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生贄少女と彼女の転生騎士  作者: 遠出八千代
最終章 精霊島編
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第十七話

 センペルビウムはベルに心酔していた。


 魔族たちは厳格な実力主義の元、多くの種族が区分される。

 どんなに知能が優れていようと、弱いものは虐げられ、強いものが上の立場になれる。

 センペリビウムのように力はない魔族は、強いものに奴隷のように扱われる。彼も以前はそういう存在だった。そんな自分を副王の立場に押し上げてくれてのが、ベルだった。彼女は魔王の娘でありながら、誰かを差別することはなく、人間との共存を誰よりも望んでいた。


 彼女の願いをかなえてあげたい、彼女のために全てをささげたい、センペルビウムはいつしかそんなことを考えていた。彼女の願いである人類との共存、それを完遂するにはどうすればいいのだろうか?

 人類と魔族の違いはなんなのだろう。

 センペルビウムは仕事の傍らいつもそのことに思いをめぐらせ、とうとうある結論に至った。


 人間と魔族との違い、それは肉体だ、と考えた。

 

 センペルは魔族だが、強い肉体を持っていたわけではない。それが原因でこれまで虐げられてきた。他者より優れようとするから差別が生まれる、腹をすかせるから奪い合いが生まれる。そうだ肉体がなくなってしまえばいい。そうすれば、何百年も人間と魔族は共存できるのではないか?

 魂だけの存在になれば、人と魔族が争わない平和が訪れる。

 ある意味センペルビウムの考えは正しかった。

 この精霊島では500年間、小さいイザコザはあれど人間と魔族が争ったことはなかったからだ。

 

 唯一誤算があったと言えば、あの最後の戦いでセンペルビウムがベルに殺されたことだ。正確に言うと、彼女は自身を寄る辺として自爆したのだ。その爆発に巻き込まれ彼も命を落とした。

 何とかその時、聖剣に自分の魂と彼女の魂を封印できた。だが彼女の魂をこの地上につなぎ止める際、急ぎの仕事であったためそれには500年も必要としたし、復活する場所もこの精霊島ではなかった。けれど問題ではない。自分は半永久的に生きているのだから。気長に待てばいいのだ。自分の隣には彼女が居なければ意味がない。そのために、大虐殺まで行ったのだ。

 そして彼は執念と妄執の果てに、そして彼女は蘇えることになる。


 だが、まさかあの男も一緒に蘇えるとは――


「…ここから逃げろ、スノード」

「まさか、逃げられると思っていたのか…以外だった。まさか君が裏切るとはね、ロベリア」

 ロベリアはスノードとベルの前に出た。

 二人の視線の先、教会の扉の近くにはセンペルビウムが佇んでいる。

 彼はごく平凡な人間に取り付いているようで、青年の姿かたちをしている。黒髪に、青い瞳を携えて、少しやせ細った頬に、町民が着るようなチュニックを着ている。絵に描いたような平凡な姿だ。だが、その雰囲気は恐ろしく禍々しい。何かこれから不吉なことが起きるのではと、ベルとスノードには思えた。

「逃げるって言っても…」

「祭壇の奥に裏口がある、そこから外に出られる。教会は出口からすぐ見えるはずだ」

 ロベリアの言葉は助け舟だった。スノードたちがいる場所は教会の中央だ。当然眼に見える出入り口は、今センペルビウムの立つっている場所のみで、これでどうやって逃げるというのかと彼は思案していたからだ。

「助かる、逃げるぞベル!」

「ここから逃げられると――な、なんだ!!」


 センペルビウムが言うが早いか、その時、大きな音が町のほうから鳴り響いた。

 何かが弾けたような爆発音と町の住民の悲鳴。


 皆の視線が入り口の奥、町の景色に集中する。

 さしものセンペルビウムでさえ振り向き、爆音が響いた方を見る。ここからではよくわからないが、並ぶ家のレンガ屋根の奥、そこには黒い煙が空に立ち昇っていた。

 するとどこからか警鐘が一定の速度で響き渡る。何かが起きたのだ。

「なんだろう、あれ…」

 ベルが声を上げた。

 皆も驚いている。この鐘は危険を知らせるためのものだ。一体それが何なのか、この島に着たばかりのベルとスノードには判断がつかなかった。

 だが、スノードには心当たりがあった。

 あの爆発音は浜辺で聞いた時と同じ爆音だ。それが幸いした、皆があっけに取られ、茫然とする中、スノードはベルの手をつかんだ。

「行くぞ、ベル!!目指すは王城だ」

「う、うん!!」

 二人は急いで祭壇の奥にある裏口に駆ける。センペルビウムが振り返るよりも早く、外に出て瞬く間に扉の入り口を塞いだ。

 センペルビウムが教会の中に入ると、ロベリアは両手を広げ、入り口への道を阻む。

「私の邪魔をするのかロベリア。永遠に生きられるよう亡霊にしてやったのに…今度こそ君は死ぬことになるぞ」

 だが、ロベリアはセンペルビウムに対して、答えることはなかった。

 彼はただその場にとどまり、これから起きる己の運命を予感していた。

 自分は本当に今度こそ死んでしまうのだ、だがそれでもかまわない、そう彼は思っていた。

(逃げてくれ、スノード。それが俺の出来る精一杯の償いだ…)


 ベルとスノードは王城を目指し一直線に街道を駆けていた。

 この街道を真っ直ぐに抜ければそこに王城がある。

 ここにたどり着くまで、二人は少なくとも一時間は走っていただろう。町の住民も先程の爆発騒ぎで人が少なかったこともあり、二人は捕らえられることもなく走り続けている。

 だが、この町には何千と言う人間がいる。その分衛兵達も大勢おり、彼らのほとんどは自分たちを探しているようだった。追っ手に見つかれば、ベルの魔法で何とか彼らを振り切ることが出来たが、それも時間の問題だろう。

 スノードとベルは疲労していた。

 街中で爆発騒ぎが起きなければもっと早く自分たちは捕まっていた、スノードとベルは、お互い口にこそ出さなかったが、不安がよぎる。本当にあそこにたどり着けるのだろうか。

 王城まで、もうすぐなのだ。

 目線の先には王城が見え、あとは何十分かこの街道を直進に走り続ければ辿り着く。けれど、到達出来るイメージが湧かない。あのセンペルビウムのこともある…


 二人は息を切らして走っていたが、突然ベルが立ち止まった。


 前方を走っていたスノードが振り返る。

 ベルは肩で息をしていた。

 スノードも走り続けていたせいで呼吸があがっていた、立ち止まり少し楽になる。

 

「…どうしたんだ、ベル?」

「…先に行って、お願い」

「ベルを置いて行けるわけないだろ!」

 だが、ベルは無言で両手を振りかざした。閃光の瞬きとともに、スノードの目の前には分厚い氷壁が現れる。その壁は二人を線引きするように、立ちふさがる。

「何やってるんだベル!」

「お願い行って。今度は貴方を守りたいの…いつも守ってもらってばかりだったから」

 そしてようやく、スノードは彼女の真意を理解した。

「けど…」

「それに打算がないわけじゃない。私普段、スノードと違ってあんまり走らないから、きっと貴方だけならあそこまで走っていける。それまで私がここで敵を妨害する。私なら大丈夫だから」

 そう言って彼女は無理やり笑って見せた。

 いつか見た笑顔だった。

 その笑顔を見たのはいつだったか…スノードには思い出せなかったが、遠い過去にあの笑顔に自分は支えられた気がする。

「……分かった。剣を壊したら必ず戻ってくるからな。絶対死ぬなよ!」


 スノードは駆けた。大地を蹴り、振り向かず、一直線に王城に向かった。

 

 何十分か走り続けたスノードはようやく城門までたどり着いた。何メートルもの城壁を携え、その大きな城が、その場にどっしりと構えている。

 もう少しだ。

 あとは城内に続く長い階段を上れば、城の中に入れる。

 スノードが一歩進むと、人影があった。

 この島にいるのは全員亡霊に取り付かれた人間だ。味方であるはずがない。衛兵だろうか、だがかまってやるつもりはなかった。自分を止めるようなら倒してでも進んでやる。スノードは腰の手斧に手をかけた。


 目の前の人物がこちらに歩みよる。

 それは女だった。見知らぬ女だった。

 スノードが知らないのも無理はない、それも当然だ。


 彼の目の前に立つ人物はクラウだったからだ。


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