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閑話 ぼっちの羽虫

 なんとまぁ、小さい羽虫だろうか?


 誕生したばかりのあいつ等は総じて小さいものだが、

チビは中でも飛びぬけて小さかった。


 幼いどころではなく、小さい。

手の平にのる程のそれは他の個体に比べて遥かに弱弱しく、

更には目も開かず、まるで芋虫だ。

それが、ミィミィと細く鳴いている。


 本当に羽虫だろうか?

普通は小さくとも人間の赤子くらいの大きさはあるはずなのだが。


 他のは目ざとくその弱さを嗅ぎ付け、好きなように甚振ったのだろう。

薄汚れたどす黒い血が全身にこびり付いている。

引っくり返せば僅かに覗く白い羽も、血で固まりどす黒い。

 だから、余計に芋虫に見える。なんとも残酷な事だ。

あいつ等は生まれながらにして甚振る事を覚えている。そういう存在なのだから。


「お前、よく消滅しなかったなぁ」

ぽてりぽてりと手の平で転がしながら語りかけると、

チビは「ミィ」と鳴いた。消滅しかかっているはずなのに、暢気な奴。


 天上において、羽を持つ者は皆、力こそが全てだったりする。

力のある者は優遇され、無い者は淘汰される。単純唯一の摂理。畜生の世界だ。

 羽虫は羽のある者の中で最下級の存在だ。

その中でも小さく弱い個体など、塵あくた程の価値も無いだろう。


 俺が羽虫を手に取ったのは、それが足元でもそもそと這っていたからだった。


 気まぐれに雲海の丘で昼寝をしていた時の事、足元に何かが動く気配がある。

薄目を開けて見れば、小さな芋虫。

天上で見るには余りに小汚いそれを摘み上げれば、

最近孵ったばかりだろう羽虫だった。


 そのまま踏み潰しても良かったのに、物珍しさから手に取った。

まじまじと観察すれば、羽虫の周りに薄い膜が張っているのに気付いた。

白く清浄な力の流れ。


「なるほど治癒の力か。そりゃ、嬲られるわなぁ」


 甘い治癒の力を纏い、攻撃の術を持たぬ存在など、

羽虫にとってはエサでしか無かろう。甘い、甘露な弱き者。


 後でこいつを甚振った虫は滅しておこう。

こんなに面白いものが知らない内に消滅してしまったらどうする。

つまんねぇだろう?











 「ルキフェル様~。ルキフェル様ぁ。どこですかぁ?」


 幾ばくかの月日が流れ、羽虫は無事に成体となった。

 赤黒かった肌は、実は抜ける様に白く。髪は新緑、眼は黄金。

相変わらず弱っちぃ個体で、容姿も異端だ。


 金銀黒茶以外の髪色など他の羽虫にはいないからな。

当然、ぼっちだ。何も彼にも同じ物が無い。頭もわりかし残念だしな。

そもそも、何故に奴はじょうろを持って飛んでいるのだろうか?



「ルキフェル様~?。ルキ……へぶっ!」

「うっせぇよ。チビ」

「いひゃい!」


 鼻を摘まれて、羽虫は恨めしげに俺を睨んでいる。

相変わらず戦闘能力が欠片も無いな。覇気も無ぇし、涙目だし、全く怖くねぇ。


 ……本当に、良く成体になれたもんだよなぁ。

しみじみと顔を見ていると、チビは勘違いしたらしく、おどおどと視線を逸らした。

気が強いんだが臆病なんだか良く分かんねぇな、コイツ。


「ベリアル様がお呼びなんですよぅ」

「げ」


 一つ誤算だったのが、チビが俺の連絡係にされちまった事。

チビの仕事は連絡係と樹精の世話。本来、羽虫のする仕事じゃねぇ。


 纏わりつく鬱陶しいのを手当たり次第に滅している内に、

俺と関わってもいつまでも消滅しないチビに白羽の矢が立ったらしい。

別に、特別な配慮をしている訳ではない。チビの持つ面白い能力のせいだ。


 チビが無意識に自分の身を守る為に発動する薄い膜だが、

あれは地味に強力で俺やベリアル等に近寄っても平気らしい。

普通は下っ端の羽虫くらいだと吹き飛んで消滅してしまう。


 多分、最初に拾ったのが俺で、

しばらく適当に傍に置いたので耐性がつき、素質が磨かれたのだろう。

少々、粗雑に扱っても平気な事が異常だと。チビも他の羽虫も気付いていない。


 俺に纏わりつく姿をサミジナの馬鹿に見られ、しばらく観察された。

鬱陶しい事この上なかった。

 ついでにチビにも何かしたらしく、チビは異様に奴を恐れている。ざまぁ。

譲ってくれと何度か言われたが気に入らないので断った。

そもそも、俺のもんでもねぇし。


 嫌がらせのつもりかあの阿呆がベリアルに報告しやがった為、

チビは小間使いの様に俺の周りを飛び回る様になる。


 おかげで前よりずっと仕事が増えた。潰し合い以外は興味ねぇのに。

……サミジナの野郎、余計な事しやがって。


 俺は溜息をつきつつ、飛び立った。ベリアルは無視すると後が面倒くさい。


 一瞬、視界の隅に吹き飛ばされるチビを見たが……

まあ、大丈夫だろう。何時もの事だ。



 毛色の違う芋虫が俺に深く関わってくるのだと知るのは、そのしばらく後。

あいつが知っていたら、真っ先にチビを滅していただろう。

本当に、チビは面白い。

書き溜めた分はここまでとなります。

ルキフェル視点は何だか書きやすい。不思議。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

実験的な作品のため今後は不定期な更新になりそうです。

申し訳ございませんが、どうぞよろしくお願い致します。

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