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生贄少女と彼女の転生騎士  作者: 遠出八千代
第一章 聖剣編
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第二話


 いつも夢の中でベルの目の前に一人の騎士がいた。

 真っ白な世界で、彼はいつも傷だらけだった。

 終わることのない敵の攻撃から自分を守り、甲冑はボロボロで、血がその隙間から流れ出ている。

 体中穴が開いていて、傷が余りに痛々しい。

 見てるこっちが痛くなるほどだ。

 立っているのも辛いのだろうに、どうしてこの人はこんなになってまで自分を守るんだろう。

 そんなになってまで頑張らなくてもいいのに。

 なのに彼はこっちを振り向き、自分なら大丈夫だというのだ。

 彼の顔を分からない。

 本人はきっと笑顔のつもりなのだろう、無理やり口角をあげ、笑顔を作った。

 その笑顔があまりにもまぶしくて――

 夢の中の彼に、ベルは惹かれていた。


 ベルがその夢を見るようになったのはいつかは分からない。

 子供の頃からだったかも知れないし、生まれた時から見ていてただそのことに気付いただけだったのか。けれど、夢というにはあまりにも現実感があった。

 匂いや熱気が伝わるほど生々しい夢だった。

 夢というよりも昔の記憶とか、前世の類なのかもしれない。

 ベルは子供の頃から魔法が使えたため、きっとそれに関係する何かかもしれないと思っていた。


 そして彼がいつか目の前に現れて、自分をこの状況から救い出してくれるのではと期待していた。




「あなたのような麗しいレディに拾っていただき、本当に嬉しく思う」

 騎士は小さく頭を下げ、微笑んだ。

 その仕草にベルはドキッとする。

 これまでベルはスノード以外の男性とあまり関わらずに暮らしていたし、こんな風にお世辞を言われるのも初めてだ。

「私が麗しいなんて…」

「もし良ければ、お礼させて下さい。明日の抜剣祭にあなたも行きますか?今は手持ちが少なく、一度宿に戻りたい」

「そ、そのでも、私」

「はは、実はお礼とは言うのは口実です。これはデートのお誘いですよ」

 ベルは、スノードのことを少し考えて、誘いを断ろうとした。それに村人が大勢いる抜剣祭に行く気もなかったが、気付けばコクンと頷いていた。

 二人は何回かの言葉を交わし、その場を別れた。

 ベルは森の方に、スノードは自分が留まっている宿のある村に。

 ベルの足取りは、いつもより軽かった。


 その光景を、誰かが見ていた。




 日が落ち始めていた森の奥。

オレンジ色になり始めた空。

 松明やかまどの火の灯など、村の明かりがつき始めた頃だった。

 ベルが自宅の前まで行くと、掘っ建て小屋に明かりがついている。

 窓の外から暖炉の明かりが見えた。

 もうスノードが帰っていたのか。

 先ほどのこともある。

 いつもより早い彼の帰宅に、じっとしてられない、焦燥感のようなものを感じた。

「ただいま、もう帰ってたの?」

「ああ、今日はすぐ薪が売れたんだ。さらに干しぶどうを貰ってきた。隣町のおばちゃんがくれたんだ。奮発してヤギの肉も買ってきた。今日は豪勢だぞ」

 笑うスノード。

「美味しいそうだね」

「ああ、それと重大発表がある。もう少しで、目標の金額までいきそうなんだ。そうしたら、ベルを学校に通わせてやる。ベルは頭がいいからな。本当はもっと早くベルを学校に通わせたかったんだけど」

 それは、彼なりの気遣いだろう。

 彼は今年の祭りで私が生贄に選ばれるのになんとなく察している。

 だから、こうやって未来があるように言うのだ。

 生きる希望を持たせようと、けれどそれがなんとなく、嫌な感じがした。

 もちろん彼の行為は本当に嬉しい。

 ただ、献身的過ぎてまるで父親ではないか。

 そう思うことがたまにあった。

「嬉しいよ。でも私は大丈夫だよ。それにそんなに無理してまで頑張らなくてもいいよ」

「俺が勝手にやってることだ。気にしなくていい」

「私達もう二人きりなんだから。無茶しないで」


 豪勢な夕食が始まった。と言っても、味のないスープに、ヤギの肉。それに硬いパンが数枚。干しブドウもついている。それでも二人にとっては豪勢な食事だった。

 普段パンとスープのみであることがザラし、まともな料理はほとんどない。

 パンもカビないように石のようにカチカチに固めて、スープにつけてほぐしてから食べる。スープといっても、塩と野草が入っているだけなので、味は美味しくない。


 二人は食卓に並ぶ、スノードはパンにスープを浸し、ベルに話しかけた。

「明日なんだけどさ。仕事は休もうと思ってる。ちょっとやらなきゃいけない用事があってな」

「うん、わかった」

「ベルも明日何かあるか?」

「実は私も明日用事があって。ちょっと家を出るね」

 ちゃんと答えられただろうか。ベルは自分がどんな表情で答えていたか不安になった。

 別に私たちは恋人ではない。

 だから、変に気を使う必要もない。

 ベルはそんなことを考えていたが、思考とは裏腹にどぎまぎとする。


「そうか、うん。明日は祭りもあるしな」

「…私もう寝るね」

 それは彼から離れたいという気持ちもあったが、本当にベルは眠くなっていた。

 木こりの夜は早い。

 朝早くから木の伐採をしなければならないし、朝日で薪を干して、乾燥させる必要があった。

 そしてそれは何ヶ月か必要だ。

 今日取ったぶんもすぐに売りに行けるわけではない。

 だから、毎日継続的に早く起きなければならない。

 普段の習慣から、まだ夕暮れ時だが、眠くなるのも当たり前だった。

「おやすみ、スノード」

 彼はうんとうなずく。

 ベルは幾ばくかの罪悪感を感じた。気まずくて、彼の表情を見ないようそそくさとベッドに向かう。

 

 その日もベルは騎士の夢を見た。


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