夏陰トラベル
暑い──暑い夏の日。
「遅いよ、陽!辰真の試合始まっちゃうよ!」
今日は七月二十六日。
幼馴染みの辰真の、甲子園行きをかけた県予選の決勝を、これまた幼馴染みの夏紀と、七海と、そして七海の両親と観に行く約束をしていた。
送迎は七海の両親が車で球場まで送っていってくれるそうだ。
「今日勝ったら全国かあ。テレビとか出ちゃうのかな!」
車内で目を煌めかせて話す夏紀は、まるで自分のことのように辰真の快挙を喜んでいた。
「もう何試合かテレビで中継してるし、今日の試合だって中継だから、とっくにテレビデビューしちゃってるよ」
冷静にそう返す七海も、表情は綻んでいる。
みんな、自分のことのように嬉しいのだ。
それほどまでに俺達は、深く、根強い絆で結ばれているということなのだろう。
道中の車も、賑やかで、こんな時間がいつまでも続けばいいのになあ──なんて、そんな事を考えてしまう。
幸せな時間。理想の時間。もう──取り戻せない時間。
こんな幸せで、しかしとても儚い、一瞬一秒を、大切に。
なんでこんな当たり前で、大切なことに気づかなかったのだろうか。
プレイボールを告げるサイレンが、まるでこの夢の終わりを告げるかのようで──満員の球場の歓声のみが、俺の耳に残り続けた。