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生贄少女と彼女の転生騎士  作者: 遠出八千代
第一章 聖剣編
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第六話


 麓の村、一際目立つ大きな三階建ての家がある。

 そこがフリタニアの自宅だった。その一室、村長室でフリタニアは父である村長にまくし立てていた。会話の内容は生贄に選ばれたベルとスノードのことだ。

 てっきり生贄はベル一人だと考えていた。

 自分を含めた会議では、ほぼその方向で決まっていたし、その変更を知ったのは、夜が明けてからだった。フリタリアはその話を聞いた後、寝巻の白いネグリジュのまま村長室に向かった。

 

 ベルのみならず、スノードも生贄にした大人の決定がどうしても許せなかった。


 フリタニアの声があまりに大きいため、部屋中の羊皮紙で出来た窓が会話のたびに振動する。

 彼女は大きな手振りをしながら、父の村長に厳しい言葉を何度か放つ。村長は木製の椅子に腰掛け話を聞いていた。フリタニアの勢いよく続けざまに発する言葉に、村長はため息を挟ませながら。



「二人が出て行ったってどういうこと!?生贄はニーレベルギアだけでしょう!?」

「そのことだがな、そういうわけにもいかなくなった」

「どうして!!」

「スノード君があのルースター卿を倒しただろう。それを快く思わない者が多くてな。あの女を生贄に出せば、いつの日か彼が復讐に来るかもしれない。それは避けなければならない。私も悩んだのだよ」

「いいえ!お父さんの話はおかしい!あの広場での戦いの後、すぐに生贄するよう民衆が懇願に来るわけないもの!」

 フリタニアの言う通り、時間関係が確かにおかしい、あの戦いから、そんなすぐに生贄を加えられるわけがない。父は自分を納得させるためにそんなことを言っているのではないかと、フリタニアは考えていた。

「…わかった本当のことを言おう。そういう意見も今朝方あった。前後関係が少し違うのだ。そもそもこれは彼たっての願いなのだよ。彼が生贄になるのは、ルースター卿と戦う前から決まっていた。彼女を生贄にするのなら自分も連れて行って欲しいとな」

「違う…」

 絶対にそうじゃない。彼を今まで見てきたからわかる。

 スノードがあの女を生贄にするのを快く思うわけがない。

 自分一人で生贄になろうとしたんだ。

 きっと父や村人はあの女だけじゃなく、スノードも疎ましく思ってたから、彼女と同行するのだけは認めたのだ。そう言えば、彼は自然とあの女について行く。彼は単純で、愚かな人だから、簡単な話だとフリタニアは思った。そして同時に父を恨めしく感じる。


「……分かりました、お父様。これで失礼します」

 フリタニアは歯を食いしばり、その話を聞いていた。けれど、父の言葉に頷きはしたが、納得できるわけがなかった。彼女は立掛けにあった鍵束をくすねる。勢いよくその扉を叩きつけ、村長の部屋から出ていった。村長は娘の我儘に困ったものだと思い、すぐに机に向き直る。鍵束を盗まれたことにも気づいてすらいなかった。


 フリタリアは村の広場を歩いていた。

 彼女は自分に声をかける住人たちを無視し、村の奥にある祠に向かっている。彼女は苛立ちながらスノードのことを考えていた。少しは私の思い通りに動いてほしい。どうしてそこまでしてあの女に尽くすのか不思議でならなかった。


 そして彼女は祠に向かうのには理由があった。

 祠にしまわれた、聖剣を抜くつもりだった。確信がある。

 フリタリアには聖剣の声が聞こえていたからだ。

 そもそもあの聖剣が抜剣祭で抜けるわけがないのだ。自分が聖剣に選ばれていたから。村長の娘である彼女は祭りの手伝いで、何度かあの場に立ち寄っていた。その際、聖剣から懇願する声が聞こえた。

「私を抜いて精霊王を倒して」

 そんな言葉を幾度も聞いた。フリタニアは気味悪がって避けていたし、今の生活を気に入っていた。世界の危機でもないのに勇者になるつもりもなかった。だが、もうなりふり構ってなんていられない。


 私は彼を助けたい。なんとしてでも。まだ町を出て半日もたってないはずだ。彼らを連れ戻すことが出来るかもしれない。あの聖剣を抜くことが出来れば。


 そして祠には幾重にも厳重な扉を重ねられていたが、フリタニアはその合鍵を持っている。先ほど村長室に行ったのもそれが目的だった。

 鍵を開けていき、鉄格子の扉を開く。

 そこには聖剣が台座に刺さっていた。他には何もない。まさにご神体のようだった。その剣はわずかに光を纏い、そこに佇んでいる。彼女は聖剣に触れ、持ち手の部分を勢いよく引き抜く。すると簡単に剣が抜けた。大の大人ですらできなかった行為に、彼女は拍子抜けした。こんなものだったのか。そう考えていた矢先、彼女は光に包まれた。


 次に彼女が目を覚ましたのは奇妙な空間だった。

 ここは聖剣の中なのだろうか。

 そこには一人の少女がいた。彼女は微笑んで動けない私の手に触れる。彼女の手と自分の手が少しずつ混ざっていく。そして以前の自分では持ちえなかった大きな力を感じた。それが流れ込んでくる。たぶん私達は溶け合って一つになる。

 今の私はなくなるかもしれない。そんな気がした。

 でも、これで、彼の助けになるのなら。










 ――ほんと、バカよね。

 これで彼を助けられるなんて、

 よくわからないものを信じない方がいいわ貴女

 じゃないと私みたいなのに騙されちゃうでしょ?

 それにしてもスノードとあの女…

 転生してもイチャイチャしやがって、

 絶対許さないわ。

 いえ、まずは落ち着きましょう。 

 私もようやく肉体を手に入れたし、

 500年ぶりの娑婆を楽しむとしましょう。

 あら、自分がどうなったのかですって?

 貴女の体は私が使わせてもらうことになったから。

 死ぬまでね。

 数分したら意識が消えて、

 私と一つになるの、気にしないで頂戴。

 それは困る?

 大丈夫よ。私の目的も彼だから。

 ま、彼は私の一部になる貴方にも分けてあげない。

 頭のてっぺんから、

 つま先まで全部私のだから。

 それにしても彼、精霊島に向かったんでしょ。

 あそこには精霊王なんていないのにね。

 彼も500年前のことを覚えてたらいいのに。

 なーにやってんだか。

 結局あいつらの計画通りじゃない。

 今も生贄を出してるんでしょ?

 哀れすぎて笑いが出てくるわ。

 ほんと、ご苦労様。


 よくわからない話より、彼が心配?

 うーん、そうよね。

 彼を追いたいけど、その前にやることがあるの。

 ええ、そうよ。

 スノードを迫害した村の人間を皆殺しにしないと。

 でも、あの女を虐めたことには感謝してるの。

 本当よ?

 そうだ。さっきは皆殺しって言ったけど…

 殺すのは村人の半数にしましょう。

 感謝の気持ちってやつね。

 でも、普通に殺すだけじゃつまらないわ。

 貴女もそう思うわよね。

 彼を好きな女と男全員を殺すことにしましょう。

 女は許してあげる。

 え、男手がいなくなったらこの村はどうなるのか?

 そんなこと私の知ったこっちゃないわ。

 多分死んだ方がましって思うかもしれないけどね。

 さぁ、楽しくなってきたわね。

 この村を炎で焼き尽くしましょう。

 うん?

 もう質問が多いわよ。

 私が誰かって?え、貴女知らなかったの?

 もう、先に言ってよ。

 自慢げに恥ずかしいこと言っちゃったじゃない。

 




 ……私はクラウ=リリィ=カルチーシ

 魔王を倒した勇者、なんて呼ばれているわ。





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