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生贄少女と彼女の転生騎士  作者: 遠出八千代
第二章 精霊王編
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第9話


「……いや。騎士に二言はないよ」



 スノードは驚いていた。

 目の前の少女が魔王の娘であること、何故彼女がここにいるのか。何が目的なのか。それに思っていた魔王の娘とは違う。

 魔王の娘といえば、冷血な魔女だと聞いていた。魔法を巧みに使い、人間を殺戮する存在。知能が高いほど、その姿は人間に近いと聞いてはいたが、もっとこう体が大きかったり、近寄りがたいオーラを体から発しているなど魔王然としているとか、オーホホホと声を張り上げる魔女のような存在だと思っていた。少なくとも、こんな儚そうな少女がそうだなんて。


「驚いたな、君が魔王の娘なのか?」

「はい、そして私はあなた達勇者様にお話したいことがあり、ここに参ったのです」


 彼女は思い悩んでいるような様子で、そう告げると、スノードの様な従者にも頭を下げた。

 その行為に、彼はこの少女が自分の立場を誤解していると考える。自分は勇者のパーティに入ってはいるが、所詮従者。ちょっと考えて彼女が頭を下げるような立場ではないことを告げる。

「そうなのか?…けど、自分で言うのもなんだけど…俺はあのパーティのお荷物なんだ。だから、多分俺に言ってもあまり意味がないんじゃないかな。今皆を呼びにいくよ」


「…いえ、あなたの立場は知っております。ですが、一人の人間として貴方にお伝えしたかった。それよりも、疑わないんですか?私が勇者に話があるというのは罠かもしれませんよ?」

 いたずらっぽく答えるベルにスノードは呆気に取られていた。

 誤解していた。こんな風に笑う子なのかと彼女を思った。

 その所作がとても美しくて――と少し考えて、あ、とスノードは拍子抜けした声を上げる。確かに、彼女の言う通りだ。彼女の笑う姿に気がいっていて、全然気づかなかった。こういう所が、まだまだ見習いとして、騎士に不足しているのだろうとスノードは反省し、彼女に手斧を向けた。


「そ、そうだ。先に用件を言え」

「……私は人間と魔族との戦争を停戦したいと思い、そのことを伝えるために来たのです」

 その答えにスノードは大きく目を見開いた。それと大きな高揚感。彼女の言っていることが本当であるなら、何十年にも渡った人間と魔族の戦いは幕を閉じる。


「…停戦だって?!本当か!戦いは終わるのか!」

「ええ、上手くいけばですけど」

 スノードの声の大きさにベルは戸惑ったようで、彼女の答えは怪訝なものだった。


「…いや、ならどうしてさっきは逃げたんだ、怪しいな」

 とはいえ、先程のこともある、スノードは彼女を疑い、今一度質問する。

「…本当はもう少し後になってから言おうと思っていたんです。私は、そのことを伝えても言いか、貴方達を観察していたんです」


「そうなのか…」

「私の父である魔王は、つい最近病死しました。魔族は父を恐れていたため、従って人間と戦ってはいましたが、殆どの魔族は戦いが好きではありません。それに何十年も続く戦いで私達は疲弊していました。だからこそ、人間と停戦したいと思っています」


 少なくとも、その答えはスノードを納得させるには十分だった。スノードには筋通っているように聞こえたし、確かに、最近は魔物の動きも沈静化している。

 目立った動きはない。


「それが本当なら、凄いことだ!でもどうして俺たちに伝えに来たんだ?王に直接伝えればいいのに」

「魔王の娘が、それを人間たちの王に伝えるのはとても信じてくれると思わなかったからです。ですが、貴方たち勇者様に同行し、伝えることが出来れば、可能性は小さいかも知れませんが、信じてくれると考えています。確かに魔物にも家族を殺され、人間を憎んでいるものもいますが、それは貴方たちも同じでしょう。これ以上、無意味な戦いをしても意味がないです」


「魔族の中には俺たちと同じ考えの奴が居たんだ!そうだよな、こんな無意味な戦い、一刻も早くやめたいよ!でも魔族って今君がいなくて大丈夫なのか?」

 もしも人間と魔族の戦いが終わるのであれば、これほど嬉しいことはない、彼女の答えには拍子抜けしてしまったが、その通りであるのなら上手くいけば人間と魔族がもう争わなくてすむ。確かにスノードは騎士になるため、魔族を倒し功績をあげたいと思ってはいるが、平和になるのならそれ以上に望むことはない。


「ええ、副王のセンペルとレオン将軍が国を取り仕切っています。彼らには人間に手を出さない様に伝えてありますので」




「スノード。そこにいたの?彼女は…」

 スノードが彼女と会話していると、自分が歩いてきた方向からクラウがやってきた。彼女は手を振りながら、ごめんと先程のことを詫び、彼を心配しているようだった。



「クラウ聞いてくれ!話したいことがあるんだ!」

 スノードはクラウに大きく手を振りかえし、彼女の元に駆け寄る。スノードの関心は自分がパーティのお荷物だとか、そういったことを気にしてはいなかった。


 彼には希望が見えたのだ。この長い戦いに終止符が打たれるという予感。夜の月が瞬き、スノードの心は晴れやかな気持ちだった。きっとこれから変わるのだ。人間と魔族の関係も。



 少なくとも、この時点では、彼はそう思っていた――




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