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 今は昔、とある国でふたりの皇子様による継承戦争がありました。

 これは皇位と、皇帝の証とされる特別な宝石、『皇帝の薔薇』を巡って起きた戦争です。戦争は十年間続き、勝利したのは兄皇子でした。

 けれど弟皇子は、皇帝から預けられた『薔薇』を渡すことを拒みました。兄皇子は怒り、弟皇子とその妻、関係者をすべて、牢獄のような塔に幽閉しました。多くの者が、その塔で命を落としました。命が消えるばかりの死の塔。

 そこには暗く深い闇しかなかったと言います。

 しかし一筋の光が死の塔で生まれました。弟皇子は父親になったのです。

 弟皇子は赤子にたくさんの愛情を注ぎ、三日後、赤子との別れを決意しました。

 ここは死の塔。赤子は朝も夜も泣きます。隠し通すことはできません。

 それに死の塔は、赤子を育てられるような環境ではなかったのです。

 弟皇子は赤子を騎士に預け、別れ際、自分が大事に持ち続けた『薔薇』を持たせました。

 ──忘れないで──お前を愛しているよ──

 弟皇子と妻は泣きながら、それでも笑顔で幸せになってほしい、長生きしてほしいという願いを胸に、我が子と別れました。

 赤子はずっと泣いていたと言います。父と母との別れを悲しむように、ずっと泣いていたと言います。

 赤子が皇子だったのか、それとも皇女だったのか、誰にもわかりません。

 ただひとつわかるのは、赤子の瞳は、弟皇子が持たせた美しい『薔薇』と同じ、紫色だったということだけ。


 今は昔、そんなお話がありました。




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