ジャマをするな
少し話は遡るが、伯母と仲の良い親戚が集い、伯母の四十九日の法要を自宅で営んだ。
その時に遠縁に当たる伯母さんが、娘二人と共に法要に参列して下さった。
私が小学校に行くか行かないか位から会って居なかったので、私よりも一歳と三歳年下の成長振りに少し驚く。
法要を終えて、後片付けをしている時に少し言葉を交わす。
親戚と言ってもほとんど初対面に近いのだが、「綺麗な」と言う表現よりも、「綺麗だけど可愛くて妙に人懐っこい」又従妹がやけに印象に残った。
大学二回生となる少し前に、伯母が「この前来てくれた家の長女、就職が決まって大阪市内のフロント受付業務で勤務するんだけど、夜遅い時は家に泊まりたいと言うんよ。」と私に告げる。
「別にええんと違うん。」と努めて何事も無いように返事をした私だけど、心の中では少しワクワクする私。
そして数日後に初めて彼女が泊まりに来る事に。
その日は、少しギクシャクしていた自分の付き合う彼女との約束もせずに、予定を空けているええ加減な私。
アルバイト代を貯めて買った車で、大阪市内迄迎えに行く始末。
又従兄弟のシフトの都合で、週に一度は泊まりに来る。
その日はいつも、アルバイトもデートの約束も入れない現金さだ。
何度かそんな日々を過ごして、ある日近くの焼鳥屋へ二人で行った。
二人で初めて色んな事を話す内に意気投合。
だんだんと男女の深い話になって来て、気が付けば「付き合おうか?」となった。
彼女も迷い無く首を縦に振り、余り綺麗ではない居酒屋で彼女の肩を抱いた時に、お互いに「電気」が身体に走った感じがした事が今でも忘れられない。
全くの他人同士が付き合うのでは無く、結構な遠縁ながらも親戚は親戚。
二人で話して出した結論が、「皆には黙っていよう。」
本当に勝手な話ながら、私は今まで付き合っていた彼女と別れて、新しく出会った遠縁の彼女と付き合う事になった。
そしてその夜彼女とは初めてのキスをして、書いてはいけない事ながら飲酒運転で帰宅。
伯母と住む自宅の横のガレージで、抱き合ったままの二人。
この時エンジンを掛けたままの車では、私の敬愛するバンドのtheMODSの「崩れ落ちる前に」が流れていた。
そして翌日、私は大学へ行く途中で、彼女を近くの駅に送ると言って出発したけど、二人は黙ったまま私の大学へ。
大講堂での授業だったので彼女が紛れ込んでいても、そこは大丈夫。
そして出席カードを提出して車に乗り込んで、大阪府南部の彼女の自宅へ送る為に車を走らせた。
阪神高速を降りて国道二十六号線に移ると、その周りには多くのラブホテルが。
AT車だったので左手で彼女の肩を抱いて、彼女の肩に指に少し強く入れて、彼女と眼で頷きあって、一軒のラブホテルへ車を乗り入れた。
同い年の友人達よりも、女性関係は多い私だったけれども、勝手な話。こんなに女の子を愛して大事にして、震えるような思いで抱いたのは初めて。
彼女を抱きながら「これから死ぬまでずっと一緒に居ような。」と私が言うと「うん。どっちかが先に死んだら一緒に火葬場に入ろうね。」と言う彼女を強く抱き締めた。
そして今まで付き合った、まだ子供な可愛らしい恋愛ではなく、まだ大人にはなりきれていないながらも真剣に彼女を愛した。
私が独り暮らしを始めてからは、彼女が私の住む家には、彼女が休みの日だけにし、仕事の遅番の時には変わらず彼女は伯母宅に泊まる。
何処へ行くのも常に一緒だった。
問題なく三ヶ月近くが過ぎた頃、私の伯母と彼女の母が気付き出した。
今から考えれば、バレて至極当然だとしか考えられないけれど。
初めは惚けていた二人だが、大人に全くなりきれてはいない私達の浅い話では、何もかもが通用しなかった。
伯母宅に呼ばれた二人。「いつから付き合ってるの?」と問われ、少し前からと口裏合わせた説明をする私達だったが、「何か問題あるんかな?」と私達が伯母に言った事が、後々尾を引く原因だったのかも知れない。
その場では何も余り言わなかった伯母だが、私が帰った後で、彼女の母親と電話で話し合ったみたいだ。
私達二人は「付き合う事に、何ら法的な問題は無いから周りから言われる筋合いは無い。」とお互いを確認仕合う。それが固い絆と言う糸でもあり、しがらみと言う眼には見えない鎖でがんじがらめに縛られていた。
彼女の母親は全く反対もしておらず、「本人達の自由やん。」と言うスタンスらしい。
「人が人を好きになる。」この事は自然の摂理だと思うのだが、「人と言う生き物は、自らの思惑や周りからの眼を気にして、なけなしの小さな気持ちを潰しに掛かる事もあるのだ。」と、この件で初めて知った。
本人達が如何に強くお互いを惹き合っていても、一歩間を置いた人達からは、それが自らの思いと自らに与えられる一定の利害に当てはまった時、その事案全てが排除対象になる様な気がする。
まだ成人式も済ませていない二人。
そんな大人の思惑と言う蜘蛛の巣みたいな糸が張ったような思惑など一切考えもしないで、自分達二人の思いだけが全てで、手を取り合い「これがベストで、何も自分達二人に立ちはだかる障害など無い。誰からも何も言われる筋合い等無い。」と、堅く信じ合っていた毎日。
今の私から当時の私を振り返ると、何とも稚出な可愛らしい思いで大きな壁に真剣に立ち向かおうとしていた事が微笑ましく、そして羨ましく感じる時がある。
しかしまだまだ若く思慮の足りない二人に、間も無く大きな鎖の網が二人を絡め獲ろうと待ち受けている事は知る由も無い。