは宿へと戻っていく。
一度もこちらを振り返らず、完全な決別を現していた。
俺は地面に座り込み、それを惨めな姿で眺める事しかできなかった。
「はぁ……」
俺は一人寂しく街中を歩いていた。
脳裏に浮かぶのは、昨日まで俺が所属していたパーティの面々だ。
思えば結構遠くまで、来たものだ。
出てくる魔物も、かなりの強さになって来ている。
皆の力はそこら辺の冒険者よりも下回るというのが正直な所だ。
俺の強化魔法は、弱い者ほど強くできるので、そう言う意味でも適任だったんだけどな。
ハッキリ言って俺の強化が無ければ、彼等にはここ周辺の魔物は厳しいだろう。
「まぁ、それは俺も同じなんだけど」
自分に強化を掛けられないから、誰か前に出て戦ってくれる人が居ないと無力に等しい。
その所為で迂闊に街から出る事は愚か、故郷へ帰ることも出来ずにいた。
「いや、止めてください」
「ぐへへへへ、いいじゃないかよ」
途方に暮れていると、一人の女の子が、複数の男性に言い寄られていた。
男達は冒険者なのか、どれも屈強な体をしていた。
それに比べて、女性は何の力も持たない普通の人みたいだ。
男達の見た目を恐れて、周りの人は見て見ぬふりをしているようだ。
何とか助けられないだろうか?
俺は気付かれないようにこっそりと近づいて、女に強化魔法をかけた
「いいからこっちに来い!」
「きゃあああああ!!」
女が叫びながら捕まれた腕を引くと、まるで人形の様に男を引きずり、民家の壁へと激突させた。
その様子に残りの男たちはギョっとする。
あんな華奢な女性が屈強な男を振り回したんだから、それは驚きだろう
当の女も何が起こったのかが、まるで分からないようだった。
「今だ! 殴れ!」
困惑してる女性に叫んでそう指示する。
突然の声に女性と男達は一斉にこちらに目を向けた。
男達は突如現れた俺に、口々に因縁をつけ始める。
当の女は、急な事態に頭がこんがらがっているようだ。
俺は再度女性に殴るよう指示をする。
女はその言葉のまま、意を決して目の前の男に殴りかかった。
「え、えーい!」
まるで馴れてない子どもの様なパンチだった。
しかしその一撃で、男は十メートル程吹き飛んだ。
あまりの勢いに死んだんじゃないかと思ったが、ぴくぴく痙攣してるし大丈夫だろう。
「な、なんだぁ!?」
あまりの光景に男達は驚きの表情を浮かべる。
しかし、女は必至な形相で駄々っ子パンチを繰り出した。
彼女の手が触れるたびに、男達は次々に吹き飛んでいく。
咄嗟のガードも、上から問題なく相手の骨を砕き地面に沈めていく。
瞬く間に男達は全員地面に突っ伏していた。
取り合えず、女性が無事だったことに安心して、その場を離れようとすると彼女が声を掛けてきた。
「あなた、わたしに何かしたでしょ」
あまりの鋭さにギョっとした。
今まで一緒に居た仲間たちでさえ、気づけなかった事を彼女は一瞬で見抜いたのだ。
「な、なんで?」
「なんでも何も、明らかにおかしいでしょ。わたし小麦の袋だって持つのがやっとなんだから」
うん。だよね。
普通気付くよね。
その後、俺は彼女と一緒に暮らす様になり今では幸せな日々を送っていた。
俺の強化魔法は一般人の彼女に掛けると鬼の様に強くなるため、普段は護衛を雇わなければならない外出も、問題なく行えた。
また、駆け出し冒険者の為の臨時サポーターとしても重宝され、それなりに充実している。
偶に、ふと昔居たパーティの事を思い出す。
強化魔法で得た力を、自身の実力と勘違いした彼らがどうなったかは分からない。
風の噂によれば、とある洞窟に行ったきり消息が不明らしい。
幸せな日々に浸りながらも、時折そんな彼らの生死に思いを馳せるのだった。