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親子迷路 (風が強い日)  作者: 山口 浄
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SHADE OF THE MOON

彼女とではなく、言葉には上手く出ないが、何だかギクシャクした物を周りから感じた。

どうやら彼女の父親が、私との交際に反対しているらしい。

「遠縁と言えど親戚は親戚。認められん。」と言っている様だ。

私も彼女もそれで諦める気は更々無く、ますます深くお互いを信じ合う。


ある日彼女の母から彼女に口伝で「うちに来て、主人の前で話してちょうだい。」と。

遠縁である彼女の母は、私に好感を抱いてくれていて、何かとご主人に取りなしてくれた様だ。

日程を合わせて彼女と二人で、彼女の自宅へ。

彼女の父親とは幼少の頃に会っただけで、顔の記憶も定かではない。

彼女の自宅に着くと、母親が出迎えてくれ「緊張した顔してるやん!」と優しく心を解してくれた。

居間に通されて、父親と対面。

「久しぶりやね。大きくなったやん。」と言われて頭を掻く私。

「うちの子とは何故付き合う様になったのだ?」と問われ、もうこうなれば飾らず隠さず正直に短く話そうと決意して、「何故かは、よう分かりません。何度か会ううちに、気が付いたら真剣に好きになっていたのです。」と答えた。


すると父親は少し考えた顔をして、にやっと笑って席を立った。

暫くして、両親揃って戻って来た両親の手には、ビール瓶二本と料理が。

「まぁ飲み。飲めるんやろ。酒飲みの家系みたいやからな。」と薦められ、「車で来たのですが…。」と断ろうとすると、「まぁええがな、泊まって行ったら。」と言われて、断る事も出来ずに頂く事に。

ビールが数本空いて、日本酒の一升瓶が登場。

だんだんとどうでも良くなる私。

気が付いたら寝ていた。

結局彼女の自宅で泊まる事に。

どうやら彼女の父親も、私を気に入ってくれたみたいだ。

結局この日は大学には間に合わずに、いや、行く気力も無い程の二日酔いで彼女を自宅に残して帰路に。

完全に二日酔いのまま、その脚で私の伯母宅に向かう。

昨日の話をすると、伯母が一番納得して居ない様な感じを受ける。

一体何故なのか?

「もう決めた事なのです。」と結論付けた私は、不快感を表す伯母を無視して、伯母宅を出た。

その後暫くは、お互いの家を行き来する様になり、「暖かいええ家庭やな…。こんな家庭を、俺も早く持ちたい物やわ。」と思い始めて、私達二人的には問題なく仲良く過ごしていた。


私が独り暮らしをする家と彼女の自宅迄は約六十キロ。

週に四回は往復していた。

夜勤のアルバイトの休憩時間を利用して、逢ったりもしていた。

以前のええ加減な私からは考えられん!との声も「妬くな妬くな!まぁ雰囲気ね。幸せだから。」と、適当に聞き流す。

これまでの彼女達には本当に申し訳なく失礼の極みなのだけど、私は今回はこの時にきっと初めて「本当の恋をしていた。」のだと思う。


「この事だけは渡せない。」と言う自らの気持ちと裏腹に、確かに一抹の不安はお互いが常に抱えていた。

周りの古い考えで砕かれない内に早く、決める事やる事は素早くすり抜けて、私が以前から思い描く「暖かい幸せな場所。」を作ろうともしていた。

無責任な事実作りはしなかったが。


この頃は、私が初めてこの世界に産まれてきた憤りを感じて前向きに、目の前に立ち塞がる障害物を真っ正面からぶつかって、払い除けようとした時だ。

しかしまだまだ世間の現実疎い私は、「信ずる者は勝つ」と言った甘言を信じて頼っていた。


大学三回生になった頃、私の父親から一度会わないかと連絡が有り、気は乗らなかったが会う事に。


「就職とかは、どない考えてるんや?どんな仕事に就きたいと思うてるんや?」と聞かれ、「まだ具体的には決めていないのですが、飲食関係若しくは自動車販売関係の仕事に就きたいと考えているのです。」と答えると、「仕事は何でもしたらええ。ただ、きちんと其処に根を張って生きるかどうかや。好きと向いてるでは意味合いが全く違うからな。先ずは何の仕事にも絡んで来る不動産業に就いて、基礎知識を学んだらどないや。」と言う父親。


父親は不動産管理会社と顧問業を営んでいた。

「確かにな。」と考えて、四回生になり不動産会社へ就職活動を始める。

当時はバブル経済絶頂期。

あっという間に内定が出て、関西では大手の不動産仲介会社に就職が決まる。

「しかしこんなに簡単に内定が出るんや?」と、内心驚いた私。

その頃から父親とは、月に二度程会うようになる。

以前は、吐き気がするほど嫌いだった父親だが、飲みながら話をすると共感する所もある。

ただ、何しか強引だ。果てしなく強引でワンマンだ。

彼女とも順調に付き合い、このまま上手く行く様な気持ちだった。


何とか大学を四年で卒業して、不動産仲介会社へ入社。

とにかく景気が良い。

社会に出て、右も左も分からん様な若者の拙い営業でも家が売れて、分譲マンションや収益用の賃貸マンション等が次々に建築されて、それが次々に売れて行く。

居住していた自宅を売却して、更に大きな家を求める人も後を絶たない勢い。


凄まじい勢いに勘違いして、見えない何かに踊らされる私達。

彼女と逢う場所も、年齢相応ではない場所になって行く。

そんな生活が、このまま続くと思っていたまだまだ全く甘い、世間知らずの地に足の着かない二人だった事は間違い無い。




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