痛い胸が
不動産会社を退職する決意をした頃、私の伯母が胸部の痛みを訴えて入院をした。
医師から詳しい説明が有り、その病名は「大動脈瘤解離」大動脈内に、かなりの亀裂が走り早期に手術が必要との事。
カテーテル等の検査が始まり、私も仕事の合間を縫って必要な物を届けたりする。
いよいよ手術の日が近づき、医師からの手術全日、当日の説明がある。
約八時間の手術。かなりの出血が見込まれる為に、血液型の合致する人四名が手術中待機していて欲しいと。
私は、父親と以前交際していた彼女宅を除いた少ない親類に連絡した。
手術の4日程前に、集まって来て下さった親類の方々の中に、交際していた彼女と妹、そして彼女達の母親の姿が。
どうやら事情を知らない他の親類が知らせた様だ。軽い動揺を抑えて、まず彼女達の母に挨拶。
「困った時はお互い様やからね。」と。
「すみません、ほんまにありがとうございます。」と深々と頭を下げた。
「あんた少し顔付き変わったね。色々あったんやろ。」と、中々返事が出来ない事を優しく言うてくれはる。
そして傍らに居た彼女と妹。妹は気を聞かせて場を離れる。
「久し振りやね。元気でやってた?」と聞くと、「うん。相変わらず元気やで!」と明るく振る舞ってくれる。
そして集まった全員の検査が始まり、私は控え室で独り待つ。
検査が終わり、彼女宅からは妹が当日待機の対象に。
彼女の母親が、「残念やったな。姉ちゃんやったらよかったのにな。」と、子供をおちょくる様に笑って言う。
他の親類にも丁重にお礼を言って、当日はどうかよろしくお願いいたします。とお願いして散会。
彼女達に食事でもと言いたかったのだが、さすがに言い出せずに、駐車場で別れる。
手術当日。不安がる伯母に、「大丈夫や!二つに一つ。アカンかっても全身麻酔やから、最悪ダメでも安楽死やで!」と不謹慎極まりない罰当たりな事を言う。伯母は、「アホか!なんちゅう事を言うんや。」と怒る。
「怒る元気あったら大丈夫や!」と強引な私の励ましに、集まって頂いた親類が笑う。
手術が始まり、血液検査で待機して頂く親類は控え室で待機。
私と以前交際していた彼女の母親とが家族控え室で待機。
長い待機時間の中で、様々な話をした。
「あんたどないしてるのん?ちゃんと仕事はしているみたいやけど。父親とはどないなん?」と聞かれ、「まぁあれからは色んな事があってん。父親とは前に少し、色んな事の行き違いから喧嘩して半年近く連絡は取って無いよ。」と。
「うちの主人も、あの子もずっと心配してたんよ。何でも無理して気を使わんと、言うたりせな立ち行かへんで」
その言葉に俯く。
久し振りに人から掛けられた優しさに、涙が出そうになる。
八時間の手術の予定が延びて、九時間少しで無事手術は成功。
手術室から運ばれて集中治療室へ運ばれた伯母は、まだ麻酔が効いていて意識は無い。
「今日はお引き取り下さい。大丈夫です。」と、医師と看護師さんから説明されて、私を含め集まった全員が引き上げる事に。
全員疲れはて、電車で駆け付けて下さった親類を私が車で送る事に。
彼女の母親と妹に、丁重にお礼を言って別れる。
三日間の有給休暇を取得していた私は、その期間伯母の入院先に毎日通う。
私の有給休暇最後の日、見舞いに来てくれる伯母の仕事関係の方々や、馴染みの近所のおばちゃん達にお礼を言ったりしながら、此れからの着替えや洗濯をしたりする。
伯母の洗濯物が何を洗ったら良いのか分からないので、一つ一つ伯母に確認しながらだ。
「この枕カバーは洗うんか?」と聞いたら、「アホか!それはパンツや!」と恥ずかしそうに伯母は言う。
実際に枕カバーと本当に間違えたのだが…。
夕方近くなり、そろそろ引き上げようかな?と思った時、以前の彼女と、母親が見舞いに来た。
また会うとは思っていなかったので、驚いた私。
「なんや、あんたもう仕事やと思って来たのに。」と皮肉れた事を言う彼女の母親。
彼女と私は、目が合い笑う。
伯母は以前の事が有るので、バツが悪そうだ。
彼女の母親が、伯母と話を始めたので、私と彼女は院内の喫茶店へ。
お互いの近況を交わし合い、色んな事を話していると、あっという間に時間が過ぎてしまい病室へ。
「あんた等えらい長かったな?」と笑いながら言う彼女の母親に、複雑な表情の伯母。
面会時間も過ぎて、帰る用意をする二人と私。
礼を言う伯母に、また何か要る物が有れば連絡して下さい、また次の休みに来るから。と言い、病室を出た。
二人で電車で来たと言うので、私は送る事にした。
一時間半程して、彼女達の自宅に到着。
「疲れてお腹空いたやろ?」と言う二人だったが、少し悩んでそのまま帰宅する事に。
「相変わらず、気ぃ使いやな」と二人に揶揄されながら、「また是非。」と伝えて帰路に。
「今までの俺、ほんまにこれで良かったんかな…?」と帰り道を走らせる車の中で、私が一番良しとしない「たられば」を心の中で呟いては打ち消しながら、ギザギザな過去の思いを頭に浮かべながら、アクセルを踏んだ。




