プロローグ
伝承曰く。
500年前、勇者クラウは聖剣で魔王を倒した。
勇者と魔王の同士討ちの末、魔王軍は瓦解。魔物たちは統率者を失った。以降、ここフランシア大陸でも小規模な戦いはあるものの、魔物たちが組織的な動きをすることはほとんどない。
だが、戦いから500年が経ち、中世の今をもってなお、その傷跡は消えることはなかった。
決戦の地、精霊島。
一国ほどもある面積を誇りながら、人間は暮らしていない。そこには未だ、戦いで死んだ幾多の霊魂が徘徊しているという。
いつしか人はその島に生贄を出すようになった。
数年に一度、生贄に出されるものは小船に送り出された。各地から彼らは集われ、一度に何隻もの船が精霊島を目指す。だが誰一人、その島から帰ってくるものはいなかった。
生贄には亡霊や神の怒りを鎮める意図がある。
飢饉だったか、洪水だったか。
それを出すように何故なったのか、理由は当時の人間しか知りえない。
だが、おおよその理由を皆察していた。
精霊島の頂点、亡霊たちの主、精霊王。
魔物に組織的な動きはないが、一部に例外もいる。
彼は精霊島に君臨し、世の不幸な出来事は彼によってもたらされるという。
彼に貢物をすれば、その怒りを収め、不幸な出来事は消えてなくなる。
その姿を見たものは一人もおらず、にわかには信じがたいが、それでもすがるものは多い。
一方、実際にこの島を調査しようという人間はほとんどいなかった。
勿論、生贄によって利益を得る者が存在したからだ。それも少なからず。
生贄を出す行いを、勇者が生きていればなんて言葉をかけたか。なんて嘆いたか。
それはまだ、誰も知るよしはなかった。