道
吐き出したい気持ちを押さえて、「二人で決めたのです。」と話すと、「残念だけど決めたのなら如何ともし難い。しかしまた時間が有れば、これまでと変わらず此処に顔を出してくれないか?」
「はい。ありがとうございます。是非に。」と答えるのが精一杯。
「此れは私が持っていても使う事が無いので、良ければ使ってくれたら嬉しい。と、私に高級なバッグを手渡した。
「娘ばかりなので、置いていても仕方がない。其れが自然に似合う仕事をする社会人となって頑張って欲しい。」と言われ、私は其を押し頂いた。
中を見ると、ROLEXとBVLGARIの時計、大きなダイヤが付いたチェーンタイプのタイピンが入っていた。
丁重に頭を下げて、挨拶をして彼女の父が入院する病室を後に。
頭を下げてドアを閉めた私は、本当に情けなく申し訳の無い気持ちで、ドア越しに深々と頭を下げて「私が至らんばかりに、御心痛を掛けてしまい本当に申し訳ございませんでした。」と心の中で叫びながら病院を後にした。
私の父親には二週間程経った頃に報告をした。
父親は、「そうか、其は仕方がない。結婚とは金や見栄でするものや無いからな。」と言われた時、父親の言わんとする事は解るのだが、私の頭の線が一本切れた。
立ち上がり、座っていた横の椅子を蹴飛ばして父親宅を後に。
以前から私に付きまとう、「縁、義理、恩」の中で、己の余りの不甲斐なさを情けなく、そして悔やんだ。
それから暫くの間の私は、勤める会社の営業部の人達全てが気を使ってくれる程荒んでいた。
彼女とは同じ会社に勤めている為に、伝わる話が早い。
当然営業成績も下降線の一途。
全くやる気がでず元気の無い私に見かねたのか哀れに思えたのか、営業担当の女性社員からアプローチはあるが、飲みに行っても心此処に在らずと言った感じ。
しかし、する事だけはしっかりとしている自分に、呆れ返る思いもするが、如何ともし難いのも事実。
何とも贅沢で有り難い事だけど、心は全く違う風に吹かれていた。
「糸の切れた凧」正にこの時の私にとってピッタリな例えだと思う。正に「ふらふら風に揺られて、何処へ行くのかは神のみぞ知る。」と言った毎日。
ろくな事が無い時は、何かと連鎖反応した様にろくでもない事が続く。
大学生時代からしていた中古車販売のブローカー。社会に出て不動産会社に勤務する様になってからも、その傍らで活動していた。
バブル景気の中で、高級外車が良く売れた。
そんな時、以前から私とパートナーを組んでいた男から、今回のオークションの落札料を立て替えておいてくれないか?と言われ、以前からも良くあった事なので、何の疑いも無く了承した。
今回の販売はその男が担当し、私は本業の為に同席しなかった。
此れも以前から良くあった事。
そして、その男から「契約と納車は無事に終わったので、落札代金と私の取り分を口座に振り込むから。」連絡があり、私は此れで三十万円程の利益が出たな!とほくそ笑んだ。
しかし男からの連絡は、此処で途絶える。
約五百万円を既に立て替えている為に、私は必死に男の行方を追った。
男の立ち寄りそうな先を、知り合いの手を借りて探した。
そして半月程して漸く男が見つかったと連絡があり、発見先の男の実家へ赴き男の両親に、その事実を叩きつけた。
男の両親は驚き困惑している。
「最近急に戻って来て、何か様子がおかしいとは思っていたが、まさかそんな事をしていたとは…。」
数時間経った頃、男が帰宅して来た。
驚いて逃げようとする男を、私達は取り押さえて男の両親との話し合いに入った。
男の父は、「私が責任を持って支払います。ただ直ぐには用意出来ないので、数日間待って欲しいのです。」と言う。
取り敢えず念書を書いて貰い、今回の販売分の私の取り分は諦める事に。
私と彼女と、しがらみでのドタバタ、次は金銭を巡ってのドタバタを繰り返した末の徒労で、「こんな地に足の付かない事をしていたらあかん。此れから先、本当に自分のやりたいことを探さなくては。このままじゃ絶対にダメだ。」と決意。
学生時代に憧れていた、飲食店の独立開業を目指して頑張ってみようと飲食での修行を決意。大学卒業以来勤務していた不動産会社を退職する事に心を決めた。




