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2016/06/25 第六十六回 犯罪者の100パーセントは呼吸をしている

 国会の場に置いて、一人の痩せこけた男が熱弁を振るっていた。


 「いいですか?犯罪者の100パーセントは呼吸をしているという事実があるんですよ。呼吸を規制せずに、何を規制しろと言うのですか!?」


 その姿を窶れた他の議員達が、朧気な瞳で見ている。



 かっては世界の先進国の中でも、トップクラスと言って良いほど犯罪発生率が低く、治安の良さは海外でも羨望の眼差しで羨ましがれ、公園で子供を一人で遊ばせていただけで児童虐待で逮捕されたり、一人では学校にも行かせられ無いというほど治安の悪い自らが生まれ育った故郷を捨て、子供の為に我が国へ移住を考える人もいるという。


 しかし、この国でも犯罪を全て無くす事は出来ず、凶悪な犯罪が起きるたびに、何かがスケープゴーストとして槍玉に上げられ、規制の対象となると言う事が繰り返されていた。


 漫画、アニメ、ゲーム、ラノベ、ネット。

 

 それらを規制したところで、当然のように犯罪が減る事はなく、次に規制されたのが、ニュース報道、新聞、テレビドラマ、小説、映画だった。


 暴力的な表現、性的な表現が犯罪を誘発するとして規制は始まり、海外からの圧力もあってそれらを嗜好する人々にとっては弾圧と呼べるものであり、各地で激しい衝突が起きたが、国家権力を倒すほどの力は当然の用に持っていなかった。


 しかし、そこまでの弾圧が行われても、国際政治の思惑が絡まった国連などでは批判は収まることはなかった。


 「あなた方の国は児童ポルノ天国デース、性犯罪者を養成しているエロテロリスト国家デース」


 自国の犯罪発生率と、児童が巻き込まれる性犯罪の多さが、我が国と桁が違う規模である国々が何故かこの国を叩きまくる事態は収まらなかったのである。


 国際会議の現場に置いて、我が国の代表は、おまえが言うなとは言わなかった。


 それがさらなる規制へと繋がる。


 テレビやネットでは殺人事件や、性犯罪のニュースは模倣犯を呼ぶとして報道する事を禁止された。


 もちろん、テレビドラマや映画、小説でも違法行為を犯すシーンが描写されるものは全て規制の対象となり、湯煙殺人紀行、家政婦が見てるなどというミステリーは壊滅したのである。


 基本は今日のお天気であった。


 犬や猫などのペットを題材とする番組が増えたりしたが、動物虐待であるというクレームが殺到して消え去り、この時に起きたテレビ局のSNSに汚い言葉を使って批判すると言う炎上が問題視され、不特定多数の目に付く場所に相手を非難するようなレスをすることも規制の対象となった。


 それに伴って国会の中でもヤジが禁止され、人の話は黙って聞くという我が国古来のマナーを守る事になったのであるが、昔の考え方を変える事が出来なかった何人かの政治家は議員辞職に追い込まれたのである。


 規制がまだゆるかった時代、何でも規制しようとする動きを皮肉った文章がネットにあった。


 「犯罪者のほとんどは米を食べている。米は規制されなければならない」


 当時はあくまで凶悪な事件を起こした犯人が所持していたゲームが暴力的なものであったりして、それが犯罪を起こす原因になったのだと訴える馬鹿な連中を揶揄して書かれた文章だったのであるが、規制出来るものが少なくなってくると、馬鹿な連中は本気でこの事を問題視し始めたのである。


 「米だけではない。麦を主食とする国々でも犯罪は多い。麦も規制すべきだろう」


 「いやいや、それらは全て炭水化物である。炭水化物の摂取を人類は止めるべきなのだ」


 「まて、肉を主食とする国も犯罪が多い。どうやら、肉も規制が必要である」


 「では魚はどうだ?」

 

 「おれ、魚は食うのがめんどくさくて嫌いなんだよね。小骨とか」


 「ならば、魚も規制の対象か」


 「しかし、これでは食べるものが無くなってしまうではないか?」


 「何を言っている。犯罪のない社会を実現するためには仕方のない事だ」


 こうして多くの食物は禁止され、栄養はサプリメントで摂取するという事となり、国から支給される事になるのである。


 この政府の決定に反発して「全国御飯党」や「愛パン守党」が結党され、大規模デモやテロ活動により治安維持警察と激しい闘いを繰り広げる事となり、全国に厳戒令が発令され、午後9時からの夜間外出が禁止される事態が反政府組織の壊滅が確認される十年後まで続いたのである。


 国土は疲弊し、炭水化物の不足により活力は低下し、長い不況のスパイラルに陥ってしまった。


 そんな中で犯罪発生率が下がるわけもなく、かっての治安の良さという栄光の日々は失われ、街は路上生活者に溢れ、それでもテレビは今日の天気を映している。


 もはや規制するものもなく、最期の最期に出てきたのは呼吸であった。


 「全国民が呼吸を止めれば、この国の犯罪発生率は念願の0パーセントになりまーす」

 

 男はまずは自らと呼吸を止めてみせたのである。



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