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第二話 元勇者と事情(前)

閲覧ありがとうございます!

気が付いたら一週間以上経ってましたorz 第二話です。

今回陛下の出番は皆無です。

陛下の活躍?も陽が召喚された詳しい事情も次回ですね、多分orz


では今回も少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

「…………っ、あの、グラーセルさんっ。いくつか、聞きたい事ある、んだけど……。」


「あら、なぁに?」


あの後。

比喩でもなんでもなく本気で体の隅々まで洗いつくされ、グラーセルさんに抱き抱えられ脱衣所に戻った時には、羞恥やら何やらで満身創痍になっていた。

真っ白でふわふわのバスタオルで体をぐるぐる巻きに包んだだけの状態でその場にあった椅子に座らされぐったりとしたまま尋ねれば、いつの間に着替えたのか、黒地に銀の糸で花の刺繍が施された半袖のロングチャイナドレスを身に纏ったグラーセルさんが側に来る。


「……グラーセルさん、その服似合ってるね。」


「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない、もう!」


「ヴっ!?」


その絶妙な着こなし加減に思ったままを伝えれば、ぱぁっと顔を輝かせたグラーセルさんに背中をぱぁんっとタオル越しに叩かれた。


……うん、予想はしてたけどやっぱ痛い。


「じゃあ折角だからちょっとサービスしちゃおうかしらっ!」


「えっ?」


嬉しそうなグラーセルさんがそのまま背後に回ったと思ったら真っ白なタオルでおれの髪を丁寧に拭き出した。


「わっ!!? グラーセルさん、おれ自分で……!!」


さすがにこの年齢……っていっても自分でももう細かい年齢は覚えてないけど、少なくても二千歳を超える身で髪を他人に拭かれるのは照れ臭くて慌てて声をかければ「いいのいいの」という軽い調子で返される。


「陛下からも丁重にって言われてるしね。それで、陽ちゃん、どうしたの?」


ちなみにグラーセルさんには浴場で軽い自己紹介は済ませておいた。

……そこで、ここに来て名乗ったのグラーセルさんが最初だという事に気が付き、ちょっとげんなりしたけどまあそれは置いとくとして。


陽ちゃん?と再度名前を呼ばれて、ああうん、と口を開く。


「うん。あのさ、グラーセルさんから見て、陛下ってどんな方?」


「陛下?」


おれの髪を丁寧に拭きながらきょとんとグラーセルさんが微かに首を傾げた気配がした。


「うん。おれはさ、最初出会った瞬間から叫ばれて、睨まれて。黙ってろって言われたり無視されたけど。びしょ濡れのおれにジャケット被せてくれたり、自分が濡れるのも厭わずに運んでくれたり、こうして湯を使わせてくれたりして。それに国王としての責務もちゃんとしてるっぽいし。だからどんな方なのかなと思って。」


「あら。陛下、陽ちゃんにそんな態度を? ……あ~~……陽ちゃんを女性だって思い込んでるって事ね。……まあ無理もないけど。」


おれの言葉に意外そうに瞳を瞬かせたグラーセルさんがやがて、はぁ、と悩ましげに息を付くと頬に片手を添えた。


いや、あの、納得しないで。

おれ、男! 男だから!


「……グラーセルさん。え、でもおれを女だと思ってるなら余計に何であんな態度……。陛下って女性に対して何かあるの?」


「ええ、それが大有りなのよ。――陛下はね……」


内密の話をするように少しだけ声を潜め、顔を寄せてきたグラーセルさんに倣い、顔を寄せる。

そして、グラーセルさんの唇が次の音を形付くろうとした瞬間、トントンと脱衣所のドアがノックされた。


「あら? はぁい、入ってまーす。」


『――ふざけるな、グラーセル。俺だ。着替えを持ってきた。』


それに顔をあげ少しだけ高い声で言うグラーセルさんにドア越しに返す声には聞き覚えがあった。


「あの声って……」


「そう、史煌ね。丁度いいわ。陽ちゃん、陛下の事なら近衛の史煌の方が詳しいから、彼から聞いた方がいいと思うわ。――それに、陽ちゃんに対しての誤解も解かなきゃだしね。」


「――誤解……。」


パチンとウインクしたグラーセルさんの言葉に、そう言えばと肩を落とす。


グラーセルさん、史煌さんからおれが女だって言われてきたんだった。

つまり、それは彼もおれの性別を勘違いしてるって事に他ならない。


「……おれ、そんな女っぽいかな? 外見はまあ……中性的だとは思うけど、任務の時とか周りからそこまで勘違いされた事ないのに。」


ドアの向こうの史煌さんに入ってくるよう声をかけているグラーセルさんを見遣りながら、何か納得行かなくて小さく息を付く。

まあ任務の時は大抵革製のキュイラス付けてるし、腰に剣を携えてるからかもだけど。


「そうねぇ。ワタシはもう陽ちゃんが男の子だって知ってるし、今こうして見ると仕草とかは男性的だとは思うけど。史煌や陛下はそこまで見てる余裕がなかったのね、きっと。でも、気にしなくていいんじゃないかしら。貴方くらいの美貌ならそれが武器になる事もあるんじゃない? 『勇者様』」


「……今は『元』だけどね。」


おれの言葉にすぃっと瞳を細め妖艶に微笑んだグラーセルさんに軽く肩を竦めながらそう返していると、失礼する。と言う短い言葉の後、史煌さんが脱衣所へと入ってきた。

タオルでぐるぐる巻きになっているおれの姿に一瞬戸惑ったような表情を浮かべた彼に、何気なく視線を外されちょっと眉を寄せる。


……ああもう本当に完全に勘違いされてるし。


「……っ、グラーセル、これを頼む。それと着替えが終わったら彼女を迎賓室に連れてきてくれ。」


「はいはい。……ってやだ、これ衛兵の見習いに配られるやつじゃない!! お客様にこんなのを着せろっていうの?」


どこかギクシャクしながら史煌さんが差し出した服を溜め息混じりに受け取ったグラーセルさんがその服――ボートネックの白のTシャツと赤茶色のカーゴパンツを広げ一目みた途端眉をつり上げて声をあげた。


「仕方ないだろう。彼女の体格に合う服が他にはないんだ。まさか女中の服を着せるわけにも行かないしな。」


うん、おれとしてもそれは遠慮したい。

……てか彼『女』って……。


どう誤解を解こうか考えていると、パチリと目が合ったグラーセルさんが人差し指を曲げ、くいっくいっとタオルを指し口の端をつり上げた。


……ああ、うん。それが一番てっとり早いかな。


「……あ、えっと、史煌?さん? 着替えありがとうございます。それで、伝えたい事があるんですけど。」


「……はい、何でしょうか。」


んん゛っと一つ咳払いし、彼に話しかける。

さらに少し躊躇した彼がおれに視線を向けたタイミングでさすがに下半身は無理だったけど、上半身を覆っていたタオルをばっと広げた。


「なっ!!!??」


明らかに予想外だったのだろう溢れんばかりに見開いた目を白黒させ、口を開けた彼に半裸を晒したまま、一つ息を付く。


「とりあえず。おれ、男です。」


「――――おとっ!?」


バッと史煌さんがグラーセルさんに顔を向けると可笑しそうに肩を震わせたグラーセルさんが頷いた。


「そうよ。全く、陛下の近衛でかつては騎士団隊長も勤めていた貴方がそんな事にも気がつかないなんて、耄碌もいいところよ! 彼、日守陽ちゃんは完璧な男の子! ちゃんと可愛いのも付いてたし。」


「……グラーセルさん、それもういいから。忘れて。」


「……お客人!! 重ね重ね申し訳ないっ!!!」


ね、と話を振られたものの、反応に困るし何か恥ずかしいからやめてと僅かに赤面すれば、ハッと我に返ったらしい史煌さんにすごい勢いできっちり九十度頭を下げられた。


「……へっ!!?」


「聞けば我が師が多大なご迷惑をかけ、我が主の無礼な態度。さらにとんでもない失言により、不快な思いをさせてしまい本当に申し訳がない!! 何とお詫びをすればいいか……!!」


「い、いえ! そりゃいきなり召喚された事には驚いたし、陛下の態度もあれでしたけど! 陛下にはおれも無礼な事言っちゃったしお互い様です! あと、男だって分かってもらえればそれでいいんで頭上げてください!!」


放っておくと土下座でもしそうな勢いの彼に慌てて答え彼の肩に触れる。


……そう言えばこの人、イェダの弟子だって言ってたっけ。

何と言うか……、色々苦労してそう。


「しかしっ!! 客人にここまで無礼の数々を働くなど……!!」


「いやもう大丈夫ですから! そこまで気にしてませんからっ、一応これでも二千歳越えた爺なんで!! そこまで怒ったりは……いや陛下には年甲斐もなくキレましたけど、もうしないですから!」


「っ!? に、二千歳ですかっ!?」


「――不老不死なんですって、陽ちゃん。ああちなみに『元』勇者様よ。」


史煌さんにつられる形で少しパニクって言えば彼がさらに目を剥く。

そんなおれ達を止めたのはこの場において一番冷静なグラーセルさんの一言だった。


「陽ちゃん、いつまでもそんな格好じゃなんだから、とりあえずこれに着替えなさいな。あと、史煌はちょっと落ち着く事! 彼、困ってるでしょ!」


「あ、はい。ありがとうございます。」


「……あ、ああ。すまない、取り乱した。」


はい、とグラーセルさんに渡された服を受け取り、その場で着替え始めると気を落ち着かせるためか大きく息を吐き出した史煌さんが再び口を開く。


「……いや、しかし驚いた。貴殿がまさか男性で、そのようなお方だったとは……。だがこれで納得した。……本当に数々の無礼申し訳なかった。」


「……納得? や、もういいですって。あと、おれ日守陽って言います。えっと、史煌さんとお呼びすればいいですか?」


史煌さんの言葉に僅かな引っ掛かりを覚え首を傾げながらも尋ねれば、すっと姿勢を正した史煌さんが頷いた。


「これは失礼しました。私は、エオシャニムはドゥールイユ大陸。大国ラハヴルクを治める王、ヴァトラ・ラハヴルク陛下の護衛、天海史煌(あまみしおん)。以後お見知りおきを、日守殿。あと、敬語はよしてください。貴殿の方が私より余程年上だ。」


史煌さんのその言葉に、ん~~……と声をあげる。


まあ実際そうなんだけど、外見上それだと余計なトラブル起こりそうだしなぁ。


「……なら、史煌さんもおれに対して敬語はなしで。」


「……しかし!」


「堅苦しいのは苦手だし、おれはそんな大したものじゃない。今はただの隠居生活を楽しんでる爺だからさ。だから、ね?」


声をあげかけた彼を制しそう笑いかければ一瞬グッと言葉に詰まった彼が、観念した様に大きく息を吐きだした。


「……分かった。」


「よし! ありがとう、じゃあ改めてよろしくね史煌さん!」


「ああ。……しかしこれは、早急に陛下にお伝えしなければならないな。」


「あら、やっぱり陛下、陽ちゃんの事勘違いしてるのね?」


そのまま眉を下げて小さく笑った史煌さんに、グラーセルさんがそう話しかけるのを見遣りながらおれもTシャツを頭から被る。


あ、見習い衛兵用って言ってたけど結構しっかりしてるし着心地も悪くない。


「ああ。完璧に女性だと勘違いしておられる。だからこそのあの態度だ。」


「成程ねぇ。全く陛下の女嫌いにも困ったものね。」


「……女嫌い?」


グラーセルさんの言葉に思わず瞳を瞬かせる。


えっ!? お、女嫌い? 陛下が?


そんなおれにグラーセルさんがハタと思いだしたようにそうそう、と続けた。


「そう言えば話の途中だったわね。そう、うちの陛下は女と名のつくものとは会話するどころか目も合わせられる事すら出来ない上に、触られたりしたら蕁麻疹出ちゃう程苦手で、筋金入りの女嫌いなのよ。陽ちゃんにああいう態度取ったのもそのせいってわけ。」


「えっ!? 待って、じゃあ陛下がおれにあんな態度取ったの、おれを女だと思ってたせい!?」


あ、でも、そう言えば初めに「女」とか言われた気がする!!


「……誠に申し訳ない。」


あまりの理不尽な内容にえぇーー……と呟けば顔で片手で覆い深く溜息を付いた史煌さんにまた謝罪された。


「えっ……あ、いえ……。ま、まあ理由が分かってっ……て、あれ?」


触れると蕁麻疹が出て、目を合わせる事すら出来ない――?


でも……。


「陛下、おれの事ずっと抱き抱えてくれてたよね。それにあの時も、目を合わせて謝ってくれて……。」


「ああ。私もそこは驚いた。陛下は基本お優しい方だけど、ご自分で女性を運ぶなどなさらない方だから。」


「――そうね、だから史煌は始め陽ちゃんを警戒してたってわけ。もしかして変な魔術でも使って陛下を操ったんじゃないかって。」


「えっ?」


「グラーセル!!」


その言葉にきょとんとして史煌さんを見遣れば、気まずそうな彼が小声で、また申し訳ない。と呟く。


「そんなの、自らの主が常と違う行動をしていて、そこに得体のしれない奴がいたら疑うのは臣下として当然だよ。だから史煌さんは当たり前の事をしただけだし、その誤解はもう解けてるんだよね?」


「ああ、勿論だ。」


「なら、おれから言う事は何もないし、謝る必要なんてないって!」


と言うか史煌さん、謝り過ぎ!


そう伝え軽く彼の肩をぽんっと叩けば、彼の肩から少しだけ力が抜けたように見えた。


「うん、でも、そっか。陛下は、蕁麻疹が出るかもしれないのにおれを運んでくれて、苦手なのに目を合わせてくれたんだね。……後でちゃんとお礼言わなくちゃね。」


改めてそう呟けば何だか胸のあたりがじんわりと温かくなってへにゃりと笑う。


うん、何だか少しだけだけど、陛下の事分かったかも。


…………あれ?


「……え、でも陛下がそう言う風だって王宮魔導士なら当然知ってるよね? それなのに何でイェダは陛下に恋人を?」


ふと感じた疑問をそのまま口にすれば、史煌さんがああ、とどこか神妙に頷いた。


「それで、今ラハヴルクでは少し困った事になっているんだ。それも含めて説明させて頂きたいので、貴殿にはこのまま迎賓室へ来て頂きたい。それと、日守殿。」


「うん?」


「貴殿の知り合いだという客人が先程訪れた。【アレスシャロル】だと言えば、分かるとの事だったが、心当たりは?」


「へっ?」


史煌さんの言葉に再び瞳を瞬かせる。


……【アレスシャロル】それは『彼』が代表を務める協会の名だ。


という事は……。


「……心当たりある。恐らく来たのはおれの『友人』だと思う。」


気が付いてくれたんだ、と口内で呟きほっと息を付いた。

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