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第一話 元勇者と国王

閲覧ありがとうございます。

第一話です。

お風呂のシーン書いててめっちゃ楽しかったです。

では少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。

そこからの彼の行動は早かった。

ずかずかと大股で寄って来たかと思うと着ていたジャケットを脱ぎ、ばさっとおれの頭から被せたのだ。


「ぶっ!?」


まさかそんな事されるとは思っていなくて目を白黒させていれば、さらに軽々と横抱きで抱き上げられる。


「ふぇっ、あああああああ!!? ちょ、ちょっと待って!! 待って下さい!! と言うか貴方も濡れます!!」


「――煩い。暴れるな。黙っていろ、女。」


堪らずにじたじたと暴れれば不機嫌丸出しの地を這うような低い声で告げられ、怪訝に思い顔をあげれば眉間に皺を寄せおれを睨む冷たい光を宿した白銀色の瞳がそこにあった。


「…………っ。」


その冷たさに思わずぴたりと動きを止めるとすぃっと瞳を細めた彼がおれを抱えたままずかずかと歩き出し広間を後にする。

そのまま左右対称に豪華な装飾が施された扉と窓が並んだアーチを思い切り引き伸ばした、かまぼこのような形の真っ白な壁と赤い絨毯の床、頭上にはシャンデラが取り付けられた広い廊下へと出て、さらに歩く彼の腕の中で辺りをきょろりと見回した。


…………これって。


「…………城の、中?」


そのまさにTHE城といった景観に思わず呟けば「……俺の城、エルヴュルド城だ。」という低い声が降ってきた。


「……エルヴュルド城。」


やっぱり聞き覚えがないその名前に首を傾げてハタと気が付く。


……俺の城?


そう言えばさっき、この人イェダに陛下って。って事は……。


「っ、あ、あの……! まさか国お……」


「黙ってろと言ったはずだ。」


慌てて口を開くと遮る様にぴしゃりと言い切られ、仕方なくまた口を噤む。


ってか、今話しかけてきたのそっちじゃなかった!? それにびしょ濡れのおれを抱えているせいでこの人のシャツもじわじわと濡れていってるし。


「っ、あのっ。下ろして下さい。貴方……陛下の服も濡れてきてます……!」


きっとまた同じ事を言われるんだろうなと思いつつ告げたものの、むっつりと黙り込んだ彼からの返答はない。


え、まさかの無視っ!!?


と言うかおれ、この人に何かしたっけ……。


さっき出会ったばかりなのに何でここまで嫌われなくちゃいけないんだろうと少しだけ空しく思っているとぞくぞくとした悪寒が体を駆け巡った。


あ、これ本格的に風邪引きそう。


「っクシュ!」


そう思った瞬間出た小さなクシャミに彼の視線が降ろされた。


「……あ、すみません。少し寒くて。」


……心も体も。


内心でそう付け足し、ちらりと彼――陛下を見遣るとすぐにおれから視線を逸らした彼が声を張り上げる。


「誰か! 誰かいないか!」


「陛下! どうされましたか!?」


それに応える声が前方から聞こえ顔を向ければ、細身だけど程よく筋肉が付いてそうな均整の取れた体と長い手足を軍服のようにも見える襟と袖口に金の装飾が施された蘇芳色のナポレオンジャケットに似た服に包んだ、ダークブラウンの髪に少し眦の下がった切れ長の青緑色の瞳、スッと通った鼻筋に薄い唇の眉目秀麗という言葉がピッタリな好青年がそこには立っていた。


史煌(しおん)、良いところに。客人に湯の用意を頼む。」


「お客人ですか?」


きょとんとした史煌、と呼ばれた青年がおれに視線を向ける。

ぱちりと視線が合うと、すぃっと細めた彼の瞳に僅かな警戒の色を見つけ思わず眉を寄せた。


……おれそろそろ怒ってもよくない? 意味も分からないまま召喚された挙句、大した説明もなく恋人になれだの言われて陛下には嫌われるし、その上警戒されるとか!


「ックシュッ!!」


しかし口を開いた瞬間出たのはまたしてもクシャミのみでむぅっとしながらも顔を俯かせ鼻を擦る。


何だろう、もう、泣きたい。


「史煌っ!」


「え、あ……、はい。畏まりました。ただ、陛下。この時間ですと客人専用どころか使用人の浴場にもまだ湯が入ってないので……。」


「俺の風呂を使えばいいだろうが。」


「――しかし、それは……!!」


「いいから早くしろ!」


何だか段々険悪な空気になっていく二人の顔を交互に見遣りバレないように息を付いた。


ここでまたおれが口だすと話がこじれそうだけど、このびしょ濡れの状態は結構辛いから仕方ない。


「あ、あの。湯は結構ですので、着替えだけ貸していただけませ」


「駄目だ。」


最後まで言い切る前にばっさり切り捨てられ、さすがにムカついて相手をキッと睨みつける。


「…………あの、いい加減にして下さい。おれ、貴方に何かしました? 意味も分からず睨まれるし、黙れとか言われるし。無視されたり、っ、挙句には話も聞いてくれないとか。……っおれの何が気に入らないか分からないけどっ!! そんなに気に入らないなら構うなっ!! 降ろせ!! ってか帰る!! 今すぐ家に帰る!! こっちはやっといろんなしがらみから解放されて隠居生活してたのに、あのイェダとかいう魔導士に恋人になれとかでいきなりこの世界に強制転移させられて、ただでさえも意味が分からない上にこの仕打ちって!! それがこの国のやり方か!! ふざけんな!!!」


「っ、おい!! 暴れるなっ!!」


思いの丈を思い切りぶつけるようにじたばたと暴れれば、さすがに焦ったかのか声を荒げる彼をさらに鋭く睨み付けた。


ああああもう国王だろうがなんだろうがどうでもいいから一発食らわせてとっとと帰った方が早いかもしれない。


「離せっつってんだろ、若造が!!!」


「体が冷え切っているだろう!! そのままでは風邪を引くぞ!!」


もうどうにでもなれと叫べば思い切り怒鳴られた内容に虚を突かれ、きょとんとして彼を見上げる。

続いて少しだけ視線を緩めた彼に「……悪かった。」と謝罪された。


「…………へ?」


「イェダの事だ。あいつにはすぐにお前を元の世界に戻すよう話をしておく。ただ、その前にせめて湯だけは浸かってくれ。」


「…………でも。」


「それと数々の無礼、申し訳なかった。お前が嫌いなわけではない。ただ…………。と、とにかくっ! これが我が国だと思われるのは困るんだ! 史煌!!」


「――分かりました。そう言う事ならすぐにでも貴方の風呂を使えるようにしておきますので、陛下はその方を丁重に連れてきて下さい。」


一瞬言いよどみ、視線を逸らした陛下に首を傾げるものの、話を振られどこか呆れたように言う青年……えっと、史煌さん?の瞳から一気に警戒の色がなくなった事には少しだけホッとした。

と言うかなんか物凄く申し訳なさそうな顔されたような……。


「では先に行きます。」と歩いて行く史煌さんを見送っているとおれを抱え直した陛下がそれに続く様に歩を進める。


……うん、何だろう。いきなり態度を軟化された事には驚いたけど。この人はきっと悪い人ではないんだろうな。


「あの。陛下……。」


「…………どうした。」


改めて声をかければかなり間はあったものの、返ってきた言葉にほっと息を付く。


「無礼な物言いをしたのはおれもです。……申し訳ありませんでした。」


そのままぺこりと頭を下げれば、「いや。」と思った以上に早く応えが返ってきた。


「お前の言い分は最もで何も間違っていない。……王として臣下が仕出かした事の責任も取れないようでは、俺もまだまだだな。それに、史煌以外の者に声を荒げられる事も、声を荒げる事も久しくなかったから新鮮でもあった。ただ『若造』には驚いたがな。……お前の方が俺より年上だという事か? お前は一体……?」


「あーー……。……あはは。っクシュ!」


「……おい。少し急ぐぞ。」


陛下のその問いに曖昧に笑うと同時にまた出たクシャミに彼の歩くスピードが上がる。

真っすぐ廊下を見つめるその精悍な顔は真剣そのもので、やっぱり悪い人じゃないなと再確認してからバレないように小さく息を付いた。






***






本来なら王族――この城では陛下専用となっているというその浴室はとんでもなく広かった。


「――ゆっくり浸かって来い。その間にその濡れた服はどうにかしておく。」


上がったら声をかけろと続け、何故か脱衣所からそそくさと出て行く彼を見送った後。

少しだけ躊躇したものの、完全に冷え切っている体を何とかしたくて結局お言葉に甘えて湯を借りることにした。

脱ぎ捨てたびしょ濡れの服此処に入れろと教えられた籠に入れていく。


うん、ただ下着まで入れていいかどうかは迷ったけど。


首から下げている『切り札』だけは外さないまま、湯気と温かさに満たされた浴室へと足を踏み入れる。


「……凄い、おっきい。」


真っ白な壁の浴場のど真ん中に設置されたその約三分の二を埋め尽くす程の大きさの円形の浴槽にはたっぷりのお湯が張られ、その水面は高い天井に付けられたシャンデラの光を反射してゆらゆら揺らめいていた。

側にあった桶でかけ湯を済ませ、透明なお湯の中に身体を沈めていく。

少し熱めだけど冷えた体にはそれが気持ち良くて仕方がない。


肩までしっかり浸かると口からはぁぁ……と吐息が漏れた。


「……温かい。」


やっと一息ついた心地で浴槽の縁に頭を預け高い天井を見上げたままぼーっとしながらも、胸元で揺れている瞳の部分に赤い鉱石が嵌め込まれた烏のシルエットフレームデザインのキーホルダーが付いたアンティーク調の鍵をそっと握りしめる。


……最悪、これさえあれば帰る事は出来る。でも――……。


心中に湧いた何も分からないこの状況への不安を掻き消すように瞳を閉じる。


それに多分、『彼』ももうおれの異変には気がついているだろう。

もしかしたら探し始めてくれてるかもしれないし。


と言うか、探す?


「……あああああ、バデル!!」


何か忘れてるような気がして首を傾げると、バデルも端末も先程の広間に置いてきた事を今頃になって思い出した。


まあ端末はおれの指紋と魔力認証がなければロックが外れないようになってるし、バデルもちょっとやそっとでどうにかなるような柔な幻獣じゃないから大丈夫だとは思うけど……。


「あ~~……まだ彼処にいてくれるよね!? 上がったら陛下に事情話してさっきの広間に連れていって貰わないと……!!」


しまった、と呻いていれば、カチャリと浴場と脱衣場を繋ぐドアが開いた僅かな音が聞こえ頭をあげる。


あれ? ここは陛下専用の風呂だから誰か入ってくるって事はないって言ってたのに。


あ、もしかして、陛下?


「すみません。おれ長く浸かり過ぎましたか? 今出ま……。」


「あら、随分と可愛いお客人ね、腕がなるわぁ。」


…………ん?


てっきり陛下だと思い話しかければ返ってきたのは色っぽい低音ボイスだった。

不思議に思いドアの方へ振り返れば、身長は多分二メートル超え、艶やかな紫烏色の髪にスッと涼やかな切れ長の金の瞳の美人の、豊満な胸の谷間を見せつけるようにして胸元を開いたバスローブに身に纏ったマッチョが立っていた。


「……へ……え、ええっ!!?」


あまりに色んな意味でインパクトがありすぎる相手から目を離せず固まっていると、あら、と瞳を瞬かせた相手がその色っぽい唇を三日月状に吊り上げ、若干腰をくねらせながら歩み寄ってきた。


え、ま、待って、この人どっち!!? や、胸があるって事は女!!? でも、筋肉の付き方は男だし!!


「初めましてー!グラーセル・アイレンヴェルクでーす! さ、お背中流しましょうね?」


さらに混乱するおれを尻目ににっこりと笑うグラーセルさん?に慌てて「大丈夫です!」と首を振る。


「あ、あのおれ自分で出来ますから!」


「……『おれ』? やあねぇ、女同士で何恥ずかしがってんのよぉ! さ、大丈夫だからそこから出てちょうだい?」


「おっ……!? おれは男ですっ!!!」


あ、女なんだ。と思う間もなく聞き捨てならない単語に思わず湯船から立ち上がり叫ぶとしぱしぱと瞳を瞬かせたラアルさんの視線がおれの顔から下へとゆっくりと下ろされた。


「あら! 本当ね、可愛いのが付いてるわ。ごめんなさい、ワタシったら! 史煌から女性の客人だって言われたからって確認もしないなんて!」


「え…………っ、~~~~!!?」


相手の言葉にハッと気が付き慌てて両手で股間を隠しじゃぽんと湯船にしゃがみ込む。


っそ、そう言えばタオルも何も巻いてないんだった!!


かあああと顔に熱が集まるのを感じながら俯いていると浴槽の縁まで歩いてきた彼女が流れるよう動作で湯船の中のおれの手首を掴み、引っ張り上げる。


「そんなに照れなくても大丈夫よ。だって、ワタシ……。」


「っぇ、は!!? ちょ、まっ、な、何を!?」


そのままグラーセルさんの股間へと手が導かれ必死に抵抗しようとするもののがっちり掴んでいる相手の手はびくともしない。


「っ、や、やめっ……!!」


「あら、涙目になっちゃってかわいーー。たまにはこういうのもありね。」


「全然ないからっ!!!!」


咄嗟に叫びながらも、抵抗空しくぺたりと強引に彼女の股間にバスローブの上から手を付けさせられ、そこにあるモノにびくっと体を強張らせた。


「…………は?」


え、待って、これって。これって!!!?


「ね、分かったでしょ? つまりワタシは男でもあり女でもあるってわけ。だから、恥ずかしがらずに全部ワタシに任せて? 体の隅から隅まで洗ってあげるわ!」


眩しい程の笑顔を浮かべたグラーセルさんはそう言うと掴んでいるおれの手首をぐいっと上に持ち上げた。

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