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生贄少女と彼女の転生騎士  作者: 遠出八千代
最終章 精霊島編
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第十五話


 あれから500年後。


 スノードたちは馬車を乗り継ぎ、西北端にある港町に到着した。

 そしていくらかの手続きを済ませ、現在彼らは小船に乗っている。


 目指すは精霊島。


 白くくすんだ帆を掲げたみすぼらしい木製の小船。

 それに二人は乗り、海を渡っていた。

 片道切符の旅だ。

 何日かの食料として乾パンと水を船に詰め込まれた。

 同じ道程をゆく何十隻かの船と精霊島を目指し海を進む。

 他の港から出された生贄の人間もおり、スノードたちは彼らとたまに海で合流した。

 その一つ一つに人が乗っているのだ。

 何人かの搭乗者は挨拶すれば、それを返してくれる人間もいる。

 無視する人もいたが、どんな人間も不安そうで、皆やはり自分のこれからを心配していた。

 皆、普通の人間なのだ。


 海をあらかた超え、彼らを乗せた小船が、荒波が続く海域を進んでいる。

 精霊島の海峡付近、水面が大きく荒れている。

 巨大なうねりで波が幾重にも押し寄せた。

 まるで生き物のようだとスノードは感じた。

 彼らを乗せた船もギシギシと音を立てる。

 彼は、この船が今にも水没しないかと不安を感じていた。そして旅の先の精霊島に何があるのか。

 勿論スノードはただで生贄になるつもりはない。

 ベルと共に乗り込み、この島を支配する精霊王を倒し、自分達の暮らした故郷に絶対に帰還する。

 明確な意思のもと旅に出た。

 彼の目線の先には精霊島が映っている。

 不気味にたたずむ島は今か今かと生贄を求めているようだと、スノードは感じた。

 一方、隣にいるベルはというと、どうもこの揺れによってしまい、船首近くでグロッキーになっている。とてもそこまで気が回らないようだった。


「なぁ、ベル酔ってないか」

たまらずスノードは、ベルの背中をさすった。

「大丈夫…じゃないかも」

 彼女は手で口を押さえ、顔も蒼白としていた。とてもじゃないが、スノードにはベルが大丈夫そうには見えなかった。

「ほ、ほら見ろベル。浜辺が見えてきた。あと少しで陸地だ」

 そう言ってスノードは波打つ浜辺を指刺した。ベルも彼の指先の向こう、精霊島の砂浜を見る。当然といえば当然だが、誰一人いない静かな場所だ。人の喧騒もなく、漣の音すら聞こえてきそうだ。

 ベルの表情が多少和らぎ、その様子にスノードはホッと息を吐いた。

 ベルは沖合からこんな調子だったし、体調も良く見えなかったからだ。

 ただ、気がかりだったのは、それが船に揺られたせいなのか、それともこの精霊島に近づいているからなのか、スノードには判断がつかなかった。

 スノードはベルに前世なんか信じないと伝えたが、彼女の夢とこの場所は何か関係しているのかもしれない。因縁めいた何かがベルをこの場所に引き寄せているのか……


「ねぇ、あれ何かな…」

 思考に耽っていたスノードはベルの声でハッとした。

 直後自分がうかつであったことを思い知らされる。

 ここは精霊島。誰一人生贄は帰ることはなかった呪われた島だ。

「あ、あれは…」

 ベルの見据えるその先に、半透明の何かがいた。

 それが人の形をして、空中にフワフワと漂っている。


 きっとあれが亡霊たちなのだろう。


 村の皆が噂していたであろう特徴とも一致している。

 半透明で青白く、人間の姿をしている。 生前の姿で、亡霊は死者の魂がいく当てもなくさまよっているものだとスノードは聞いた。あれもそうなのか…だが、スノードが驚いたのは亡霊がいたことではあるが、それ以上に亡霊の数があまりに異常だったことに驚いた。

 何百もの亡霊が、空中に浮遊する異様な光景。

 浜辺には亡霊たちが大軍をなしている。


「あれが亡霊なのか…すごい数だ」


「う、うん。た、戦うの…」

 ベルは声が上ずり、手が震えている。

 そういえば、ベルは魔物と戦ったことなんてなかった。

 自分も魔物と戦ったことはあるが、どれも森に迷い込んだコボルトなどの小物ばかり。

 自分達ではあんな大勢の連中と戦えるわけがない。生贄に出された人間は自分達同様普通の人間だ。


 「そ、それしかないだろう。まずはあいつらと戦うしか…」


「何だろう…あれ」

 ベルは指を指した。

 その指を刺した向こう側に一体の亡霊がポツンと立っている。

 ズタボロの布に骸骨の頭。ボロ切れをたなびかせながら、浜辺の隅に立ち、こちらに手招いている。

 それが自分達を見据えていた。明らかに怪しい。

「あ、あれ罠かな」

「どうかな…」

 どう見ても怪しい。確かにベルの言うとおり罠かもしれないとスノードは思った。

 だが、何故自分たちにだけそんなことをするのか。

 一体何の目的があるのか。

 …けど今更俺たちを罠にかかる必要はない、行ってみるべきかとも悩んでいる。

 


 その時、轟音と共に爆発がした。


 どうやら岸の反対側で何かが起こったようだった。

 同時に他の亡霊たちも慌てた様子で、岸の反対側に向かっていく。


「爆発!?」

 ここからでは良く見えないが、空に灰色の狼煙が上がっていた。

 亡霊たちの仕業なのか。どういう状況なのか、つかめない二人。


「…迷ってる暇はないよスノード。あの亡霊の元に行ってみよう」

「そうだな。この状況で俺達を罠にかける必要なんて…」


 ベルが空中に手をかざす。閃光と共に、勢い良く風が吹いた。


 その風に導かれ、小船が進路を変更する。

 数分後、小船は小船が浜辺に乗り上げた。

 勿論、大勢の亡霊がいた場所ではなく、一体の亡霊がポツンと立っている場所に。

 幸いにも先程あった爆発でほとんど亡霊たちがこの場にいないのが幸いした。

 小船を適当な場所にとめ、二人は数日ぶりの陸地に到着した。

 二人は亡霊に何か言葉を発しようとしたが、クルリと翻すと、近くの洞窟の中に入っていった。


「お、おい…」

 亡霊は無視して進んでいく。

 スノードとベルは不審に思い、お互いの顔を見合わせる。

 ほかにやることもないため、その幽霊の後をついていく。

 奥の道には薄暗く、たまにポチャンと水が滴る音が反響している。

 

「な、なんだよ。これ…」


 洞窟の出口には、光が見えた。

 三人はそこから外に出る。

 

 明かりの先には城を囲む城下町がある。だが、異常な光景だった。

 

 そこにこの島にいないはずの人間がいたのだ。

 洞窟の出口から町まで数百メートルは離れているというのに、ここからでも人が居ることが確認出来た。往来に人が歩いている。それも何十人も。家の付属する煙突から白い煙を出している。人々のざわめきすら聞こえてきそうだった。


「あ…あ…わ、わたしは」

 その亡霊は口を開いた。



「……ロベリアと言う者だ。昔お前たちと旅をしていた……仲間だ」


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