音が言葉より痛かった。
この世に生を受けて半世紀になった私。
そんな私と共に歩んで来てくれた「あるバンド」が唯1つ存在する。
それは、私が唯一心底から拳を振り上げて敬愛できるバンド。
「the MODS」
出会ったのは中学一年か二年生。
ヤンチャな幼馴染みの先輩に連れていかれた、大阪市内の毎日ホールか御堂会館でのライブ。
the JAMと言うロックバンドのライブ。
先輩の目的は、前座でプレイするthe MODSが目的だったみたいだ。
私は勿論、一体何だか分かっていない状態での参加。
柄の悪い兄ちゃんや姉ちゃんが殆んど。
まずオープニングで、四人の日本人バンドが登場してライブが始まる。
迫力のあるステージ。叩き付ける様に声を上げるボーカリスト。
挑み掛かる様なボーカリストの眼。
その眼に私の心が反応した。
今から考えたら、前座であの盛り上げは中々無いやろ!と思う。
ただ、後年言われる様に、メインであるthe jamのスタッフが、嫉妬して電源を落としたって言う事は私が参戦した日にはなかったと思う。
私を初めての、モッズライブに連れて行ったヤンチャな先輩。
現在では悲しい事に頭髪も砂漠化して、パンクが大好きな不良少年が今では小指を立てて、カラオケで演歌を歌うオッサンになっている。
この先輩が半世紀近く先の自分を見れる装置があったら、きっと彼は中指を立てて「FUCK!」と自らに叫んだ事やろう。
そして暫くして同級生からの誘いで、中学生の私が、東京日比谷の野音に行く事になる。
勿論the MODSのライブの為。
はっきり言って、まだまだ良く分かってなかった。
ただ、あの時のあの眼を見たかっただけ。
何とか小遣いやらを貯めて、東京日比谷への新幹線に。
ステージが始まり、怖そうな兄ちゃんばかりに辟易しながら食い入る様に、叩き付ける様に叫ぶ、森山達也の姿を眼で追う私。
そのうちに雨が土砂降りに…。
電源は落ちてもプレイを止めないバンドと、誰一人帰らない客。
一体化した空間がそこにはあった。
あっという間にステージが終わり、ずぶ濡れの私達二人は、ゴミ箱から棄てられた新聞紙を漁り、身体の水気を取り帰りの新幹線に。
同じ新幹線に乗り合わせた他のお客さんからすれば、びしょびしょの迷惑なクソガキだっただろう。
「ぐったり地下室で横になる…。」場所は違えど、全くそのままの光景だ。
それからの私は、どんどんとthe MODSにのめり込む。
関西での殆んどのライブには足を運んで、会場内外ではケンカがあったり様々な事が起こったが、いつもステージから素晴らしいパフォーマンスを見せてくれ、熱いメッセージが私の心に叩き付けられ勇気を貰った。
この当時の彼等の曲の中でも、私の心を震わせた曲が「が.ま.ん.す.る.ん.だ」って曲。
私の心を捕らえて離さなかった。
現在でもこの曲がライブで始まると涙が出そうになる。
いつしか私の髪形もリーゼントに。
三十五年経った今でも、この髪形は変わらない。
変わったのは髪の毛の量位のもんだ。
高校生になり、そして大学生になってもライブに足を運ぶのはtheMODSが中心。
後はARB、シナロケ、ストリートスライダーズに、甲斐バンドのライブにも足を良く運んだ。
以前、まだ幼かった私に生まれて初めて「chaos」と言う英単語を教えてくれたバンド、スターリンのライブにもたまに行く。
そして確か大学生の終わり頃か、社会人の初めの頃にtheMODSのライブ中に起こった、あくまででも個人的な伝説の事件が起こる事になる。
大学生頃からは、ライブの前には先ずはアルコールを流し込んでからホールであったりライブハウス等に入った。
気分を解してからってヤツだ。
その日もライブハウスの近くで私と友人の三人で、昼間から結構な量の酒を飲みライブハウスへ。
私にとってのライブハウスでの定位置である真ん中の前から四人程の位置に陣取る。
私達の前に居る大柄な難儀そうな兄ちゃんが、やたらとマナーが悪い。
酒を飲んでいるのはお互い様だが、知らん人に絡んでみたり奇声を上げたりしている。
苦々しく思いながらも、ライブが始まりいつもの熱いステージが始まる。
熱い曲に合わせ私も拳を振り上げモッズコールを繰返し叫ぶ。
暫くして前にいる難儀な兄ちゃんが、前の人にのし掛かったり横の人にも暴れて迷惑をかけ出した。
取り敢えず、難儀そうな前の兄ちゃんの後頭部を殴り付けて「大人しいせんかいや。」と優しく注意した私。
「ごめんごめん。」と謝る兄ちゃん、少し眼が飛んでる…。
「こりゃ酒だけや無いな…。難儀なんが居るなぁ」と思いながらライブは進んで行く。
暫くは大人しかった兄ちゃんが、また暴れ出した。
イラッとする私と友人と周りの人達。
周りの人達は少し離れだす。
其処へ、昼間から結構な量のアルコールを飲んでいた私の膀胱も暴れ出した。
「よっしゃこれや!」と私は暴れる難儀な兄ちゃんの直ぐ後ろに回り、周囲に分からない様に装いながら難儀な兄ちゃんへ放水を開始。
不幸中の幸いか、暴れる迷惑な兄ちゃんの為に周囲は少し空いている。
エアポケットみたいな物か。
これなら他の人には迷惑は掛からない。
私達客全員が汗だく、勿論難儀な兄ちゃんも汗だくなので一向に気付かずに拳を上げて跳び跳ねている。
私は友人二人に目配せをして現状を見せると、信じられない顔をした友人二人もニヤリと笑う。
軽く頷き合い、事が終わった私は拳を上げながら自然な感じでゆっくり横に移動。
其処へ私の友人一人がポジションを取り、先程の私と同じ事をする。
合計三人分が、難儀な兄ちゃんのシャツやらズボンに撒き散らした事に。
周囲には全く気付かれずに私達はゆっくりと拳を上げて曲にノリながら移動した。
全く気付かず相変わらず暴れるアホな兄ちゃんに、別の客が怒り揉み合いになりスタッフが兄ちゃんを外へと連れ出す。
スタッフさんごめんなさい…。
兄ちゃんの手と肩を掴んではったけど、背中やらズボンは触ってはれへん事を祈ります。
私もこの事は、いくら相手のマナーが悪いとは言え決してしてはならない事をしてしまったと心から反省しました。
当たり前だけど、この後はこんな事は行っていないのです…。
反省に反省を重ねた前回のライブ。
時が過ぎ時代の流れは変わっても、彼等のスタイルは不変で常に熱い拳を突き上げさせてくれる。
ライブ会場に通ううちに、お互いが顔見知りになり飲み友達になった人達。
社会人になって暫くした時の神戸のライブハウスでは、一番前まで行っていた私の友人が酸欠でひっくり返り、私と彼女は気付かずに拳を上げていたら、誰かが客とスタッフに運ばれて来る。
まぁ良くある事何で、余り気にもせずに「チラッと」運ばれて行く様子を見たら友人…。
びっくりして私と彼女は駆け寄りスタッフと共に担ぎ出した。
私達と一緒に友人を担いで下さったスタッフの兄さん。
良く見るとライブがスタートする直前にステージに立ち、ちょっとした注意事項を言って拳を突き上げて、「we are the mods!」と叫んでいたスタッフの兄さん。
華奢な身体で、重たい友人を運ばせてしまい申し訳無い思いで一杯だ。
その後も暫くの間、モッズのライブ会場でちょくちょく会うこととなり、その時の友人は平身低頭していた。
ライブ前にパンクファッションショーが有ったのは、これから暫くしての事。
初めて自らのレーベルを立ち上げ、私も心踊り可能な限り駆けつけ拳を振り上げた。
新しく素晴らしい若いバンドを引き上げた事は間違いない。
しかしメジャーな力に負け、悲しい会見を見る。
でも止まらず、めげず、更にスピードアップしたスタイルを私達に叩き付けてくれるtheMODS。
その頃のモッズは社会人になりたての私にとって心の支えだった。
そんな中で、同じアルバムの二曲続けてが今でも私の心を捕らえて離さない。
「FREAK」
Everytime 聞いてた ママの胎の中
Sugar Tone 産声 まるでElvisさ
神が与えてくれた Genius Baby
Eighteen 夜通し 6Stage, Stomp,Allnight
イカサマもどきで稼ぐ Mirror Ball Hall
ロックに塗られた歴史の始まり
悪い血が騒ぐぜ
一度惚れりゃトコトン
スピード狂は快楽の虜
Feel So Free Feel So High Feel So Good
Rock´n Roll Freak
Entertair この世は 一度きりのShow Life
あの娘と相棒 それにロックさえあれば
愛するものなど100も無くていい
何だか妙に心に響き渡った曲。
そしてアルバムラストの曲に心が震え、現在までもずっと大事に聞き続ける曲。
営む店の閉店行事で、詰めかけて下さった皆さんと一緒に歌おうとしたが、最後の感動的な挨拶の後に魚屋のおっさんが訳の解らん話をしだして敢えなく取り止めた悲しい経緯がある曲。
「GOOD FELLOWS」
何もかも全て うまくいかない
今夜もお前は 酔いつぶれいる
慰めの言葉 何も力なく
俺はただ お前の悲しみ飲むだけ
いつものあの下手な Jokeを聞かせて
寂しい夜を とかす笑い声も
俺達は同じ夢を分けあった
肩をかり 背中をかした
切り離せない 絆は強く
同じ赤い血流れる
Good Fellows Good fellows
夢の無い仕事 愛も失くし
初めて知った失望の味を
さぁ この街を 蹴飛ばしてやろう
どうせゼロから 全て始まった
Good fellows Goodfellows
無くしたものと失った物。とてもたくさん有る。
でも、私には素晴らしい友が居る。
だから迷わず前に行けよと言ってくれる「Good fellows」
私の葬式で流して欲しい曲の1つです。
あくまでも個人的主観だけど、ロックで有れ何で有れ、その音には二通りの音と言葉が存在して、作られた物と創った物の二つに分類される気がする。
theMODSは、その後者に分類されると思う。
「夢を語らず 自分を語れ!」とモッズが、ある曲の中で叫んでいるが、叩き付ける様に現実を語り、決して飾らず自らを語ってくれる変わらぬスタイルに現在迄の約三十五年間、私やら多くの人達を惹き付けているのだろう。
ライブに行くと様々な事が起こる。
私が結婚してからは、嫁さんとよく行き、子供が小学生になり女の子二人と家族で行く事もあった。
子供には、「お父さん一人で前の方へ行って帰って来ないやん!それに、ここに来てる人みんなお父さんみたいな感じの人ばっかりやな!」と言われて頭を掻いた事もあった。
自営業を始めてからは店のバイト君達とも、よくライブに行く。
店のBGMにモッズの曲が流れている事が多いので、自然とバイト君達も覚える事になる。
あるバイト君とライブに行った時の事。
モッズファンのお客さん数人とで、神戸のライブハウスへ。
ライブのスタートは19時から。
ライブの時によく行く中華料理屋に、15時に集合して飲み始める私達。
バイト君の彼女も、よく食べよく飲む。
餃子に豚足の煮込みやら、レバーの唐揚げ、果てはにんにくの唐揚げ等を食べに食べ、そして初めはビールや酎ハイだったのが、焼酎のボトルが二本空いた。
ゴキゲンでライブのスタート少し前に会場に到着、いつもの定位置に。
そしてゴキゲンなライブがスタートした。
私はバイト君が潰され無いように片腕でガードしながら拳を振り上げる。バイト君もノリノリで拳を上げている。
始まって五曲目位に突然バイト君が下腹部を押さえて蹲った。
驚いて私もしゃがんで、「どないした!?蹴られたりしたんか!?大丈夫か!」と聞いても下腹部を押さえて苦しそうにしているだけで、返事が無い。
周りの人達も心配して、まだこの事に気付いていない人達に場所を空ける様に言って下さる。
それを見た女性スタッフさんが駆け付けて来てくれ、「どうしました!大丈夫ですか?」と彼女に問うと、バイト君は「餃子食べ過ぎてお腹が痛いのです…。正露丸有りますか…?」と言う。
この何とも拍子抜けするバイト君の返答に、ひっくり返りそうになった私とスタッフさん、そして心配して下さる周りの人達。
スタッフさんが、「正露丸は無いけれども、イブなら有ります!」と苦笑いしながら言って下さる。
「すみません…。」とバイト君と私が頭を下げて「イブ」を頂き、盛り上がるステージを横目で観ながらバイト君をトイレに連行…。
晴れやかな顔で出てきたバイト君。
このライブの後、彼女に付いたアダ名が「イブ」と「モーゼ」だった。
観客が彼女に道を開けて真っ二つに別れた事に対する「モーゼ」だ。
周りの皆さんの優しい気持ちが本当に有り難い気持ちで一杯のライブだった。
モッズのバンド結成15周年、20周年には恒例の日比谷野音と大晦日のカウントダウンに行く事が出来たのだけど、独立してからは、開催日が土曜日との事も有り飲食店と言う仕事上、それからは中々参加出来ていない。
居酒屋を開業してからはネットを通じて知り合ったり、ライブ会場で知り合ったりした多くの皆さんが、様々な地方から私の店に足を運んで下さる。
それが大変嬉しく、そして有りがたく現在も変わらぬ親交が続いている。
店を閉店すると報告した時は、関西、関東や東海、九州からわざわざ私の店の閉店イベントに顔を出して下さり、見えない様に泣いた事もある。
「マスター!また店やってや!」「始めたら直ぐに行くよ!」等と、閉店後に行くライブ会場何かで私に伝えてくれる言葉が、今の私の一番のガソリンだ。
ごく最近のライブでは、勤める会社の店舗の店長をしていて、ライブ当日のシフト調整が中々決まらずに、ギリギリになって漸く休める事になった。
勤務が終わり、喜び勇んで近くのコンビニへチケットを求めに行くと、なんと完売…。
絶望の淵に立ち、「神は死んだ!」等と、大昔の哲学者みたいな事は言わないが、打ちのめされて帰宅。
その現実を、ネットに書き込むと暫くして、「私は違う会場にも行ったし、もし良かったら私のチケットを譲りますよ!」とメッセージが。
それは大変嬉しく涙が出そうになったが、楽しみを我慢させてしまうのは余りに申し訳無く、お気持ちだけを有り難く頂いた。
またある友人からは、ネットオークションで発売してるよ!との連絡も。
深夜遅くに、方々探してくれた様だ。
そして朝になって、熱いモッズ仲間からメッセージが入り「私も知る同じモッズ仲間が体調が優れないので、どうか私にチケットを譲って欲しい」とおっしゃる方が居るんだけど、マスター一緒にライブ行きましょう!との連絡。
それには驚き、そして行けなくなった私に気を使って、そうおっしゃられているのでは?と考えて再度連絡。
ご本人にも連絡させて頂いて、本当に有り難くチケットを譲って頂いた。
ライブ当日はチケットの仲立ちをして頂いた仲間、そして私の替わりにライブに行って下さい。とおっしゃって頂いた仲間、店をやっていた時に、来てくださっていた仲間、その友人の方々。更には遠く熊本県からバスに揺られて神戸ライブに足を運ばれた10年近くネットで繋がっていた仲間達と共に拳を振り上げる。 三十五年間変わらぬ熱い素晴らしいライブパフォーマンスを私達の胸に叩き込んでくれた「the MODS」
そんな素晴らしいバンドと素晴らしい仲間達に感謝します!出会った事を。
ありがとう。「GOOD FELLOWS」
そしてこんな私に、前へ進む勇気を与え、この世に生を受け半世紀になっても変わらず引っ張ってくれる「The MODS」
「出会えた事に万歳!ありがとう!」